ヤンデルモンスト〜書いたら出るを添えて〜   作:千銀

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お ま た せ


トクベツ(パンドラ)

 

 

ウチの祖父母の家は長年駄菓子屋をやっている。祖父と祖母の駄菓子屋で客と親しく話しながら働く姿に憧れ、俺は一人で都会を離れ、駄菓子屋を継いだ。

 

 

ただ……。一つ問題があった。

 

 

 

「はぁ…今日も来ないな……。」

 

 

祖父母が経営していた時と比べて、圧倒的に客足が減った。

 

 

駄菓子屋はかなりの田舎の村にあるが、いるのは老人ばかりで、若い者は都会へ移り住んでしまった。

 

 

ゆえに、子供も今はいない。俺は村に住む人たちの手伝いをして、食事代を稼ぐこともあった。

 

 

(人も来ないし…どっか出かけるか。)

 

 

駄菓子屋を閉めて、出かけようとする。

 

 

 

「どーん‼︎」

 

 

「ゔっ。」

 

 

背中に凄い勢いで突撃してきた。

 

 

 

「お菓子ちょーだい!」

 

 

「パンドラ…腰にくるからやめてね。」

 

 

パンドラはこの村に唯一住む子供だ。駄菓子屋にもこの子しか来ない。

 

 

駄菓子屋を開けると、パンドラはお菓子を選び始めた。痛む腰を撫でながらパンドラがお菓子を選び終わるのを待つ。

 

 

 

「これください!」

 

 

「まいど。」

 

 

パンドラは両手に抱えきれないほど沢山のお菓子を持ってきた。袋に入れて持たせてやる。

 

 

 

「ほれ。おまけな。」

 

 

パンドラに飴玉を一つ渡してやる。駄菓子を買いにくるのは彼女だけだから、こうやっておまけをつけてやっている。

 

 

 

「いいの⁉︎」

 

 

「特別にな。」

 

 

「ありがとう‼︎」

 

 

飛び跳ねて帰っていった。ただのちっこい飴なのにあそこまで喜ばれるともっといいものを出してやれば良かったと思う。

 

 

 

「さて……出かけるか…。」

 

 

戸締りをして、暗くなるまで出かけた。

 

 

 

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あのお菓子屋さんは好き。ケーキもパフェも無いけど、美味しいお菓子がいっぱいある。

 

 

初めてあのお菓子屋さんに来た時、私は見たことないお菓子がいっぱいあって戸惑った。

 

 

でも、お菓子屋さんが沢山お菓子のことを教えてくれた。

 

 

当たりがあったり、舌の色が変わったり、沢山の味があるお菓子。美味しくって楽しかった。

 

 

 

『ほれ。おまけ。』

 

 

お菓子屋さんからよく特別にお菓子をもらったりした。

 

 

特別だからかな?貰ったお菓子は今まで食べたどんなものよりも美味しかった。

 

 

 

「えへへ…。明日もいこーっと!」

 

特別に貰った私だけのお菓子はとっても甘くて美味しかった。

 

 

 

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「お…。」

 

 

「よっす。」

 

どしゃ降りの雨の日。わざわざ都会から妹が訪ねてきた。

 

 

 

「どう?儲かってる?」

 

 

「あんまり……。」

 

 

「ほら!やっぱ売れないんじゃん。やっぱさ、都会に店移したほうがいいよ。」

 

 

「…一応買いに来てくれる子はいるんだ。」

 

 

「どうせ一人や二人でしょ?その一人のためだけに自分の生活が苦しくなってるなら意味ないじゃん!」

 

 

「………………。」

 

 

「はぁ…。お爺ちゃん達だってさ、こんな風になってほしくないと思ってるよ。」

 

 

「……考えさせてくれ…。」

 

 

「……分かった。あとこれ。」

 

 

妹がお金が入っている封筒を差し出してきた。

 

 

 

「母さんからだってさ。まったく心配性なんだから…。」

 

 

「……すまん…。」

 

 

「母さんに連絡しときなよ!あ、あと今日は泊まるから。」

 

 

「分かった。」

 

 

妹が品揃えのいい棚を見渡す。妹も昔からお菓子が好きだ。妹の場合、ケーキやパフェの方だが。

 

 

「なんかお菓子ないの?」

 

 

「……特別だぞ…。」

 

 

賞味期限が近いお菓子をあるだけ持ってきて妹に差し出した。

 

 

 

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お菓子屋さんに行ったら知らない女の人がお菓子屋さんと喧嘩してた。誰だろう…。

 

 

…………なんでだろう…。お菓子屋さんと女の人が話してるのはやだな…。

 

 

あの女の人がいなければ私はお菓子屋さんとお話ししてたのにな……。

 

 

 

『……特別だぞ…。』

 

 

いいなぁ……あんなに沢山お菓子屋さんに特別を貰えて…私は一つなのに……。

 

あんなに沢山特別を貰えたら幸せなんだろうなぁ……。

 

 

 

 

 

いいなぁ……いいなぁ………いいなぁ……‼︎

 

 

 

 

ずるいよ…!私だけがこのお菓子屋さんにいたのになぁ……!

 

 

 

いつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつも……!晴れの日だって雨の日だって朝だってお昼だって夜だって閉まってるときだって開いてるときだってずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと‼︎

 

 

なんでおうちの中に入れるの?そんなに女の人は特別なの?

 

 

もうやだ…。何にも食べたくないなぁ……。

 

 

 

 

 

 

「…………?」

 

 

「……どうしたの?」

 

 

「いや……今誰かいたような気がして…。」

 

 

 

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少女の目の前にある禍々しい箱。その箱は彼女の心を読み取っているかのようにガタガタと音を立てて震えていた。

 

 

私の……私だけの特別だったのに…。

 

 

私だけが特別じゃないとやだ…。

 

 

どうすればいいのかな……。

 

 

私だけの特別……私だけのもの……。

 

 

 

 

 

 

…………そうだ。いいこと思いついちゃった。

 

 

 

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「……ん…?」

 

 

朝起きると、隣で寝ていた妹がいなかった。

 

 

 

(あいつ……帰ったのか?)

 

 

しかし荷物は置いてあるまま。村の方に行ったのかと思い、村の方へ駆けて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだ……これ…。」

 

 

人の気配がまったくない。いつも俺より早く起きて畑仕事をする村の人達が一人も見当たらなかった。

 

 

 

「だれか!誰かいないのか‼︎」

 

 

畑を駆け回り、戸を叩くも返事は無い。人の声はおろか、鳥の鳴く声さえ聞こえない。木々が風に揺られて不穏な音を立てた。

 

 

 

(そうだ…妹は……。)

 

 

急いで母親に電話をする。何度も何度もコールが繰り返される。

 

 

 

(頼む…!出てくれ!)

 

 

コールが止まった。

 

 

 

『ただいま、電話に出ることができません。留守番電話の方は……』

 

 

「なんでだ!」

 

 

ありったけ電話をかけてみた。友人や叔父、保険会社などに至るまで、とにかく思い当たるところ全てに電話をかけたが、電話に出るものは一人もいなかった。

 

 

 

「そうだ…!町……。」

 

 

急いでバイクに乗って町まで駆けだした。

 

 

 

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「なんでだ……。」

 

 

活気のあふれていた町だった。商店街には多くの人が溢れ、歩きづらい程だった。

 

 

だが、商店街には誰一人としていなかった。

 

 

「誰か‼︎誰かいないのか‼︎」

 

 

いつも魚を買っている魚屋、肉を買っている肉屋、息子を後継にしようと奮闘している和菓子屋、どこへ行っても誰もいなかった。

 

 

どこを探しても店のシャッターは降りたままだった。

 

 

「そうだ!駅……!」

 

 

駅になら誰かいるかもしれない。少なくとも駅の係員がいれば事情が聞ける。急いでバイクを走らせて駅に向かった。

 

 

 

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「なんでだ……。今は電車が動いてるはずだ…。」

 

 

駅にも誰一人として人はいなかった。ただ誰もいない駅の中を歩いていた。

 

 

 

「あ……雨…。」

 

駅を出ると雨が降り出した。家に干してある洗濯物が気になって帰ることにした。

 

 

(帰れば誰かいるかもしれない……。)

 

 

不安と期待を胸に家へ急いで帰った。

 

 

 

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道路を走っていても一台として車が通らない。不安が募り、心臓の鼓動が早くなった。

 

 

雨はひどくなり、服が濡れていく。トンネルを抜けた。

 

 

しかし誰もいなかった。その場でしばらく立ち尽くし、落胆して家へ帰った。

 

 

 

「………………あれは…?」

 

家の屋根の下で、人影が見えた。目を凝らしてよく見てみる。

 

 

 

「…パンドラだ‼︎」

 

 

びしょ濡れになっていたパンドラが、泣きそうな顔で立っていた。思わず声を張り上げる。

 

 

 

「パンドラ‼︎」

 

 

「…‼︎う……うわぁぁぁぁん‼︎」

 

 

泣きながら駆け寄ってきて胸に飛び込んだ。決して離さないようにしっかりと抱きしめる。

 

 

 

「怖かったよぉ!誰もいないから!」

 

 

「ごめんな…!もう大丈夫だから…!」

 

 

彼女も朝起きたら誰もいなかったそうだ。一人でずっと不安だったのだろう。

 

 

 

「さぁ…。風邪を引いてしまうから中に入ろう。」

 

 

彼女をおぶって家に入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これからどうしよう……。」

 

テレビもラジオも使えない中、彼女は不安を口にし、ぐずぐずと泣き出した。

 

 

 

「怖いよぉ……怖い……。」

 

「……おいで…。」

 

 

声をかけると、彼女は膝の上に座り、胸に顔を埋めて泣き出した。

 

震える体を抱きしめ、綺麗な金色の髪を撫でてやる。

 

 

 

「大丈夫…大丈夫……。」

 

(不安なんだな…。俺がしっかりしないと……。)

 

 

そう思いながら、彼女が眠るまでずっと抱きしめていた。

 

 

 

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…………………………。

 

 

 

………………………………………。

 

 

 

……………………………………やった……。

 

 

 

やった……やった……!

 

 

 

やった!やった!やった!やったぁ‼︎

 

 

 

私を抱きしめてくれた私を撫でてくれた私を私を慰めてくれた‼︎

 

 

 

私を特別にしてくれた‼︎

 

 

 

嬉しい嬉しい嬉しい‼︎

 

 

 

おじいちゃんは箱を開けると災いが訪れるって言ってたのにそんなことないじゃない!

 

 

だって私はとっても幸せ‼︎お兄ちゃんのトクベツになれたんだもの!

 

 

 

これでお兄ちゃんのトクベツは私だけのもの!なんだってひとりじめできるんだから‼︎

 

 

誰にも邪魔させない……。全部全部私のもの………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その箱は

 

 

 

まるで中のものを決して出させないかのように

 

 

 

固く閉ざされていた。

 

 

 

沸き上がる怨嗟の声、苦しみの声、悲願する声を

 

 

 

少女と男に寄せ付けないように…。

 

 

 

 

 




小町は……誰一人……来ませんでした…。





前に流行った嫌われるお薬書いてみてぇなぁ…。

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