ヤンデルモンスト〜書いたら出るを添えて〜   作:千銀

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やっとルシファー出たゾ〜。


蜘蛛の晩餐(小野小町)

 

 

俺を育ててくれた爺さんの家は代々墓守だったそうだ。

 

 

枯れた花を捨て、腐った果物を捨て、墓石を掃除した後、用具を片付けて家に帰る。

 

 

本来こういうことはその家の人がするものだが、辺境の田舎なことに加えて、『先祖と一緒の墓は嫌だ』だの『いちいち来るのが面倒だ』だの、とにかく墓守に任せられる。

 

 

ここはどんどん過疎化していき、いるのは老人ばかりで、たまに遺族が来るだけ。

 

 

掃除用具を片付けて家に帰る途中、小さな墓に小さな花を添えて帰った。

 

 

 

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「ただいま。」

 

 

「お帰りなさい…。今日もお疲れ様です。」

 

 

子供の頃から、俺は変なものが見えていた。それを両親に伝えても、両親にそれらは見えなかった。

 

 

それでも俺は変なもののことを話し続けた。それを気味悪く思った両親は俺を捨てた。

 

 

その時は捨てられたなんて思わなかった。でも、両親が俺を遠足と称して俺を山奥に連れて行ったっきり姿を見せなくなったことで察した。

 

 

 

その時だった。彼女に…小野小町という妖怪に出会ったのは。

 

 

彼女のことは知っている。平安時代の女流歌人。彼女は俺を見てなぜかとても嬉しそうな顔をした。

 

 

彼女は俺を山の麓まで案内してくれて、墓守をしていた爺さんに拾われた。

 

 

爺さんに拾われた俺は、恩を返せればと墓守の仕事を学んだ。

 

 

彼女は俺についてくるように爺さんの家に来た。俺は彼女のことを話したらまた追い出されるのではないかと思い、彼女を極力無視し、爺さんにも彼女のことを言わなかった。

 

 

俺が高校に入った頃、爺さんは死んだ。俺は爺さんの墓守の仕事を継ごうと、墓守の仕事を学び、墓守になった。

 

ちょうどその頃、彼女は俺の身の回りの世話をするようになった。

 

 

食事にせよ、掃除にせよ、とにかくなに不自由なく暮らせる程だった。

 

 

俺は一度聞いた。なぜこんなにも俺に尽くしてくれるのかと。しかし彼女はなにも答えず笑っているだけだった。

 

 

 

「さぁ…先にお風呂に……。私はお夕食の準備をいたしますので…。」

 

 

「ああ……。」

 

 

尽くしてくれるのは楽だから構わないのだが、やはり身の回りのことすべてをやってもらっていると申し訳なくなる。

 

一度彼女に手伝わせてほしいと言ったが、彼女はやんわりと断り手伝わせてくれることはなかった。

 

 

彼女がなぜ俺に固執するのか。聞こうとすると彼女は『愛しているから』と当然のように答える。

 

 

俺は生まれてからあの洞窟で会うまで彼女に一度もあったことはない。彼女に愛されるようなことはなにもしていないのだ。

 

 

俺を愛することをさも当然のように話す彼女は、とても恐ろしかった。

 

 

 

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ずっとずっと…昔のこと。

 

 

一人の子供が私に小さな花を持ってきてくれた。

 

 

籠の中から、村の農民であろうその子は小さく細いその手で私に花を渡してくれた。

 

 

花をもらうことは沢山あった。歌や地位を見せられ、求婚された数など覚えてはいない。

 

 

しかしその花は、その子から貰った小さな花は、とても美しく思えた。

 

 

宮中の中にいる私に、その子は毎日のように石垣の側にある木に登り、花を置いていく。

 

 

ただなにも言わずその子は花を置いていく。なんと趣のあることだろうか。

 

 

毎日毎日、春も、夏も、秋も、冬も、その子は私の元へ来ては花を置いていく。

 

 

やがて年は過ぎ、その子のことを彼と呼ぶようになった。彼はいつものように小さな花を置いていく。

 

 

思えばこんなにも長く私に会いにきてくれたのは彼だけだろう。

 

 

どんなに位の高いものも、私が求婚を断ってしまえば会いにくることはなかった。

 

 

しかし彼は私になにも求めなかった。彼はただ私に花を贈るだけ。私はそれを待ち遠しく思っていた。

 

 

 

秋風に あふたのみこそ悲しけれ わが身むなしく なりぬと思へば

 

 

 

年は過ぎ、私の顔に皺が増え、彼がみずみずしい肌を失い始めた頃、私は彼に声をかけた。

 

 

 

「今日はなんの花ですか。」

 

 

ほかのものがこの光景を見たらどう思うだろう。彼を罵るのか、彼を都から追い出すのだろうか、それともかつての美貌を失った私にはなにもしないのだろうか。

 

 

彼はただいつものように花を置き、去っていった。

 

 

この時からだった。彼を待ちわび、夢の中で彼に会いたいと、声を聞きたいと思うようになったのは。

 

 

 

花の色は 移りにけりないたずらに わが身世にふるながめせしまに

 

 

 

年は過ぎ、私はすっかり老いて老婆となった。もう誰も私を気に留めることはなくなった。彼以外は。

 

 

老婆となり、籠を持っていたものさえ私を気にしなくなった私の前に、私と同じように顔に皺を作り、髪が白くなり始めた彼は、いつものように花を持ってきた。

 

 

石に座る私の目の前に彼は現れ、花を私に渡した。

 

 

彼の手から受け取るのはいつぶりだろうか。彼がまだあの子であった時に彼の手から渡されたのみ。

 

 

その手で私は花を渡された時、私は涙を止めることができなかった。

 

 

あぁ…。こんな老いさらばえた私に…誰もが気に留めなくなった私に……あなたはまだ花を贈ってくれるのですね…。

 

 

 

吾死なば 焼くな埋むるな野にさらせ 痩せたる犬の腹を肥やせや

 

 

 

私は死に、そして妖となった。目の前にあるのは野にさらされたかつての我が身。

 

 

その腐りゆく姿を絵に描かれ、ただ虚しく朽ちてゆくのを見ているだけだった……。

 

 

 

「……そんな…。」

 

 

すっかり髪は白くなり、皺も増えた彼は、野に寝転ぶ私の前に現れ花を置いた。

 

 

死臭を放つ私の前に、犬にその身を喰われる私の前に、彼はただ変わらず花を贈った。

 

 

 

 

 

 

 

 

そうか…これが……これが私の求めていた真の愛だったのだ。

 

 

知っていた。彼は知っていたのだ。私の美しさに惑わされたのではない。言葉は無くとも、ただただ一途に、どんな姿になっていても彼の目にはいつもと変わらず美しい私が映っていた。

 

 

だから彼は私にずっとずっと変わらぬ愛を捧げてくれた。

 

 

 

 

触れたい。

 

 

 

彼に触れたい。彼を愛したい。

 

 

 

彼を抱きしめられたらどれだけ幸せなことか。

 

 

 

彼に生涯守ってきた純潔を捧げることができたらどれ程嬉しいことか。

 

 

 

愛しい…愛しい愛しい愛しい。私は彼を愛するために妖となったのだ。そう確信できた。

 

 

 

でも…全ては遅過ぎた。私は必死にあなたに叫んでも、見えもしない聞こえもしない。

 

 

 

 

 

 

 

そして……彼はついに来なくなった。

 

 

私は悲しみにくれ、その山の奥深くで涙が枯れるまで泣き続け、いつしか深い眠りについた。

 

 

 

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洞窟に響く足音。かすかに聞こえる息から漏れる声。その声に不思議と目を覚ました私は、音の正体を探るために洞窟の入り口まできた。

 

 

そして見つけた。彼がまだあの子と呼んでいた時の姿で洞窟に来たのを。

 

 

あぁ…あの人だ。私だけを愛してくれたあの人。

 

 

永い…永い時を越えて逢いに来てくれたんだ……。

 

 

私は彼に声をかけると、彼はすぐに気づいてくれた。いつのまにか、私の姿は彼に見えるようになっていた。

 

 

嬉しい…。今度こそ彼を愛することができる……。

 

 

彼は御老体に拾われ、私も彼のそばにいた。彼は御老体の前では私を見ていなかったが、二人きりになると小さな声で話を楽しむ。

 

 

それはかつての逢瀬のようで、とても楽しかった。

 

 

やがて御老体は亡くなり、彼は御老体の跡を継いだ。

 

 

必然的に、彼と会う時間が少なくなった。

 

 

彼が家にいない時間が増えるにつれ、彼は体を崩すようになった。いつもいつも働いていたから。

 

 

私は彼に何かできることはないだろうか。いつもいつも考えるようになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ…。」

 

 

ふとしたことで、指を切った。焼いた魚に血が垂れる。

 

 

私が人ならざるものになったせいか、指の傷はもう治っていた。

 

 

塞がった傷口があったところから、血が二滴、三滴と魚の上に滴り落ちる。

 

 

 

 

 

ああ…この時私が指を切っていなかったら…。

 

 

こんなことに気づかなかったら…。

 

 

私は純粋なままで入られたのに…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は滴り落ちた血を拭おうとした。

 

 

 

(彼が…彼がこの魚を食べる……

 

 

 

 

 

 

私の血と一緒に……。)

 

 

ぞくぞくとした、快楽のようなものが私の中を駆け巡った。

 

 

彼が飲むんだ。

 

 

魚と一緒に私の血を。

 

 

彼の体の一部になるんだ。

 

 

私は彼と一つになるんだ。

 

 

 

 

私は彼にその魚を出した。彼はなにも気にせず食べた。

 

 

 

「ど…どうですか……?」

 

 

「美味しい美味しい。しっかり焼けてる。」

 

 

美味しいと。彼はそう言った。私の血がついたその魚を。

 

 

嬉しくなった。いままで感じたことのないくらいの喜びだった。

 

 

私はそれに取り憑かれ、彼の食事にいつも自分の血を入れた。

 

 

その度に、彼は美味しいと言うのだ。

 

 

嬉しかった。それが何よりも嬉しかった。

 

 

でも……それだけでは足りなくなった。

 

 

 

 

 

私は彼の声から漏れる毒に侵された。

 

 

もっともっと彼と一つになりたい…。血だけでは足りない……。

 

 

もっともっと彼の体の一部になるものを……。

 

 

 

(どうすれば……。)

 

 

その時、私は自分の白く滑らかな腹部に目がいった。

 

 

私が呼吸をする度に、膨らんではしぼむ胸。その下にちらと見える柔らかそうな腹が。

 

 

(あぁ……これなら………

 

 

 

 

 

 

彼ともっと一つになれる……。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おまたせしました……。」

 

 

私は彼の前に肉を出した。彼は何のためらいもなくその肉を頬張る。

 

 

 

「……美味い。結構柔らかいなこの肉。」

 

 

自然と笑みがこぼれた。治った自分の腹部を撫でる。

 

 

 

彼が食べてくれた……私の腹の肉を…。

 

 

 

その歯で噛んで

 

 

 

噛んで

 

 

 

噛んで

 

 

 

染み出す油を飲み込んで。

 

 

 

彼の中に入っていく……。

 

 

 

なんと……

 

 

 

なんと幸福なことか‼︎

 

 

 

これ以上の幸福があるだろうか!

 

 

 

あぁ…そうか……

 

 

 

私は…私がここにいる意味は……

 

 

 

彼に食べてもらうためにここにいるんだ…。

 

 

 

もっともっと彼に私を食べてもらいたい…。

 

 

 

もっともっと彼と一つに…。

 

 

 

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彼がいつものお仕事に向かった。私はすぐに準備をした。

 

 

 

私は台所に立ち、包丁を取り出す。いつも研いでいるから切れ味はとても良い。肉を切ることなど造作もなかった。

 

 

私はその刃を自分の腹に向けて……

 

 

 

深く突き刺した。おびただしい血が流れ出す。

 

 

 

「あああっ‼︎」

 

 

痛い。

 

 

痛い。

 

 

でも……

 

 

嬉しい……。

 

 

彼が食べてくれる。その為だったら……。

 

 

 

「ぎっ‼︎」

 

 

腹を十字に切り裂く。そこには中身が見えていた。

 

 

 

私はその中にある臓から、ひときわ大きいものを取り出した。

 

 

 

「……あはっ…。」

 

 

体はすでに崩れ落ちた。しかし、私が求めていたことは成し遂げる事ができた。自然と笑みがこぼれる。

 

 

自分の手の中にあるものを、手で握ってみる。程よい弾力のそれについている血を洗い、彼が帰ってくるのを待った。

 

 

腹の傷はいつの間にか治っていた。

 

 

 

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「お帰りなさい…。」

 

 

 

「はい…。お風呂を終えたらすぐにお食事ですね……。」

 

 

 

「うふふ……今日は楽しみにしていて下さい……。」

 

 

 

「嬉しそう…ですか?はい……

 

 

 

 

 

 

とっても大きな肝が手に入りましたので……。」

 

 

 

「はい……すぐに準備いたしますね……。」

 

 

 

もっともっと……私を食べてください…。

 

 

 

 

 




同族加撃Lとケガ減りLと遊撃Lをつけたゾ。最強ってはっきり分かんだね

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