ヤンデルモンスト〜書いたら出るを添えて〜   作:千銀

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光ガチャまでに間に合ったゾ〜。(最終日)



冤罪(ウリエル)

 

 

 

 

 

眼が覚めると、俺は机に突っ伏して眠っていた。肩には毛布がかけてあった。

 

 

 

「やべ…今何時だ…?」

 

 

壁に掛けてある時計を見ると、既に作業が始まっている時間だった。

 

 

急いで用意をして、部屋を出た。

 

 

 

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作業場に続く道で、随分腹を立てた天使が腕を組みながら立ちはだかってきた。

 

 

 

「まったく…遅いぞ。」

 

 

「すまんすまん。徹夜の作業だったからな。」

 

 

「君はいつも徹夜で作業をしているじゃないか。疲れが出るからしっかり休め。」

 

 

「徹夜じゃなきゃ仕事終わんなくなっちゃうよ…。それに徹夜で作業しなきゃ困るのはそっちだろ?」

 

 

「とにかく!ちゃんと休息は取るように!それと私も大天使だ。形だけでもいいから敬語にしてくれ!」

 

 

「分かりましたよ。しかし泣き虫だったウリエルが大天使様か…。」

 

 

昔からの幼馴染だったウリエル。大天使の素質があった彼女は、昔は厳しい教育によく泣かされていた。

 

 

俺は飛空艇のメンテナンスをするだけだが、彼女は昔と変わらずよく接してくれた。

 

 

 

「昔話はもういいだろう…!早く作業に入れ!」

 

 

照れているのか顔を赤くしながら立ち去った。

 

 

 

「ほんと…よく分かんないな。」

 

 

俺は大天使の素質もなければ才能もない。最近、大天使とあろうものがこんな有象無象の下っ端天使と親しくしていて大丈夫なのかと思うことがある。

 

 

何か変な誤解をされるのではないか。それが少し心配だった。

 

 

 

「……ま、いいか。誤解されたら否定すればいいし。」

 

 

そんな心配もすぐに忘れて、俺は同僚たちからこっぴどく怒られる為に作業場に向かった。

 

 

 

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「ふぅ…まったく……。」

 

(徹夜をするのは構わないが体を大事にしてほしい…。)

 

 

そう思いながら私は自分の三対の翼を羽ばたかせ、十天聖様のいる神殿へ向かった。

 

 

 

(思えば…私が大天使になったきっかけは彼だったな……。)

 

 

彼は昔から無茶ばかりをする。しかし私は、そんな無茶をする彼に憧れた。

 

 

その無茶でいつも私ができないことをやってのけた。

 

 

私もあんな風にかっこいい天使になりたいと思った。

 

 

それから私はいつも以上に努力をした。今日より明日、明日より明後日、もっと努力をしていつか天使達を束ね従える大天使になろうと思った。

 

 

そして私が大天使になる儀式の前日。彼と共に天界の景色が一望できる丘で二人で話し合った。

 

 

 

『私も明日から大天使か……。』

 

 

『不安か?』

 

 

『ああ。大天使として他の天使達を従える立場に立つのだからな。』

 

 

『……お前は気が弱いのは変わってないな。』

 

 

『なっ…!……いや、まぁそうか。』

 

 

『あんま緊張すんな。大天使を支えるのも俺らの仕事だろ?俺らだってそんなにヤワじゃない。』

 

 

『分かってはいるが…。』

 

 

『なら代わってやろうか?泣き虫ウリエル。』

 

 

『なっ…なんだと⁉︎私はもう泣き虫ではない!』

 

『だったらどっしり構えてろ。その為に今まで頑張ってきたんだろ?』

 

 

『……ふっ…。確かにそうだな。』

 

 

『よし!じゃあ頑張れよ泣き虫!』

 

 

『言われなくてもやってやるさ、このバカ!』

 

 

拳を合わせあった時のことは、今でも忘れていない。

 

 

 

 

 

 

それからというものの、私の大天使としての役割は完璧と言われるほどになった。

 

 

神のお言葉を聞き、それを完璧にこなす。周りの大天使からの評価も高く、従える部下達にも優しく、十天聖様からの信頼も厚くなった。

 

 

 

(そう言えば、十天聖様から呼び出しがかかったが、一体なんのご用件だろうか。)

 

 

 

 

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「…………。」

 

 

また机に突っ伏して寝ていた。昨日も徹夜の作業になってしまった。

 

 

いつものように毛布がかけてあった。またウリエルがかけてくれたのだろう。

 

 

 

「時間は……まだ間に合うな…。」

 

 

固まった筋肉をほぐして、作業場に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

作業場に行くと、いつもより周りが騒がしかった。不思議に思ってこっちに向かってくる天使に聞こうとした。

 

 

 

「いたぞ!あいつだ!」

 

 

「えっ?」

 

 

あっという間に腕や頭を掴まれ、地面に押さえつけられてしまった。

 

 

 

(え?なんだこれ?)

 

「お…おい!なんだよこれ‼︎」

 

 

訳もわからず取り押さえられ、怒声を飛ばしながら今の状況の説明を求めた。

 

すると俺を取り押さえている天使の1人が怒声を飛ばして答えた。

 

 

 

「うるさい!この裏切り者め‼︎」

 

 

(は?裏切り者ってなんだ?)

 

 

その天使の怒声に感化された天使達が次々に俺を罵る。

 

 

 

「俺たちを騙しやがって‼︎」

 

「このクズめ‼︎神のご意向に背きやがって‼︎」

 

「そいつはもう天使じゃねぇ‼︎ただの堕天使だ‼︎」

 

 

(なんだ…何言ってんだこいつら……。)

 

 

「ふざけんな!馬鹿な事やってねぇでこの状況を説明しろ‼︎」

 

 

暴れて抵抗するほど天使達は俺を押さえてきた。

 

 

そんな中、他の天使達を掻き分けて割り込んでくる天使が見えた。

 

 

 

「どけ‼︎どいてくれ‼︎」

 

 

「ウリエル!」

 

 

「ウリエル様だ!」

 

「我らがウリエル様!」

 

「どうかこの堕天使に裁きを‼︎」

 

腕を押さえられたまま、体を持ち上げられる。

 

 

 

「ウリエル!なんだよこれ‼︎何が起こってんだよ!」

 

 

「貴様‼︎ウリエル様を呼び捨てにした上でそのような口を聴くのか‼︎」

 

「ウリエル様!どうかこの者を牢獄に!」

 

「この者に神の正義を!」

 

 

ウリエルは俺を見て拳を握りしめ、歯を食いしばっていた。そして弱々しく口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この者を……牢獄へ…!」

 

 

言っている事の意味がわからなかった。牢獄?あの牢獄へか?

 

聞くだけで恐ろしかった。牢獄に入って生きて出てきた者は一人たりとていないのだ。

 

 

そんな事はどうでも良かった。ウリエルが…ずっと仲の良かったウリエルに裏切られたのが理解出来なかった。

 

 

 

「なんでだ……。ウリエル…。」

 

 

「さっさと歩け‼︎」

 

 

天使達に引きずられながら目をそらすウリエルに唯々疑問を持った。

 

 

 

「なんでだよ……。」

 

 

 

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十天聖様に呼ばれた私は、衝撃の事実を告げられる。

 

 

 

「この天界に大天使を誑かし、その力を以って神への叛逆を企てる者がいるとのお告げが届きました。」

 

 

信じられない実事を告げられた。いや、そんな事よりも……

 

 

 

「その叛逆を企てる者は…どこにいるのですか…?」

 

 

「…………ウリエルさん…。貴方ならもう気づいているのでしょう?」

 

 

認めたくなかった。大天使と仲がいい天使。私はよく知っていた。

 

 

 

「もう一度…もう一度調べてください!彼がそんなことをするような男ではありません!どうか‼︎」

 

 

「……ウリエルさん…。目を覚ましなさい。これも彼の策略なのかもしれません。貴方はもう…騙されているのですよ……。」

 

 

「そんな……‼︎」

 

 

「どうかもう一度よく考えてください。天界のために彼と我らが神、どちらを信じるべきかを。」

 

 

「…………失礼します…。」

 

 

帰路につきながら、私はずっと考えていた。

 

 

(私は…騙されているのか……?いや…彼がそんなことをするはずがない。……しかし…。)

 

 

神に間違いは無い。そう信じて神に使えてきた。

 

 

彼は信頼している。好意すら抱いていると言ってもいい。しかし大天使である以上、下のものに示しがつかなくなる。

 

 

 

(どうすればいいのだ……!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

考えているうちに夜になってしまった。私は彼の真意を確かめようと彼の部屋を訪れた。

 

 

部屋を訪れると、彼はもう眠っていた。それほど私は考えていたのだ。

 

 

 

(なんて言えばいい…?お前は神を裏切っているのかと聞けばいいのか……?)

 

 

結局私は彼に毛布をかけて部屋を出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日、作業場が何やら騒がしかった。何をしているのか見ようとすると、彼の怒声が聞こえた。

 

 

 

「どけ!どいてくれ‼︎」

 

 

彼は私に訳が分からないという顔をしてきた。

 

 

 

(どうすればいい…!どうすればいい…!誰か教えてくれ‼︎)

 

 

しかしここで判断を間違えれば最悪ここにいる全ての天使に影響が出る。ここにいる全ての天使達が無能の各印を押され、十天聖様や神からの信用も失う。

 

 

そうすれば確実に他の大天使達に殺される。私一人だけでは無い、大勢の天使達が。

 

 

悩んだ。

 

 

悩んだ。

 

 

その結果………………

 

 

 

「この者を……牢獄へ…。」

 

 

その時の彼の顔はもう見る事はできなかった。

 

 

 

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彼が牢獄に入れられて二ヶ月以上の時が経った。私の心は、ぽっかりと穴が空いたようだった。

 

 

だが、これも仕方のないことなのだ。神のご意向のため、平和な天界を作るためだ。

 

 

だが…信じたくなかった。あいつが…そんなことを考えるような男ではないと。

 

だってあいつは…誰よりも頑張っていた。皆が寝静まった夜も、あいつは一人で作業をしていた。

 

 

(他の者のために、自ら先導して作業をやっていた。時々無茶をして皆を楽しませた。)

 

(あいつは…あいつは一体いつ何処で歪んでしまったのだろう…。)

 

(…………いや、だめだ。どんな事があろうとあいつは神を裏切ってしまった。この事実だけは…変えられないんだ。)

 

 

あいつのことを頭から振り払い、天使達の視察へ行く準備をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウ…ウリエル様‼︎」

 

 

部下の天使が私の部屋の戸を叩いた。とても急いでいる様子だった。

 

 

 

「どうした‼︎魔族の襲撃か‼︎」

 

 

「い…いえ!あの…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「神のご意向に逆らう堕天使が、他の大天使様の手により捕まりました!」

 

 

「…………な…なん…。」

 

 

何を言っているんだ…?この天使は……。

 

 

 

「その天使は、地上の防衛線の指示を出していた者でした!地上に住む魔女に心を操る薬をもらい、大天使様を操ろうとしていた時に捕らえられたようです‼︎」

 

 

そんな事はどうでもいい!じゃあ……あいつは…。

 

 

 

「あいつは……?罪を着せられたあいつは……?」

 

 

「それは……その…。」

 

 

なんで黙るんだ……。あいつは罪を着せられ牢獄の中なんだぞ…?

 

 

神が間違いを犯すと…?嘘だったと…?あいつは冤罪だったと……?

 

 

 

「くっ……!どけ!」

 

 

急いで牢獄を管理する大天使の元へ行き、彼を解放するように言った。

 

 

知らせを聞いた大天使は、とても驚いた様子で牢獄からあいつを解放しに行った。

 

 

やがて大天使が牢獄から出てきた。あいつを支えながら。

 

 

 

「あ……。なん…だ……これは……。」

 

 

この牢獄は大天使が解放しない限り永遠に繋ぎ止めておく。故に誰一人として牢獄から出られるものはいなかった。

 

 

だが、ここに初めてその牢獄から出られた者が生まれた。

 

 

 

「………………。」

 

 

彼は……変わり果ててしまっていた。

 

 

骨が浮き上がるほど痩せ細っていた。汚れて浅黒くなった肌。

 

 

千切れて腐り落ちた翼と、光を失った目。

 

 

そして……あいつは心を失い物言わぬ人形となっていた。

 

なんでだ……なんで彼がこんな目に…。なぜあいつがこうならなければならなかった…。

 

 

………………いや…。違う……。私が……私がこの牢獄に入れることを命じたんだ……。

 

 

私が……あいつを壊したんだ……。

 

 

私が……あいつを信じていたら…あいつを牢獄に入れなければ……あいつはこんな事にはならなかったのに……。

 

 

私のせいだ……。

 

 

私が……。

 

 

私が……。

 

 

 

 

 

 

私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が……

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま……。」

 

 

「…………。」

 

 

「きょ…今日はな……作業場へ視察に行ったんだ…。」

 

 

「…………………………。」

 

 

「皆お前のことを心配していた…。だからな……。」

 

 

「……………………………………………………。」

 

 

「うぅ……。」

 

 

寝たきりのあいつは何も答えない。心を失い、笑うことも、泣くことも、怒ることもない。

 

 

汚れた体も洗った。千切れた翼も私の翼を千切ってあげた。私を騙した十天聖も神も殺した。お前を裏切った天使達も殺した。

 

 

でも…お前の心だけは取り戻せなかった。

 

 

分かっている。分かっているとも。お前が本当に憎いのは私なんだ。

 

 

私が…お前を裏切ったんだ……。

 

 

それでも……わがままだな…。お前の笑った顔が見たいんだ。

 

 

お前の手を私の首に当てる。力を入れてしまえば、私の首はすぐに締まる筈なのに…お前は力を入れてくれない。

 

 

あぁ…どうかこのまま私を殺してほしい。首を絞めて殺してもいい。首の骨を折って殺してもいい。喉に剣を突き刺してもいい。体を切り刻んで苦痛を与えて殺してもいい。押し倒して慰み者にして殺してもいい。

 

 

お前の恨みが晴れるなら、私は何をされたっていい。だから……

 

 

 

 

 

 

 

「私のために笑ってくれよ……。」

 

 

お前がいなければ、私は泣き虫な天使のままなんだよ……。

 

 

 

 

 

 




(ホシ玉49なので引け)ないです。

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