ヤンデルモンスト〜書いたら出るを添えて〜   作:千銀

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三蔵ちゃんとスポーツウェアを着て運動したい…したくない?


再教育(ワトソン)

 

 

「貴方はホームズには相応しくありません。」

 

 そう悪態をついて、捕まえた犯人を引きずりながら彼女は去っていった。

 

 そんな事は自分が一番分かっている。そう言おうとしたが、何も出来ていない自分を惨めにするだけだとストップをかけた。

 

 息を整え、ホームズ先生と隣にいる悪態をついた彼女、ワトソンの後ろ姿を見ながら歩幅を小さくしてついていった。

 

 

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 僕の故郷は治安が悪く、誘拐や殺人が横行していた。警察にもロクな人間がいない。引っ越そうにも牧場も畑もある。引越し先で仕事が見つけられなかったら元も子もない。

 

 だったら自分で事件を解決するしかない。そう考えた僕は、国で一番の探偵であるホームズ先生の元へ探偵になる為に先生のいる事務所の戸を叩いた。

 

 先生はだらけた人だったが、国でも有名な刑事が先生に頭を下げているのを見てすごい実力を持っているのだと思った。

 

 僕は何度も取り繕ってようやく事務所に来る事を許された。近くに家を借りて、依頼が無い日は、事務所の片付けを、依頼がある日は先生の姿を見て学んでいた。

 

 しかし、現実はそう上手くはいかない。探偵とはセンスが重要であると痛感することが多々あるし、犯人が逃げた時、あるいは凶器を出して襲いかかってきた時の対策も取らなければならない。

 

 今日は犯人が逃げ出してしまったが、肝心なところで足を挫いてしまい、結局は先生の助手であるワトソンが捕まえた。

 

 戦闘用のガイノイドである彼女は、人間の身体能力を遥かに超えている。ましてや足を挫くなんてことは絶対にない。

 

 失敗続きの日々、一度や二度ならまだ許されるものの、それが何度も続けば不快になり、苛立ちになる。

 

 

「湿布と包帯です。自力で歩けるなら帰ってください。」

 

 事務所に戻るとワトソンに湿布と包帯を投げ渡される。ワトソンの僕を見る目は呆れ返っていた。

 

 包帯を巻いて帰路につく。当たりは辛いが、自分の故郷のためにも諦めるわけにはいかない。認めさせればいいんだ。それがいつになるかは分からないが。

 

 

 

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 私の気分は最悪だ。

 

 ホームズに拾われたこの命、ホームズの為に尽くそうと思っていた。だがそれだけでは飽き足らず、ホームズと二人きりの生活を望むようになったのはいつからだろうか。

 

 ホームズが部屋を散らかし、私が呆れながら掃除し、紅茶を飲みながら談笑する日々。理想の生活であった。そんななんてこともない日々が、私が人間のように振る舞える時間だった。

 

 そんな時一人の男が戸を叩き、あろうことかホームズの元で学ばせてほしいと言い出した。

 

 勿論私は猛反対だ。しかしそれは私が決めることではなくホームズが決める事だ。そしてホームズはその男の要求を受け入れてしまった。

 

 最悪だ。あのうるさい刑事ですら手いっぱいなのに今度は毎日ずっとうるさい男がいることになる。

 

 美しい花畑に、泥だらけの足でずかずかと入られた気分だった。この憤りを何処にやればいいのかも分からない。

 

 しかもこの男。何ができるかと言われれば何も出来ないのだ。

 

 掃除をさせれば隅々まで箒が行き届かず、空中にホコリ撒き散らし

 

 本棚を整理させればジャンルも大きさもバラバラになり

 

 幾つか頼みを出したら何度も聞いてくるくせにメモは取らない。

 

 苛立ちは溜まっていくばかりだった。そんな苛立ちが、ある日怒りに変わった。

 

 あの男が事件の捜査が終わった後、いきなり「先生のことが分かってきた気がする」と言い出した。

 

 それを言われた瞬間、声よりも先に手が出た。男の困惑した顔が、さらに私を苛立たせた。

 

 

「たった一回の捜査でホームズを分かった気にならないで‼︎」

 

 その日は男が来てから初めての捜査だった。たった一回でホームズのことが分かるのなら、国で一番の名探偵になんてなってない。

 

 

「あなたはホームズには相応しくない。」

 

 それは私にとって救いの言葉だった。

 

 私の方がホームズを良く知っている。

 

 私の方がホームズをずっと見てきた。

 

 私の方がホームズをもっと理解できる。

 

 それらを一つに体現したかのような言葉。その日は高揚感に満たされながら1日を過ごせた。

 

 

 

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 体が動かせない。どうやら崖から落ちたようだ。体の配線が千切れているし、崖に擦れたせいで腕が何処かへ行ってしまった。

 

 それでも私は死の恐怖を感じないから機械なのだろう。それよりも、追っていた犯人を逃したことが気になっていた。

 

 あの男には期待していない。ホームズの役に立てなかったことが何より辛かった。せめてホームズを守って壊れたかったのに、こんな惨めな壊れ方をするとは。

 

 だが犯人の顔は見た。ホームズが私のメモリーを見ればすぐに捕まえるだろう。これで安心して壊れることができる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうやら壊れずに済んだらしい。ホームズが顔を覗き込んでいた。

 

 

「…すみませんホームズ…犯人を取り逃がしてしまいました…。」

 

「いや、あいつが捕まえたよ。片割れだがな。」

 

 あいつとはあの男のことだろう。自分でも驚きで目が見開いているのが分かった。

 

 犯人を捕まえ、なおかつ私を背負ってエンジニアの所まで運んだため、私のシャットダウンは免れたそうだ。

 

 ただ、あの男も犯人と揉み合いになり、腹をナイフで刺された状態で私と犯人を運んできたため、失血死寸前だったそうだ。

 

 私達の観点から考えれば、男のした行為は無駄であった。メモリーさえ残っていれば、別の体に移し替えるだけで私は直る。

 

 だが、この身体は戦闘用に作られている為、今残っているのは私しかいない。それに、ホームズとの絆でもあったこの身体を移し替えずに済んだのは、あの男のおかげだったのだろう。

 

 

 

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「もうそろそろ良いんじゃないか?」

 

 ホームズがあの男に突然言い出した。あの日の事件を境に、男はどんどん探偵としての力をつけていた。

 

 元々センスはあったのだ。重要な証拠をいち早く見つけたり、証言の矛盾を見逃さなかったり、なんならホームズよりも先に犯人を特定していたり。ホームズがいるので萎縮してしまったようだが。

 

 センスがあるなら探偵としての考え方を教えれば、事件が解けるようになるのは当然なわけで、ホームズは自分の側に置いておいたら成長しなくなると感じたのだろう。

 

 そしてその翌日、男は意気揚々として故郷に帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  それからというものの、男は「シャーロック・ホームズの教え子」として故郷の国で名を馳せた。それは私達の耳にも届くようになっていた。

 

 先日放送されたラジオでは、男がホームズから学んだ事、経験した事を嬉々として話し、ホームズは満足気にそのラジオを聴いていた。

 

 そういう事もあって、少なくともホームズに買う菓子類が多くなる程度には裕福になった。

 

 だからあの男の言う事で、私の名前が出なかった事に苛立ちを覚えたのは気のせいなのだろう。

 

 

 

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 ホームズの頼みで、あの男の元を訪ねる事になった。正直行きたくはなかったが、ホームズの頼みなら断れなかった。

 

 私の苛立ちは増すばかりだった。男が口を開けばホームズの事ばかり。掃除も整理整頓も教えたのは私だと言うのに。

 

 

「お久しぶりです。ホームズ先生はお元気ですか?」

 

 男がドアから出てくるや否やホームズの事を聞き出してきた。

 

 

「ええ…。」

 

 事務所のソファーに座ると、男はキッチンへ入っていった。

 

 事務所を見渡すと、本棚も綺麗に整頓されているし、掃除も行き届いている。

 

 

「どうぞ。」

 

 机の上にコーヒーを置かれる。私がカップを手に取らないでいると、男は首を傾げた。

 

 

「…あれ?確かコーヒーがお好きだったと思ったのですが。」

 

「…………いえ…大丈夫です。」

 

 私が好きなのは紅茶だ。コーヒーが好きなのはホームズの方だ。どうもこれだけはホームズと合わなかった。

 

 

「…ところで!ホームズ先生のご様子はどうですか?」

 

「……あなたに心配されなくても問題ありません。」

 

「ははは、そうですね。ところで最近、よくホームズ先生から手紙が来まして、どうやら以前贈ったアメが気に入ってしまったようで……。」

 

 私に話して何になる。この男には不快感しか無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ホームズ先生は…………。」

 

 

 

 腹が立つ

 

 

 

「ホームズ先生の……………………。」

 

 

 

 腹が立つ

 

 

 

「ホームズ先生と………………………………。」

 

 

 

 腹が立つ腹が立つ腹が立つ‼︎

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日はありがとうございました。」

 

 私はただ苛立ちが増すだけだった。精神的に疲れた気もする。

 

 

「いえ…それでは。」

 

「………あの…!少しだけ時間をくれませんか?」

 

「……………。」

 

 もうさっさと帰らせて欲しい。口には出さないが表情で訴える。それでも男は気付いていなかった。

 

 

「あの……その………。」

 

 さっさと言って欲しい。ここにいるのも不愉快だ。

 

 

「……実は…ホームズ先生のことがずっと前から…気になっていて…。」

 

「…………は?」

 

 この男は一体何を言ったのだろう?

 

 

 

 気になっている?

 

 

 

 誰が?

 

 

 

 誰を?

 

 

「そこでなんですけど……ホームズ先生の好みだとかを…教えていただきたくて…。」

 

「…………っ‼︎」

 

 相応しくない…。相応しくない相応しくない相応しくない相応しくない相応しくない相応しくない相応しくない相応しくない相応しくない相応しくない相応しくない‼︎

 

 

「……相応しくない…。」

 

 

 気づけば考えるよりも先に手が出ていた。男が頬を押さえたまま、唖然として私を見ていた。

 

 

「相応しくない…。」

 

 見境なく男を叩く。身体を縮めて、顔を押さえて、叩く度に呻き声を上げた。

 

 

「相応しくない…。」

 

 

 

「相応しくない…。」

 

 

 

「相応しくないッ…‼︎」

 

 考えるより先に、手が、声が出た。ただこの苛立ちを発散させるためだけに、思い切り叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ホームズなんか(・・・)に相応しくないッ!!!」

 

 私の苛立ちが、怒りが、不快感が、すべて快楽に変わった。

 

 

 私の方が彼を良く知っている!

 

 私の方が彼をずっと見てきた!

 

 私の方が彼をずっと理解できる!

 

 掃除はちゃんと出来なくて…

 

 言ったことはすぐ忘れて…

 

 無駄なことばっかりやって…

 

 ずっとずっと彼を見てきた!

 

 

 気づけば彼の顔には青痣ができ、私が手を挙げれば縮こまって震えるほど私に恐怖していた。

 

 私は、気づけば顔が引きつり笑っていた。

 

 

「……貴方には再教育が必要なようです。」

 

 そうだ、こんな恩知らず、私が再教育しなければ。

 

 

「覚悟しなさい…。ホームズの事なんて二度と考えられないようにしてあげます。」

 

 そう。これはホームズのため…。私の事しか考えられないようにすれば、ホームズも安心できるはずだ。だから……

 

 

 

 

 

 

「再教育を…始めます。」

 

 だから、関係ない。私が笑っているのも、喜びを感じているのも。すべてホームズのためなのだから。

 

 

 

 

 

 




モンストのヤンデレイラスト欲しいよな〜俺もな〜。

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