ある老婆のもとに一通の手紙が届いた。老婆は手紙の差出人を見ると、老婆は驚いた様子ですぐに封を切った。
拝啓
師走の候寒さも日毎に増します今日この頃、年もおしせまり、なにかと忙しい頃となりました。
しばらくご無沙汰しておりましたが、お元気でいらっしゃいますか。
ずっと気になっておりましたが、度重なる事情により、なかなかペンを執れずにおりましたこと、お許しください。
さて、ここから先は貴方にとってとても辛いことを書いていると思います。もし貴方が私に失望の念を持つのであれば、この手紙を燃やすようお願い致します。
老婆はその言葉にためらいを感じたが、二枚目を開いた。
さて、お話は変わりますが、あの日の約束を果たせず、後悔の念でいっぱいです。
あの日の出来事を、そして私という人間の生をこれから話そうと思います。
私が子供の頃、私には秘密の友人がいた。私よりもずっと年上で、とても清らかな印象を受けた。
その友人の名は蓬莱と言い、私は近くの山の上の神社でよくくだらない話をした。幼くして父と母は他界し、過疎化した田舎の祖父母のもとで育った私には友達と呼べるものがいなかった。だから彼女の存在は私の中で大きなものだった。
「あの…。」
「どうしたの?」
「こ…これを……受け取っていただけませんか!」
彼女は顔を赤くし、私に綺麗な装飾品をくれた。茎が金色で真珠のついた綺麗な枝のようなものだった。
しかし彼女はそれを渡した途端突然姿を消した。私は彼女が帰ってきていないか神社をよく行くようになったが、年をとるにつれ神社へ行くのも少なくなった。
月日が流れ、私が社会人として働き始めた頃。私はある一人の女性と恋をした。
お互いをよく知り、よく認め合い、私は指輪を渡し、彼女はそれを受け入れた。祖父母が亡くなっていた私は、彼女の両親と話し合い、結婚を認められた。
「あなたは……。」
「お久しぶりです。」
彼女が私の前に現れた。私は彼女との再会を喜び、私の家でゆっくり話をした。
「そうだ!私、明日式を挙げるんですよ。」
「あら、奇遇ですわ。私も明日式を挙げるつもりです。」
彼女の突然の報告に私は驚いた。そして私はこんなに綺麗な人と結婚出来る人は幸せ者だろうと思った。
「そうですか。貴方のような綺麗な人と結婚できる人は幸せ者だ。」
「そんな……。お恥ずかしい。」
思ったことを口に出してみると、彼女は顔を赤くして両頬を抑えた。
「その結婚する方はどんな人なんですか?」
「それは……。」
「え……?」
私は自分の目を疑った。彼女が指さしたのは私だった。
「お迎えに来ましたわ。あなた♡」
「い……いや違いますよ…。私はあなたとは結婚なんて…。」
「まぁ!やめてください、そんなご冗談。私のために式まで用意してくださるなんて…。嬉しくて天にも登ってしまいそうですわ。」
私は彼女に必死に説明した。しかし彼女はそれら全てが自分のためにやってくれたものだと思っている。彼女が納得してくれないことに怒りすら湧いてきた。
「だから!私はあなたとではなく指輪を渡した人と……」
「ねぇ、あなた。」
彼女は光の無い目を見開いて私に詰め寄ってきた。
「私…実はとっても嫉妬深い女ですの。」
「他の女性の方のことを話していると……その方を殺したくて殺したくてたまらなくなってしまいますわ……。」
私は彼女に恐怖した。そして気がついた。彼女は年を取っているように見えなかった。ゆうに10年以上の時が経っているというのに、彼女は私が昔見た頃と何も変わっていなかった。
彼女が私を押し倒し、身動きが取れないよう私に誇る。
「あの玉の枝を貰ってくださったのですから、もちろん私を受け入れてくださいますよね?」
彼女が懐から瓶を取り出した。中には淡く青色に光り輝く水が入っていた。
「んっ………。」
彼女が私にその水を口移しで飲ませてきた。
「うふふ…初めてのキスですわね。」
「あ……。」
何故だろう。あの人のことが頭から離れていく。そして私はとてつもない睡魔に襲われた。
意識が消えてゆく中、思い出したのはあの人のことだった。そして私の頭にあの人のことが頭に浮かんで消えた。
「ようこそ。不死の世界へ……。これからずっと………未来永劫…一緒に愛を育みましょう……。」
私は貴方のことを必死に思い出し、最後の記憶を使ってこの手紙を書きました。そしてもし私とすれ違うことがあったら、そこにいるのは貴方の知っている私ではなく決して死なない人の形をした人ならざるものでしょう。
どうか私のことは忘れてください。それが私の……私という人間としての最後の望みです。
敬具
手紙と一緒に一枚の小さな短冊が入っていた。それにはとても美しい字で短歌が書かれていた。
いたづらに
身はなしつとも
玉の枝を
手折らでさらに
帰らざらまし
老婆は涙を流し、自分の葬式の時にその手紙をともに燃やした。
まま、ええわ。今回は許したる(寛大)