ちょっと待って!ヤンデレ要素があんまり入ってないやん!どうしてくれんのこれ?
神に愛されるとはどういう気持ちなのだろうか。
士気を奮い立てるものか、安心できるものか、心安らぐものか、一切の不安を消し去るものか、決意を持たせるものか。
神はそんなに沢山のことをできるのだろうか。と、疑問に思うことがある。
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「ねぇ〜お金かしてくんな〜い?電車賃なくてさ〜。」
「あとでちゃ〜んと返すから〜。」
「…………。」
胸元のボタンをはだけた如何にもな女子生徒二人組が俺に金をねだってきた。俺はため息をつき黙ってカバンから金を出す。
「はい。」
「えっ……?」
彼女達の目の前に置いたのは一万円札を百枚束ねたもの。俺が出した異常な額に彼女達はうろたえた。
「い…いやぁ〜そんなにはいらないかなぁ?」
「ほんの2、3万でいいんだけど……。」
「いいんだ…。好きなだけ持って行ってくれよ……。」
俺は彼女達にあからさまに苦痛の表情を見せたが、彼女達は気づかなかった。
「あ…アタシ達これだけでいいから〜!」
「ごめ〜ん!ちゃんと返すよ〜!」
そう言うと彼女達はその束から2枚ずつ抜き取って逃げ帰って行った。いくら金を取ると言っても彼女達の良心が痛むようだ。
「はぁ……。」
残った札束を見て鬱陶しくため息をついた。
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母は父の暴力に耐えかね、夜逃げという形で俺を連れてきた。
できるだけ遠く、一歩でも遠くへ行って、母と俺はようやく安息の場を見つけた。
母は父に秘密で貯めていた金と、パートで稼いだ金で俺を学校に入れてくれた。俺は母の助けになると働く意を示したが、母はそれを止めた。
家計は火の車だった。母は必死に働き、俺自身もバイトをしてなんとか生活していた。
バイトの帰りがけ、俺は水田の茂みの中に古びた神社を見つけた。この神社は弁財天を祀っている神社らしい。
俺はそこへ行って毎日お参りをした。せめて少しでも生活が楽になるようにと。
ある日、母が倒れた。すぐに病院に運ばれ、しばらく入院したほうがいいと医者に言われた。
俺は一人で働くことになり、生活もどんどん苦しくなっていった。いつしか神社にも行かなくなっていった。
そんなある日、転機が訪れた。
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「ふぅ……。」
帰って来て早々ため息をつき、札束を金庫の中に詰め込む。これで金庫を買うのは4つ目だ。
お金に困っていた俺だが、今はお金がありすぎて困っている。その理由は……
家のインターホンが鳴った。ドアについている覗き穴を見てみると、案の定彼女が、弁財天がいた。
「えへへ……こんにちは。」
「うん……。」
ドアを開ると、彼女は俺に抱きついて来た。
「いいにおい…………。」
「お茶出すよ……。」
彼女を部屋に入れ、お茶を入れた。
弁財天は寂しかった。昔はたくさんの人が神社に来てはお参りをした。でも今は違う。人は神を信じなくなり、神社はどんどん廃れていった。
そんな時に来たのが彼だった。生活が苦しくても毎日来る彼に、弁財天は夢中になった。
しかしいつからか彼が来なくなったので、弁財天は異様なくらい不安になった。
だから弁財天は会いに来た。そして会うごとに親切にしてくれる彼にいつしか弁財天は恋をした。
だから弁財天は決めた。自分を大事にしてくれる彼を、私の持てる全てを使って愛そうと。
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言葉だけ聞いて入れば、俺は神を手玉にとって利用する最低最悪の奴に見えるだろう。だが決してそんなことはない。俺は以前、彼女に神と人は相容れない存在だと言い放ったことがる。
その直後だった。
『そんな……そんなことない…。なんでそんなひどいこと言うの…?私はこんなにあなたを愛しているのに…………。』
彼女の周りにあるものがどんどん風化していき、あらゆる食物が腐っていった。水脈が乱れ、地盤が沈下していった。
俺はその時気がついた。神に愛されると言うことの恐ろしさに。
彼女は神だ。水を、福を、金運を、商売を、音楽を、弁舌を司る神だ。
人も神も一個人の人間に恋をした場合、自分の持てる全てを捧げようと思うのが当然のことなのだ。
だから彼女は俺に持てる力の全てを捧げた。それを拒絶すれば、結果は分かったも同然だった。
彼女は持てる力全てを使って、俺と言う存在を消し去ろうとした。
『……悪かった。冗談だ…。』
『……本当?』
『ああ……君の愛が本物か試して見たくなったんだ。でも…どうやらその愛は本物だったみたいで良かった。』
『えへへ…当然でしょ!私の愛はあなただけのものなんだから……。』
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そして今に至る。彼女の力は凄まじいものだった。
俺が山に木を植えようと誰も所有していない土地に穴を掘れば、埋蔵金が見つかった。
物を売るバイトを掛け持ちして行えば、それぞれが飛ぶように売れるようになった。
お金にも余裕ができるようになり、試しに宝くじを買ってみた。一発で一等が当たり、金庫が埋まった。
母は良い病院に入ることができた。それは感謝しているが、俺は何かをすれば必ずうまくいくようになった。
それも彼女のおかげなのだろう。最初は俺は彼女に感謝した。彼女からの愛はどんどん強くなり、俺は彼女を拒絶することは出来なくなった。何より、彼女が拒絶を許さなかった。
彼女とともに食事を済ませ、風呂を済ませた。
「ねぇ…今日も一緒に……寝よ?」
「ああ……。おいで。」
「えへへ……あったかい。」
最高級の布団で彼女の髪を撫でながら眠るのが日常になってきた。
「ねぇ……。」
「…なに?」
「あなたは今幸せ?」
「……聞くまでもないでしょ。君がいてくれるからとっても幸せだよ。」
「えへへ…そうだね。これからもずっとず〜っと一緒にいようね。もっともっと……二人で一緒に幸せになろうね…。」
「うん……。」
「絶対だよ?」
「うん…。」
「嬉しい……。二人でずっと幸せなんだ……。絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に離さない離さない離さない離さない離さない……。」
(神に愛されるって……そんなにいいことじゃないんだな…。)
彼女が眠った後で、窓から差し込む月の光を浴びながら、俺は彼女の顔色を伺い、彼女が喜ぶことだけをする男娼になったのだなと思った。
(ヤンデレ要素)僕がさっき…食べちゃいました…。