IS-学園以外は危険がいっぱい-GPM   作:望夢

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いよいよタッグトーナメント戦なのだが。

ヒロインは何処に居るんだろう。なんで女子たちがヒロインじゃないんだろう。おかしいな、これISの小説なのにね。

という感じで書き上がったのですが。もうむちゃくちゃである。


開幕! 学年別タッグトーナメント

 

 学年別タッグトーナメント当日。

 

 この日のIS学園は例年以上の注目を浴びていた。

 

 各国の政府関係者、研究員、企業のエージェント等々。様々な来賓がやって来る。

 

 厚一はそんな来賓のひとりに指名されて面会をする事になったのだ。

 

「失礼します。速水厚一、ただいまやってまいりました」

 

 来賓室に入室して名を名乗る。それを受けて立ち上がり、振り向いた女性は厚一の知る人物だった。

 

「呼び出してすまんな、速水」

 

「芝村さん。IS学園にようこそ」

 

「もうすこし驚いてもよかろう」

 

「あはは。自分の様な人間に面会を希望する人はあまり居ないと思っていましたし。芝村と聞いたときに知り合いと言えば芝村さんしか思い当たらなかったので」

 

「そうか。だがお前はもう少し自覚というものを持ち合わせるが良い。お前の実績は聞いている。随分と優秀な成績を収めているともな。誇るが良い。それはお前自身の努力の結果だ」

 

「ありがとうございます」

 

「うむ。それでだが、お前を代表候補生として任命するという話が出た。これを受け入れれば晴れてお前の身は日本国内において不動のものとして保障されるわけだ」

 

「自分が、代表候補生?」

 

「そうだ」

 

 何故母の恋人である芝村(しばむら) (こころ)がその様な国家クラスの話を自分にしているのかという疑問はある。だが正式な来賓として来て居る以上、彼女の身は相当偉い人間であるという事を物語っている。

 

「もしそれを受け入れたとして、母さんはどうなりますか?」

 

「速水は速水の人生がある。そなたはそなたの人生を行くが良い。速水、そなたは速水を助けたいと思っているようだが、それを速水は望んだか?」

 

「っ――!?」

 

 志の言葉が厚一の胸に突き刺さり、頭を鈍器で殴られたかのような衝撃を味わった。

 

「そなたはまだ幼い。親の事を考えるには若すぎる。それは我々の務め故、そなたはそなたの道を征くがよい」

 

「いけない事なんですか? 子が親の心配をしたら、いけない事なんですか!」

 

 つい感情的に言葉を荒げてしまう厚一だが、志は小動もせずに厚一を見つめている。

 

「アレは子に心配されるような程弱い女ではない。それこそお前が現を抜かし、ケガをする方が余程心配だと言っていたぞ」

 

「母さんが?」

 

「速水。お前の剣は何処にある?」

 

「僕の、剣…?」

 

「闇を払う銀の剣。だがそのままではその銀もくすむだろう。速水、己の戦いを見つけよ。己の意思で戦場を駆けよ。己の生き様で戦え、速水」

 

「僕の、生き様…」

 

 志は厚一に、自分の為に戦えと言っている。厚一は母を救う為に強くなろうとした。自分がこの国で生き、母を救う為、国に自分の利用価値を示す為に戦っていた。

 

 誰かを守りたい。どこかのだれかの未来の為に戦う人間になる。ならば母の為に戦う人間になっても良いのだろうと考えていた。

 

「決して折れぬ己の誇りだ。それがあればどのような戦場であろうとそなたは戦い抜けるだろう。己の証を先ず示せ。そこに居ると吼えてみせろ。速水。お前という戦士がここに居ると証明せよ」

 

「僕が……」

 

 自分が戦う理由はすべて母の為。それを自分の為の戦いを見つけろという。

 

「己に自信がないのならば腕を磨けばいい。今までの様に、これからも。そして自らの道を選べ。日本に残るのも良い。ドイツに渡るのも良い。イギリス、中国、今はあまり勧めんがフランスも良い。織斑一夏とは違い、そなたには世界を選択する権利がある」

 

「芝村さん…なんで」

 

 自分がラウラに勧誘されていることを知っているような口ぶりに、何故知っているのかという疑問が厚一の胸に湧く。だがそれを見て志は笑みを浮かべた。

 

「私はそなたの親だぞ? 子の事くらい把握している。速水の子ならばどう考えているかもわかる。お前は速水に似過ぎているからな。だが速水は速水、そなたはそなただ。己の後悔のない選択をするが良い」

 

「僕の、後悔のない様に…」

 

 自分が後悔しない道。それを果たして正しく選べるのだろうか。

 

「ひとつ教えておこう。己が戦う時にこれを歌うが良い。そなたが戦うその時に歌を歌えば、人はただそれだけで心を揺さぶられよう。歌はただの歌だが、重要なのは聞き手の心だ」

 

「戦う歌……」

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

「自分がまだ夢でも見ている様だ。簪、私は何をしていたんだ?」

 

「普通に戦って、普通に勝っただけだけど」

 

 第一試合。箒は簪とペアを組んで、無傷で勝利した。

 

 相手は同じクラスの相川 清香と鷹月 静寐ペアだった。

 

 戦術は近接戦闘主体の箒を前線に、後方支援向きの簪がその制圧火力でダメージを与えるという戦法だった。

 

 その為に大型の実体シールドを装備するという厚一と似たようなスタイルとなったのだが。

 

 ただ攻撃を受け止めるだけではシールドは直ぐに消耗するという事がわかった。

 

 結局シールドが破壊されてから箒は機動力で相手の攻撃を避け、そこに簪のミサイル弾幕が突き刺さり、トドメは箒の一太刀であった。

 

 だがその合間、一発も被弾するようなことはなかった。

 

 2週間という期間で会得した自身の力が信じられなかったのだ。

 

「厚一さんの訓練は、代表候補生のさらに上の物だったの」

 

「代表候補生の、さらに上?」

 

 厚一が箒に行った教導。その苛烈さにデータを取っていた簪は、その師である真耶を直撃した。

 

 自分も代表候補生だ。だがそれでも厚一の教導は度が過ぎていた。

 

 故に真耶は厚一に何を教えているのかを問いただし、結果厚一は国家代表クラスの教導を受けていることを簪は知った。

 

 それを公言するつもりはなかった。そうなれば真耶が教えれば、厚一が教えれば、誰もが箒の様に強くなるだろう。勿論その教導に耐えられるかどうかは別ではあるが。

 

 今は箒という個人が厚一を説得したから築かれた師弟関係だ。

 

 しかしそれが周りに知れ渡った時、厚一は自分の時間をどれほど過ごせるのだろうか。

 

 教導風景を見ている生徒は良い。恐らく自分には着いて行けないと判断するだろう。

 

 だがそうではない生徒はどうであろうか。

 

 興味本位で教えを請われるのは、それだけでも厚一の限られた時間を削ってしまうだろう。だから簪は基本的に放課後の訓練が終わった後の時間くらいしか自分から厚一には近づかないようにしている。他のクラスだからという事もあるが、それでも少しでも、自分の為に時間を使って欲しいのだ。

 

「次は厚一さんの試合だね」

 

「う、うむ」

 

自分たちに近しい人間の試合は厚一とラウラ、そしてセシリアと鈴の試合だった。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

「第一試合がイギリスと中国の代表候補生が相手だとはな」

 

「連携力はきっと向こうの方が上だ。機体相性も前衛と後衛でハッキリしてる」

 

「だが問題ない。個人の技量ではこちらが上だ。そして量産型ISに負ける程度の相手に後れを取る程、私もお前も軟ではない」

 

「それでも代表候補生だ。その過信は足元を掬われるよ」

 

「良いだろう。覚えておこう」

 

 ピットから出た厚一とラウラ。そしてセシリアと鈴。

 

 第三世代機同士の一戦。そして3人が代表候補生。その中で男性とはいえラファールのカスタム機である厚一の姿は浮いていたとも見えるだろう。

 

 来賓席には志も座っていた。無様な姿は見せられないと、厚一も腹を決めた。

 

「まさか1戦目で速水さんと当たるなんてね」

 

「それはこっちもだよ。あれから何処まで強くなったか、少し楽しみだよ」

 

「今回は前回の様な無様は晒しませんわ」

 

「お前たちの御託などどうでも良い。さっさと始めるぞ」

 

 全員が武装を展開する。そして試合開始のカウントダウンが始まる。

 

 4人の闘気がアリーナに広がって行く。それを受けて先ほどまで喧騒に包まれていたアリーナが一気に静かになった。聞こえるのはカウントの電子音のみだ。

 

 誰かが固唾を飲む音さえ聞こえそうな程の静けさの中で、カウントのブザーが鳴り響いた。

 

「っ――!!」

 

 最初に動いたのは厚一のラファール・エスポワールだった。瞬時始動(イグニッション・スタート)による直線軌道は開幕で行うのには些か危険な物である。だが誰よりも機先を制し、更に鉄壁の防御を誇るラファール・エスポワールであるからこそ、それは奇襲となり得た。

 

「させませんわ!」

 

 セシリアのブルー・ティアーズからミサイルが放たれる。

 

「絶対止めてやるっ」

 

 そして鈴の甲龍からも衝撃砲が放たれる。

 

「く――っ」

 

 鉄壁の防御を超えられずとも、爆発と衝撃は厚一でも防ぎきれない。装甲は厚くともそればかりはどうしようもないのだが。

 

「止まるなっ」

 

 さらに瞬時加速(イグニッション・ブースト)でそのままラファール・エスポワールは駆け抜ける。

 

 腕のシールドとフレキシブルアームに接続されている二枚のシールドで前面を防御してふたりの視線を釘付けにする。

 

 ミサイルの着弾を受け流し、衝撃砲が当たった瞬間にその衝撃を最小限に留める様にシールドで防御する。ただ防御するのではなく、上手く装甲を使って防御するのだ。

 

「私が居るのも忘れて貰っては困るな」

 

 そうしてラウラのシュヴァルツェア・レーゲンの大口径レールカノンから砲弾がセシリアと鈴を襲う。

 

 それでもそれをすぐさま察知して両者は回避するが、セシリアのブルー・ティアーズの脚にワイヤーが絡みついた。

 

「なっ」

 

「どっせいっ」

 

 ワイヤーを引き絞り、力任せに引く厚一は、機体の加速力も合わせてセシリアを鈴から引き剥がす。

 

「させるかっ」

 

「こちらがな」

 

 セシリアを助けに向かおうとする鈴に、ラウラがレールカノンを放ち足止めする。

 

「こんのぉっ」

 

 青龍刀を構えて切りかかる鈴の甲龍の動きが止まる。

 

「きゃっ、な、なによ!?」

 

「これくらいで捕まるのか。やはり貴様は優秀な人間だ、速水厚一」

 

 ラウラはアクティブ・イナーシャル・キャンセラーで動きを止めた甲龍に冷めた視線を飛ばしながら、一瞬だけブルー・ティアーズを相手にするラファール・エスポワールに目を向ける。

 

 初見で停止結界を見抜いた男。そしてその特性を理解し、エネルギー兵装を持つブルー・ティアーズへ真っ先に自分から攻撃を仕掛けたこと。

 

 その対応能力の高さ。そして戦闘分析能力の高さも、代表候補生でも上位の能力を持っている事は想像に難しくはない。

 

「貴様をいたぶるのは後だ。ここで仲良く見物と行こうではないか」

 

「冗談じゃないわっ。こんな恥ずかしい格好を晒せるもんかっての!」

 

 どうにか動こうとする鈴であるが、機体の動きを止められてしまっていては身動きが取れない。

 

「早く鈴さんを助けなければ」

 

「そうはさせない」

 

 それはセシリアも考えていた事だ。

 

 厚一が必要に自分を狙い、ラウラのもとに行かせない。

 

 機体特性を考えれば遠距離攻撃が得意な者同士で撃ち合い。その合間に近接型が勝負を決め、あとは2対1に持ち込むほうが戦術的にはスマートだ。

 

 だが、それを厚一は態々遠距離タイプのブルー・ティアーズに向かってきた。

 

 鈴を相手にするよりも自身に対する対策が出来ているからだと思っていたが、ラウラを攻撃できる隙が出来ると多少強引にでも厚一は射線に入って来る。

 

「あのカラクリは、わたくしには余り効果がないのではなくて?」

 

「さぁ、どうかな」

 

 そう言いながらパーティクル・ランチャーでブルー・ティアーズを撃つ厚一だが。エネルギー兵装に一日の長があるセシリアは難なく避けてみせる。互いに動きながらの高速機動。その射撃に関しては未だ厚一の一つの課題として残っていた。それを調整する合間を箒の為に使った。

 

 だがそこに後悔はない。それは自分が選択して決めた事だからだ。

 

「ティアーズ!」

 

 ブルー・ティアーズから2基のビットが射出される。そしてセシリアは機体を動かしたまま、ビットとスターライトMk-Ⅲによる射撃でラファール・エスポワールの防御を崩しにかかる。

 

「さすが。ビットを動かしながら自分も動く様になるなんて」

 

「いつまでも以前のわたくしではありませんわ!」

 

「上等っ」

 

 ハンドガンを装備し、ビットを狙う。だがそうすると他への注意が薄れる。

 

「右足、いただきましてよ!」

 

「なんのっ」

 

 その場で宙返りをしてセシリアの放ったレーザーを避ける厚一だったが、そのレーザーはラウラの方へと向かって行く。

 

「しまったっ」

 

「くっ」

 

 AICを解除し、回避したラウラに鈴が切りかかった。

 

「せいやぁぁぁっ」

 

「フッ」

 

 だがラウラはそれを両腕手首から出現するプラズマ手刀で斬り払う。

 

 そしてレールカノンを向け、甲龍の非固定部位を撃ち貫く。

 

「きゃあああっ」

 

「甘いな」

 

 体勢を崩した甲龍にワイヤーブレードを巻き付け、ワイヤーを引くことで甲龍を投げ飛ばす。それで位置的にはラファール・エスポワールとシュヴァルツェア・レーゲンがブルー・ティアーズと甲龍の連携を引き裂いた形になった。

 

「ごめん」

 

「目の前に集中しろ」

 

「了解…っ」

 

 うまく誘導され、ラウラに攻撃が向かってしまった事を厚一は謝罪した。だがその程度でどうなるわけでもないラウラは厚一に集中する様に言い放つ。

 

「やはり実力ではそちらが上の様ですわね。相性も悪い」

 

「互いに得意な相手と当たるのは基本だからね。僕たちの相性はジャンケンみたいなものだよ」

 

 厚一が鈴と当たれば恐らくセシリアを相手にする様に食い止め切るには些か苦労をするだろう。

 

 そしてラウラのAICはエネルギー兵装には効果が薄い。物体の慣性を止めているAIC。質量のあるものに対して絶大な効果はあるが、熱エネルギーに対して効果がないのだ。

 

 故にブルー・ティアーズを抑えられるラファール・エスポワールが相手をするのは相性という面で必然だった。ブルー・ティアーズにラファール・エスポワールの防御を抜く突破力がないからだ。

 

 そして近接戦闘主体である甲龍と、AICを持つシュヴァルツェア・レーゲンは相性が最悪である。

 

 相手を入れ替えて戦わなければ負ける。だがそれは厚一もラウラも承知している。セシリアと鈴をそれぞれ合流させないような立ち回りを意識して戦っている。

 

 防御力に秀でる機体で初手の奇襲からの連携を崩し。さらに互いの最も得意とする相手、或いはパートナーが苦手とする相手を引き受ける。

 

 連携確認は一度しかしていないとはいえこうもパートナーの特性を理解し、それに合わせた戦術を取る。

 

 ISを操って数か月の人間という認識はセシリアの中には既に存在してはいない。目の前の速水厚一という人間は自分たち代表候補生レベルの人間であると認識していた。

 

「それでもっ」

 

 さらに2基のビットを展開し、オールレンジ攻撃で四方から攻撃を加えつつ、自身もレーザーを撃ち込むセシリア。

 

 流石に防御が間に合わなくなった厚一は近接ブレードを抜き、レーザーを斬り払うという芸当まで見せ始めた。

 

「むちゃくちゃしますわね!」

 

「負けられないからねっ」

 

 バレルロールでビットの攻撃を回避し、手に持つブレードを投げる厚一。その回転する刃がビットの1基を切り裂いた。

 

「なんですって!?」

 

 まさか投げつけたブレードでビットを破壊するなどと言う珍事を目撃してしまったセシリアは一瞬ビットの制御が甘くなった。

 

 その隙を見逃さずに瞬時に両手にハンドガンを握った厚一は空かさず他のビットを撃ち落とす。

 

「まだですわっ」

 

 ミサイルを発射するセシリアであるが。それを厚一はシールドで防御する。

 

 爆発する煙に包まれ、ラファール・エスポワールの姿が見えなくなる。そしてその爆煙から飛び出す影があった。それに照準を合わせるセシリアだったが。

 

「(盾のみ!?)」

 

 慌てて視線を戻すセシリアであるが、煙を閃光が引き裂きそれを回避する。だが避けたレーザーは先に飛び出したシールドに当たり、あろうことかレーザーを弾いて射線が変わり、スターライトMk-Ⅲに直撃した。

 

「きゃああああっ」

 

 手もとで爆発する勢いに耐えられずに体勢を崩したセシリアの目の前にラファール・エスポワールは既にその右腕のパイルバンカーを振り上げていた。

 

 感じる身体への衝撃と、訪れるのは敗北感。

 

 吹き飛ばされて手を伸ばすセシリア。

 

 その胸に渦巻くのは悔しさとは無縁の虚無感。

 

「はやみ、さん……」

 

 そのまま落ちて行くブルー・ティアーズを回収するラファール・エスポワール。

 

 そのパイロットの顔を、セシリアは間近で見つめた。

 

「お強く、なられましたね」

 

「セシリアだって」

 

 ビットを4基も操りながら自分も攻撃に加わる。以前の彼女には出来なかった事を目の当たりにして少なからず厚一は驚いていた。だがセシリアならやって見せるだろうという信頼が、その驚きを最小限にしたのだった。

 

「完敗ですわ。ですが、清々しいとも思います」

 

「僕も。素直に嬉しいかな」

 

 それはある意味リベンジマッチでもある。敗北を喫したセシリアに勝つ。あの時とは比べ物にならないくらい強くなった実感が、セシリアに勝つことで厚一の胸に去来した。

 

 そんな厚一の頬に触れる軟らかい感覚があった。

 

 一瞬の事でわからなかったが、僅かなリップ音、そして頬が少し赤いセシリアを見て、自分が何をされたのかわからない程厚一は察しが悪い人間ではない。

 

「勝利したあなたへのご褒美ですわ。そしてこの後も勝ち進められる様にご武運をお祈りしています」

 

「うん。セシリアの分も絶対優勝するから」

 

「はい」

 

 そうして笑顔を浮かべたセシリアを、厚一はとてもキレイだと思った。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

「相性は最悪。どうしろっていうのよ」

 

「その程度か。つまらん男を追うから自らも弱くなる。いや、そうでなくとも数しか能がない国ではその程度でも代表候補が務まるという事か」

 

「っ、アンタねぇっ」

 

 自分が弱い。そう言われるのにはまだ耐えられるが、一夏の事をバカにする様な口ぶりを鈴は許せなかった。

 

「他の人間も甘すぎる。教官の弟だからと持て囃す。真に能力のある人間が無碍に扱われる。それに胡坐をかき、微温湯に浸っている男に、自らを地獄の釜に擲った人間が何故劣るものか」

 

「あんた…」

 

 そしてラウラが口にするのはおそらく厚一の事だろう。そこには哀れみと怒りとが渦巻く様な色があった。

 

「故にこの程度では負けていられん。このトーナメントに優勝し、そして奴を倒し、ドイツに連れていく」

 

「っ、他人の人生を勝手に決めてんじゃないわよっ」

 

 衝撃砲を撃ち放つ鈴であるが。空間を圧縮して作る砲弾ですら質量を持つために止められてしまう。

 

 どういう原理のものかわからないものの、厚一が必死にブルー・ティアーズを止める様に戦っている光景に、おそらくエネルギー兵装に弱いのだとアタリを付ける。だから先程のセシリアのレーザーも避けたのではないかと。

 

「速水厚一が日本に居てどうなるというのだ。政府は織斑一夏を贔屓し、実績も何もないうちから専用機を与えた。そして速水厚一には支援もロクにはなく、故に奴は現地で用意できる戦力で戦った。その戦果に今更手を翻したように専用機の開発を打診しているそうだ。恥知らずとは思わんか?」

 

「だからって、速水さんをドイツに連れていく理由にはならないでしょ!」

 

「いいや。我がドイツでならば奴は正当な評価を受けられる。そして、私ならば奴を守れる。あらゆる魔の手から。他国の追求すらも干渉させん。我が部隊であれば奴を守護することも納得しよう。いや、させる。私が法だ。そして我がドイツ軍が奴の居場所を作り守るのだ。この国に出来ん事を私がしてみせる」

 

 それを自信満々に言い放つラウラに、鈴は声も出なかった。いったい誰が戦っている最中にそんな事を言い放つのかと想像できるのか。

 

「謀ったわね……」

 

 しかしこの場ではそれが有効になる。各国の来賓が居る中で、厚一を連れていくと豪語するラウラの姿は一瞬で注目の的になるだろう。そしてその口ぶりからして正しく厚一を評価して肯定している。

 

 そうなれば厚一を万が一にドイツに連れて行っても政府は非道な真似ができなくなる。軍も厚一を守る為に必死になるだろう。何より男性IS操縦者という政治的に優位に立てる存在を引き込みたいのはどこの国も同じだ。

 

 織斑千冬の弟というネームバリュー。そして一人目の男性IS操縦者という知名度。

 

 悪い意味で一夏にはそれしかなく、実績はISを纏って1週間にしてイギリスの代表候補生と引き分けたという事だけだ。それだけでも快挙であるが、それを成せる特殊性が一夏の白式にあったからだろう。

 

 それを日本政府はブリュンヒルデの再来として大いに喜び一夏への支援を贔屓した。

 

 厚一の陳情した品物も、陳情から数日経ってから納入されるのに対して、一夏の場合は望めば早くてその日に納入される違いっぷりだった。

 

 だが実際戦えば厚一が一夏を降すのは想像に難しくはない。接近戦しか出来ない一夏と、全領域に瞬時に対応できる厚一とでは選べる戦術の幅が違いすぎる。一方的に削られて終わってしまうという事もあり得るだろう。

 

 鈴もクラス代表決定戦の映像を見たが、高速切替(ラピッド・スイッチ)で瞬時に武装を切り替え、さらに一夏の一太刀を受け流して近距離で射撃戦をしてでも勝った厚一の実力を見て、それがISに触れて1週間の人間だと言われても信じられなかった。自分が同じ期間で瞬時加速(イグニッション・ブースト)が習得出来ただろうか。さらに高速切替を必要とする程の多種多様な武器を扱えるだろうか。

 

 すべて答えはNO。

 

 ISを勘で動かしている鈴には厚一と同じ事は出来ないと悟っている。

 

 自分は速水厚一ではない。そしてそれほどまでに武器を搭載するISではない。故に必要はないと思う。だがそれを習得した努力のほどは想像出来る。

 

 自分も1年で代表候補生になった。その為に努力を重ねた。勘では補いきれない部分を。

 

 だが厚一の箒への教導を見て、厚一は一から努力をした人間だとわかった。

 

 それがどれだけ大変なのかを鈴にはわからない。だが血反吐を吐くような事をして来たのだろうというのは伝わって来た。でなければISを纏った千冬と互角に打ち合えるような状況が理解できない。

 

 一夏と箒がダウンする横で、ブレード同士で斬り合う千冬と厚一を見たとき、目を疑った。

 

 ハイパーセンサーでも捉えきれない速度でぶつかる厚一の姿。その速さでも対応する千冬を見たからだ。

 

 それ程までの人間が正しく評価されない。それに鈴も思う所はあるものの、それでも本人の意思を無視して連れていく道理は通らない。

 

「向こうも終わった様だ。こちらもケリにしよう」

 

「くっ」

 

 見ればセシリアが空中で厚一のラファール・エスポワールに抱きかかえられていた。少し羨ましいと思ってしまう。

 

「どっちつかずにふらふらしている女だからこそ、貴様は弱い」

 

「なんですってっ」

 

 一夏の事が好きなのは譲れない。そして厚一に向けている好意は一夏に向けている物とは別だ。

 

 別にしなければ、自分は最低の女だとわかっているからだ。

 

「二兎を追う者は一兎をも得ず。貴様にはそれが似合いだ」

 

 レールカノンを撃ち放つラウラ。それを回避するが、左の非固定部位を撃ち抜かれた甲龍のバランスは悪い。

 

 回避先に砲弾を撃ち込まれ、止まった所にワイヤーが飛んでくる。

 

「早々何度も!」

 

 ワイヤーを打ち払った瞬間だった。シュヴァルツェア・レーゲンが懐に飛び込んできたのだ。

 

「墜ちろっ」

 

 プラズマ手刀を叩き込まれ、反撃に青龍刀を振り下ろそうとすれば身動きを止められ、衝撃砲を撃とうとすればレールカノンで撃ち貫かれ、そのままシールドエネルギーがなくなるまでレールカノンを機体に撃ち込まれた。

 

『シールドエネルギーゼロ! よって勝者、速水ボーデヴィッヒペア!』

 

 そのアナウンスと共に静まり返っていたアリーナが爆発した様に歓声が響き渡った。

 

「く…っ」

 

 地面に倒れ伏しながらも、鈴はラウラを睨みつけた。だが勝者の余裕でその睨みを涼しくラウラは受け流して口を開いた。

 

「純然たる実力差というのもだ。速水厚一は我がドイツが貰っていく」

 

 そう言って踵を返し、ラウラは去って行った。

 

「……悔しいっ」

 

 噛み締めた唇から血が流れる。

 

 今までこんなに悔しいと思ったことはない。それこそ日本に来てから男子にイジメられてもここまで悔しくはなかった。

 

 それが今、そう感じるのは。あのひだまりの様な優しい時間がぽっと出のドイツに奪われようとしているからだ。

 

 強く手を握りしめ、鈴は暫く俯くのだった。

 

 

 

 

 


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