IS-学園以外は危険がいっぱい-GPM   作:望夢

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もうガンパレ要素を前面に押し出しつつ。

既に一夏の出番喰いすぎて怒られそうなというか普通のSSになってしまっていてどうしようかと考える次第。

突撃行軍歌が運対食らってしまった。いやこれ歌詞扱いになるのかと思いつつ、難しいなぁと思った。というか世界から絶技の使用禁止を出された!?


絶技 突撃行軍歌

 

 一年生の専用機持ちであり第三世代ISであるセシリアと鈴の敗北はそれこそすべての要素を見抜ける人間が見ればそれぞれの役割を果たし切った厚一とラウラの作戦勝ちであるとわかるだろう。

 

 イギリスと中国の政府関係者は苦い顔をしているが、果たしてそれに気付いているか否かは別である。

 

 そして話の盛り上がりは各国の厚一への注目度だった。

 

 代表候補生を量産型の第二世代ISで下し、さらにはドイツへの勧誘。

 

 ドイツの政府関係者は周囲へ余裕の笑みを浮かべていた。

 

 最大の障害とも言える一角を崩し、順調に勝ち進んだふたりは準決勝にて一夏シャルルペアと戦う事になった。

 

 既に箒と簪はその快進撃で決勝に駒を進めた。

 

 織斑一夏を始め、更識簪、篠ノ之箒、そして速水厚一という今大会で注目株となった人材を有する日本政府関係者は態度が見るからに大きかった。

 

 それを芝村志は冷たい目で見ていた。

 

「やっとこの前の借りを返せるぜ」

 

「フン。吠えるだけなら誰にでも出来るな」

 

「なんだと!」

 

「一夏落ち着いて」

 

「速水。私はあのグズとやる。露払いは任せるぞ」

 

「了解、少佐殿」

 

「なんでそんなやつと組んだんですか、速水さん! ドイツに行くって、お母さんの事は良いんですか!?」

 

「貴様が口出しするな」

 

「お前こそ速水さんの事を何も知らないくせにっ」

 

 勝手にヒートアップしてしまう白と黒を横目に、ラファール・ユーザーのふたりは苦笑いを浮かべながら武器を構えた。

 

「速攻で潰す!」

 

「出来るものならばな」

 

 そして開始の合図と共に動いたのは一夏だった。

 

 瞬時始動(イグニッション・スタート)による開幕突撃。

 

 白式のブースターは並のISとは比べ物にならない加速力を有している。同じ戦法でも厚一のそれよりも遥かに早く接近して来るのを、間に入った厚一がシールドで防御する。

 

「なっ」

 

「せいっ」

 

 そのまま近接ブレードで横凪ぎを放つ厚一の攻撃を一夏は飛び退いて回避する。

 

「速水さんっ」

 

「気を取られ過ぎだ」

 

「うおっ」

 

 厚一のラファール・エスポワールが飛び上がり、射線が通った所でラウラのシュヴァルツェア・レーゲンからレールカノンが放たれ、一夏の白式に着弾し、シールドを削る。

 

「一夏さがって!」

 

「そうはいかないっ」

 

 今度は一夏とシャルルの間に降り立った厚一がシールドでシャルルのラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡのアサルトライフルの攻撃を受け止め、反撃にハンドガンを撃ち返す。

 

「分断された!?」

 

「ちゃんと手綱は引いておかないとね」

 

 開幕で一夏が動くかどうかによったものの、おそらくわかっていてラウラは一夏を挑発したのだろうと厚一は考えつつ、その内心は少し楽しみにしていた相手との邂逅に集中する。

 

「あまり話す暇がなかったけど、同じラファール乗りとして見せて貰おうかな。代表候補生の乗るラファールの実力をね!」

 

「く、僕と同じタイプかっ」

 

 間合いによって最適の武装を選び、攻撃し合う2機のラファール。

 

 その攻撃をシャルルは回避し、厚一はシールドで受け止める。

 

「スクエア・クラスター!」

 

 両肩の装甲のハッチが開き、大量のマイクロミサイルがシャルルのラファールに向かっている。

 

「なんて数!」

 

 悪態を吐きながらもシャルルはマシンガンとショットガンの弾幕でミサイルを迎撃する。

 

 だがそれでも警戒を解かない。厚一は煙幕からの奇襲戦法を得意としているからである。

 

 それこそ煙幕の中から飛び出してくる。或いは狙撃。何方の手で仕掛けてくるのかわからないからだ。

 

 爆煙の中から現れたラファール・エスポワール。だがその機動は直上へと昇って行く。

 

「いったい何をする気かは知らないけど」

 

 それを追ってシャルルも上昇する。

 

 ラファール・エスポワールが反転し、太陽を背にパーティクルランチャーを構える。

 

「キャパシタ、開放! インサイト!」

 

 パーティクルランチャーの荷電粒子コンバーターが唸りを上げてエネルギーをチャージする。

 

「メガ・バスターキャノン、シュート!」

 

 引き金を引くと同時に空中でスラスターを全開にし、反動に耐える。

 

「っ――!!」

 

 シールドを掲げて防御姿勢を取るシャルルであるが、パーティクルランチャーから放たれた荷電粒子砲の威力はこれまでのデータには無い程の威力だった。

 

 シールドが徐々に融解していく。このままではマズいと理解しているものの、眼下には一夏の白式が戦っている。

 

 ラウラならば避けるだろうが、自分が避けると一夏に直撃するだろう。

 

「頑張って、ラファール!」

 

 シールドが融解する直前でどうにか耐え切った。シールドを強制排除するシャルルだったが、再び荷電粒子砲が放たれる。

 

「また!?」

 

 新たに予備のシールドを装備して耐えるシャルルだったが、シールドの消耗スピードが先ほどよりも段違いに早かった。

 

「荷電粒子コンバーターは銃身本体のみじゃないんだ」

 

 ラファール・エスポワールの背中にも荷電粒子コンバーターを内蔵するバックパックを装備し、連射を可能とする。

 

 隠し玉の一つを切る事になったものの、ここでシャルルを仕留める必要があると踏んだ厚一は出し惜しみをせずに2射目の荷電粒子砲を放った。

 

「うぅ、くっ」

 

 その威力に耐えられないと判断するシャルルであるが、自分がここで引き下がると一夏が危ない。もしその時は容赦なく厚一は一夏をためらいなく狙うだろう。

 

 しかしこのまま耐える事は出来ない。ならば耐えられる装備を使うまでだった。

 

「ガーデン・カーテン!」

 

 実体シールド2枚、エネルギーシールド2枚により防御機能を向上させるラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡの防御パッケージを装備する。切り札はシャルルにも存在した。

 

 それは防御型ながら火力を有する厚一のラファール・エスポワールを見て、一夏の白式とタッグを組むことになった時に急遽本国から取り寄せた物だった。鉄壁の防御で後衛を守り、そして敵の視線を釘付けにし、味方にチャンスを与えるという厚一の立ち回りをみたシャルルが同じように自身が前に出て敵を引きつけ、一夏に一撃必殺を決めてもらう為に用意したのだ。

 

「防御力を高めた!? 同じ土俵でも、こちらには荷電粒子砲がある!」

 

 第2射を防ぎ切ったシャルルは瞬時加速(イグニッション・ブースト)で一気に厚一のラファール・エスポワールの懐に入った。

 

「瞬時加速!?」

 

 今まで使っている所を見たことのないシャルルの行動に、一瞬気を取られてしまった厚一にパイルバンカーが突き刺さる。

 

「うがっ!!」

 

「うおおおおおおっ!!」

 

 そのまま全弾叩き込んだシャルルのラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡに吹き飛ばされ、厚一のラファール・エスポワールは落ちて行った。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 地上付近で戦っているラウラと一夏にも、空から落ちてくるラファール・エスポワールの姿は捉えられていた。

 

「流石シャルルだ。まさか速水さんに勝っちゃうなんてな」

 

「くっ、だが貴様とてもう終わりだ!」

 

 AICによって捕らえ続け、更にはレールカノンでの引き撃ちに従事していたラウラの前に、一夏は一方的に撃たれ続ける事になった。

 

 地表に激突するラファール・エスポワール。あれではもう戦えないだろう。

 

「一夏!」

 

「くっ、雑魚が来たか!」

 

 ラファール・エスポワールのシールドエネルギーはまだ残っているものの、落下した衝撃で直ぐにパイロットである厚一が動けるとはラウラも考えてはいない。

 

 シャルルのラファールが放つ銃撃を回避しつつ、ワイヤーブレードを射出する。

 

「くそっ」

 

「任せて!」

 

 一夏の白式の前に立ち塞がるシャルルのラファールのシールドの前に、ワイヤーも弾かれてしまう。

 

「防御型にシフトしたか。敵に回すとその手の機体は厄介だな」

 

「それはどうも」

 

 厚一のシールドに比べてシャルルが装備するそれはまだ小さく、だがエネルギーシールドも装備しているとあれば物理兵器とエネルギー兵器のどちらにも対応できるバランス型だ。

 

 とはいえ、シャルルも実はあまり余裕がなかったりする。荷電粒子砲の直撃は防御していてもその余波でシールドエネルギーを削って行ったのである。もう一度荷電粒子砲を受けていればシールドがゼロになっていたのは自分の方だった。

 

「一夏。エネルギーはどれくらい残ってる?」

 

「零落白夜一回分って所だな」

 

「なら、僕が引きつける隙に叩き込んで」

 

「…ああ」

 

 作戦は決まった。シャルルが前に出てその後ろを一夏が続く。

 

「防御型を前にして、私に確実にトドメを刺すつもりか!」

 

 レールカノンを放ち、防御を突き崩そうとするが。

 

「まだだ、耐えきって。僕のラファール!」

 

「ええい、墜ちろっ」

 

 ワイヤーブレードを放ち、体勢を崩させようとするラウラであるが。シャルルは意地でも一夏を送り届けるまでは倒れないつもりでいた。

 

「今だっ」

 

 シャルルの背中から躍り出る一夏。

 

「なっ、まだ早いよ一夏!」

 

「うおおおおお!!」

 

 だが一夏はシャルルの言葉も聞かずに瞬時加速で一気にラウラの懐に飛び込み、零落白夜を発動する。

 

「バカが、功を焦ったか!」

 

 ラウラがAICを発動する。その間合いでならば使って来ると一夏は思った。だから。

 

「いけぇっ! シャル!!」

 

「ああんもうっ」

 

「なにっ」

 

 その一夏の影から躍り出たシャルルがパイルバンカーを構え、ラウラに迫った。

 

 避けきれない。そう判断するしかラウラには出来なかった。

 

 直撃コースを辿るパイルバンカー。

 

「かはっ」

 

 直撃を受け、身体が浮く感覚をラウラは感じ取った。

 

 連続で衝撃を受け、急激に減って行くシールドエネルギー。

 

 吹き飛ばされたシュヴァルツェア・レーゲンがアリーナの壁に激突する。

 

 静寂がアリーナを包むが、まだ試合終了のアナウンスは鳴っていない。

 

「っ、一夏避けて!!」

 

「んなっ」

 

 高熱源体が接近しているのをシャルルは反射的に叫んでいた。

 

 エネルギーシールドを展開するが、そのシールドを貫通して機体本体にダメージを与えたエネルギーの塊は荷電粒子砲だった。

 

 その閃光の先には地面にワイヤーを撃ち込み、さらにスラスターの噴射で反動を耐えるラファール・エスポワールの姿があった。

 

「シャル!」

 

 荷電粒子砲の直撃を受けたシャルルのラファールはシールドエネルギーがゼロになってしまう。

 

「このままじゃ」

 

 機体のシステムがダウンしたシャルルはまさか厚一が復活して来るとは思わなかった自分の詰めの甘さを呪った。高高度から落下すれば気絶することはほぼ間違いなく、気絶していなくとも衝撃で起ち上れる様な状態でもないはずだった。

 

 それでも厚一は立ち上がっているものの、その機体の動きが何処かおかしいことに気付く。人が動かしているのとは違う機械的な動きだった。

 

「まさか、機体側から身体を無理やり動かしているの!?」

 

 ISはパワードスーツであるが、機体側から動かすことも可能である。それは精密作業などの場合に人間の手ブレなのどを抑える機能や、自動帰還プログラムも初期の段階では組み込まれており。

 

 ハイパーセンサーで機体を動かすというのはISの機動関係すべてに使われている。

 

 身体が動かないのであれば機体側から無理やり動かすという荒業。それならダメージも関係ないものの、とてもそれを思いついて瞬時に実行出来るかどうかという話だ。今頃身体は激痛に苛まれている筈なのではないかと思いながら、一夏に視線を向ける。

 

 シールドエネルギーも殆ど残っていない状態で2対1はどうにもならない。ラファール・エスポワールは荷電粒子砲を放つことなら出来る。固定砲台として戦う事はまだ可能なのだ。

 

「なに、あれ…」

 

 そしてシュヴァルツェア・レーゲンにシャルルが視線を向けると、その姿が全く別物に代わっていた。

 

「あれは、暮桜!?」

 

 それを見て一夏が叫ぶ。

 

 シュヴァルツェア・レーゲンがドロドロに溶けてラウラを包み、姿を変えたIS。

 

 そのパイロットも、ISの形も、握るブレードもすべて。第一回、第二回モンドグ・ロッソで最強の名を欲しいままにしたISだった。

 

「どういうこと。なんでシュヴァルツェア・レーゲンが暮桜に変わったんだ」

 

 一夏の隣に降り立つ厚一も、暮桜を警戒してパーティクルランチャーを構える。

 

「そんなの俺にもわかんねぇけど、向こうはやる気みたいですよ」

 

「エネルギーの残りは?」

 

「正直一発もくらえないくらいだ。そっちはどうですか?」

 

「こっちも似たようなものだよ」

 

 唯一荷電粒子砲は2基の荷電粒子コンバーターのお陰で本体のエネルギーを消費せずに撃てるものの、その隙をどう作るかである。

 

 牽制で一発を放ってみるものの、瞬時加速と同等の速度で踏み込まれながら回避され、パーティクルランチャーを切り裂かれる。

 

「くっ!!」

 

「なっ」

 

 直ぐにブレードを装備し、暮桜の一閃を捌く厚一。

 

「このっ」

 

 その太刀筋の速さに驚いた一夏だったが、直ぐに雪片弐型を振り下ろす。だがそれも受け流され、返す刀で腕を切り裂かれ、ISが解除されてしまう。

 

「このやろうっ」

 

 その一太刀を受けた一夏は頭に血が上った。その太刀筋は姉の千冬の物だった。

 

 姉の剣が穢される。それが我慢ならなかったのだ。

 

「っ、くぅ」

 

 ISが解除された一夏を庇う為、厚一はラファール・エスポワールの背中の荷電粒子コンバーターから伸びる可動アームに装備されているシールドを展開する。

 

 そのシールドから巨大なクローを展開して暮桜を捕まえる。

 

「ラウラ! 返事をして、どうなってるの!!」

 

 呼びかけても答えは帰って来ない。

 

「ぐあっ」

 

 そしてボディに蹴りを入れられ、拘束を解いてしまう。

 

 振り下ろされる一閃をブレードで受け流す。

 

「(この太刀筋は織斑先生のっ)」

 

 攻撃を何回も受けていると、その動きが千冬の物であると厚一は見抜いた。

 

 一度大きく攻撃を弾き、離脱する。

 

 それを暮桜は追って来るような事はない。

 

「どうなっているんだ…」

 

 暮桜と千冬の動き。それをラウラがやっているのだろうか。

 

「なに? メール?」

 

 そんな時にラファール・エスポワールのシステムにメールが届いたと知らせが入る。

 

 この非常時に何だと苛立ちそうになるが、勝手にメールが開き、シュヴァルツェア・レーゲンにVTシステムが搭載されているという事が書かれていた。

 

 Valkyrie Trace System(ヴァルキリー・トレース・システム)

 

 過去のモンド・グロッソ優勝者の戦闘方法をデータ化し、そのまま再現・実行するシステム。パイロットに「能力以上のスペック」を要求するため、肉体に莫大な負荷が掛かり、場合によっては生命が危ぶまれる。

 

 現在あらゆる企業・国家での開発が禁止されているシロモノだという事だ。

 

 つまり期間限定ではあるが、本物のブリュンヒルデがそこに居るのと変わらないという事になる。

 

 今の攻防でその攻撃が千冬の物であるとわかったのは、実際に千冬と打ち合い、そして真耶との教導でも千冬の動きを何度も見せられたからである。

 

「一夏。ここは僕に任せて下がって」

 

「速水さん、俺は!」

 

「ISも纏えない君が居たところで邪魔なだけなんだ。巻き込みたくないし気を使ってる暇もないから下がって。でないとケガじゃ済ませられなくなるよ」

 

 厚一の言葉に反論しようとする一夏に正論をぶつける。

 

 ISのエネルギーが無い今の一夏は逆立ちしてもISには敵わない人間なのだ。

 

 それにパイロットに負荷を掛けるシステムならば早く助けなければ中のラウラも危険だ。

 

 機械が動かしていても、人間には勝てない部分がある。ハイパーセンサーでも捉える事の出来ない動きならば行けると、考える。

 

 千冬はそれを長年の経験と気配を読んで自分の攻撃を受け止めていた。だが、蓄積したデータでの計算で未来予測くらいするだろうが、機械に勘や気配を読むという人間と同じことは出来やしない。

 

「コアとの同調を優先。同調率120%にまで上昇。PICマニュアル制御、駆動系に直結。全装甲パージ」

 

 ラファール・エスポワールに装備されているすべてのパーツが外されていく。残ったのは手の部分と、脚部、そして腰のカスタム・ウィングという最低限の装備だけだ。

 

 重火器もすべて拡張領域から投棄し、処理能力を限界にまで上げる。

 

 武器は近接ブレードのみだ。

 

「速水さん!」

 

 そんな一夏の言葉に耳を傾けずに、ラファール・エスポワールは瞬時加速で踏み込む。最大限の軽量化を施した今のラファール・エスポワールは白式の加速にも匹敵する踏み込みがあった。

 

 だがそれを暮桜は受け流し、反撃に逆手に持ち替えたブレードを振るって来るが、それを身を仰け反らせて回避し、再び間合いを開ける。

 

「な、なんだったんだ、今の…」

 

 一瞬の出来事過ぎて、ハイパーセンサーの無い肉眼の一夏に見えたのは。ラファール・エスポワールが掻き消えたと思ったら連続して金属音が鳴り再びラファール・エスポワールが姿を現したという光景だった。

 

「っっ――!」

 

 厚一の左腕から血が流れ出る。今の攻防での合間に一太刀を浴びせられたのだ。

 

「まだ届かない」

 

 10手程打ち合ったのだが、すべて対処された。もっと速く、鋭く、強く打ち込まなければならないという事だ。

 

 正直両腕が今の攻防だけで筋肉が千切れて内出血でもしていそうな程痛みを感じそうになっている。筋肉の疲労が一瞬で限界だった。

 

 だが自分でもこう感じるという事は、小柄なラウラもさらに酷い事になっているかもしれない。

 

 この刃を届かせ、ラウラを救う。

 

 その為にはまだ足りない。

 

 ラウラには借りがある。だから必ず助ける。そう厚一は胸に誓う。

 

 共に戦った戦友を救う為。真っすぐに自分を見てくれた子を救う為。

 

「絶対に、助け出す――!」

 

 機体のエネルギー経路をスラスターと腕部駆動系に集中。

 

 脚部は最小限。シールドエネルギーをカット。

 

 演算処理能力を全て機体追従性に。

 

「っっっ――!!」

 

 先ほどよりも更に速く打ち込む。こちらの一太刀も暮桜と同じもの。箒と千冬を相手にしたからだろう。ある程度の暮桜の動きが先読みできる。しかし推し切れない。

 

 それが第二世代ISと第三世代専用機ISの限界の違いからなのだろうか。

 

「うっ」

 

 バギンッと音を立ててブレードが折れ、突きを放つ暮桜の刃を脚部の装甲を犠牲に受け流す。

 

 間合いを開けて、さすがに武器がないと戦えないという状況になって。

 

「速水さん!」

 

 その一夏の声と共に投げられたのは白式の雪片弐型だった。

 

「お願いします!!」

 

「…うん」

 

 一夏の目には力強い信頼があった。自分の剣を預ける程に、おそらく暮桜を真似られているのが許せないのだろう。しかし自分には何もできない。だから出来ることを、せめて剣と共に戦う事を選び、厚一に自分の刃を託した。

 

 それが一夏の選んだ戦い方だというのならば。

 

「僕も、僕の戦いをする」

 

 すっと、雪片弐型を握りながらも、無防備に厚一は立つ。

 

 そして、ゆっくりと言葉を紡ぎ始めた。

 

「どこかの誰かの未来の為に

地に希望を、天に夢を取り戻そう

我らは そう 戦う為に生まれて来た」

 

 ラファール・エスポワールが青い光に包まれていく。

 

 雪片を構え、加速する。瞬時加速。身体もエネルギーも、これで限界だ。

 

 更に加速する。

 

 更に加速し、風景を感じる感覚がマヒする。

 

 全てがゆっくりと流れ始める感覚の中で、さらに加速する。

 

 雪片がぶつかり合う。

 

 返す刃で暮桜の雪片を巻き込み打ち上げる。

 

 雪片弐型が変形し、光の刃を形成した。まるで白い炎が渦巻く様に光が立ち昇る。

 

 厚一はその刃を横に振るい、暮桜を両断した。

 

「この刃は、僕の望む限り誰も傷つけない。ただ、悪だけを滅ぼす」

 

 両断された暮桜はその中からラウラを解放し、かつてのブリュンヒルデの姿はドロドロになって溶けた。

 

「はやみ…」

 

「よかった」

 

 薄く瞳を開けて、厚一の名を紡いだラウラに微笑みながら肩を撫で下ろした。

 

 システムエラーを大量に吐き、ISから強制排除されながらも、腕に抱えたラウラを落とさないように地面に着地した厚一の背後でバチバチと火花を散らせるラファール・エスポワール。

 

 その姿を振り向いて、厚一は申し訳なく瞳を伏せ、自分に力を貸してくれた戦友に礼を言った。

 

「ありがとう、ラファール」

 

 事態を収拾は着いたが、このトラブルによって試合もトーナメントも中止となり、回収されたラファール・エスポワールはそのすべての電装系回路が焼き切れてしまい修理は不可能となってしまった結果となった。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 そこは白い部屋で、幾人もの子供が悲鳴を上げていた。喉が裂けても叫び続けても実験は終わらない。

 

 そして真っ白な世界に色が生まれた。それは青。

 

 世界が色に包まれ、色彩を放ち、やがて青い空に変わった。太陽の日差しが温かいひだまりの世界が、広がって行った。

 

「ぅ……」

 

 ラウラが目を覚ました時、夕方の日差しが自分を照らしていた。

 

「起きた?」

 

「はやみ…か…」

 

「うん。でも全身打撲に筋肉疲労の満身創痍状態だから動かない方が良いよ」

 

「わたしは……」

 

 ラウラは思い出す。

 

 シャルルのラファールによって吹き飛ばされた後、声を聞いたのだ。

 

 力が欲しくはないかと。

 

 敗北するという事は再び築き上げた物を失ってしまうと思ってしまう程の恐怖に耐えられなかったラウラは、その力を求めてしまった。

 

 圧倒的な力だった。力に自分が殺されそうだった。

 

 だがそんな中で、歌を聞いたのだ。

 

「良い歌だった…」

 

「え?」

 

「あの歌だ。まるで祈りが込められたような、自分はひとりでも独りではない。そう思わせる歌だった」

 

「うん。自分の戦いをするときに歌う歌なんだって」

 

「自分の戦いか。お前の戦いはなんだ、速水」

 

「誰かの未来の為に頑張ること。だからラウラを助ける事が、僕の戦いだった」

 

「そうか。目の前の戦いに全力で当たる。兵士としてはそれでいいが、指揮官には向かんタイプだな」

 

「あはは。僕は人を使うタイプじゃないからね」

 

「だが、何があっても生き残るタイプだ。そして周囲の者を鼓舞する存在だ。部隊の生存率を上げられる存在というのは貴重だ」

 

「そうなのかな?」

 

「ああ。だから私の部隊に来い。損はさせん」

 

「うん。個人的には嬉しいよ。だけど今、ドイツは色々とてんやわんやなんだって。ラウラも動けるようになったら話を聞くって織斑先生が言ってた」

 

「だろうな」

 

 あの時、シュヴァルツェア・レーゲンに何故か搭載されていたVTシステム。身に覚えがなくともドイツの威信を傷つけるのには充分な材料だ。

 

「お前の機体は無事か?」

 

「…ダメだった。電装回路が全部ダメで、修理できる範囲を超えているって」

 

「そうか。すまなかった」

 

「良いんだ。ラウラが無事だったから」

 

 そう言う厚一の顔に後悔はなかった。ただいつもの様に、でも少し寂し気な雰囲気を漂わせる顔を浮かべていた。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

『はーい♡ 久しぶりだねぇ、ちーちゃん』

 

「その名で呼ぶな。まぁいい。今回のVTシステムの件、あれに一枚噛んでいるのか?」

 

 千冬が電話している相手は気安く千冬のあだ名を呼ぶ。最も、そう言うあだ名を言う相手はひとりしかいないのだが。

 

『ああ、あれ? あんなブサイクなシロモノ、この私が作ると思うかな? それよりさ、ちょーっと気になってることがあるんだよね』

 

「なんだ?」

 

 一応関与がないという事はドイツだけの問題だという事で動きやすいと思っていた千冬の思考をその言葉が遮った。

 

『彼、面白いね。どんな子なのかな?』

 

「なんのことだ?」

 

『ノンノン、とぼけたって無駄だよ。まぁ、ブルーへクサなのは知ってるから、なんでISに乗れるのかもわかってる。でも今回は流石の束さんもちょっと気になったからねぇ』

 

「なにをだ」

 

 あの束に興味を持たれるという時点である意味災難である。これ以上危害の加わらない内に要件を聞きだして話をはぐらかそうと千冬は考えた。

 

『あの量産型のISの回路マップはコアを通して強くしてあげておいたんだけど、それがこんがり焼けちゃうほどのエネルギーがあの子から検出されたんだよねぇ。いくらISとの同調を人工的に高めたからって、一応彼も人間のはずなんだよね。だから一回解剖させて♪』

 

「だれが許すかばかもん」

 

『えーっ、なんでよちーちゃんのけt――ブツッ』

 

 途中だったが話はもういいだろうと電話を切る。

 

「……はぁ」

 

 ひと息吐いて、あのぽやっとした笑顔を思い浮かべて憂鬱になる。

 

 せっかく心を休められる場所が出来たと思ったらそれを取り上げられる。その不憫さを思うと胸が痛かった。

 

「今夜は飲みに誘ってやるか」

 

 そう思いながら千冬は今回の事後処理の続きに向かうのだった。

 

 

 

 

 


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