MONS‐THE KAIJU GUYS-   作:神乃東呉

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森林の中で

 辺りを見渡せど森の木々で囲まれた地形にアキは頭を悩ませていたが…

「本当にごめんなさい!!」

 アキは深々と頭を下げてリュウトに謝罪の念を伝えた。

「頭を上げてよ、アキ…僕は別に」

「いいや、ボクのお兄ちゃんの横暴でこんな事になって」

「いや~君のお兄さんにも何か考えがあって僕たちをこの森に放り込んだと僕は思うよ」

 リュウトはアキの謝罪の気持ちとは裏腹に楽観的な程に随分と寛容的であった。

「なんでリュウトはそこまで冷静なのさ…」

「う~ん…確かにこの状況は乗り越えるのが大変そうだけど…実際メリットがあるじゃん」

「メリット?」

「そっ、都会を離れて文明から隔絶された者同士がこの場に居る。それに楽しいよね、キャンプとか出来るかもね」

「そんな優しい話じゃないと思うけど…」

 高速道路の崖から投げ落とされているにも関わらず不平不満を盛らなさにリュウトの人格にアキは驚きながらもあきれてもの言えなかった。

「とりあえず、あの木に引っかかったヘルメットを取ろうか…にしてもすごいよね~アキのお兄さんとトオルさんだっけ…僕らを軽々と持ち上げたら森の方へ放り投げるなんてすごいね~」

 そう言いながらリュウトは木に攀じ登り始めてヘルメットを取りに行った。

「……………」

 アキにはユウゴの意図は既に理解していた…いや、分からざるおえない。

 リュウトは気づいていないが…リュウトとアキが地面に着地した時に出来た『あるもの』がその意図を理解させた。

「よいしょっと!ほら、アキのヘルメット」

「……うっうん…」

 アキは手渡されたヘルメットを受け取った。

「じゃぁちょっと広いとこでも見つけて…」

「あっあの~…さっきは…ごめん、急に殴ったりして」

「えっ…ああ~別に大丈夫だよ、僕って頭は頑丈だからさッ。ほら、もっと広い場所に移ろう、あっちに川の音が聞こえるから――」

 そういうとリュウトは先に森の奥へと向かっていった。

 しかし、アキは先程のハプニングに対するリュウトへの謝罪…をするために話しかけたつもりはなかった。

 まだ確証がない…しかし、リュウトと共に着地した場所の地面には地面に顔を埋もれたリュウトの顔型以外に……

 到底説明のできない程に円形に抉れたミステリーサークルのような跡がクッキリと残っていた。

 落下の高さから考えても50m~60m、到底怪獣娘であっても無事で済む筈のない大怪我必須の高所から落ちても無事で居ることの事実…アキとリュウトは森の木々の草々に衝撃を流されながら安全に地面へと着地したわけでは無い。

 リュウトの怪獣の力が発揮されて自分はあれだけの高所から落ちても無事であった事実……

「ねぇ、何してるの…早く行こう」

 それでも確実な確証が無い。無いに越した事のない事実…それをここで受け入れろと言うユウゴの意図がアキには無慈悲にも理解させようという魂胆が伺える。

「うっ…うん、行こうか」

「?」

 ただ一つ言えること……加納リュウトは人間ではない。

―ザァーーーザァーーー

 意外とすぐ近くに川があり、歩いて数歩でたどり着ける距離であった。

「へぇ~意外と綺麗な川だねぇ~」

「うっうん…でもこれからどうしよう…」

「一先ず互いの持ち物で使えそうな物を出し合おう」

 そういうとリュウトはアキと共にこの森を抜け出すために必要な道具が無いか探って見たところ…

 お互いのヘルメット、お互いの財布、お互いの携帯電話と互いに共通する持ち物と――

 アキの持ち物には黒糖飴数個を入れたポーチ、ハンカチ、ソウルライザーのみ――

 リュウトの持ち物にはイヤホン、ボールペン、腕時計のみであった。

「リュウト、時計持ってたの?」

「うん、母さんの御下がりだけど…元々、登山趣味のあった母さんがローン積んで買った登山用だけど…結局、僕に流れてきたものなんだ…コンパス機能があるから一先ず方角には迷わないね」

 偶然にもリュウトの持っていた腕時計は登山用の機能を備えていた。

「アキの荷物は……おばあちゃんっぽいね」

「はぅっ…やっぱボクって年寄りっぽいかなぁ」

 アキは自分の持ち物が年寄り染みていることに少々悄気た。

「ごっごめん…気に触ったなら謝るよ…」

「うんうん…みんなから年寄りっぽい…って言われることも多いから…気にしてないよ…別に…」

 とても気にしていない者の表情とは到底思えなかった。

「とっとりあえず…この川を沿って流れとは逆に登って行こう」

「どうして川を沿って登っていくの?」

「川って言うのは本流があって分かれて流れていくことを分流って言うんだよ。ここはそんな本流の川を分かれて流れているからこの川を上っていけば本流に出るからその川沿いを歩けば自ずと町や集落に出るかもしれないよ。川周りは大昔から人間の水源だったから割と町なんかが今でも繁栄しているほど土地が豊かだったりするんだ」

 河川の地形状は部分的に川筋が本流から複雑に分岐されるため総称して流路形状と呼ばれている。

 それ故に人の血管に似ていることから川とは地球の血管とも呼ばれる。

「リュウトは物知りだね」

「まぁ…母さんからの浅知恵だけどね…ああ見えてアウトドアな人だから都会な博多から離れた早良区って場所に居たんだ…僕が博多の高校に合格してから博多区に移住しちゃったけど…僕も中学まで長閑で雄大な田んぼ町だったのは覚えているよ、棚田とかあってさぁ――」

 アキは不思議と疑いを忘れていた。

 リュウトの話にはどこか魅力的で且つ耳を無意識に傾けてしまうような不思議な感覚があった。

 それがまるでリュウトが『怪獣漢』ではなく、ただの何処にでもいる普通の人間、普通の男の子、普通の男子高校生にも思えてくる。

 とても自分と同じ怪獣とは思えなかった…そう、ただの男の子……男の子…男…おとこ……!!?――

 アキは今更ながら重大なことに気が付いた。

 今まさに自分は女の子以外の年端の近い異なる性の存在と川を沿って歩いていることに顔が赤面する。

「――それで母さんはボランティアで登山ガイドもしていたんだ、北海道も広島もほとんど山岳地区に住んでたほどで特にアサチ炭鉱跡の――」

 先程から何気ない会話をしているがアキには一切頭に入ってこない程に脳内の混乱が生じていた。

(どっどどどっどうしようッ!?こっコレって…完全にデートにカウントされるのかなぁ…いやいや、兄に高速道路から放り投げられて一緒にデーとするカップルなんていないから…でっでも…森の中、男女が一組、うわぁ~どっどうしよう、僕なんかこんな時に気の利いた事なんて…)

 アキはリュウトが見えない後ろで慌ただしく悩んでいた。

(そもそも男の子と一時を過ごしたこと自体無いよ!?お兄ちゃんとなんてろくに覚えていない、一緒に居た事すら記憶が曖昧だよ!!助けてお母さん!!こういう時ってどうしたらいいの!?)

 アキは既に居ない母親に助言を願ったが届くはずも聞こえてくるはずもなかった。

「―ねぇ、アキ…大丈夫?」

「ふへっ!?なっ…何が…」

「顔、赤いけどもしかして風邪を拗らせた?どれどれ…」

 リュウトは何の躊躇いもなくアキの額に触れてきた。

「ヒギャッ…いやいや全然平気平気!元気イッパイだよ!…ホイホイッ!!」

 アキはその場で両手を大振りに振って自分が元気であることをリュウトに証明させた。

「そうか~…僕の話、つまんなかったよね。退屈させちゃったかなぁ~」

「ふえっ!?ぜっ全然そんなことないよ!面白かったよ、リュウトの福岡経験談ッ!」

「そっ…そう?…こういうのって身内ネタだと思ってたから…」

 謙虚な上に根が優しすぎるほど草食系な性格をしているリュウトからどこに怪獣の要素があるのか未だにアキはその謎を紐解けなかった。

 リュウトに怪獣の力が宿っているのは確か…だが、同じ怪獣娘と居る時に感じる『怪獣の気配』が全く持って感じない。

 それどころか強さの気配も気迫の感覚すらもない…解りやすく言えば『無』そのものであった。

 アキ自身が感じたリュウトの印象は何も感じることが出来ないごく普通の一般人であった。

 だが、それ以前に…

「リュウト、自分を悲観的に見ちゃダメ!リュウトの過去に何があったか知らないけど…もっと胸を張っていいんだよ」

「むっ胸を張る?」

「うんっ…みんな誰しも辛い過去の1つや2つくらいあるよ…今のリュウトはその過去に縛られて自分の気持ちを下げているよ」

「アキ…」

「今の僕にはそれしか言えないけど…リュウトはもっと自分を強く見てもいいんだよ」

 アキは持ち前の使命感から来るリュウトが抱え込んでいる問題を見抜いて激励にも等しいアドバイスで諭した。

「…ありがとう、アキ。君は人を励ますのが上手いね」

「えへへっ…生意気だったかなぁ」

「うんうん…御蔭でちょっと気分が晴れたよ…せっかくGIRLSでアルバイトする上で何処か君たちとは『壁』のようなものを感じてたんだ…今日あったミクやレイカ、そしてアキと接して分かったよ」

「リュウト…ボクたちも君もこれから同じGIRLSの一員になろうとしているんだから、さっきまでのリュウトのままだとアルバイトは不採用になるよ」

「…そうだね、きっと今日までの試練って僕が怪獣娘のみんなと今後関わるために必要な気持ち作りのためにアキのお兄さんと同じ方々が奮闘してくれてるんだね」

 リュウトは独自の解釈で辿り着いた結論が内に秘めていた『引っ掛かり』を自らで解き放った。

「そうなると…アキと一緒に居るこの時間が、なんだか楽しくなるよ…ありがとう、アキ」

 励まされたリュウトはアキに感謝の気持ちを伝えようと彼女の手を取って両手で握りしめた。

「なっ…べっ別にそんな大したことは言ってない…よッ!」

 赤面したアキは思わず手を取ってきたリュウトをドンと突き放した…が…

「えっ…わっわっわっ…わぶぅっ!?」

 リュウトはそのままバランスを崩して川にザブンッ!と落ちた。

「りゅ、リュウト!!?」

「ブクブクブクッ――……」

 リュウトの手だけが見える状態で川の流れに沿ってリュウトは流れていき、アキはその後を急いで追いかけていった。

―ザァァァァーーー―――

「ぶへっくしょん!!」

 濡れた上着を脱いで全身濡れたリュウトは身体を震わせながら滝が流れる河川の滝池裏手の洞窟に辿り着いていた。

「ほんーーとぉにごめんリュウト!!」

 アキは両手を這いつくばり深々と頭を地面に接地させて謝罪した。

「あっああ頭を上げて…僕の言った通りにして…」

「うっうん…なんでもするから…どうかこの通り!」

「まっ先ずはさっき言ったように離れた位置から集めた大き目の石を円形に丸めて…その中にティッシュを中央に置いて拾ってきた薪を重ねて、なるべく中央を広くティッシュが見える程度に―」

「こっこう?」

 リュウトのアキは言う通り石を円形に並べ、その中央にティッシュを置き、薪を重ね置いて宛らバスケットゴールを逆さにした形状にした。

「でっ…ででっでぇ、携帯電話の電池パックを石で叩いたらすぐさま薪の中に入れて離れて―…」

「えいっ!ほいっ!」

 言われた通り、その辺にあった石を電池パックに叩きつけたらすぐさま薪の中に入れて咄嗟にその場を離れると―…

―パンッ!パンッパンッパンッ!―パチパチパチパチッ…ボッ…

 手持ちに有る物と近くになった石と枝類などの薪で即席の焚火を作り出した。

「つっ…ついた!?」

「…携帯の電池パックはちょっとの衝撃を与えると爆発する危険性があるけど、逆にそれを利用すればこうして火が付くんだ…よっ良い子はマネしちゃダメだよ…」

「そんなことより…もっと近づかなきゃ…」

 アキは完全に埋葬されるミイラ状態に固まったリュウトを引っ張って焚火に近づけて暖を取らせた。

・・・・・・・・・・・・・・

 パチパチと燃え盛る火に当たること数分間、未だに冷え切ってはいるが表面上のリュウトの体温は徐々に取り戻しつつあった。

「はぁ~~一時はどうなるかと思ったけど…いやぁ~あったまる~……あっあの~どうかしたの、アキ?」

「ふぇっ!?…あっいや、リュウトの身体が…その…意外と鍛えてるんだなぁ~って」

 全身の衣服が濡れたリュウトはパンツ一枚着た状態で乾かす衣類の横でほぼ全裸で暖を取っていた。

「あっ…ああっ…ごめん、アキが…その、女の子だったことすっかり忘れてた…」

「むぅっ…ボクはリュウトの目には女の子じゃないのぉ?」

 アキは頬を膨らませてリュウトを睨みつけた。

「イヤ、そうじゃなくって…その雰囲気!…言葉遣いがどうにも…一人称がボクだし…」

 そんな無礼な発言をしたリュウトに対してアキはますます頬を膨らませ、体育座りの膝元に口を隠して両腕で表情を覆い隠した。

「…………あっあのさぁ…こんな時で悪いんだけどさぁ…」

「…………なに?」

「その……まだ肌寒くて……よっよかったらその…アキを……抱きしめていいかなぁ…」

「ふぇッ!?」

「ああっ!いや、無理なら…しなくていいけど、その…アキが何でもするって言ったから…その…アキの来ているセーターが…すごくあったかそうだったから…つい…」

 リュウトは横目で見るアキの暖かそうな格好に更なる暖を求めていた。

「うっ……うんっいっいいよ…」

「えっ!?ほっホントに…」

「もっ…元々ボクのせいでリュウトがこんな状態になったから……だっだから…その…きっ来て…おいで、リュウト」

 アキは両手を広げて御身を抱きしめる受け構えであった。

「…ゴクッ―そっそれじゃぁ…お言葉に甘えて…」

 リュウトはアキのふんわり仕立て上げられたセーターに腕を伸ばし柔らかな触り心地の生地にソッと手を触れ腰に回してアキをギュッと抱きしめた。

「……………なんか違う」

「そっそうかなぁ…」

 アキが思っていた体勢とは大きく外れて、アキを抱え込む形でリュウトの股の間に座らせ二人重ねで前がアキ、後ろから抱きしめるようにリュウトがアキの身体に手が触れまい程度に距離を取りつつも肩から腕だけを回していた。

 その状態はアキがまるで子供のような扱いであったのが解せない気分であった。

「いや~レイカも作家の先生とこんな感じで座ってたけど…国立国会図書館で」

「えっ、ウインちゃんが!?」

「あっやべ、これ言っちゃいけないんだった…」

 リュウトはあっさりレイカとの口約束をアキに漏らした。

「これ、レイカに内緒にしてって言われてるんだ…内緒ね」

「うっうん…」

 アキにあっさり口約束を破ったリュウトは鼻と口に人差し指で抑えたが…

「でもレイカとは意気投合したなぁ~…アニメや映画の話で盛り上がって―」

 リュウトはアキを抱えたまま先程のレイカとミクの話を始めた。

「ミクはお師匠さんとの服選びや寿司も大変だったけどすごく楽しかったなぁ」

「じゃぁ…ボクのは楽しくないよねぇ~こんな状況に立たされて…」

「いや、別にそういうことを言いたい訳じゃ…でもミクやレイカ、それにアキにも共通することが分かったよ」

「…なに、ボクとミクちゃんとウインちゃんに共通することって?」

 アキはリュウトが今日までの3人に見出した共通点が何か尋ねた。

「…ミクのお師匠さん、レイカの作家先生、アキのお兄さん、3人とも偉大な人の傍に居ることかなぁ」

 それは極単純であるが、確かに共通項は合致していた。

「何それ…ボクとお兄ちゃんは別居どころか別世界の存在だよ…いつも一緒に居るわけじゃ―」

「でも…今はいるよね」

「……………」

 焚火の炎が揺らめきパチパチと火花が散る中で2人の一時が暗い洞窟を明るく照らす。

 洞窟外はすっかり暗くなり夜になっていた。

「そういえばリュウトから度々聞く『お母さん』ってどんな人なの?」

「母さん?…う~ん、元々北海道の製薬会社で働いてたけどその会社が週刊誌の風評被害にあって遠く離れた南へと南下して広島に移り住んでいったんだけど、僕はまだその時は生まれたばかりだったからよく覚えてない」

「そっか…お父さんは?」

「父は…同じ製薬会社の幹部だったらしいけど、風評によって行方を晦ましてる…今では音信不通だよ……アキは?」

「ボクのお父さんも同じかなぁ…そもそも居るのかどうかも怪しいし、生きてるのかどうかもわからない…お兄ちゃんだけが何か知っているような感じはするけど、いつも誤魔化されてばかり…お母さんはボクが中学の時に亡くなって、今は母方の祖父母と一緒に暮らしてる」

「大変なんだね…アキのお家も」

「ボクの家なんかより、リュウトの方がずっと偉いよ…お家のために一生懸命働こうとして…お兄ちゃんに見習ってほしいよ」

 リュウトとアキは互いに家のことを打ち明け合い共感し合った。

「でも…アキもすごいよ…誰かの背中を押せる優しさ…何かに対して立ち向おうとする勇気も持っていて…その上、温かくて…すごくいい匂いがする」

 リュウトはアキの身体をより強く抱きしめて鼻がアキの首筋に触れフローラルな香りが心穏やかに安堵させた。

「うっ…もっもうサービスは終了!…ほらッ服も乾いたから着て!!」

「わぶっ!?」

 乾いた衣服をリュウトに投げつけたアキは恥ずかしくなりそのまま丸石を枕にして集めてきた葉っぱで敷布団にしてふて寝した。

「……………」

 リュウトもまた、同じくアキが拾ってきた葉っぱを敷布団の様にして丸石を枕に横になった。

 焚火の火は燃やすための可燃物を失い、徐々に火が消えていった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

―ピチャンッ…ピチャンッ…

―コォオオオオ~~

 水の滴る音、洞窟内を行きかう空気の流れる音がアキの耳元に入ってくる。

「……………」

 決して眠りつけない訳でもないが…先程から気になったリュウトのカイジューソウルについて様々な考察がアキの頭を過らせて余計に眠れなかった。

「………アキ…」

 そんなことを考えていると耳元でリュウトの声が聞こえてきた。

「……アキ……」

 だんだん声がハッキリしてきた…自分の想像力がここまでくるとまるでリュウトのこと以外考えられない気分であった。

「アキ!」

 いや、違う…この声はリュウトであった。

 アキはすぐさま起き上がろうと側臥位から振り向いて声のする方を見渡すと…暗く見えない世界の中でアキの手足を強い力がアキの身体ごと抑え込んできた。

「じっとして…動かないで…」

 アキは今更理解した…リュウトも一人の男、抑え切れぬ感情が内に秘め続けるのでなく、体で行動を起こして野獣のような本性が露わにするのであった。

(そっ…そんな、こんなところで…リュウト、ダメ…ぼっボクは…)

 重なり合う布を間に挟んだ皮膚が過敏に反応を示してします。

 常人を超える力を持つ『怪獣娘』でも年端のいかない10代の女の子であり、か弱き乙女…だが、いざ事態に直面した時にはあまりにも無力であった。

 重なり合う下のアキに重く圧し掛かる上のリュウトの重みが逃れられぬ末路をただ進んでしますのか……

「じっと…息を殺して…何も動かないで」

 リュウトの優しき声がアキの耳に入ると共にアキへの身動きを発動するための筋肉を硬直させる『金縛り』にも近い感覚だった。

(りゅっ…リュウト…ぼっボクは…ボクは…)

 耳元でリュウトの押し殺した僅かな吐息の生温かな感覚が走る一方で……

―スシンッ……スシンッ……

 歩くような音がアキの耳に入ってくる……歩く音?

―ズシンッ……ズシンッ!…ズシンッ!!

 それはリュウトの心臓の鼓動ではない…アキの耳から耳小骨を振動させて重々しい足音が響いていた。

「なっなんの音…?」

「静かに……」

 滴り落ちて流れる僅か3m程度の小さな滝のカーテンから大きな足の形をした黒い輪郭が滝の中へと踏みしめた。

―ザパーンッ!

 洞窟内に浸水してきた滝池の水が咄嗟に起き上がった2人の足元まで達する水量がであった。

「いっ…一体何ッ?」

「わっわからないけど…多分まだ滝池の中に居る」

 互いにその場から動かず、声も上げずにやり過ごそうとすると…謎の怪物が洞窟内にもう片足も水ごと蹴り上げて肉食恐竜の様な両足を洞窟内に入ってきた。

「わっぶぅうッ!?」

 思わず叫びそうになったアキの口を手で塞ぐリュウトはアキを抱えて互いにゆっくりと物言わず後ろへと下がった。

 浸水は謎の怪物の両脚に遮られた滝の水の流れが洞窟内に徐々に侵入してアキとリュウトの腰位置まで到達していた。

「まっマズい…このままだと僕たちが洞窟内に沈む」

「ぼっボクが変身して退路を…」

 アキは緊急時のソウルライザー使用を試みようとポケットから取り出したが…

「わぶっ!」

 ズルッと足を滑らせたアキは壁に手を突いてバランスを整えた…カチッ…

「?…今何か押したような…」

 手を突いた洞窟の壁は不自然なほどに四角い凹みを押し込んでいた。

―ゴゴゴゴゴゴゴッ…

「えっ…いっ行き止まりの壁が…壁が開いてる!?」

 リュウトの背後に決して人工的な扉とは無縁な天然の壁が独り手に左右開門にて開け始めた。

「うっうわぁああッ!?」

「ああああーーッ!?」

 2人は洞窟内で開かれた門に流れ入っていく水と同時に飲まれていき、門はそのまま飲料を終えた口の様にゆっくりと閉じ塞がった。

 門に飲まれたリュウトは意識を取り戻して浸水して水浸しの床に伏せていたところを起き上がり辺りを見渡せども真っ暗な闇の中であった。

「うっう~ん…あっアキ!アキ、どこに居るの!?」

「ぼっボクはここだよ」

 声のする方向はリュウトの眼の前であった。

 ピカッとリュウトの目の前で光が灯り、リュウトの眼に直接入り込んでくる光にリュウトは目を細めた。

「リュウト…だいじょ…ぶ…」

 ソウルライザーのライト機能で辺りを照らしたアキは自分がリュウトを下にして馬乗りになっていたことに気が付いた。

「―――――ッ!?」

 思わず咄嗟にリュウトから距離を取って離れたアキは言葉が出なかった。

「あっアキ…無事だったんだね」

「…うっ…うん、リュウトこそ…その…」

 アキは顔を赤くして暗がりの端へとリュウトから逃れた。

「なんだろう…ここ…洞窟にこんな場所があったなんて…」

 アキがソウルライザーで照らす限り今居る部屋はどこか機械的な金属製の壁で覆われていた。

―スシンッ…スシンッ…

「今の怪物…どうやら滝を乗り越えて登っていたらしい…」

 リュウトたちが居る部屋から僅かに振動が上から来る辺り、先程の生物が上に登って移動していることが伺えた。

「もう、セーターとかいろいろビチャビチャだよ…」

「そうだね…とにかくここを出ることを考え…てっ、ッ!?」

 リュウトはアキを見るなり、咄嗟に背中を向けてアキから視線を逸らした。

「どうしたの、リュウト?」

「あっ…いや、その…あっアキのワイシャツが濡れていたから…その…」

 言っている意味の解らないアキは首を傾げつつもリュウトの言うワイシャツにアキは目を向けると…湿ったワイシャツが体にピッチリと密着して身体や着用する下着まで透けて見えていたことにアキはさらに赤面して身体を腕で隠した。

「………ヘンタイッ」

「ちっ違うんだ!ぼっ僕はそういう意味で言ったわけじゃ」

 誤解を招いたことにリュウトは必死にあれやこれやと誤解を解こうとした。

「…もういいよ…早くここを抜け出そう」

 アキは何も聞かず、先へ先へと進んだ。

 うやむやな状況のままアキに追従した。

「なんの場所だろう…ここ」

 ソウルライザーの僅かな光で辺りを見渡す限り…何らかの研究所のような施設機材が多数見受けられた。

「さっきの生物と何か関連があるのかなぁ…でも、この間見たシャドウっていうやつとは明らかに違ったよね」

 さすがにリュウトでもわかるほど、この世の生物とは思えない生き物に遭遇したことにシャドウとは違うという結論への理解が早かった。

 施設内は宛ら理化学研究所のような研究施設であった。

 何らかの生物を研究するために設置した機器類が見るも無残に破壊された後であった。

 ホルマリン漬けのような謎の液体に浸って浮かぶ変な生物の肉片のようなものも幾つか見受けられたが…その中でも胎児のようなものもある不気味な場所であった。

「うげぇ~…やっぱここはただの場所じゃない」

 中でも一番驚かされたのは…恐竜の首のようなものもホルマリン漬けにされていた。

「うわっビックリした」

「何してるの、リュウト…先、行こう…」

「うっうん……あれ?」

 アキに呼び止められたリュウトは一瞬振り返った隙に…先程まで見ていたホルマリン漬けにされていた恐竜の首が無くなっていた…否、そもそもその機材容器内部には何もなかった。

「早く~!」

「今行くよ…」

 リュウトは不思議に思いながらも首を傾げて先程まで見た物は幻であろうと自分に言い聞かせ、ホルマリン漬け機材容器を後にした。

―カサッサササッ――……

 アキとリュウトはさらに奥へと進むとパソコンの液晶モニターが見えた。

「パソコンだ…でもボク、パソコンあんまり得意じゃないんだよなぁ~」

「僕が起動してみるよ…ええっとたぶん…」

 リュウトはモニターとキーボードを置かれたデスクの下を屈んで見るとパソコン本体があった。

「ああ~これだ…」

 パソコン本体を起動するとパソコンのOS画面に切り替わり、電気がまだ生きている証拠であった。

「ここの電力はまだあるみたいだね……って、すごい数の圧縮ファイルがある!」

 それはリュウトでもわかるほどキッチリと整理された圧縮ファイルが点在していた。

「どっどれから見るの?」

「う~ん…あっ、じゃぁまずは研究成果1ってのを開いてみるね」

 リュウトはマウスのカーソルを移動させて『研究成果1』を開いてみると動画と何らかのレポートが収められていた。

「じゃっ…じゃぁ開くよ…」

 リュウトは更にカーソルを動画にクリックすると動画が流れ始めた。

『…研究成果――、南米奥地で発見された新種の生物からDNAを採取…それらを元に培養、地域ゆかりの名称を取ってこれらの生物を『チュパカブラ種』と種名にして我々は研究稼働した…それまで都市伝説の類とされていた未確認生物『チュパカブラ』だが、その実態は恐竜時代から連盟と進化した環境適応生物の一種、正に生きた化石であった。ラプトルなどの獣脚類の要素を持ち合わせていることからこの生物がラプトルなどの獣脚類から進化した種と見ている』

 女性の声で主観カメラが映すのはホルマリン漬けにされた『例の生物』であった。

「こっ…この生き物って!?」

「知ってるの?」

 アキには見覚えがあった。それはユウゴと再会した環状線での最初の遭遇…シャドウとは一線を超えたシャドウさえも餌とするあの生物であった。

『――日本原産のウシガエルから細胞を置き換えて『チュパカブラ種』のDNA核に変えた新たな種を誕生させた…それが日本の妖怪の名前から取って『チトリ』である。細胞は僅か3週間で胎児程度にまで成長した』

 それは先の環状線にて出現した『チュパカブラ』と言う怪物の正体であった。

 次に『研究成果2』の動画に回った。

「こちらはアメリカやカナダなどで目撃例の多発していた新種生物、こちらも名前を『ビックフット種』として種名をつけた…こちらもマウンテンゴリラの細胞から入れ替え、新たな生物を誕生させた。それがこの『イエティ』だ。イエティは局地戦闘型で寒冷地にも対応するがこの場合には体毛が白くカモフラージュするカメレオンの性質も確認される」

 こちらも以前上野動物園で暴れまわっていたところをコングたちに倒された類人猿のような怪物であった。

 さらに今度は『研究成果3』の動画に回った。

「こちらはヨーロッパにて確認された猛禽類に酷似した要素を持つ『モスマン種』には同じく鷹や鷲と梟などの猛禽類の細胞を組み合わせた『バアド』、ハッキリ言ってもはや蛾の要素は無いが…蛾などの鱗翅目の細胞も検討されていたが、猛禽類の細胞とは合わないため断念した…名目上の親近感と心理的影響も考慮しているが、種と名の混沌が激しい」

 こちらも御茶ノ水でラドンと交戦した梟のような生物がこの施設に点在する機材容器のホルマリン液に浸された状態の『モンス』が想像絶する数が映像の中で存在していた。

「こっ…これがシャドウとは違う、新たな脅威…」

 その映像と付属して付いていた『モンス』の資料がブラウザに次々と表示される情報量がこの研究所が何のために存在していたのか伺える。

 だが、これでようやくはっきりしたことがこの研究所で研究されていた『モンス』は様々な生物の遺伝性を組み合わせたハイブリッドキメラの生物兵器であることだった。

『これらの生体には独自の多目的戦闘に適した概念と不執拗な概念を排除した特徴がある。まず『食事』は基本的に生命の血液分だけを重要視して後のたんぱく質源は廃棄される構造になっている。必要なのはヘモグロビンと細胞片から為るミトコンドリアの摂取が重要だ…更にありとあらゆる生物史の生命遺伝を取り入れているため、例えば『敗北』対する概念は『死』に通じるため一度それを味わった個体の再起は不可能として此方の硫酸酵素を埋め込み必要に応じて生命の敗北時に分泌されるストレスホルモンの一種が一つでも感知されるとこの酵素で証拠を隠滅される』

 それは生物兵器モンスの抹消について記録もされていた。

『様々な動物の遺伝性を組み合わせていると述べたが…中でも取り分け有力な遺伝子は『人間』であった。古来より地球上を支配し続けた最強の生物であり、その遺伝を色濃く存在するため人間の血液を摂取すると『変異』を起こし外骨格は宛ら人間に近しい姿になるためこれらを『先祖返り』と総称した』

 更に驚愕させたのはこの生物の遺伝には『人間』も含まれていることであった。

『しかし、戦闘面での能力は非常に高い。特に『チトリ』はラプトル並みの機動戦闘能力に加えて狡猾獰猛、さらには他の実験体に比べて知能も高い、だが『先祖返り』の性質は非常に高い割合にあり生命である以上『餌』が必要と考え至った結論は『シャドウ』を捕食することであった――……カカロロロッ…キシャァアアアア!!ギャラァアアッグチャグチャベチャネチャ…このように集団戦闘でもシャドウに引けは取らないし、世界にとっても災厄を喰らう『救済』にもなりうる』

 映像には黒い『チトリ』たちが餌に用意されたシャドウを集団で襲う光景は我ながら世界の厄災と称していた存在をあっけなく見るも無残に捕食する光景は『残酷』似付かわしかった。

「うっぶ…なにこれ…」

 アキは目の前で再生され続ける研究成果の動画に対して非日常的状況と反社会的内容に嗚咽しそうになった。

 何より自分たちが『厄災』と称すシャドウを貪り喰らう存在を作っている者もそれを作られた怪物の遺伝子に『人間』が含まれていることに対して俄かにも信じられなかった。

「まだ続きがあるみたい…」

 最後の動画にクリックしてこの生物研究所の実態が作り上げた成果を確認するためクリックした…が、これまでの映像とは違い、カメラが傾いていた。

『――……もうここでの研究は必要ねぇ…あんたもわかっているだろう…俺たちを裏切れば自分までどうなるか』

 その声は研究成果ではなかった…が、アキにはその声に聞き覚えがあった。

「この声…あの陸上競技場に居たヨーロッパ系言語を話す人だ」

「えっ?知ってるの…」

 リュウトはアキが男性の声に聞き覚えがあることに尋ねたが…動画の続きに耳を向けた。

『あなたがルルイエの実験島を壊滅させたのは聞いている…でも、ここで行っているのは生物兵器とあっては話自体別よ』

『あんたも俺たちと同じさ…違いは人の皮を被っているか、怪物を宿すか…だろう』

 話の内容は意見の食い違いでの揉め事の様にも聞き取れた。

『チトリ、イエティ、バアド、こいつらのデータは他所でも製造可能だ…ここのラインを捨てることがボスの決定だぜ』

『あなたたちも結局同じね…バニッシャーを如何するつもり?』

『あんなデカブツ、実戦に不向きだが走行戦車ぐらいにはなるだろう…T-レックスの進化系と耳にしたバカな金持ちが挙ってオークションで金を落とす、自分を餌にされかねない自殺行為とも知らず』

『…狂ってるわ、ここで作られた生命は怪物よ。最もそんなこと私がさせない。これが何かわかる?そうよ、あなたたちが持ち込んだC-4を繋いでる起爆装置…私が火消しに回っていないとでも?』

『プッハハハハハッ!!面白れぇ…最もそんなもので俺が死ぬとでも?…賭けてみるか、俺には死の概念を理解できないから…あんたが教えてくれよ、モンス(あいつら)にリミッターとしてつけたように…』

 女性は躊躇いなく起爆装置のスイッチに指を押し込んだ。

『―ドオオン!ドオオン!ドン!ドン!ドオオン!』

 動画内で次々と爆発音が鳴り響いた。

『プハハッ!本当にやりやがった!!これは傑作だ!!最高だぜ!!……――ブォォオオンンン!カロォォオオン!――ほ~ら、あとはお前らの自由だ、どうせここらは廃棄予定だったが、その前にこの映像はせめての手向けに残してやるよ…あばよ、まぁ~せいぜい息子と仲良く暮らしておけ…いつかその幸せ絶頂が潰れた時が楽しみだ、まるで年代物のワインを開けるのを待つ気分だ』

 そういうカメラ内で蠢く大きな影が炎の中から煙と共に消え去り、映像もそこで途絶えた。

―ブツンッ!

 そして、突如最後の電力が潰えたと同時にパソコンの起動画面もブラックアウトして途絶え消えた。

「ああー消えちゃった…」

「暗くてよく見えない…今、ソウルライザーの明かり付けるね」

 そういうとアキがソウルライザーの画面をタップしてライトアプリを押し照らした…が――

―カロロロロッ……

「…ねっねぇリュウト…変な声出さないで…」

「ぼっ僕じゃないよ…」

 リュウトでもアキでもない……ブラックアウトした画面に映るのは2人の間に別の何か爬虫類のような獣が居た。

「あっアキ…変身…し、てぇっ!!」

―ガァアァァアロン!!

 リュウトは咄嗟に振り向きざまにキーボードを真横に居る怪物に請われるくらいの勢いで叩きつけて怯ませた。

「ソウルライド“アギラ”!!」

 アキもリュウトが作った僅かな隙をついてソウルライザーに指を走らせると光に包まれてアギラに変身した。

「うぉぉおおお!!“超振動突進”!!」

 アギラは怪物に有無を言わさずツノに超振動エネルギーを溜め込み、頭から突っ込む勢いで怪物の腹にぶつけた。

―ガァアアアオオオン!?

 怪物は暗い施設の端まで吹き飛びグッタリと気絶した。

「やっ…やった!ぼっボクが…」

「待って、アキ…コイツ、さっきの記録映像に映っていたヤツじゃない?」

 リュウトにそういわれ、すかさずソウルライザーで相手の怪物を照らすと確かに模様はあれど骨格はそのまま『チトリ』であった。

「でっでも…もう意識は…」

「いや、僕は昔に母さんと山にハイキングをしてた時に死んだふりをするタヌキを見たことがある…自然界ではそう言うのを『擬死』と言うんだ……こいつ等には負ければ『死』が待つ仕組みを埋め込まれている…らしいけどそれが一切発動していない」

 確かに、環状線の時も倉庫での時も一様同じくこのチトリたちは何らかの仕組みによって内側から肉体を溶かされていた。

「実に狡猾な奴だよ…アレは今まさにハラワタひっくり返す程にあざ笑っているよ…僕たちが勝利を確信して近づいてくる隙を狙って…じっくり、気長に、その時を待っているんだ」

 リュウトはあのチトリの本性を見抜いていた。

 しかし、そんな時でもリュウトは油断せず、アギラにある物を手渡した。

「りゅっ…リュウト、何をするの?」

「僕がアイツに近づくからその隙にそれを叩いてヤツの口に…コイツが擬死しているかどうか近づけばわかるさ」

 そう言い残してリュウトは一歩ずつチトリに近づいて行った。

「リュウト、危ないよ!下がって!」

 止めようにもアギラはその場から動けなかった。持ち前の勇気が一切発動されない状況に為す術が無い。

 ハッキリ言って無茶な行為、一歩一歩確実に近づきつつある。

 相手は様々な生物の遺伝性と強化されたキメラ、生身の人間が猛獣に対しても武器を用いてようやく対等にも関わらず、リュウトは丸腰の無防備であった。

 怪獣娘でも、ましてや怪獣漢でもない今のリュウトには無謀であった。

―………ギロッ…ギャァアアアオオオン!!

 リュウトの読み通り、チトリは死んだふりから跳び起きて襲い掛かった。

「おりゃぁあ!!」

 リュウトは何かを両手で握りしめてチトリの口に突っ込んだ。

 当然、腕を喰われた……かにも思えたが、リュウトが僅かにズレ下がって止まった。

「!?」

 アギラが目にしたのは腕を口に突っ込まれたチトリが一切リュウトに近づけなかった。

 口の中ではリュウトが両手で握っていたのはボールペンであった。

 リュウトは両手でボールペンを支えにして衝立の様にチトリの口を開き抑えていた。

「今だ、アキ!早くその電池パックをこいつの口に!」

「うっうん!ええい!」

 リュウトの作戦の意図を認識したアギラはすぐさま手渡された携帯の電池パックを叩き割ってチトリの口に放り込んだ。

 リュウトも直ぐにボールペンから手を放してチトリの口から逃れると…

―カオンッ…ゴクッ…ゴボンッゴボッ!パンパンパンッ!!

 チトリは飲み込んだ腹の中で電池パックが弾ける音が口を通して響き、そのまま俯せになり倒れた。

「やっ…やった!ボクたちが勝ったんだ!」

「待って…」

―クァアアンッ…クァアアンッ!

 チトリは掠れた声で弱々しく鳴き始めた。

「今更鳴かれても…」

「違うよ、アキ…前ッ」

 リュウトが指さす方をライトで照らすと倒れるチトリ以外の別のチトリが次々と暗闇から現れた。

「…あの大勢と戦うのと…今すぐあっちの出口っぽいトコから逃げるの…GIRLSだったらどっちが正しいの?」

「……………」

 2人は一目散で暗闇に慣れて目で捉えた出口らしき扉に走り出した。

 ―カオォオオン!カオォオオン!カオォオオン!

 その後を多数のチトリが追いかけ始めた。

「「うわぁあああああああああああああああ!!」」

 アギラが先頭になり、扉にもう突進して破壊し外へと2人は踊り出た。

「あぶっ…ぐびぃいい~」

 アギラは勢い余ってズッコケ転がって地面に逆さの体勢でツノが刺さり、重たい扉に頭突き同然で突っ込んだせいでアギラは脳震盪を起こして意識を失い気絶した。

「…ってアキ!しっかりしてアキッ!」

 ツノが深く突き刺さっているせいでリュウト1人の力では中々抜けなかったが…チトリの集団はすぐ近くまで迫っていた。

―カオォオオン!――ズシンッ!!

 溢れ出てきたチトリを突然現れた大きな足に数匹のチトリが踏み潰された。

―ブォォオオンンン!!

《バニッシャーをワイヤーで捕縛しました》

「よし!そのまま抑えてろ、ナナ!!」

 突然現れた体高10m程の大きさのティラノサウルスを思わせる大型肉食恐竜を押さえつけるロボットとその隙をついて対抗するゴジラにリュウトは遭遇した。

「なっ…また変な生き物!?」

「あぁん!?誰が変な…ってなんでお前らここに居るんだ!?」

 ゴジラはこの場に何故かアギラとリュウトが居ることに驚愕した。

「お前等下がれ!!どっか遠くに…のわっと!?」

 体格差があるゴジラは鋭いナイフのような歯揃えを持ち、体毛が幾つか生え、手足は恐竜とは思えない程にバランス整った比率の長さを持ち、手先は何かを掴めるほど鋭利な爪を携えた大型モンス『バニッシャー』と熾烈を極めていた。

 しかし、そんな強者たちが暴れまわる足元で岩場に擬態した研究所出口から次々とチトリが外へ溢れ出てきた。

「嘘だろ!?なんであのブサイクトカゲがこんなに居るんだ!?」

 バニッシャーの足元で次々とリュウトたちに向って来た。

「うわぁあああ!!」

 群れで襲い掛かって来たチトリたちからアギラを庇う様に覆いかぶさり伏せた。

「逃げろぉおおおおおお!!」

 ゴジラが叫びをあげて2人を救出に向かう前に集団で群れを成して襲い掛かるチトリたちが先手だった。

 その瞬間はアギラを庇うリュウトも『死』を覚悟した。

(ごめん、アキ…僕に…僕にも君みたいな力があれば…力が…力が…君も…みんなも…すべてを…守りたい!!)

 リュウトは無意識であった。無意識に自分の手が地面に落ちていたアギラのソウルライザーに手が勝手に伸びた。

 すると、リュウトの手に触れたソウルライザーに内蔵された特殊鉱石『アーカライト』がリュウトの想いに答えるかのように反応してリュウトを光り輝かせた。

「うっあぁあああああああああああああああ!!」

 その光の衝撃は波となり広がる爆発のようなエネルギーを生み出し、群れを成すチトリを弾いた。

「!?…ッ―」

 ゴジラはすぐさまリュウトとアギラを救出に向かいに行き、2人を抱えながら岩場を軽い足取りで登っていき崖まで2人を運んだ。

「はぁっ…はぁっ…一体、何が」

 リュウトは自分の身に起きた体の変化を確認しようと両手を目で捉えたのは黄金の鱗のような体表がビッシリと広がっていた。

「やっぱり…お前、そうだったのか」

「うわっ!…ひぃい!」

 リュウトは両腕で防御姿勢を構え、ゴジラに対して怯えた。

「大丈夫だ…俺は敵じゃない」

「敵…じゃ…ない?」

 リュウトはゆっくり目を見開くと自分の身体は先程までの非人的姿では無くなって元の自分の姿であった。

「いっ今のは…幻?」

「……靴紐、解けてるぞ」

 ゴジラはリュウトよりも遥かに大きな手で器用に運動靴の靴紐を蝶々結びにした。

「あっ…ありがとうございます…」

「……なぁ、お前の名前は?」

「えっ…かっ加納リュウトです」

「リュウト…いい名前だ。これから先にお前へ様々な選択が迫ってくるかもしれないが迷うほどのシンキングタイムは無い…でも決断するための準備期間はある。俺が言えるのはそれしかない…お前はそこの伸びてるヤツを抱えて森を抜けろ。俺の支援者が待っているから」

「あなたはどうするんですか?」

「これから俺はあのデカブツトカゲとブサイクトカゲ複数を相手しなきゃならない……なぁ、準備段階でいろいろ混乱することもあるかもしれないがこれだけは覚えていろ」

 ゴジラはリュウトの肩に触れて言葉を送った。

「戦うだけがすべてじゃない……それだけだ、さぁほら、行け!」

 ゴジラはアギラを片手で腰から持ち上げてリュウトを立ち上がらせ肩に乗せた。

「ぶっ…おっ…」

「少し太りすぎて重いだろうが…辛抱してくれ、じゃぁっ!」

 そういうとゴジラは背ビレから青く光を発光させて口内にまで達した瞬間に口を閉じ、爆発的なエネルギーを身体全体に行き渡らせ攻撃速度を上げる身体強化技能『放射熱流態』へと変貌を遂げた。

 その世闇を照らすほどの神々な姿にリュウトは足が動かず、ただ見取れてしまっていた。

 そんな神々な姿で走り出し、先程まで居た地点からかなりの崖下にも関わらず飛び降りていった。

―ギャァアアアオオオン!!

 下では先程の大型モンスの断末魔が鳴き響き、あれほどまで緊迫した状況が起きていた下では何も聞こえてこない程静まり返っていた。

「………ッ!」

 リュウトは脇目も降らずにゴジラに言われた通りに向かうべき道へとアギラを抱えて走り出した。

「うっうう~ん…」

 脳震盪から意識を取り戻し目を覚ましたアギラは自分が誰かに抱えられて駆け抜けている様子が把握できた。

「……って、リュウト!?なにこの状況!!」

「僕が聞きたいけど…今はこの森を抜けることだけが先決だ!」

 リュウトは不思議と長時間の移動距離にも関わらず、息切れ一つも無かった。

「あっはい…これ、君のだろう」

 そういうとリュウトにアギラのソウルライザーを返した。

「あっありがとう…っていうか下ろしてよ!」

「うわっちょ…暴れないで、ただでさえ重いっ―」

―ブチッ…パアン!!

 それは森全土に響く破裂したような音をアギラのシッポがリュウトの頬で奏でた音であった。

「ぶべっ…」「わっちょ…ふぎゃ!?」

 バランスを崩したリュウトはアギラと交差に重なり合う形で体勢が互いの頭が互いの股下に挟まる結果となった。

「ったく~…アイツらどこまで行ってんだ?…あっ―」

 ちょうどそこへ様子を伺いに来たトオルが目にした時が正に最悪のタイミングであった。

「ふぎゃぁああ!!ちっ違うんです!こっこれは…その…」

 人に見られてしまった事にアギラは顔が真っ赤を通り越してトマト並みに全面真っ赤にしたが…見つかったのは人にあらず、亀沢トオルことガメラなり――

「…お前ら、動くな!丁度いい材料を見つけた!!」

「ちょ!やめてください!!」

「うるさいっ動くな!!いいぞ、いいぞ!アーティスティックな絵タッチには持って来いの題材だ!」

 その場で始まった鬼畜作家の写生モデルにされたアギラは自らの顔を覆い隠した。

「なぜ顔を隠す!もっと見せろ!!」

「イヤです!!大体お兄ちゃんたちがボクたちを森へ放り投げたから森を彷徨う羽目になったんですよ!?」

「彷徨う?…地図まで渡したのに何で迷う?」

「「へっ!?」」

 トオルはアギラの肩に垂れ下がった髪束に手を伸ばして突っ込むと折り畳まれた紙が出てきた。

「ほら、ここの場所が……ここだよ」

 折り畳まれた紙には行き先を示した地図が小学生でもわかりやすいほどに丁寧に描かれていた…そしてその場所に居るリュウトたちの隣を捲ると湯気立つ温泉が広がっていた。

 つまりは方向は最初から迷いに迷って決定的にズレたのは川にリュウトを突き落とした時であった。

 ちなみに先程まで2人が居た地点は真っ黒に危険と記されていた地区であった。

「……――――ッ―――!!」

「うっ…あっアキ…くすぐったいよ」

 ヘルメットを被された時に髪束へ入れられていたことに気が付かなかったアギラはリュウトの股下に顔を埋めて大声の叫びを地面に向けた。

 今日一日の騒動に巻き込まれたリュウトは疲れを癒すために森の中で沸き立つ温泉にゆっくりと浸かった。

「ふぅ~…今日一日ですごい体験をしたなぁ~」

「へぇ~…どんなの?」

「そりゃぁ~出会った3人のインパクトに驚かされて…って…」

「ああ~なんとなくわか…る…って」

「「ええええええッ!?」」

 その場に一人だと思っていたリュウトは目の前に同じ温泉に浸かるアキに驚いた。

 それはアキも同じく、一人と思っていた温泉内にリュウトが居ることに赤面してた。

 2人は互いに背中合わせになり、互いが見えない様にした。

「……そっその…さっきの話…」

「えっ…ああっ、いろいろ良い体験をさせてもらったよ…コングさんにトオルさんにアギのお兄さん、ミクやレイカ…それにアキも……あの怪物に立ち向かう、黒いトカゲの人も…」

「そっ…それっておに…いいや、何でもないけど…リュウトから見て、黒いトカゲの人は…どうだったの?」

「うん…最初は研究所の怪物かと思ったけど…喋るし、僕たちを助けてくれたし、数や大きさの違う敵に立ち向かう姿が…そのっすごくカッコよかった……こんなこと言うのも変かなぁ?…でも、その人が僕に教えてくれたんだ、『戦うだけがすべてじゃない』って…この意味はまだ完全に理解が出来ていないけど、すごく自分の為に親身になってくれた気がして…すごく新鮮で、初めてなんだ…母さん以外の誰かに何かを教わるのって…」

 それはリュウトが初めて抱く…『憧れ』であった。

 アキにも似たような感覚をGIRLSに入って初めて体感したゼットンを目にした時に『憧れ』を抱いた気持ちに共感が持てた。

「…君とボクは…似ている気がする」

「えっ?どういうこと…」

「ボクにも憧れる人が居て…君にも憧れられる人が居る…手が届かないのに…どうしてもその人に憧れる気持ちがある…だから、ボクたちは似ているよ」

「…そうなんだ…じゃぁアキにも憧れる人が居るんだね」

「うん…ボクにはゼットンさんって言うカッコよくって、頼りがいがあって、素敵な人が…」

 アキは湯に浮かぶ幻影にゼットンの虚像が浮かび上がった。

「いつか…ボクもゼットンさんみたいな立派な怪獣娘になりたいって思ってる」

「そうか…なれるといいね」

「うん……ねぇ、リュウトは本当に怪獣…じゃぁ」

「またその話か…僕は男の子だよ、女の子でもないのに怪獣っておかしいでしょ」

「むぅ~…なんで黒いトカゲの人は信じるのに、自分のことは信じないのぉ?」

「信じるもないも…僕は怪獣娘じゃない!…僕なんかが怪獣だったらそれまでの常識がひっくり返るよ、僕は目立たずひっそりと暮らしたい…それに、母さんにも迷惑かけたくないし…」

「リュウト……リュウトって…マザコンなの?」

「ちっ…違うよ!僕は母子家庭で母さんとはそういう感情じゃなくって尊敬と言うか…何というか…」

 アキの中でリュウトのマザコン説の誤解にリュウトは必死で説得した。

「焦る辺りが一番怪しい…」

「だから違うって―」

―ピリリリリッ!

 突如、アキのソウルライザーからトモミより着信が入った。

「ピグモンさん?…はい、アギラです……はいっはい…はい居ます、替わりますね…ピグモンさんからリュウトに大事な話があるって…」

 アキは後ろ向きでリュウトに自身のソウルライザーを手渡した。

「僕に?…ハイ替わりました、ええっはい…はい…はい…ホントですか!?ありがとうございます。わかりました、では後程後日に…」

 リュウトはトモミとの連絡のやり取りから温泉の中で立ち上がるほどの大事な内容のようであった。

「なっ…なんの話だったの?」

「うんっ!アルバイトに採用された電話だったよ、アキ!」

「えっ!?ホント、りゅう……あっ」

 リュウトのGIRLSでのアルバイトに採用されたと聞いたアキは思わず振り返ってその顔の位置は…リュウトの…大事な位置であった。

「……ッ――わぁあああっ!ごっごごごめん!」

 思わずリュウトはすぐさま温泉に再び浸かり隠した。

「うっううん…ぼっボクこそ…でも湯気で何も見えなかった!なっ何も見ていないよ!」

 アキは誤魔化すが…顔はのぼせて居るかのように顔が沸騰していた。

「そっ…その~…りゅっリュウトは…たっ確かに男の子なんだね…おっ女の子じゃ…なかった気がする…」

「って…やっぱり見て…」

「言わないで!!」

「はいっ!?」

 思わず背筋をビシッと伸ばしてしまうリュウトであったが……

「いやぁ~あのまま図書館で師匠の胸で寝ちゃって…ちょっと寝違えたかも…」

「なんですかそれ…でも私もまさか先生とハチさんの即興スワキソ劇に騙されて…出た瞬間に充て身を受けて首が痛いです」

 向こう側の湯気のカーテンから聞き覚えのある声が近付いてきた。

「こっこの声は…まさか!?」

「えっ?」

 湯気のカーテンの向こう側からミクとレイカが現れた。

「あれ、リュウトにアギちゃん!?なになに~お二人仲良く混浴ですかなぁ~ニシシッ!」

「って、いやミクさん前ッ前ッ!!」

 レイカはリュウトとアキが温泉に居るとは知らずに見過ごしていたが…今のミクはタオル一枚も巻いていない辛うじて湯気のカーテンに隠されているが…アウトであった。

「みっみぐぶっ!?」

「みっ見ちゃダメェェエエ!!」

 咄嗟にリュウトを湯に頭から沈めて視界を遮った。

「なんでミクちゃんタオルも巻いてないのさぁ!!」

「ええ~あたしお風呂は基本裸族だし~」

「そういう問題じゃありません!殿方の前でみっともないですよ!!」

「いや~その殿方がサスペンスみたいに沈められてるけど」

「「あっ!?」」

―ゴボボボボボッ…

 湯の中でリュウトの意識は段々と遠退いて行った。

・・・・・・・・・・・・・・・・

「うっう~ん…」

「よぉ…起きたか?」

 リュウトが目を覚ましたのは…ブランケットに掛けられた状態でキャンプリクライニングチェアに腰掛けていた。

 その横でユウゴが焚火で食べ物を焼いていた。

「あっ…アキのお兄さん…」

「ユウゴでいい…妹が迷惑かけたな…ほらッ詫びだ、喰え」

 焚火の周りは串に刺したソーセージなどがある一般向けのリュウト側とヘビやトカゲなど森で取れるものを焼く上級向けのユウゴ側に分かれていた。

「うぶっ…もうトカゲはコリゴリです」

「だろうな…そっちにあるのだけを食え」

「……あっみんなは?」

「テントで寝てる…明日にはコングに駅まで送ってもらえ」

「はっ…はぁ…」

 リュウトは不思議と焚火盛る炎をジッと見つめながら焼かれたソーセージなどを口にした。

「…今日は災難だったな…うちのがどうも方向音痴で雑な女だったせいで…」

「いえ…そんな、アキは一生懸命で凄い子ですよ」

「…そうか、戦い方がどうも雑なのが否めないが…悪い印象でないなら問題はない―ハグッムチャムチャッ…」

 ユウゴは焼けたトカゲを貪り喰らい始めた。

「…あの、ユウゴさんたちはあの黒いトカゲの人の協力者さんなんですよね」

「…ああ…」

「その…僕もアキに言った手前…自分は怪獣じゃないって否定はしているんですけど…あの時、アキのソウルライザーに触れたとき…なんか凄く溢れる様な力と…自分じゃなくなる恐怖感が僕に押し寄せてきたんです」

「………………」

「そしたら気が付いた時には…なんか幻覚みたいなのが体中に……そして目の前にあの黒いトカゲの人に言われたんです、『迷うほどのシンキングタイムは無い…でも決断するための準備期間はある』って…あの時は訳が分からなくって…でも今になって分かるんです…分かるからこそ、アキや他の人には打ち明けられないんです」

「だから俺に打ち明けて…楽になろうと?」

「違うんです…ただ、どうしたらいいのか」

 リュウトは悩み思い詰めていた。自分が知らない力に対しての選択が何かを知るためにも…怪物や危機に誰かを庇うほど他人を優先するリュウトが、いざ自分となった時の自分を知る勇気が一切湧いてこなかった。

「…今の御前に迫ろうとしている選択は2つ…1つはその力を否定して人間としてやり過ごすか…だが、それは一生隠し通すままに出来るとは到底思えないが…そこがもう1つの選択、力を受け入れるべきか…だ」

 ユウゴはリュウトに解りやすいまでの選択肢を提示した。

「リュウト…お前にはこれからいくつもの問題が立ちはだかる…それ一つ一つの解を求め続けるには余り時間はないと思うが…何をお前が選び選択した答えであっても、それはお前が導きだした結論だ…誰も否定はしない」

 ユウゴはリュウトの眼を見据えて迷うことのない選択をさせるためのアドバイスであった。

「…すごいなぁ…ユウゴさんは僕と歳が近いのに…経験則はすごく掛け離れてる」

「俺もいろんなものを見てきたからなぁ…大体は解るが、それでもまだ分からないことも多い…上を見ろ」

 リュウトはユウゴが指さす空を見上げると都会では見ること叶わなかった満点の星空が広がっていた。

「うわぁ…綺麗だ…ずっと博多に住んでたからすっかり忘れてました」

「…そうだな…とてもこの数多の星々がほんの一握りの恒星とは思えないだろうなぁ…あの星の数以上にまだ沢山の星がある」

「…じゃぁ…怪獣の居ない地球も…あるんでしょうか」

「あるかもしれない、ないかもしれない…所詮は人の想像だ…物事に慈悲は無い…迫られた時に決断をしなければならないのは昔から多くの人間がそれを理解していた」

「……僕は…怖いんです…受け入れられないことに直面した人…人間が…」

「…みんな平等に理解し合える訳じゃない…理解されずに散った者の思いはこの世のどこかに密着している…それが怪獣の魂って奴だ…自分の存在が消えることを拒み続けて結果的に人間って奴に為ってしまった…だが、いつかそれも隠し通せるものじゃない…怪獣娘が世間に現れたことで態勢は大きく変わった…むしろ人間はそういう事態を受け入れつつ待っているのかもしれない」

「…そんな日が来るんでしょうか」

「可能性は…一つじゃない…それをお前や怪獣娘(あいつら)が見つけるべき答えの一つかもしれない…それは俺もお前も同じだ…怪獣も人間も、一つの答えに辿り着くまで長い旅路を歩まなければならない」

 ユウゴはステンレスコップに注がれたコーヒーを口に含み、パック包装された羊羹を開けて口にした。

「不思議と…羊羹とコーヒーって奴は相性がいい…一見違う物同士のようでも…意外と気が合うって物だ…お前もどうだ?」

 そういうとリュウトに羊羹と別のコップに注がれた湯気立つコーヒーを差し出した。

「いただきます…アムッ…ズズッ…ホントだ、合う」

 コーヒーと羊羹、互いに違う物がこうまで合うことをリュウトは初めて知った。

「なんだすごく…眠くなってきました」

「ああっ…もう休め」

 ユウゴと向かい合って話し合うリュウトの眼はゆっくりと目が勝手に閉じていった。

 リュウトが自分の力を信じない理由を聞いたのはユウゴだけではなかった。

 アキたちが寝泊るテントを囲い座るトオルやコング、そのテント内で寝るミクやレイカより目を見開いて起きていたアキもまた同じであった。

「……………」

「う~…お寿司…おしゅしぃ…Zz~」

「諏訪さ~ん…木曽さんまで…Zz~」

 リュウトに力があるのは確かであった…だが、それを受け入れるのは本心次第であることもまた然り……

 一方、その頃…

「すべて始末したか?ケニー…」

「――――――――」

「ならいい…こちらも意外な形だが収穫はあった」

 先ほどゴジラがバニッシャーと戦闘していた地点に訪れていた尾崎たちはアキとリュウトの見つけた研究所に橋を踏み入れた。

「まさかこんな場所に隠されていたが…ようやく合点が重なる…最初から密輸も持ち込みもされていなかった…逆に輸出していたのか……ここがモンスの『製造工場』だ」

 それは…アキたちが見つけたあまりにも大きすぎる事態だった。




見せられないMONS~
・EDF面接編

*一次面接
「―それ故に私は窓を直す際に気を付けているのは…」
 トモミの目の前で他愛のない話をする尾崎を中心とした面接官が計5人構えの布陣で圧迫を超えた圧力面接を向き合っていた。
「それで今、窓は何回私は言った?」
「ふえっ!?えっえっと~」
―ピュンドスッ!――GAMEOVER――

「も~何してんの、これで32回目だよ~」
「いやいや無茶苦茶なゲーム設定じゃないですか!?なんで面接中に窓から狙撃されなきゃならないんですか!?」
「ええ~2秒以内に質疑に答えなきゃケニーが狙撃することなんて訳ないのよぉ~」
「怖すぎますよ!?なんで一次面接でこれなんですか!?」
 初級レベルで高難易度のゲームクオリティーであった。

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