コネクターパス~とある転生者、憑依者たちの呟き~ 作:ルーニー
彼のことをどう思っているのか。そう聞かれても正直困る。訓練校のいろんな人から聞かれてきたことだけど、私自身もよくわかっていないから答えに困る。
彼はいわゆるエリートだ。7歳という幼い年齢にもかかわらず管理局に入局し、いろんな結果を出し続けている。所々ではかの管理局のエースとも引けを取らない、とも噂されているといえばそのすごさはわかると思う。もっとも、悪いイメージのほうが強いからそんなことを言っているのは本当にごく一部なんだけど。
そんな彼のことなんだけど、私は嫌いではない。むしろ、好きなほうだとは思っている。お母さんに拾われてから、たまたま近所だったから小さいころから面倒を見てもらっていて、今でも連絡を取って会うぐらいには仲はいい。
でも、それが家族の好きなのか、友達の好きなのか、恋の好きなのか、どんな好きなのかはわからない。今日もそうだけど、お互い食べることが好きだからとたまに一緒に食べに出かけたりすることもある。いろんな人からはデートだとか茶化されたりしてるけど、私にとってそれはデートなんて高尚なものじゃないと思っている。
かっこいい人、だとは思う。顔がかっこいいとかじゃないんだけど、なんとなくそう思う。というか、目の隈がすごいうえに目つきもかなり怖いからかっこいいというよりは怖いだと思う。
けど、それでも一緒にいたい人は?って聞かれたら家族以外だと彼が思い浮かぶ。というより、彼は家族に入ってるような感じがしなくもない、というのが正しい気もするけど。
「……どした?」
向かい側に座っている彼は自分のことをじっと見ていたのが気になったのか、パフェを掬う形で手を止めた。
どうでもいいけど、その悪い目つきでイチゴパフェを食べてるのすごい違和感ある。私はもう見慣れてるけど、周りの人が思わず二度見をするぐらいにはミスマッチだよ。
「べっつに~。ほかの人たちみ~んな仕事してるのに君だけ休み取ってるの珍しいなって思って」
「なんとでも言ってろ。重ねに重ねた連勤明けのようやく手に入った休みだ。周りの目なんざ気にするような気にもなれねぇよ」
これが至福なんだ、と言わんばかりに大きくすくったイチゴのクリームを大きく口を開けて口へ入れる。器用に口の周りにクリームをつけるようなことをせずに、それを何回も繰り返していく。これが大の大人のやることなのか、なんて思わなくはないけどいつものことだしもう慣れた。というか、私が一口食べるうちに三口目に入ってるのどうやってるんだろう。私食べるの早い部類に入るはずなんだけど、そんな早く食べてるようにも見えないんだけどなぁ。
そうこうしているうちに大きめの容器に入れられたパフェは見る見るうちになくなっていき、あと数回で全部なくなりそうになった。そんな時だった。彼のジャケットのポケットから携帯が鳴りだした。しかも絶望感漂うBGMのような音楽で。
「…………」
すごく、嫌そうな顔してる。はたから見たらイラつきのあまり殺人するんじゃないかと思うぐらいにすごい形相だ。あ、この人何かしようとしてるんじゃないんです。ただ嫌そうな顔してるだけなんです。だから通報はしなくても大丈夫です。
しぶしぶ、本当にしぶしぶといったようにポケットから携帯を取り出して画面を見る。予想はしていたんだろうけど、そこに書いてある名前を見てからさっきよりもすごい眉間にしわを寄せている。何も知らなかったら本当に人を殺しそうな表情だ。確かに人を殺しそうな表情だけど、通報したい気持ちもわかりますけど本当にこの人は違うんです。
「……なんすか。今日と明日休むって1ヵ月前から言ってましたよね」
画面をにらみつけて早数秒。しぶしぶといったように通話を始める。
言葉は悪いけど、若干の敬語が出ているということは、たぶん上司からの電話なんだろう。でも、上司に対してここまで言葉から拒絶感を出す人もいないだろう。
彼の眉間に徐々にしわが増えてきている。口元もひくひくと動かしているその様子は、完全に切れている人のそれだった。あぁ、これは来るなぁ、と予想できた私は、そっと耳に手を当てる。
「ざっけんな!それテメェが勝手にやってたやつだろうが!絶対に無理だからやるなっつったのに勝手にやったのはそっちだろうが!」
案の定、ふさいだ耳からも聞こえる怒号が彼から発せられた。まぁたやってるよと軽くため息をつくが、周りは人相の怖い男の人が急に怒鳴り声をあげたということで体をビクリと震わせていたのが視界の端で見えた。
「知るかっつってんだ!起案も回さずに好き勝手やったくせに無理そうになったら勝手に部下のせいにしてんじゃねぇぞ無能上司!もう我慢できねえ!テメェんところから出てってやるからな!休み明け覚えてろ!」
ガンッ!と硬いもの同士がぶつかる音が建物の中に響き渡る。携帯を持っていた手を怒りのままに振り下ろしたせいで机に大きな傷がついてしまった。
「……えっと、大丈夫なの?あんなこと言って?」
「もう知らん。部署内全員が絶対に無理だっつったのにのあのクソボケ勝手に話し進めやがった挙句責任を俺に押し付けやがった。もう勘弁ならねぇ。絶対に豚箱にぶち込んでやるからな」
壊れてしまった電話を握りつぶしながら恨みつらみを吐き出していく。今までにためてきた悪行の証拠を全部上に出してやるとか握りつぶされないようにマスゴミにもチラつかせてやるとかいっそこのままやめるのをありだなとか悪い笑みを浮かべながらぶつぶつと呟く様はまさに不審者。まさに犯罪者。まさに殺人者。
「……なんでそんな睨むんだよ」
「べぇっつに~~~?」
確かにダメな上司がいたからこうなるってのはわかる。でも、仮にも同じところを目指している人が目の前にいるのにここまでネガティブキャンペーンをするのはどうかと思う。
せっかくうまいもの食べてたのに台無しだ、こういう時は甘いものを食べるに限る、なんて言いながらメニュー表を開く。ついでに私もまだ食べたりないから次はどのアイスを食べようかなとメニューを見ていたら机の横にウエイトレスが体を震わせていた。
「お、お客様、周りのご迷惑になりますので、お、お静かにお願いいたします」
「あ、はい。すいませんでした。あ、やっば机、ごめんなさい。弁償します」
何事かと思ったら普通に大声を出していたことへの注意だった。まぁ、追い出されなかっただけまだよかったと思うべきだよね。あと、あの店員さん声震えてたし泣きそうな表情してたなぁ。うん。今に始まったことじゃないんだからそんなへこんだ顔しない。
まったく。この人はホント、私がいないとダメだよね。
なお、さすがにあれだけの問題行動を起こしたせいか店長直々に出禁を言い渡されてさらにしょげてしまったけど、さすがにこれは自業自得だよね。うん。