とある世界の絶対氷結(アブソリュート・フリーズ)   作:宇宙戦争

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プロローグ4 交差前夜

西暦2024年 7月18日 第7学区 セブンスミスト

 

 

「ごめんなさいね、垣根さん。買い物に付き合わせて」

 

 

「気にしてねぇよ。・・・白井に後で何て言うか考えるのが少々面倒だけどな」

 

 

 第7学区セブンスミストの店内を風紀委員(ジャッジメント)の腕章を着けた垣根と初春、そして、佐天が歩いていた。

 

 しかし、何故風紀委員(ジャッジメント)の初春と垣根が居るか?

 

 それは簡単に言えば、風紀委員(ジャッジメント)の仕事を現在サボっているからである。

 

 もっとも、垣根の場合は少し違うが。

 

 

(たくっ。あの野郎、俺を囮にしやがって)

 

 

 垣根は心の内で人使いの荒い上司(ユウキ)に向かってそう吐き捨てる。

 

 今回起きる虚空爆破(グラビトン)事件。

 

 ユウキはその首謀者である介旅初矢の事前(既に被害は幾つか出ていたが)の摘発を目論んでいた。

 

 だが、万が一、補足に失敗した場合に備えて、垣根を保険兼囮にして、原作で標的であった初春飾利の護衛を行わせようと考え、垣根にそれを頼んだのだ。

 

 

「大丈夫ですよぉ。白井さんなら自分でどうにかしてくれますし、いざとなったら、何事も無かったかのように戻れば良いんですからぁ」

 

 

 微妙に黒い事を言う初春。

 

 その言葉を聞いた垣根は上司(ユウキ)程じゃないにしても、黒いなと思ったが、口には出さない。

 

 垣根としても、あのツインテ(白井)には少しムカついていたからだ。

 

 一応、垣根は無能力者(レベル0)として風紀委員(ジャッジメント)に入っている。

 

 理由は垣根の能力は唯一無二と言っても良いものの為、それ以外だとレベル5の第二位だという事がすぐにバレてしまうし、垣根は第一位(一方通行)と違って腕っぷしが強いので、無能力者としても十分やっていけると判断したからだ。

 

 だが、そのせいで白井(格下)から馬鹿にされる事もしょっちゅうであり、垣根のプライドを地味に傷つけていた。

 

 

(まっ。精々後処理頑張れよ。ツインテ)

 

 

 垣根はそう思いながら、初春や佐天と共にパトロール(サボり)を継続した。

 

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同日 第7学区 路地裏

 

 

 

ドッガアアアァァン!! 

 

 

 

 第7学区の路地裏に爆発音が響く。

 

 それを至近距離で、尚且つ常人の人間が食らえば、吹っ飛ばされて、良くて意識不明の重体、悪ければ死んでいるだろう。

 

 だが──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんなんだよ!!お前は!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 上条当間はその常人のベクトルには入らない。

 

 常に超能力者(レベル5)と戦っている上条からすれば、レベルアッパーを使っているとはいえ、大能力者(レベル4)でしかない介旅初矢の能力など、大したものでは無かったのだ。

 

 だが、そんな事など、当然の事ながら介旅初矢は知らない。

 

 彼にあるのは、自分の能力による攻撃をかわした上条に対する恐怖と怒りのみである。

 

 しかし、上条からすれば介旅初矢がどう思っていようが、はっきり言えば関係ない。

 

 ただただ仕事を実行するのみである。

 

 上条は再び攻撃しようとしている介旅に向かって突進すると、介旅の腹部に向かって裏拳を放つ。

 

 それをもろに食らった介旅は1メートル程後退り、意識を失った。

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・えっ。もう終わり?」

 

 

 上条はあまりにも呆気ない勝利に、逆に拍子抜けしたのだった。

 

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第7学区 某所

 

 

「そうか。終わったか」

 

 

 ユウキは上条からの連絡を受けてそう言った。

 

 拍子抜けした上条とは違い、ユウキは上条が介旅にあっさりと勝ったのは想定内であった。

 

 介旅初矢はレベルアッパーを使用して、大能力者(レベル4)並の強さになっていたとは言え、元々の強さは異能力者(レベル2)にすぎない。

 

 しかも、原作から、能力による風紀委員(ジャッジメント)襲撃が立て続けに成功した事で、気が大きくなっている事も確認されている。

 

 つまり、大能力者(レベル4)ごときで調子に乗るような輩が、超能力者(レベル5)相手に張り合える上条の敵ではない。

 

 少なくとも、ユウキはそう考えていたのだ。

 

 

「では、“例の場所”に運んでおけ。くれぐれも気づかれるなよ?」

 

 

 ユウキは上条にそう命令した。

 

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第7学区 路地裏

 

 

「大将、秋島はなんだって?」

 

 

 いつの間にかこの場に来ていた金髪の少年の名は浜面仕上。

 

 見ての通り、不良っぽい風貌をしているが、それもその筈。

 

 浜面は元スキルアウトだからである。

 

 一応、アウローラにも所属している少年だが、基本的な仕事は雑用。

 

 端から見たら、とてもではないが大物には見えない。

 

 だが、去年の冬にとある事件でアウローラと暗部組織の1つ、アイテムが衝突した際、学園都市超能力者(レベル5)の第4位と交戦し、これを倒すという実績を上げている。

 

 その実績を考えれば、これだけでも大物と判断されるには十分な理由だ。

 

 何故なら、この学園都市には、超能力者(レベル5)に勝てる人間など、数える程しか居ないのだから。

 

 

「“例の場所”に連れていけってさ」

 

 

「その後は?」

 

 

「おそらく、“記憶改竄”をして警備員(アンチスキル)につき出すんだろ」

 

 

 上条は浜面の問いにそう答える。

 

 元々、事前に立案した計画では、介旅初矢の殺害計画など存在しない。

 

 だが、ある事情で警備員(アンチスキル)風紀委員(ジャッジメント)を利用する為に、今暫し虚空爆破(グラビトン)事件の犯人が見つかっては困るのだ。

 

 そして、利用した後に介旅初矢を虚空爆破(グラビトン)事件の犯人として警備員(アンチスキル)につきだし、めでたしめでたしと言うのが、彼らの筋書きである。

 

 

「さて、と。それじゃあ、一汗流しますか!」

 

 

 上条はそう言いながら、再び気合いを入れた。

 

 その後、セブンスミストにて爆破事件は起きず、警備員(アンチスキル)風紀委員(ジャッジメント)による虚空爆破(グラビトン)事件の捜査は再び暗礁に乗り上げる事となる。

 

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西暦2024年 7月19日 第7学区 某所 深夜

 

 セブンスミスト爆破“未遂”事件から1日経った7月19日。

 

 この日も後一時間ほどで終わろうとしていたが、ユウキは休む間もなく働いていた。

 

 何故なら、明日は科学と魔術が本格的に交わる事になる日であり、それと平行して“もう1つの計画”を進めなければならないユウキとしては、こんなところで休んでいる暇など無かった。

 

 

「魔術方面は上条に任せていれば大丈夫だろう」

 

 

 魔術方面は原作通りに上条に任せる予定だった。

 

 上条の強さなら、ステイルクラスなら余裕で倒せる。

 

 問題はもう1人の神裂であったが、これははっきり言ってユウキにも分からなかった。

 

 何故なら、ユウキは神裂どころか、聖人とすら未だ戦った事が無いからだ。

 

 アークで解析しようにも、元となるデータが無ければどうにもならない。

 

 

「・・・やはり、念の為に一方通行(アクセラレータ)を向かわせようかな?」

 

 

 ユウキはそうも考えた。

 

 一方通行(アクセラレータ)が出ていけば、魔術を殆ど使えず、肉弾戦1択の神裂には確実に勝てる。

 

 が、そこまで考えたところでユウキはその考えを切り捨てる。

 

 

(いや、駄目だ。そんな事をしたら、イギリス清教との戦争になってしまう)

 

 

 確かに戦闘面だけを考えれば、一方通行(アクセラレータ)投入は妥当な選択だろう。

 

 だが、政治的に考えると、それは不味い選択肢である。

 

 学園都市最強の能力者をイギリス清教の迎撃に出す。

 

 これでは勝ったとしても、イギリス清教に学園都市への敵対心を植え付けてしまう事になる。

 

 それは不味い。

 

 今の段階ではイギリス清教との戦闘準備など整っていないので、早くて11月、遅くて原作通りの12月まで待って欲しいというのがユウキの本音だった。

 

 

「まあ、魔術サイドの方はそれで良いとして、問題は幻想御手(レベルアッパー)事件だな」

 

 

 明日、7月20日は科学と魔術が交差する日であると同時に、幻想御手(レベルアッパー)事件が本格的に動き出す日でもあった。

 

 

「確か明日は佐天涙子がレベルアッパーを手に入れる日だったな」

 

 

 ユウキは原作を思い出す。

 

 世間では未だ虚空爆破(グラビトン)事件は解決していない事になっている。

 

 原作では幻想御手(レベルアッパー)に目を向ける事になった事件をアウローラが介入して解決する機会を潰してしまった為、警備員(アンチスキル)風紀委員(ジャッジメント)幻想御手(レベルアッパー)に目を向ける余裕がなく、必然的に幻想御手(レベルアッパー)に対する対応は大きく遅れを取っていた。

 

 ちなみに御坂美事に至っては未だに幻想御手(レベルアッパー)すら知らない。

 

 事実、今日は原作では御坂美琴が幻想御手(レベルアッパー)の情報を手に入れる為にスキルアウトに接触して、最終的に第7学区の一部で電子機器が全滅した事件?が起こったが、この世界ではそんな事は起きていない。

 

 おそらく、御坂美琴を含む超電磁砲(レールガン)組が幻想御手(レベルアッパー)に目を向けるのは、佐天涙子が幻想御手(レベルアッパー)で昏睡したその後になるだろう。

 

 とは言っても、幻想御手(レベルアッパー)事件に対して、ユウキを含むアウローラが手を出すのはここまでだ。

 

 ここからの幻想御手(レベルアッパー)事件の解決は原作通りに超電磁砲(レールガン)組に任せる。

 

 その間に自分達は“もう1つの計画”を発動し、アウローラ最大の宿敵たる“木原”に攻勢を掛ける。

 

 

「明日は忙しくなるな」

 

 

 ユウキはそう思った。

 

 こうして、7月19日の夜はふけていく。


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