ハンティング・ドリフターズ   作:井守
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第18話 急変

「ああ、ヤバいなぁ」

 

首都ビザヌテの路地をマロは一人で歩いていた。

闘技大会の準決勝が終わった後、イースは少しアルマと話してくると言うと、受付前にマロを残して行ってしまった。

都へ来てからマロが一人になるのは初めてで——出来心、という奴だったのかもしれない。

とにかく、折角訪れた都をもう少し見てみたくなって、受付を少し出てふらふらと出てきてしまったのである。

ソロムではよく一人で海岸へ出たりしていたので、その癖が抜けていなかったのだ。

それがいけなかった。

闘技場は大きくてわかりやすいし、最悪人に聞けば良いだろうと割と無計画に出歩いてみた結果——当然ながら、迷った。

整備されているようで不均一に並べられた街の建物はいとも簡単にマロの方向感覚を狂わせ、すぐに自分がどこにいるのかわからなくなった。

闘技場は遠くの方に見えているものの、行き止まったり折れ曲がったりでなかなか近づけない。

ついに諦めて他人を頼り、闘技場へのルートを教えてもらったのだが——上手く辿れていなかったらしく、どういうわけか大層人気の無い路地に出てしまった。

どの建物のものかわからない管や、使い古された毛布が視界の至る所にある。いくつか蹲っている人らしき影もあった。

 

——早く出たい。

 

薄暗い路地とはいえ位置的には都のど真ん中、夜なのに街の明るい光が差し込んでいるし、路地の外はたくさんの人が歩いている。

マロもすぐ通りに戻ろうと歩速を速めた時——声がした。

 

「何の真似じゃお主ら」

 

「うるせぇ、ガキのくせに偉そうにしやがって!」

 

声は、マロが今そちらへ抜けようとしている大通りより一つ手前の道から聞こえてくる。

マロが路地を大通りへ抜けようとすれば、必然的にその道の入り口の前を突っ切らなければならない。

マロは建物の陰からそっと様子を伺った。

何やら柄の悪い男達が4人程、同じくまともでなさそうな少年2人に絡んでいる。

 

「やめてください、今、そういう気分じゃあないんだ」

 

「オメェらの気分なんて聞いてねぇんだよッ!」

 

あ——あの人達。

マロは少年2人を知っている。

浅葱と松葉の目。

八重歯に泣き黒子。

背中の刀。

間違いない、今日の闘技大会でアルマとルスキアに競った二人である。

よく見るとマロが隠れているここは、酒場の裏手だったらしい。

大会が終わった後2人で飲みに来ていたところを、強面の連中に絡まれた、というところか。

見れば2人の着物は未だに汚れたままで、着替えも治療も済ませていないことが伺える。

あるいは着替えすら持っていないのかもしれない。

マロはそう思った。

 

「こちとら商売でやってんだ。散々飲んどいて払えませんじゃあ済まねえんだよコラ。やめて欲しけりゃ出すもん出せや」

 

4人の男の中で一番整った服を着た、目つきの鋭い男が言った。

双子はどうやら飲み代を踏み倒そうとしているらしい。

 

「払えぬとは言うておらん。法外じゃ。払いたくないと言うたのじゃ」

 

八重歯の少年はさも正当な権利を主張するかのような態度で言った。

 

「値段は予め決まってんだよッ!払いたくないなら飲むんじゃねえッ」

 

「値段なんて、どこにも書いていなかったじゃないですか」

 

今度は泣き黒子の少年が、一見やや丁寧に見える、慇懃な口調で言った。

 

「じゃあこれからは飲む前に聞くんだな、ったく身なりの汚ねえガキ共だぜ。取れるもんなんかありゃしねぇ」

 

男はそう吐き捨てて少年達をジロジロと見た。

するとふと、その視線が少年達の背を見て止まった。

 

「——それでいいか。おい、お前らソレ、持ってけ。武器屋に売れば多少の元は取れるだろ」

 

男は少年達の太刀を指差して言った。

連れの男達はウス、と言って少年達の太刀を奪おうとする。

少年達は僅かに後退りしたが、男達はずずいと詰め寄った。

 

「——めろ」

 

 

 

「はア?」

 

男達は構わず刀を掴もうとする。

 

「やめろっていってるだろ!」

 

シャッ、と音がして銀の刃が光った。

ビチャビチャ、と汚い音が続く。

 

「——ぎッ…い、ああああああっ」

 

薄汚れた地面に腕が一本落ちていた。

男のうちの一人が呻き声を上げて頷く。

 

「待っ——」

 

男達は背を向けて逃亡しようとしたが、少年に容赦はなかった。

無防備な背中を、まるで魚でも捌くかのような丁寧、かつ落ち着き払った素ぶりで斬りつける。

一閃。二閃。

刃物が振られるたびにドシャリ、と人の体の崩れ落ちる音がした。

最後には一番身なりの整った、ボス格の男が残った。

 

「ま、待て待て待て。落ち着けお前ら」

 

男は慌てた様子で話し出した。

平静を装おうとしているが、声から動揺が伝わってくる。

 

「わ、わかったよ。代金のことはもういい。お前ら俺の下で働かないか?食いもんには困らせねぇ。もちろんこの店も使い放だ——」

 

声がぶつりと切れた。

ごとり、と何か丸くて重い物が地面に落ちる音がした。

 

「いいよ、もう来ない」

 

瞬く間に惨殺死体四つの出来上がりである。

 

「——ひ、っあ、…」

 

マロは声が出るのを必死に抑え、ガクガクと震えていた。

 

「あーあ。コマベエ、滅茶苦茶にしおって」

 

浅葱色の目をした方——ヤジロウが、相方を窘めるような言った。

 

「普段は儂に人目を気にしろだの何だのと文句を言うくせに、人気の無いところではすぐそれじゃ。どうせ探られて痛い腹のある連中、店の者は喋ったりせんじゃろうが——部外者に見られておったら面倒じゃぞ」

 

ため息をついたヤジロウは、そう言って路地の方——つまり此方へ歩いて行こうとした。

 

——やばい、かも。

 

マロは道を横切るのを諦め、そろそろと来た方向に引き返そうとしたのだが——姿勢を反転した時に衣摺れの音。

その音を、鬼児達は見逃さなかった。

 

「ごめんヤジロウ。誰か見ていたらしいね」

 

「路地におったのかッ!」

 

殺される、と思った。

だから、衣摺れを消せなかった時点でマロは走り出していた。

背後からはカランカランと乾いた音が響いてくる。

布にくるまっている人を踏んづけそうになったり、管に足を取られそうにながらも必死に走る。

 

路地を抜け、往来に出た。

依然としてカランコロンという音は脳に響いてくる。

 

——ああ、なんて嫌な音!

 

もう闘技場がどこかもわからない。

マロは人にぶつかり、ゴミを蹴飛ばし、曲がり、走り、走って走った。

人と、人と、建物と人。

さっきより明るめの路地に入り、抜ければまた人の群れ。

黄と橙の街の灯り。蠢く人の影。紫と藍色の空。遠くに見える黒い山。

なにもかもが視界の中で溶け合うくらいに走る。足が焼けきれるくらいに走る。

カラン、コロン。カランコロン。

足音のペースよりマロのペースの方がずっと速いはずなのに、走っても走っても、耳の後ろで音がする。

 

嫌だ。怖い。聞きたくない。

 

そしてもう走れない、息もできない、というところで——マロは、止まった。

気がつけば、見覚えのある景色。

偶然か、あるいは体が記憶していたのか——そこは、宿泊しているロテル・ウルバヌの前だった。

 

「君は…マロ、だったか。どうしたんだ血相を変えて」

 

「——さん。ご、めんなさ、い私…迷っ、て、それで」

 

「落ち着きなさい。私のことはわかるね」

 

白い顔をした、金髪の美丈夫だった。

ウルバヌ親王の部下——エルフェドール、と言った気がする。

 

「街で、迷ってしまって。路地裏で。そしたら、双子が——」

 

双子、という言葉にエルフェドールは敏感に反応した。

 

「どんな双子だ?まさか大会の——」

 

「あの、その双子です。太刀を持った、黒い髪、変な足音の、が、人を」

 

「それがどうしたんだッ!何をしたッ?」

 

エルフェドールはユサユサとマロを揺すった。

マロはグラグラと首が揺れる中で——ああ、なんだか心地よいなぁと場違いな事を考えていた。

そして血がぐわんぐわんと体内を循環しているのを感じながら、上の空で言った。

 

「——殺しているのを見ました。4人、です」

 

それだけ言うと、マロはパタリと気を失った。

カランコロン、という音はもう聞こえなかった。

 

* * * * * * * * * * * * * * * * * *

 

街は夜も騒がしい。

大闘技大会が開会してからずっとである。あんなに飲んで騒いで、よくも疲れないものだとアルマは思う。

アルマは疲れていた。

準決勝、双子の脅迫に屈したアルマは勝利を逃しただけでなく、つい先程まで"お片付け"としてあの藍紺の怪物ブラキディオスを相手に戦っていたのだ。

やっとの思いで討伐しても、アルマの手には何も残っていない。

徒労——まさしく徒労だった。

 

「なあイース」

 

部屋に戻っても何をする気力も起きず、疲れてベッドに沈んでいた所へ何故か入ってきたイースに声をかける。

 

「何や」

 

「何が違ったんだ?俺と彼奴ら。何で彼奴らはあんなに積極的に人を殺しに行ける?俺もそうしなきゃ勝てないのか?」

 

別に、アルマだって真に追い詰められれば感情を抑えて決断を下す事が出来ないわけではない。相手を殺さなければ殺されるという状況下では、相手を殺したりもするだろう。

だが、なるべく死者を減らそうという努力はする。してしまう。

だから今回も橋から落としたり、腕を掴んだり、あるいは相手がモンスターの攻撃で吹き飛ばされたりした時点で手を緩めてしまった。

それで必要十分だと思ったからだ。甘かった。

奴等にはそれがなかった。奴等は過剰なまでに積極的で、攻撃的で——むしろライバルの殺害を禁ずるルールを鬱陶しく思っている節さえあった。

あからさまだったヤジロウは勿論、コマベエの方もアルマを取り押さえた時には口では斬りつけたくない様な事を言っていたが、今思えば敵に余裕を見せつける愉悦に浸っていただけの様に思える。

兎に角、人に攻撃する事へのストッパーの概念が頭にあるかないか。

アルマはそこが今回の分かれ目、肝心な所だと思っていたのだが——。

 

「ポップコーンや」

 

アルマの意見に対してイースが発したのは脈絡不明のスナックの名前だった。

 

「は?」

 

「闘技場の外にな、アヌトニネ高原産とか言うてな、ポップコーンが売られててん。味は3つでキャラメル、塩と——スパイスやったかな。アルマやったら何買う?」

 

「おいイース。俺は今それなりに真剣な話をだな」

 

「ええから、何味?わてはキャラメル」

 

どう考えてもふざけている様に思えるが、イースの態度を見るにそういうわけではないらしい。

 

「塩」

 

へえ、とイースは言った。

 

「因みになんで?」

 

「甘いのは嫌いだし、スパイスは味に想像がつかない」

 

「ははん。さてはアルマ、冒険しないタイプやな」

 

やっぱりふざけているのかもしれない。

アルマがそう言うと、イースは違う違う、と慌てて首を振った。

 

「じゃあその話、俺の話とどう関係があんだよ。ポップコーンの好みなんてどうでもいいだろ」

 

その通り、とイースは言った。

 

「そうそう、人の味の好みなんてたいした話やないねん。そしてそれはアルマが気になってる、殺しに抵抗があるかないかについても同じや。一線を越えるとか、此岸、彼岸とか言うけれど、そんな大層なものちゃうで」

 

イースは窓際に近づくと、夜の街を眺めた。

 

「赤が好きな人とそうでない人。魚が食べられへん人と食べれる人。賢い人とアホな人。人っちゅうのはそう言う要素一つ一つの集合体や。何か一つできんことがあっても、他でカバーできればええねん」

 

確かに、変数は一つではないというのは理解できる。

例えばアルマのリーチはほかのハンターよりも短いが、タフネスと反射神経で密接距離での戦闘を可能にしている。

だが、ならばなぜ負けた。

どこか他の要素で——巻き返せる部分があったのか。

問題は、とイースは言った。

 

「見誤ったこと、や」

 

「見誤ったこと?」

 

「もし必要十分で済ませたいんやったら、きちんと見極めなあかんわ。今回ワレはそれを見誤った——それだけや」

 

イースはいくつか例を挙げた。

例えば橋の上でコマベエを突き落とした時、コマベエが橋にぶら下がっているのを見落としたが、きちんと落ちたかを確認していれば——鍵を開けるのには十分な時間を稼げたということ。

橋の下でコマベエの攻撃を止めようとした時、掴んだ相手の手に武器が握られておらず虚を突かれた。あの時も落ち着いてそのまま対処していれば——素手で対処したこと自体にはなんの問題もなかったということ。

なるほど、言われてみればそう考えられなくもない。

だとすれば、人を攻撃するだのしないだの、主義信条の問題ではなかったことになる。見極められなかったのはアルマ自身の実力の問題だ。

考えを改めたり信条を曲げたりする必要はない、ということか。

 

「そういうこと。変えれもせん主義云々でうだうだ悩む前に、自分の主義を曲げない範囲でのベストがなんだったか考え直すのが先や。その余地は幾らでもあるやろ」

 

あまりにも自分と考え方の違う敵と対峙して、まるで別の次元で戦っているような気がしていたが——落ち着いて対処すればなんとかならない相手ではないのだろう。

 

「主義信条を曲げてでもどうにかせなあかんのはな、そうせな必ず死ぬとかそういう状況だけやで。人斬り二人と同じ檻入って皆んな無事に出てきたんやから、幸運やったと思うべきやろ。命さえあれば——またどうにでもなるわ」

 

「確かにな」

 

死ぬ可能性もあったが、それを免れる選択肢は豊富にあった。敗北するだけで助かるなら安いものなのかもしれない。

思えば、捕まる前は何のアテもなく都へ来ようとしていたのだ。今回は少しチャンスがチラついたから負けて損した気分になっていたが、少なくともソロムにいた時より前進はしている。

そう考えると、案外悪い状況でもないような気がしてきた。

 

「イース」

 

「…?なんや」

 

「サンキューな」

 

「吹っ切れたようで何より。また貸しやね。ああ、そうそう——」

 

それから暫くイースとアルマは部屋の中で雑談にふけっていた。

少し経って話が一区切りするとイースはほな、と言って立ち上がった。

ガチャ、と音がして部屋の中に独りになる。

一旦落ち着いてみると急に汗や怪我が気になり出すものだ。

 

「…クッセェ、俺」

 

アルマはのっそりと重い腰を上げて、風呂場へと向かうことにした。

体は重いが、心は既に羽毛のように軽くなっている。

我ながら単純なものである。

のんびり廊下を歩いていると、大浴場の入り口でばったりとルスキアに遭遇した。

 

「——まだ入ってなかったの?」

 

ルスキアはアルマの汚れに汚れた姿を見て、意外そうな声を上げた。

 

「ああ。お前もこれからか」

 

ルスキアも同じく血だらけ、泥まみれである。

 

「ありがとな」

 

アルマがそう言うと、ルスキアは怪訝な顔をする。

 

「…何が?」

 

「大会、ペア組んでくれてよ」

 

ルスキアは目を逸らした。

 

「気まぐれよ。勝てたわけでもないのに、お礼なんて」

 

「それでも有り難く思ってる。結構楽しかったしな」

 

ルスキアは一層不可解な顔をした。

 

「——変な奴ね。あの時もそう思ったけど。勝ち上がりたければ開けて仕舞えば良かったのに」

 

最後の柱の上でのことを言っているのだろうか。

 

「開けたらお前、死んじまうだろうが」

 

「別にいいじゃない。あそこで勝てば相手はボーディとアーガイル。狩人としての勝負なら、あんたは一人でも互角に戦える」

 

「アレはいいんだよアレで。俺がそっちのがいいと思ったんだから」

 

したくない選択をするくらいならば、近道は一旦諦めても構わない。死にさえしなければ、方法はいずれ見つかる。

あの時はそんなこと考えてもいなかったが——結果的にあの判断だけは間違っていなかったわけだ。

アルマはルスキアの横顔を見た。

長い睫毛に緑の目。

マロと同じ色だ。

アルマはふと先程イースと交わした雑談を思い出す。

 

「やっぱさ——似てるよな、お前」

 

「何と?モンスターとか、嫌よ」

 

「言うかそんなこと。俺がいってるのはアレだ、マロだよ。お前とマロ、似てないか?」

 

だからこそアルマは初対面の時、どこかであったような気がしていたのだ。

するとルスキアは一瞬驚いたように目を丸くし、それからクスクスと笑いだした。

 

「何笑ってんだよ」

 

「いやだって、全然違うじゃない。目の色でしか人を識別できてないんじゃないの?」

「まじで?そうかも」

 

そう言われると、反論が一つも思い浮かばない。

実際、さっきもイースの共感は得られなかった。

アルマは似てると思ったのだが——気のせいということだろうか。

それに、と翠眼の女がアルマを覗き込んだので、アルマはほんの少したじろいだ。

 

「やっぱり他の誰々に似てる、とか女の子に対して言うものじゃないわ」

 

肉感的な唇がデリカシー、と小さく笑う。

 

——失言だったのだろうか?

 

謝るべきか否か迷ってる間にルスキアは女湯の中へと消えていき、アルマは釈然としないまま男湯に入ることになった。

 

 

体を擦る。

風呂場で体を洗う、という行為には物質的な汚れを落とす以上の意味があると思う。悩んでいても不安があっても、体を洗って温まれば多少は気持ちが軽くなるもので、イースの言葉で落ちやすくなっていたアルマの精神的な荷重は入浴中に綺麗さっぱり落ちてしまった。

準決勝の傷は既に癒えかけている。

湯船の中、弛緩した頭でアルマはぼんやりと考える。

 

——明後日は決勝でも見届けて、それからイースと一緒に脱出方法を再び模索してみるか。

 

まるで湯治にでも来ているかの如き脱力ぶりだが、ここのところずっと張り詰めっ放しだったので悪い気はしない。

 

数分後、入浴を終えたアルマが部屋に戻るとまだルスキアは帰っていなかった。

それから暫くアルマが一人で寛いでいると——部屋の扉が開いた。

焦茶の髪が顔を覗かせる。

長風呂だったなと言おうとして、アルマはその焦茶の後ろに青白い顔の金髪が続いているのに気づく。

ルスキアに続いて入って来たのは、まるで血液そのものが牛乳並に白くなってしまったかのような蒼白な顔をしているエルフェドールであった。

吸血鬼のように血の気を失ったその男は、いつも通りの一定のペースで、しかしほんの少しだけ落ち着きを失った声で言った。

 

「お前達の決勝進出の可能性が浮上した」

 

「は?」

 

——今、なんと言った。

 

「決勝戦は明後日だ。もしそうなれば、健闘を祈る」

 

「待て——待ってくれ。負けたよな?俺達。なんでだ?何があった?」

 

「うむ、驚くのも無理はないが…今しがた決勝戦進出者が一人、死傷した。街中で死体が発見されたのだ。相方は行方不明になっている。今も捜索中だが、見つからなければ次はお前たちだ。ビーンとジリーの所にも報告が行ったが、彼等は権利を放棄したからな」

 

まあ、ビーンは大怪我を負っているから致し方の無い事なのだろう。

それよりも。

 

「どっちが殺されたんだ。警戒はしてたし、二人ともあっさり殺されるようなタマじゃねえぞ」

 

気をつけなければいけないのは試合の外だと、先日エルフェドールは言っていた。

ボーディもアーガイルも、珍しく真剣に聞いてたはずだ。

にも関わらず——やられたのか。

アルマは意地汚いけども憎めない、二人の狩人を思い浮かべた。

そして。

 

——あの餓鬼。

 

アルマは歯軋りした。

 

「なあ、どっちだよ!やられたのは?ボーディか?アーガイルか!?」

 

「違う」

 

——違う?違うのか。何が?違うとは、どういうことだ。わからない。

 

「殺されたのは——」

 

エルフェドールは額に手を当てた。

 

「殺されたのは、コマベエだ。背後から首を、一撃だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






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