黒き幻想たる少年、幻想郷に立つ   作:KuroSaki

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黒き少年の日常と妖怪たらしと呼ばれる所以2

「ハクト。帰りは私がお供します」

 

 それは銀のショートヘアーに袖の白い緑のワンピースを着て、黒いリボンを頭につけ、腰に二刀を携えた少女だった。彼女の側には幽霊のような白玉が浮遊しており、それが人外であるという主張をしている。彼女の名前は魂魄妖夢。半人半霊の少女だ。

 

「あん?どういうことだ?」

「幽々子様が、『ハクトは目を離すとぽっくり逝っちゃいそうだから、人里まで連れて行ってあげなさい』と仰ったので」

「なに?俺ってそんなすぐ死にそうなイメージなの?」

「…………そんなことはないと思います」

「その微妙な間はなんだお前……」

「そんなことはないと思います」

「言い直しても意味ねえからな!」

 

 顔をしかめる。一体俺へのイメージはどうなっているのか問い質したいところだ。

 

「ったく、付いてくる必要なんてねえのによ」

「でも、ハクトは不意打ちに弱いじゃないですか」

「…………まあ弱いけど」

 

 俺は滅茶苦茶という言葉が付くほど不意打ちに弱い。普段は大妖怪とも渡り合える(能力によるゴリ押しだが)くらいの力があるのだが、不意をつかれると簡単に一撃必殺される。悪意とかそういうのには敏感なため早々不意をつかれることはないが、逆に言うとそういうものの絡まない事故には非常に弱い。流れ弾とかは気づかずにぽっくり逝くと思う。

 

「下級妖怪の一撃でも不意を突かれたら致命傷になるんですから、本当に気を付けてくださいね」

「一日一回までならセーフですぅ」

「……二回目あったら死ぬってことですよね」

「死にますん」

「そんなみょんな言葉遣いしないでください」

「お前に言われたくねえ!?」

「ほら、馬鹿なこと言ってないで早く行きますよ」

「しかもスルーかよ!」

 

 この少女やけにスルースキルが高い気がする。

 

 それはともかく、漸くの事で俺たちは帰路に着く。暗い夜道で明かりも月明かり程度だが、俺は能力の特性上闇夜でも見通すことが出来る。妖夢もいることだから、迷うことなく人里まで行けるだろう。問題は速度だ。俺は妖夢と違って空を飛ぶことが出来ない。幻想郷の住人を見るに人外は空を飛べるのがデフォルトなのだろうが、身も心も人間な俺は地を歩むしかできないのである。空を飛べたら地上の障害物を無視して一直線に帰れるのだが、無い物ねだりをしてもしょうがない。抱えられて飛ぶという選択肢もあるにはあるが、今回はこころを背負っているので不可能。ついでに言うと、抱えられて飛ぶのはとても情けない気持ちになるので極力避けたい。他にも手段はあるが、戦闘用なので考えないものとする。

 

 結局、歩くしかないのだ。つまりはそれなりの時間がかかる。まあ会話相手もいることだし飽きることはないだろう。

 

「そういえば……」

 

 妖夢が思い出したように言う。

 

「今日の宴会はどうでしたか?」

「どうでしたかって言われてもな」

 

 俺は端っこでちびちび飲んでいただけなので、どうと言われても困るものがある。満足したと言えば満足したわけだが。ある意味――。

 

「いつも通りだな」

 

 俺はありきたりな答えで返事をする。

 

「いつも通りって、ハクトはいつも端の方で飲んでいるじゃないですか。しかも気配を断って見つからないようにこっそり」

「ぎくり」

「最初の方に挨拶だけして、すぐに消えて」

「夜こそは我の真骨頂なので」

「そうやってすぐ誤魔化そうとする」

「うっ」

「フランドールも探していましたよ」

「お、俺の隠形を破れぬのが悪い」

「あなたの隠形を破れる人なんて早々いませんよ」

 

 俺の隠形は夜に限れば伝説の蛇も真っ青の性能を誇る。まるで世界に溶け込むかの如く。しかしどうして、こころとさとりに破られたのだろうか。全くもって謎である。

 

「……今日たまたまですけど、私は破れましたよ」

「マジ!?」

 

 嘘だあ!絶対嘘だあ!と思うものの、隠形が破れた心当たりがなくもない。さとりが来てから、俺は酒を飲んだのである。酔っぱらったせいで隠形が不安定になったのだろう。その隙を妖夢は逃さなかったわけだ。

 

「……どうしたらこころとさとりの頭を同時に撫でるような状況になるんですか?」

「よりにもよってそこ見てたのかよ」

 

 よりにもよってそこである。俺が恥ずかしげもなく(さとりの頭を撫でるときは恥ずかしかったが)こころやさとりの頭を撫でれたのは隠形によって俺の周囲が非常に見つかり辛い空間になっていたからである。そうでなければ人の、しかも女性の頭を撫でるなんて行為できるわけがない(こころを撫でるのは慣れたが)。それを、どうやら妖夢に目撃されたようである。

 

 妖夢がじっとりとした目でこちらを見てくる。俺はそっぽを向くが、暫くその目で見つめてくるので耐えかねて反論する。

 

「なんだよ。俺が女の子の頭撫でてたらわりぃのかよ」

「……別に悪くはないですけど」

「それに、俺が撫でたくて撫でたわけじゃねえし?頼まれたから撫でただけだし?」

「…………」

「よって俺はノットギルティ。きゅーいーでぃー」

「きゅーいーでぃー?」

「証明終了って意味」

「なるほど」

「なるほどってお前」

 

 本当に意味わかってんのか、と思いつつ歩みを進める。すると妖夢が突如歩みを止めた。怪訝に思った俺も歩みを止め妖夢の方へと振り向く。妖夢は俯いたままワンピースの裾を握っていた。

 

「あん?どうした?」

「……じゃあ」

「あ?」

「……じゃあ、私が頼んでも撫でてくれるんですか?」

 

 その声はあまりにも小さく、よく聞こえなかった。

 

「…………あ?今なんて言った?俺の耳が遠かったわもう一度言ってくれ」

「わ、私が頼んでも撫でてくれるんですか!?」

 

 今度ははっきりと聞こえたが、唐突過ぎて頭が言葉を処理しきれない。

 

「…………」

「…………」

 

 暫し沈黙。そして漸く言葉の意味を理解した俺は、解った上で再度訊ねる。

 

「わりぃもう一度――」

「さ、三度目はありません!」

 

 遮られた。

 

「……マジで言ってんの?」

「ま、まじです」

 

 妖夢は顔を上げる。目は潤み、頬は紅潮している。泣きだしそうに見えるが、そうではない。恥ずかしいのだろう。

 

 ……いや俺の方が恥ずかしいわ。

 

「…………」

「…………」

 

 しかし、乙女の決意を無駄にするのも忍びない。どうせ誰もいないしいいだろう。どいつもこいつも簡単に頭を差し出しすぎだろと思いつつ、こころをおぶっている右手をほどき、妖夢の頭へとのせる。瞬間、びくりと妖夢が反応するが、それは無視して撫で始める。こころやさとりとも違う髪触り、ふわふわとした感触が手に伝わる。どれくらい撫でていただろうか、流石にもういいだろうと手を放す。

 

 妖夢の顔を見るといつの間にか目を瞑っていたらしい。どことなく満足気な表情だ。

 

 俺は転生した記憶なんてないが、もしかしたら転生してて、その特典がナデポな可能性が如実に出てきた。いやでもあれって頭撫でたら惚れるだから違う?そんなことを考えるくらいには、俺の頭は混乱していた。

 

「満足したか?」

「……はい」

 

 妖夢はより一層恥ずかしそうな素振りを見せ、もじもじとつぶやく。

 

「な、なんかもう疲れたし早く人里行こうぜ」

「は、はい」

 

 精神的に疲れた。なんとなく気まずいので人里への道を急ぐ。人里までそこそこあったはずだが、その間俺たちの間に会話はなく無言だった。ちらりと見た妖夢の頬はずうっと赤かったような気がする。

 

 なんやかんやで人里の入り口に到着すると、俺は意を決して妖夢に声をかけた。

 

「ここまで着いてきてくれてありがとうな」

「いえ、幽々子様の命でもありましたし」

「……でも?」

「な、なんでもないです!それじゃあおやすみなさい!さようなら!」

「おう、気ィ付けてな」

 

 逃げるようにして妖夢は飛び立っていった。嗚呼、空を飛べるっていいな。俺もタケコプターくらい作ろうかなと思いつつ、あとすこしとなった自宅への道を歩く。人里であるためか、少しばかり明かりが灯っていた。

 

 自宅へはすぐに着いた。自宅へと着いた俺は背負ってるこころをとりあえず寝室に転がし、布団を二人分敷く。敷き終わった布団にこころを転がすと、俺も空いてる方の布団に潜り込んだ。本当は風呂にでも入りたいところだったが、面倒くさいので起きてからでいいやと後回しにする。

 

 眠りに入る。

 

「…………ふわあ」

 

 普段割と早めに寝ているせいかとても眠い。が、なんとなーく今日あったことを思い返す。……どうしたら三人の女の子の頭撫でる状況になるんだろうか?

 

「……わからねえ」

 

 幻想郷にきてわからないことだらけだ。ていうか、どうしてあんなに好感度が高いんだろう。俺なんかしたか?した覚えは正直ないんだが……。思い返してみても、高笑いしつつ戦闘してた記憶しかない。

 

 戦闘狂かよ。

 

 戦闘狂です。

 

 肯定。

 

「ハクト」

 

 そこで不意に声がかかる。こころの声だ。横を向いてみると寝たままの状態で首だけをこちらに向けて俺のことを見つめていた。無表情だからなんだか怖い。

 

「なんだ?起きちまったのか」

「起きてしまった」

 

 どうやら、不意の衝撃かこころは目が醒めてしまったらしい。

 

「寝ろ寝ろ」

「このままでは寝れそうにない」

「知るか」

 

 俺はそう言うと、こころがいる方とは逆に寝返りをうつ。こんなやつのことは無視してじゃあ寝るかと目を瞑る。すると、温かい感触が背中に伝わってきた。

 

「!?」

「これなら寝れそうだ」

 

 なんとこころが俺の背中に抱き着いてきたのである。

 

「なにしてやがる」

「ん?何って抱き着いているだけだ」

「何で抱き着いてんのか聞いてんだよ」

「これなら寝れると思ったからだ」

「意味わかんねえぞ」

「なんだ?恥ずかしいのか?宴会の時だってくっ付いてたのに」

「は、恥ずかしいとかそういう問題じゃねえ!てめえは拒否るとぐずぐずめんどくせえから仕方なくそのままにしてたんだよ!つーか自分の布団で寝やがれ!んでもっててめえも少しは恥ずかしがれや!」

「恥ずかしいということを認めているぞ」

「うるせえこのっ!離しやがれこのっ!」

 

 どうにかこころを引きはがそうとする。しかし、俺よりも小さい体に関わらずびくともしない。小さい以前に妖怪であるため、人間である俺よりも力が強いのだ。暫く四苦八苦したが諦め、ため息をつき目を瞑る。

 

 こころ俺に懐きすぎじゃない?

 

 好感度高すぎじゃない?

 

 なにがどうしてこうなった?

 

 いろいろな疑問が湧き出てくるが、眠気には逆らえない。心地よい人肌の温度を感じているのもあるせいか、すっと、俺は眠りに落ちていった。

 


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