取り残された俺の物語   作:柚子檸檬
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第五話 安寧か波乱か

 一年というものは長いようで短い。

 

 それでも俺はこの一年を通してやれるだけの事はやったと自負している。

 

 例えば人間関係。中途半端な時期に転校してきた身として注目されていた身としては、横の繋がりを作るのに然程骨を折ることは無かった。半分くらいは表面上の薄っぺらい付き合いで高校を卒業した後は無くなるかもしれないが、それは今考えるような事ではない。

 

 例えば勉強。学費だって決して安くは無い。であればと給付型奨学金の応募も考えていたが、『子どもがいっちょ前に学費の心配何てするな』と怒られてしまった。そうなれば散々迷惑をかけてしまった俺に出来る事はとにかく勉強して自分を上げる事だった。そう思うと不思議な事に勉強が昔ほど苦では無くなっていたし、俺の本棚には漫画の単行本と一緒に参考書も増えていった。

 

 そして魔法。

 

 スカート捲り事件以来、この一年間、人気のない場所で隠れて色々と試してみた。もしあれが必然だった場合、何かの拍子に暴発して大惨事にが起きるかもしれないからだ。

 

 そうしたらやはりというか、あの時吹いた強風はまぐれでもなんでもなかったようだ。『風よ吹け』と念じれば風が吹く。しかもイメージがしっかりしていれば強弱の調整も出来るし、やろうと思えばつむじ風にもなる。

 

 その過程で俺が使う事が出来るのが風だけではない事も判明した。

 

 念じれば火を起こす事が出来る。

 様々なRPGでも必ずと言っていい程よくある火の魔法だ。これは思っていた以上に使い勝手が悪い。何せコントロールをちょっとでも誤れば火災に繋がるのだから薪に火を灯す以上の火力は試す事が出来なかった。

 

 念じれば水を出す事が出来る。

 RPGで氷魔法は良くあるが水の魔法は少し珍しいかもしれない。判明しているのは本当に掌から水を出せるだけで、ウォーターカッターのようにダイヤモンドを研磨するような鋭さは無い。しかしこの水には驚くべき効能があった。萎びた花に魔法で出した水をやると次の日には元気になっていたのだ。試しに切り傷を作ってその部分に水を当てると傷がすぐに塞がった。おそらくこの水には生命力を活性化させる作用があるみたいだ。

 

 念じれば土が動く。

 これに関しては錬金術が近いのではないかと勝手に考えている。土を盛り上げて壁を作ったり、土中から鉄分のみを抽出したり、軽く地質を変化させたりと出来る事は割とあるのだ。

 

 一通り思いつく事を試した結果、一部を除いて微妙だという結論に至った。

 

 四属性の魔法が使えるなんてそれこそ漫画やゲームでいえば主要キャラのように思えるが、ちょっと考えてみて欲しい。

 

 火をつけたかったらマッチやチャッカマンで事足りるだろう。

 

 水が欲しければ蛇口を捻れば済むだろう。

 

 風を操れるから何なんだって話だ。

 

 土魔法なんて農作業や土木作業、ボーリングでもない限り実用性は皆無。せめてゴールドラッシュの時代ならまだ使い道もあっただろうに。

 

 魔法ってもっと生活を便利にするものかと思っていたが、それは現代の科学で充分代替できるものだった。SF作家の巨匠クラークが『充分に発達した科学技術は、魔法と見分けが付かない』と言っていたが、まさにそれだった。

 

「なーにしけた顔してんだ相棒(バディ)?」

 

「誰が相棒(バディ)だ」

 

 この一年間にあった出来事を整理していた俺に突如として話しかけてきた軽薄そうなクラスメイトの名は福沢拓郎(ふくざわたくろう)。軽快なノリで同性異性誰でも仲良く出来る奴で、実際に知り合いも多くて顔もそこそこ良い。転校してきた俺に真っ先に話しかけてきた奴でもある。横の繋がりを作るのに然程苦労しなかったのはこいつの存在も大きい。

 

 ちなみに俺を相棒(バディ)と呼ぶ理由は去年の体育祭で二人三脚の相手だったからだ。結果は2位と良い成績を残せたと思う。

 

「……さては好きな女でも出来たか?」

 

「っ!?」

 

 ドンピシャとまでいかずとも的を射ているだけに思わず驚いた。

 

「え、マジで? 誰よ?」

 

「いや、別に……」

 

「新里? 西沢? そ れ と も島田?」

 

「そのチョイスは何なんだよ」

 

「お前が良く見てる女子」

 

 何の躊躇いもなくそんな事を言い出す拓郎に正直ドン引きしている。本人曰く人間観察が趣味だそうだ。ちなみにチョイスされたクラスメイト3名に関して、それなりに顔面偏差値が高いとは思っている。しかし島田さんは使ってるスマホが先月発売したばかりの最新機種だから気になって見てただけで他意はない。そして残り2名は何故見てたか記憶にない。

 

「あれ、違った? じゃあ誰なんだよ」

 

「何で言わなきゃいけないんだよ」

 

「好きな女がいるってのは否定しないんだな」

 

 きっと今の俺は苦虫を噛み潰したような顔をしている事だろう。対照的に拓郎はしてやったりとニヤニヤしている。

 

「お前ポーカーフェイス下手だよな」

 

「自覚してる」

 

 あの事件以来隠し事をするのに疲れてしまったせいか隠し事をするのが苦手になってしまった。多少の事なら問題のだが、今回のように絶妙に的を射ていると思わず過敏に反応してしまう。素直と言えば聞こえはいいのかもしれないが、人間なんて基本的に隠し事をして生きている生物だ。あんまり素直過ぎても問題だろう。

 

「で? 誰よ?」

 

「言いたくない」

 

 こういう時は話を打ち切るに限る。

 

 それに好きな人がいるなんて普通は言い触らさないし、言い触らしても別段良い事なんて無い。

 

 それにあの二人(・・・・)について言い触らせるほど俺は偉くない。

 

 あれから一年経過したというのにこのもやもやした気分が晴れる事は無かった。久遠寺さんが好きだという感情は消えなかったし消せなかった。

 

 それと同時に俺の中でシズの存在がどんどん大きくなっていく。転校してからはメールの遣り取りこそするものの、直接会って話す事は一度も無かった。会おうという気にならなかったのはあの日彼女を泣かせてしまった罪悪感故か、それとも俺が彼女の事をどう想っているのかはっきりさせるのが怖いだけなのか。

 

 どちらにしろ久遠寺さんへの想いを捨てきれない癖に他の女性を好きになりかかっているとかクズ過ぎるにも程がある。

 

「あー、何か軽々しく聞いて良い事じゃなかったっぽい?」

 

「何だよ突然」

 

「お前が妙に真剣な顔してたし」

 

 拓郎は基本的にヘラヘラしながら冗談交じりにからかってくることが多い男だが、それでも空気は読めるし本当に真剣に悩んでいると察したら途端に真顔になり出す。

 

「ま、本気で悩んでたら話くらいは聞くぜ。カツサンドと引き換えにな」

 

「ククッ、カツサンドは俺も好きなんだ。せめてタマゴサンドあたりにしてくれ」

 

 だから個人的にこの男は嫌いじゃない。

 

 これらがこの一年で形成された俺の新しい日常。

 

 あれから異世界へ召喚されてしまったクラスメイト達の安否は未だに分からない。魔王討伐は順調なのだろうか。まさか、あの夢のように誰かが犠牲になってしまったのだろうか。最も恐ろしいのは全滅して死体や遺品さえ遺族に残さずそのまま朽ち果てる事だろう。

 

 そういった様々な問題を棚に上げて出来上がったのが今ある仮初の安寧。

 

 これ以上この件で自分に出来る事などないと言い聞かせ続けた。

 

「何だこれ……?」

 

 ――――帰り道、路上に放置されている甲冑を見つけるまでの話だが。








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