666部隊とは兵士の育成、ならびに育成方法を模索するための実験部隊だ。
転生者の教育なども行うが普段は兵士の訓練などが主な任務である。
そんな部隊の隊長に転生者のオレが就いていることは非常に不可解だが、それになんだかんだと従ってくれる隊員たちの心の内も不可解なものだ。
まあ、どんな理不尽な命令であろうと、慈悲深きレムナに逆らえる奴はいないと思うけどネ。
無限世界で、六人の管理者に服従するのは酸素を吸うレベルでの常識。
なので、それ絡みでトラブル起こすのは外からやって来た転生者だけだ。
つまり革命という名の反逆である。
しかし、管理局の兵士と転生者の間には天と地ほどの力の差が――サ〇ヤ人と戦闘力5の地球人ほどの開きがあり、ましてや主役補正のご都合主義なんて存在しない実に公平な世界だ。
彼らが例外なく得意としてきた交渉術という名の一方的な暴力は通じない。
そのように無知な反逆者たちの未来がどうなるかなんて語るまでもない。
オレがここに来たときもそんな事件が起きた。
というか、同期の転生勇者様たちがクーデターを企んで誘われた。
生前は散々な死に方をしたオレは勇者というネームだけで拒絶。
また過去の経験から他人のために何かするなんて真っ平ごめんだと、人間不信の中二病真っ只中だったので話に乗らなかった。
じゃなかったら参加してたかもしれない、その程度の軽いノリだったよ。
前世はそれで何とかやっていけたんだよ……オレも彼らもさ。
反乱はわずか数十分で鎮圧され、危うくオレも一緒に処分されそうになった。
協力しないが口外もしない、頼むから巻き込んでくれるな……というあやふやなスタンスで報告もしなかったオレは、管理局からすれば反逆者スレスレといったところか。
オレが管理者、そして管理局に逆らうことだけは絶対にしないと誓ったのは、翌日に連れていかれた転生体製造施設……牧場と呼ばれる設備を見せられたからだ。
昔バイトで行ったことのある食品工場にも似たクリーンで広い部屋。
そこには、オレの肩ほどの高さがある箱型の機械が無数に並べられ置かれていた。
箱の中に電池のように取り付けられていたのは、体毛をすべて剃られ、肉体の機能をほとんど削ぎ落された勇者や聖女や神……転生者たちの成れの果てだった。
自殺は許されず、男も女も機械で無理やり腰を揺さぶられ生殖行動を強要されていた。
気がふれたような笑い声や呻き声をあげる妊婦たちがベルトコンベアの上で出産し、運ばれる過程で加工され高速成長して、オレたち転生者の体となる魂のない顔無しの赤子たち……。
人どころか生き物としての尊厳すらなかった……オレはその場で胃の中身を全部もどした。
地獄絵図という言葉ですら生ぬるい、今でも夢で見るくらいトラウマものだった。
自分が本当に危ない立場で運が良かったと実感できたのは、同期だった連中の末路を見たとき。
彼らは設置前らしく、作業台に乗せられ箱に収まるようにカットされている最中だった。
オレがいることに気づくと「裏切者!」「貴様のせいだ!」「呪ってやる!」そう泣き叫びながら口々に罵ってきた。
オレ関係ないし、やんちゃしたお前らの自業自得だろうが……と、返す気力もなかった。
吐きすぎて、気分が悪かった。
そのエログロ体験のすぐあとに女を買える店にいったのは……特殊な性癖があったわけではなく、どうしようもない恐怖で性欲だけが狂いそうなほどに高まっていたからなんだ。
誰かに慰めてほしい、心が女の柔肌と匂いを強く欲していた。
そこに風呂桶一式もって出てきた褐色肌の風俗嬢が……クロエだったわけで。
相手にとって不足なしどころか、前世では勇者に総取りされて触れることすらできなかった極上美人の登場に、オレはろくに挨拶もせず興奮のまま豊かな胸に飛び込んで押し倒した。
ああ、元魔王と最後まで致してしまった……しかも延長して一晩貸し切りでさ。
クールな美人さんが、可愛らしい顔を見せながら掠れた声で「もっとして」と耳元で懇願してきたらギンギンにもなるだろ?
え、命のやり取りをした相手なのに気づかなかったのかって?
うん……だって前世の奴は、プラモデルみたいに筋入った四角い筋肉をもつ二メートルを超える大男だったから。
シュ〇ちゃんのような角ばったゴリラ顔にツノやトゲを生やしたモヒカンの化け物だったん。
髪と目の色以外は共通点なんてまったくなかったよ……ちくしょう。
クロエが666部隊に配属されてから聞いたのだが、奴は管理者に逆らい女の肉体に変えられて風俗送りになっていたらしい。
オレが行ったお店は、反抗的だけど面白い資質があって、使い捨てにするには勿体ない転生者などをメス堕ちするまで躾けるTS専門の風俗店だった。
この無限世界は狂ってる……オレは再会した奴に抱きつかれ股間をさすられ怖くて泣いた。
ちなみに、クロエを完全に
もう、ぐうの音もでねぇよ……。
◇ゴブリンの住処前の平原
とまあ、オレは昔の体験談を集まっている新入り転生者たちに話した。
野営地の外、これから初訓練となるゴブリン狩りをする注意事項のついでにだ。
もちろん、恥ずかしいプライベートの部分には触れずに警告として語っている。
反応は半々。
中には不敵な態度で笑っているやつもいるが別に問題ない。
仮にこいつらの誰かがここにいる間に事件を起こしても、いつものことで処分されるだけだ。
管理者レムナは慈悲深く平等。
行動の代価は自分の命と尊厳なんだから慎重になる必要がある。
頭に自信がないなら、思考を捨てロボットのように命令に従うのが無難だ。
無限世界ではオレたち転生者なんてアリンコ以下のゴミ屑同然なのだから。
「ん、どうした隊長? 私の顔などじっと見て……ははんっ、さては惚れたか?」
冗談な雰囲気でいながら、そうあって欲しいと本音がうかがえるクロエは色々と残念だ。
でも、防寒コートからのぞく褐色の太腿には一瞥する価値はあると思う。
空を見上げるとシンシンと降っている。
干ばつするような晴れの日かと思いきや突然降りだした……大雪が。
先ほどクロエは、オレの話に一々頷きながら転生者たちの足を折って周っていた。
倒れて雪に埋まる転生者たち。
彼女の判断基準でオレの話を聞く態度じゃなかった奴の足をローキックでヘシ折ってた。
というか全員の足を折ってたから、クロエがそういう気分なだけだったのかもしれん。
その中にはオレを殺しそうな目で見ている例の女神もいたが、足を折ったのがクロエだと気づいた途端に「お姉さまっ!」と嬉しそうな声をあげ縋りついていた。
クロエに殴られ血反吐を吐きながらも、うっとりとしたメスの顔をしていたのは気のせいだと思いたい。
「ああ、口に昼飯のソースがついてるぞ」
ついてないが何となく。
クロエは頬を染めると慌てて後ろを向き、ゴシゴシと口を拭って小さな手鏡を取りだした。
乙女なのかガサツなのか判断に苦しむ。
転生者たちのほうを見ると、七式兵装の魔術式ライフルを各自が受け取り、ゴブ郎さんから使い方のレクチャーを受けているところだった。
ゴブリンを狩りに来て、ゴブリンのゴブ朗さんが指導しているのは中々にシュール。
オレと同じこと感じたのか、なんとも微妙な顔した転生者がちらほらいる。
野生のゴブリンとゴブ朗さんでは、世紀末モヒカンとケン〇ロウくらいの違いがあると思えばおかしくはないんだけどネ。
段取りも済んだようだ。
オレは雪降る中、彼らの前に立つとゴブリンの住処である巣穴を指差した。
「では、諸君らの初任務だ。あのゴブリンの群れを遠慮なく殲滅してこい」
オレの命令のもと三十人ほどの転生者たちがライフル片手に走っていく。
とてもとても、やる気のない様子でノタノタと。
気持ちは分かるよ、オレもここに来た当初は同じような感じだったから。
三十秒後、新人転生者たちは全滅し初訓練は終了した。
愚者は経験から学び、賢者は歴史から学ぶという。
しかし転生者は死んでも直らない。