俺は目の前に力なく倒れた男を見下ろしていた。男は最後に何かを言おうとしたようだが、俺の一撃に阻まれてなにも喋る事が出来なかった。俺は少量の血が滴る拳を見て、どんどん自分の顔が青くなっていくのを知った。俺の今の顔は完全に蒼白しているだろう。そして、俺の頭の中にはある事しかなかった、それは。
この後の事を何も考えていないという事だ…………うん、俺何してるの? なんで咄嗟に見知らぬ人間? を殴ったの? あの人? 絶対に何も悪くないと思うんだが……いや、まずさ俺は何故殴った?
俺が自分がどうしてこんな行動に出てか分からず悩んでいると、氷の家の扉が開き外からグラスが入ってきた。グラスは俺の方を見て安心したかのように笑ったが、すぐに俺の表情がすぐれないのに気付いたのか……急いで俺に近づいて声をかけて来た。
「おいアッシュ! どうした顔色悪いぞ!? 誰に……やら……れ、た?」
グラスは俺に話しかけているうちに足元の転がる男の存在に気付いたようだ。そしてグラスは俺の拳を確認する……そこに付着しているのは真新しい血液で、再度視線を動かし、男が頭から血を流している事にも気づいてから……グラスは優しく声をかけて来た。
「…………アッシュ……自首するぞ、大丈夫だ。私も頑張ってやるから、罰が軽くなるように頑張るからな、だから……」
俺の肩に手を置いて、グラスは微笑みながらそう言った。その表情は母親のようで、じゃなくて……俺、捕まるの? 罰を受ける事は確定なのか? まず誰が、罰するんだよ。それより有罪判定なのか…………。
その時、俺背中を何者かが叩く。俺はそちらに振り向くと、後ろにはヴォルフが居て、そのままヴォルフは男の方を指差して。
「おめーら、ばかじゃないか、です。こいつまだ生きていやがるぞ、です」
神は俺を見捨ててなかった。俺はすぐにグラスの方に向き直り、精神世界にある霊薬を出すように頼む、精霊が作った霊薬があの中にはある筈で、それを使えば男はすぐ回復できるだろう。そして、男が起きたら謝ろう。
男にそれを飲ませると、瞬く間に傷は治り男はそのまま頭を押せえて立ち上がった。周りを見渡し、二度ほど瞬きを繰り返した後に男は俺達に声をかけて来た。
「すまない。ここは何処だ? それに貴様らは何者だ? 教えてくれ……我にはここに来る前の記憶が無いんだ」
俺はその言葉を聞いた途端に、体が勝手に土下座をした。だって、その言葉を聞いて罪悪感が襲いかかってきたからだ。いきなりの奇行に驚いた男は、言葉を濁らせながら俺を見ていた。
「何故、貴様はそんな行動に出るんだ? 頭を上げてくれ、何か思うところがあったのか?」
優しい言葉が俺に突き刺さる。罪悪感に苛まれながら俺は顔を上げて、男の方を見てる。男は心配そうな顔をしており……その顔を見ると自分がさらに恥ずかしくなった。
「……お前の記憶が無いのは俺のせいかもしれない……頭を強く殴ってしまった」
「この瘤は貴様がやったのか……だが、貴様も何か考えがあったのだろう? 意味もなく殴るなんて者は普通居ないからな。だが、これは関係ないと思うぞ? 我はそこの二人に助けられたことは覚えている。あの幽霊達に襲われていた所をな、正確には我は幽霊達に襲われる直前からの記憶が無いんだ……だから、気にするな。お前は悪くないと思うぞ? それより、分かる事だけでいいんだが、教えてくれないか?」
なんだよ、この聖人。何で殴られたのに平然としているんだ? おかしいだろ…………本当にすいませんでした。殴ったのに理由はないんです。体が勝手に、と言えば、言い訳臭くなるのだが、それは本当で……。
俺はともかくこの男の質問に答える事にした。それが、今の俺に出来る罪滅ぼしだ。
「ここは、冥界だ。冥界の女神エレシュキガルの死者の国……普通に来る事が出来ない場所。お前を襲ったのはガルラ霊、エレシュキガルの為に働き生きている人間を捉える精霊だ。最後は俺達の正体だよな」
「あぁ、そうだ感謝する……そうだ、先に我の名前を教えておこう。我はネルガル、クターという都市で都市神をやっていた記憶はあるんだが、自分がどんな神だったのか、どういう性格をしていたのか、何の権能を持っていたかは分からない。よろしく頼む」
そうやって男、ネルガルは自分の事を紹介した。
俺はネルガルという名前には心当たりがある。ネルガルとは夏の太陽を司る天空神と同時に疫病の神……軍神とも呼ばれており、この神を崇める都市クターは戦争で負けが無いようだ。
ギルの都市であるウルクと交流が盛んであるが、ネルガルには会った事が無かった。俺はネルガルが言っていることには嘘が無いように思えたが、念のために魔力を見る。
そして理解した。この男の持つ魔力は規格外で、人間が持てる物じゃないと……そして、感じらるのは……俺とグラスの天敵とも言っていい炎の気配……それも、太陽の気配だ。俺はそれを確認したことで嘘はないと知ったが、同時にこの男と敵対するのだけは何が遭ってもあってはいけないと理解した。
「ネルガルか、覚えたぞ。俺はアッシュ。この雪白の髪をしたのはグラスで、この幼女がヴォルフだ。ここには、俺の主であるギルガメッシュに冥界を探索しろと言われて来た。俺が今、左腕が無いのは冥界に奪われただけだから特に気にしないでくれ」
ネルガルは俺の言った内容を整理しているようで、少しの考える事に没頭していた。その間に俺はネルガルの事をグラスに念話で説明した。グラスも名前を聞いた時点で同じことをことを考えていたようで……ついていけないヴォルフだけはつまらなそうに、氷の地面に絵を描いていた。ネルガルは考えがまとまったのか、提案だと言ってから、その内容を話し始めた。
「なぁ、アッシュ……我もお前達に付いていっては構わないか? お前は冥界に腕を奪われたと言ったな? そレが確かなら、我の記憶も奪われたかもしれない。それに神である我の記憶を奪える存在といったら、同じ神であるエレシュキガルでなければ不可能だと思からな。我も一応は戦えるはずだ……戦力にはなるだろう、ついていってもいいだろうか?」
それを聞いた俺グラスたちに確認を取る。俺は戦力にもなるし、記憶がないというのは不便だと思うから取り戻してやりたし、ネルガルを連れていくのには文句が無いんだが、グラスたちがどう思っているのかはわからない。だから聞いてみたが、返ってきた答えはグラスらしいものだった。
「アッシュがいいなら私は構わないぞ? それにこいつが嘘を言っているように思えないのは、私も同じだしな……それにヴォルフがこいつは悪い匂いがしないと言っている。こいつの嗅覚は頼れるからな、信じていいだろう」
そうグラスが言った後、ヴォルフは俺の目を真っすぐと見つめてきたかと思うと、俺の肩に乗って耳元で話しかけて来る。
「嘘じゃねーぞ、です。こいつは良い奴の匂いがするからな、です」
俺はどうしてヴォルフがそんな行動に出るか分からずにいたが、気にしても仕方が無かったのでこの魔進める事にする。
「……なら決まりだな……これからよろしく頼むぞ? ネルガル」
「了解だアッシュ、期待していろ? 記憶はなくとも我は神、足手まといにならないと、誓わせてもらおう」
そうして俺と、ネルガル拍手を交わし、冥界の第三の門を目指す事にした。
それはそうと、一つだけ気になることがるんだが…………。
「なぁ、ヴォルフ? いつまで乗ってるんだ?」
「? おかしなこというアッシュだな、です。飽きるまでだぞ、です」
「降りる気は?」
「あるわけねーぞ、です」
「だよなー」
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聖杯使えば行けるかな?