女だけどアムロ(女)になったから頑張って一年戦争する   作:めんつる
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身勝手な人間達

「ガルマ……ガルマよ」

「う…………!……はっ……お父様!!?」

 

 サイド3の病院のベッドから跳ね起きた私は、目の前にいる父に驚愕した。

 杖を片手に私の隣に寄り添う父。体が悪いというのに歩いてこられたのだろうか。

 そんな疑問を抱きながらも私は周囲を見渡す。

 

「……具合はどうだ。ガルマ」

「え、ぁ、は……はい……体の痛みは引きました……」

「……そうか…………ガルマよ……私は……」

「お父様……椅子に!」

 

 父は私の言葉を聞き入れると、ゆっくりと寄り添う手を離し、椅子に座る。

 私の父上とは言え、年老いている。このような場所で立たせておく訳にはいかない。

 椅子に座った父は私の情けない姿を見て、俯いてしまった。

 

「……お前が無事に戻ることを願っておったが……戦争は無慈悲なものだ……」

「お父様……」

 

 父の呟きに、私は目を背けた。大火傷を負った右腕は既に操縦桿を握れるものではない。

 だからといって父に頂いた腕だ。切断して義手にするなどもっての外。

 ……私はアムロ・レイに不覚を取った時点で、軍人としての役割を失った。

 

「申し訳ありませんお父様……恩知らずの連邦を潰すことが出来ず……この様な……」

「いい。こうして戻って来れたのなら、儂は何も望まん……可愛いガルマよ」

「お父様……」

「何時の日だったか、儂は言った。体を粗末にするなと……今になって思い出した」

 

 父……いや、お父様は、サングラス越しではあるが涙を流している。

 私はその顔を直視することが出来ず、掛け布団を握りしめた。

 

「お前はやはり……学者に」

「それは……それは違いますお父様」

「……」

 

 私はお父様の顔を見ることが出来ず、思わず口走った。

 お父様の視線がこちらに向くのを感じる。私は布団を握りしめながら続けた。

 

「僕は士官学校に入学することで、シャア・アズナブルという親友を見つけました」

「シャア……お前を救った男か……」

「はい。僕の大切な友人です。彼が居なければ今頃僕は……」

「……ガルマ……」

「……お父様……分かったことがあります」

 

 私は、お父様の顔を改めて見る。お父様も、私を見た。

 その目は確かに、私……いや、僕の目と同じだ。血の繋がった親子であることが分かる。

 父もまた、ザビ家の猛々しい血を引き継いでいるのだ。

 

「……戦争、この忌まわしい戦争を、終わらせるべきである」

 

 私がそう言うと、父は少し目を見開いた。

 

「……最早これは、独立戦争ではない。独立と銘打った、人類の抹殺です」

「それは違うなガルマ」

「っ……!」

 

 病室の扉から、聞き慣れた声が聞こえた。演説じみた声……。

 振り向くまでもない、兄、ギレン・ザビだ。

 

「総帥……」

「ギレンでいい。監視の目はない。それにお前はもう軍人ではない」

「え……」

「11月1日をもってお前はジオン公国軍を除隊されている。そう畏まる必要もない」

 

 そう言ってギレン兄さんは今時珍しい紙媒体を僕に見せる。

 そこには、確かにガルマ・ザビが除隊された、と記されていた。

 ジオン軍の公文書だ。偽りはない。

 

「不満だろうが事実だ。受け入れろ」

「……ええ。分かっています、どちらにせよこの腕では……」

「その通り、公国の役に立つには不足だ。……そうですな?父上」

 

 ギレン兄さんはお父様を睨むように見る。お父様も同じ目だ。

 

「ああ。その通りだ……ギレン……。公務はどうした」

「既に終えております、愛弟の見舞いの為に早く切り上げて参りました」

「……殊勝な心掛けだが、見舞いの品がその紙切れとは感心せんな」

「そうでしょうか。今のガルマが最も欲する紙切れではないかな」

「兄上……何を!?」

 

 ギレン兄さんとてその様な言葉は侮辱だ。そう思い兄さんを睨むと、

 その目をそのまま返され、指をさすこと無く部屋に声を響かせる。

 

「想い人を失った程度で抜け殻になる者に地球攻略を任せられん!捕虜を取ったかと思えば反ジオン勢力のエッシェンバッハなどに心を揺るがすとは、反逆に等しい行為である!」

 

 ギレン兄さんの怒鳴り声が狭い病室に響く。その一言一言が突き刺さる。

 事情を知らんからそのようなことが言える。そう心の中で叫ぶも、口には出なかった。

 

「……これが公国「上層部」の答えだ。兄としては心苦しいよ」

「兄上……!しかし私は」

「二度も言わせるな!人類の抹殺を企てる組織に縋り付くのは貴様とて辛いだろう!」

「っ……」

「父の言う通りだったなガルマ。お前はこの世界に居るべきではない」

「兄上!あなたは何をお考えなのですか!何故アースノイドに目を向けない!?」

「向けているさ、向けているからこそ我々が管理運営するのだよ。ジオンにはそれが出来る」

 

 ギレン兄さんにやっとの思いで反論する。しかしこの男は動じない。

 ドズル兄さんのような直接的な威圧ではない、内面を射抜く威圧を僕に向けた。

 

「……っモニター越しでしか地球を見ていないのに何故言えるのです!?」

「直接見れば地球が分かるというのか。地球数百億人を見れば良いのだろう?」

「……」

「見ろと言うなら見てやろう、お前が見た苦しむ民の数千倍の人数に目を向けてやろう。しかし私の考えは変わらんよ」

「何ですって……」

 

「大衆を変える時に視野を狭めては何時まで経っても大衆は変わらん。部落の世話は部落の長がやるものだ。国王、総帥、司令官などの立場にいる者が何故極々一部の俗物の世話をせねばならんのだ?貴様が見たニューヤークの民はなるべくしてなった愚か者共だ。そう吐き捨てる事ができん奴に地球侵攻の長を任せることは出来んな。今は亡きエッシェンバッハの令嬢と共に駆け落ちでもしておけば良かった。私は敢えてお前にそう言うよ」

 

 イセリナを侮辱した。その瞬間僕は無意識のうちにギレン兄さんに突っかかっていた。

 ギレン兄さんの整った制服を思い切り掴み、その光のない目を睨みつける。

 

「イセリナを侮辱するな!!彼女は僕の為に命を散らしたんだぞ!!」

「そのイセリナの命を散らせるような愚を犯したのはお前だ。ガルマ」

「っ……!」

「私は言ったはずだ「木馬以外の件で問題はないか」とな」

「それは……」

「イセリナ・エッシェンバッハを保護しろ、何故そう伝えなかった」

「……」

 

 言葉に詰まる。するとギレン兄さんは鼻で僕を笑った。

 

「ともかく、シャアに感謝するのだな。無事で良かったよガルマ、失礼する」

「……」

 

 みすみすイセリナを死なせたのは僕自身だ。そう言いたいのか。

 兄さんは。

 

「……ギレンよ」

 

 するとお父様がゆっくりと立ち上がり、杖で地面を強く突きながらギレン兄さんの前に立つ。

 

「何か、父上」

「ガルマはよく頑張った、そう言えんのか」

「お言葉ですが父上、ガルマは我がジオンを」

「正しき道を行くガルマを!!!侮辱することは許さん!!!!」

「っ」

 

 お父様の、デギン公王の怒鳴り声が病室を揺らす。その一声はまるで火山。

 いや、鉄槌とも言える声だ。部屋を揺らす怒声にギレン兄さんは一瞬たじろぐ。

 

「貴様らは儂の血を引く兄弟……それを忘れたか!!!」

「……忘れてはおりません父上、しかし私はデギン公王の生き写しである。それも事実です」

「ほざくな俗物が!!身近な兄弟すら蔑ろにする者が何故儂を生き写しておるか!!!」 

「……」

「ジオン・ズム・ダイクンは地球とコロニーの平等を謳っておったのだ!!貴様は何を考えておる!!」

「私も同じです、方向性は違えど行き着く先は自治権を」

「独裁を平等と主張するか貴様はァ!!!」

 

 杖で兄さんを殴ることもなければ、近くの物に当たるような事もしない。口だけの折檻。

 ギレン兄さんの頭の中では既に反論の文言が思い浮かんでいるのだろう。

 しかし、それを言わずにギレン兄さんはバツの悪そうな顔をして黙り込む。

 

「人を行き着くところまで導き、貴様は最期の人類に何を見せるつもりか!!!」

「……」

「既にこの戦争の勝利者になるべき者など居らん……居るとすれば、貴様一人よ!!」

「ええ。私はその惨めな勝利者を目指しております。私に賛同する者と共に……勝利者になれば善いのです」

「……立場の中では貴様は儂の息子だ……しかしな……」

 

 お父様はギレン兄さんを指差す。

 

「最早貴様は……お前は、儂の息子ではない」

「私も、こうなった以上父を人とは思っていませんよ」

「兄さん!!何故そんな事を言うんです!!父は」

「既に人類も時も動き出しているのだよ!ガルマ!その枯れ果てた老いぼれを助けてやれ、それが兄として軍の責務を失った弟に与える家族の頼みだ!既に父子の縁が切れた私に、父を人として導くことなど不可能!!父を野垂れ死にさせたくないのなら貴様が父を助けてやれ!!いいな!!…………トワニング、入口に車を寄越せ。セシリアに今から戻ると伝えろ」

 

 ギレン兄さんは高らかに、そして誇り高く自分を見せ、僕にそう命令して立ち去った。

 思い返してみれば、昔からそうだったのかも知れない。兄ギレンは野心家だ。

 自分自身の野望をジオン・ズム・ダイクンの野望と重ね、実現させる野心家だ。

 ……だが僕に兄さんを責める資格など無い。

 

「……ギレン兄さん……」

「ガルマ……儂の責任だ。ギレンを正しき道に導けなんだ」

「いいえ、お父様には何の非もありません……まして兄さんにも……」

「……」

「ギレン兄さんは高い志を持っているのです……非があるとすれば、その志です」

「……お前は優しい子だ。故にそう言えるのだろう」

「いいえ、僕もまた、非道い息子です……」

 

 そう言うと、お父様は僕を優しく抱きしめてくれた。

 僕はその父の優しさに、身を寄せるだけだった。

 

 

 ★

 

 

「……アムロだけでなく、自分も同じように戦える……そう証明したかった?」

「……はい」

「セイラさんが……アムロ、君はどう思うね」

 

 何故私に振るね。

 

「……セイラさんがそう思うなら、そうなんでしょ?」

「投げやりだな」

「私にもわからないですよ。……お咎め無しには出来ないんですよね?」

 

 ブライトさんは頷き、ミライさんの方を見る。

 ミライさんも深刻そうな顔だ。まさかセイラさんがって感じだろう。

 私も殴ったはいいが、理由はセイラさんのみぞ知る。

 何にせよ、ガンダムを勝手に乗り回したっていう所が、一番の罪だろう。

 

「そうね、このまま無罪放免にはできないわ、テム技師にも迷惑をかけたのだから」

「……反論はしません」

 

 セイラさんはだんまりだ。反論しない。牢屋に放り込むならしてくれ。

 そう言わんばかりの反応だ。いや、この顔……というかこの感じ?

 むしろ牢屋に入るのが狙いなのだろうか?そんな気がする。

 

「3日か2日位は反省してもらうって感じですかね?」

「ええ。そうでなければ、他の人への示しがつかないわ」

「……決まりだな、3日間の独房入りを命ずる。セイラさん、いいな?」

「ええ。そうして下さい」

「……」

 

 私はセイラさんの目を見る。セイラさんもそれに気付き、目を向けた。

 ……やっぱり、何か目的がある。そんな感じの目つきだ。

 

「ブライトさん、あのー……」

「何だ」

「独房って、何処です?私が連れて行きますよ」

「そうか、助かる。Cブロック47番通路、捕虜収容ブロックの隣だ。……殴るなよ」

「もう殴りませんよ、殴る方も痛いんです」

「……全く。近々説教してやる、ほら、鍵だ。あとで返すんだぞ」

 

 ブライトさんが軽く頭を掻きながらシッシと私に命令する。

 私はブライトさんに教わった敬礼をしてから、セイラさんの背中を押した。

 ……疲れた背中だ。服越しに分かる程体温が高く、それに足元がふらついている。

 

「アムロ……」

「何が狙いです?」

 

 私はブリッジを出てエレベーターに乗ると、セイラさんに話しかける。

 するとセイラさんは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに私に真剣な顔で話す。

 

「狙い?特に無いわ」

「嘘でしょ、何となく分かります」

「……あったとしても、あなたが賛成するとは思えないわ」

「……」

 

 セイラさんは頑なに言おうとしない。無理をしている顔であるのは明らかだ。

 ……言わないなら仕方がないか、どっちにせよセイラさんとはちょっと話したかったし。

 

「……」

「……」

 

 話したかった、と言ったけど、何を話せばいいのかまでは分からない。よくある話だ。

 ただただゆっくり降りるエレベーターの中で重苦しい空気が漂う。

 チラリ、と目をセイラさんの方に向けるが、セイラさんは何を考えているのか、まっすぐ前を見ている。

 すると、こちらの視線に気がついたのか、顔をこっちに向けた。やっぱりかなり疲れているようだ。

 いつもの凛々しい目を無理して作っているような視線だ。

 

「何?」

「え?あ、いや……」

「……モビルスーツ」

「……??」

 

 その疲れ切った瞳を私に向けて、セイラさんは呟いた。

 

「初めて乗ったけれど……こんなにも辛い乗り物なのね」

「……ま、まぁ、楽ではないです……」

 

 よく見たらセイラさんの額に拭った血の跡が見える。乗っている時に何処かぶつけたのだろう。

 セイラさんはため息混じりに呟くように私に問いかける。

 

「……アムロは、ガンダムに拘りを持っているのね」

「……へ?」

「ガンダム。お父様の作ったモビルスーツ」

「え、えぇ。まぁ……」

 

 ……いきなり何を言い出すかと思ったが、やっとセイラさんが口を開いたんだ。

 私は頷き、セイラさんの顔をはっきりと見る。

 すると、青い瞳のシャアの妹は、シャアのように口角を上げた。

 

「はっきりした事があるの。あのモビルスーツに乗って」

「はっきり?」

「……ええ、私はテキサスコロニーで育った、シャア……あの人と一緒に」

 

 てきさすころにぃ……っていうコロニーがあるらしい。当たり前のように言われるが分からない。

 私は斜めにかしげ始める首をこらえ、相槌を打つ。

 

「テキサスコロニーの事は知っているわね?」

「へ?あ、え、えぇ、まぁ。テキサスみたいなトコでしょ?アメリカの」

 

 話の腰を折らないように私は適当なことを言う。するとセイラさんは少し微笑み、頷いた。

 

「ええ。地球世紀、開拓時代のテキサスを再現したコロニー。そんな所でも大型重機はあった」

「……え、えぇ。まぁそりゃ、あるでしょう」

 

 地球世紀っていうのが何なのか、今アムロの記憶を掘り起こす暇はない。

 とにかく、セイラさんが言うに、ものすごく辺鄙な場所のコロニーでも重機はあったと。そう言いたいらしい。

 私は目を逸らしながらも頷く。

 

「……ガンダムの操縦系は大型重機の比ではないほど複雑だったわ」

「う……」

 

 真剣な目が突き刺さる。

 

「カイは重機や大型機械の操縦に慣れている、ハヤトはリュウさんやカイのサポートがあるから分かる」

「……」

「……でもあなたは、フラウ曰く部屋から碌に出ない引きこもりだったそうね」

「……え、ええ」

 

 失礼な。と反論したいが、突き刺さる瞳がそれを拒む。

 やっぱりこの人シャアの妹だ。突然畳み掛けるように尋問される。

 

「だ、だったら何なんです……!?あなたにガンダムの操縦を教えろって言いたいんですか……!?」

「いいえ。私には無理よ、ただ、知りたいのよ。初戦でザクをどうやって撃破できたのか」

「せ、説明書があったんです!ガンダムの……読んだでしょセイラさんも!」

「読んだわ、読んであの有様よ……でもあなたはお父様のサポート無しで動かすことが出来た」

「……それは……」

「どうして?説明書を読むだけで出来る操縦ではないはずよ、素手でザクを撃破なんて」

 

 微笑み。そう表現したが訂正しなければならない。この人の笑みは人を黙らせる笑みだ。

 私はその不敵な笑みに圧倒され、シャアの血筋を持つ者にまたしても黙らされてしまう。

 今回はガルマさんのような助け舟がない。というかいつになったらCブロックに着くのだろう……?

 

 私はセイラさんの瞳に突き刺されながら考える。そう言えば何で私はガンダムをいきなり動かせたんだろう。

 考えてみればおかしい話だ。ザクを見つけ、その時点で説明書なんか読んでなかった。

 それなのに操縦桿を適当にガチャガチャ動かすだけでザクをタコ殴りにできていた。不思議な話だ。

 今日のあの青い奴との戦いでも何回か素手で殴ったり腕を振り回したりしていたが、思い返すと複雑な操作だ。

 だというのに動かせた。初めてガンダムを動かしたというのに、普通に……。何故?なんで?why?

 

「アムロ?」

「……すみません、ちょっと、答えられないです」

「……フフ。そう……いいのよ」

 

 私が諦めたように言うと、セイラさんの不敵な笑みが元に戻り、優しい微笑みに戻る。

 私はきょとんとした顔をすると、クスリとセイラさんが笑った。

 

「……い、いいんですか?」

「ええ。……お互いに答えられない事が多いわね」

「……そ、そうですね……」

「いつか、互いに互いの事を包み隠さず話せるようになりたいわ」

「……え、ええ。全くです……」

 

 私は吹き出た汗を袖で拭う。すると、タイミングを見計らったように底部、Cブロックに着いた。

 エレベーターが開くと、倉庫のような薄暗い廊下が顔を覗かせる。

 声が響くような、誰も居ない場所だ。

 

「……暗いわね」

「電気くらい付けなさいよって……スイッチ……無いか」

 

 スイッチがないんじゃ仕方ない。ちょっと薄暗い空間をゆっくりと進む。

 ……薄暗い廊下の壁には矢印で「捕虜収容ブロック」と記されている。

 たしかにこの先の道を右に曲がった所からガラの悪そうな話し声が聞こえる。

 ……ガラが悪いと言うか、一人はお爺さんみたいな年老いた声だ。男の人らしい。

 

「営倉って言う所かしら」

「えいそー?……まぁ、捕虜ぶち込むところですね」

「牢屋ね、所謂……」

 

 セイラさんはそう言ってブロック内を見渡す。まず目にしたのは監視カメラだ。

 ……じっと監視カメラを見つめている。

 

「……」

 

 すると、セイラさんは私に耳打ちした。

 

「動かないわ、あの監視カメラ……おそらく今は誰も見ていない」

「そうなんですか?」

「ええ……ホワイトベースの人員上監視員に割く人間は居ないはず」

 

 すぐに察しがついた。この人、捕虜と話をするつもりらしい。

 やめたほうが良い、と言う前にセイラさんは私を壁に付け、私の手を握る。

 

「止めないで頂戴……私は気になるのよ、兄……兄さんがどうなったのか」

「兄さん……シャアが?」

「ええ……ジオンの軍人なら知らない人間は居ない筈……聞き出したいのよ」

 

 その必死さ、というより、兄妹として絶対に知っておきたい事だという理解からか。

 私は無意識のうちに頷いていた。するとセイラさんは「ありがとう」と感謝の言葉を伝える。

 そして、ゆっくりと捕虜が打ち込まれている牢屋の前に立った。

 私も話の内容が気になる。周囲を警戒しながら私もセイラさんについて行った。

 

「……」

「……」

『……何だ、まだ飯を食ってる最中だぜ?』

 

 牢屋の覗き窓からは白髪の男の人がパンを囓っていた。かなり老けている。

 下手したら妻子持ちなんじゃないかというような風貌の男性だ。

 私達を見るや否やその男は鼻で笑う。

 

『何だ、女二人か』

「……聞きたいことがあるの」

『尋問は然るべきところでやるべきだぜ?なぁ!コズンさんよ!』

『全くだ、俺達は戦闘で傷ついてるんだ、早めに休ませてほしいな』

 

 白髪の男性と、隣の部屋の男の人は意外と気が合うのか?と思ったが、

 どう見てもこの白髪の人はガラが悪いようには見えない。この黒髪の男に合わせているのだろう。

 ……私はそう思うと、黒髪の男の人、コズンとかいう人の部屋の前に立った。

 

「……」

「……お前、アムロ・レイだな?」

「!」

「うちの部隊長から聞いてるぜ、ニュータイプの嬢ちゃんなんだってな」

「……ニュータイプ、まぁ、疑惑はあります」

 

 一度捕虜になった身だ。ジオンの中で有名人なのは仕方がないことなのかも知れない。

 だが、何でジオンの人がマチルダさんが言った「ニュータイプ」の単語を?

 

「……あの青いのは?」

「グフだ。どうせ尋問で聞かれるだろうから名前くらいは言っておいてやる」

「……グフ……ねぇ……」

 

 変な名前。

 

「……変なもん隠し持ってたりしないでしょうね」

「隠し持ってたらどうする?」

「……」

「おぉ怖い……安心しろ、身体検査くらいは受けてる。怪しいものは持っちゃいねえよ」

 

 ……本当かどうかは知らないけれど、騒ぎを起こしてセイラさんの邪魔をする訳にはいかない。

 私の隣でセイラさんは白髪の捕虜とコソコソと密談をしている。話し声が小さくて聞こえない。

 だが、セイラさんにとって重要な話であることは確かだ。終始セイラさんの顔が驚いている。

 

「何話してんだ……トルドの奴」

「トルド?」

「あの白髪だ。トルド・ボブロフ。部隊が違うんで詳細は知らん」

「へぇ、トルドね……何の情報にもならないですね」

「情報になるようなことは話さんよ。俺だって素人じゃねえんだ」

 

 だったらグフのことも言わなきゃ良いのに……と言いたいが、グフのことも名前しか聞いていない。

 たしかに何の情報にもならないような事しか私に話さないのは事実だそうだ。

 

「……」

『……ありがとう、いい話を聞けたわ』

『おう、こっちも暇つぶしができた、娘と話してる気分だったぜ』

『娘……そう、妻子持ちなのね』

『この時勢、軍人でもやってなきゃ家族が食えねぇんだ、また話しに来てくれや。なぁ?』

『機会があれば、ね』

 

 セイラさんが私を呼ぶ。どうやら話が終わったらしい。

 このコズンとかいう黒髪の男がジロジロと見てくる不快感から開放されるのだ。

 腹いせに意味もなく覗き窓をピシャリと閉め、私はセイラさんの元へと駆け寄る。

 

「なにか聞けました?」

「ええ。お陰様で。アムロは?」

「あの青いモビルスーツの名前しか聞いてません。さ、行きますよ」

「ええ」

 

 私はセイラさんの背中を押し、元々行くべきだった牢屋へと連れて行った。

 このブロックのすぐ近くだ。と思ってスタスタと歩いているが意外と遠い。

 しばらく二人して無言で歩いてやっと着いた、この中の適当な部屋に入れたら良いわけだ。

 

「え、えーっと、どこにします?」

「そうね、角部屋にして頂ける?」

 

 セイラさんが冗談っぽくそう言い、私は少し愛想笑いを見せて牢屋の扉を開ける。

 牢屋の中は……やっぱり少し綺麗だ。トイレもベッドも使われた形跡がなく、新品同様だ。

 ……ただ、牢屋の宿命なのかトイレがむき出しなのは可哀想だ。3日間入る場所なのに。

 

「じゃあここ。3日は居てもらいますから」

「ええ。分かったわ……」

「……閉めますよ」

「ええ」

 

 セイラさんは静かにその牢屋に入ると、自分でその扉を閉めた。

 ……自分が牢屋にはいる経験をすると思ったら、人を入れるのも経験できるとは。

 セイラさんが閉めた扉に、予めブライトさんからもらった鍵をかける。

 

「もう、変なことはしないでくださいよ」

「……アムロ、本当に世話をかけるわね……」

「その分、今度は世話を焼いてもらいますよ、セイラさん」

「分かっているわ」

「じゃあ……」

 

 私はセイラさんに一言声をかけて、その牢屋を後にした。

 その時、セイラさんの居る房から、嗚咽のような声が聞こえたような気がした……。

 いや、気がした……ではない。明らかにすすり泣きのような声が聞こえる。

 ……シャアの妹、セイラ・マス。この人にとって、シャアの存在は複雑なのだろう。

 

【……兄さん……っ……兄さん…………っ無事で…………良かった…………】

 

 私には兄弟、居たのかな……?

 

 

 ★

 

 

「……」 

 

 アムロ・レイの母親、カマリア・レイ。

 ただの万能ジャマーであるミノフスキー粒子の応用論を提唱した人物。

 ビーム兵器やモビルスーツの核となる部分を影で生み出した女性だ。

 

 性格はさておき、この人間の脳は人の理解を超えた発想を生み出す。人道を騙り人を突き動かし、

 使える人間の知識を限界まで吸い取り、生み出した成果を自分のものにせず他人の手柄とする。

 その行動に何の意味があるのか、それを知るのはこのミノフスキーの影のみが知る……か。

 

「カマリア・レイ、お前はどう思う」

 

 北アジア方面に位置する地下研究施設。そこで私はある一つのモビルスーツのデータを見せた。

 概要は話すまでもない。この女、開発責任者の紙面を受け取った瞬間に何かを感じ取ったらしい。

 私の問いかけに返事もせず、手元の端末……見るとそれはペイントツールだ。専用ソフトではない。

 ペイントツールに、紙面に書かれたモビルスーツのデータを模写している。

 

「……これで人殺しの兵器を?」

「そう。なにか文句でもお有りか」

「……いいえ……」

 

 カマリアは首を振ると、そっくりそのまま映し出した端末の画像をモニターに送る。

 見た目は変わっていない。しかし、ジェネレーター出力等の数値が変わっていた。

 それにバックパックの各部に、何かを接続するソケットのようなものが追加されている。

 

「何故熱核反応炉が生み出すエネルギーを追加スラスターに供給しないのです?」

「……?」

「06R-1の部品をペズンのアクトの部品を織り交ぜ強化し機動力を上げる。それは良い、しかしこれでは」

「稼働時間の大幅な減少、確かに課題点ではあります。しかし物事には用途が」

「モビルスーツは汎用性があって当然です。20分しか戦えぬザクなど、何の役に立つのです?」

「戦闘宙域への突撃運用、これも立派な役割です」

「物事には用途がある。そう言ったのはキシリア様では?その用途を果たすのが18の筈」

 

 そう言ってカマリアは開発中であったYMS-18。ケンプファーのデ―タを呼び出した。

 統合整備計画の確立が前提となり、現在も尚開発が滞っているモビルスーツ。

 カマリア・レイ、いや、カマリア・ベルの拉致直後に彼女の独断で開発が再開されている。

 既に統合整備計画に頼らぬ研究、開発に転換し、広域突撃用モビルスーツに変貌しつつあるそうだ。

 

「……熱核反応炉の設計変更、有り余るエネルギーを全て推力に充てているモビルスーツか」

「粒子混合推進剤により無駄な燃焼量を削減させることが出来れば継戦能力も大幅に向上します」

「来るや否や提唱した新技術か、しかしそれと熱核反応炉の直結に何の意味がある」

「そもそもミノフスキー粒子は核反応から発見された粒子です、小型の反応炉から発生する粒子を一部汲み取り、流体パイプを通して推進タンクに流し込む、簡単な話でしょう。それに今ある大掛かりでコストの高く、接続に無駄な人員を要するプロペラントよりも安上がりです」

 

 モビルスーツのコアである熱核反応炉、その中心から発生するミノフスキー粒子を汲み取る機構、

 それを各部へ運ぶ外付けの動力パイプ……被弾時にそれをパージする機構。

 ハイモビリティユニットパージ後のキャパシティ分配を示した図面を次々に表示させる。

 

「私の計算が正しければ、この機構をR-2に搭載することで課題である稼働時間は解決可能です」

「……成る程分かった。しかしその混合推進剤はどう作るつもりか」

「既存の推進剤にミノスキー粒子を「ふりかける」のみです。撹拌すら必要ありません」

「ほう、噂に違わぬ万能粒子だ、分かった、検討しよう」

「トレノフもお喜びです。キシリア様」

 

 それはどうだろうか。

 私はその表示させた図面を閉じ、この狂科学者に問いかける。

 

「しかし妙だよカマリア・ベル」

「……?」

「自国を侮辱するような言い方をするが、このままではジオンは連邦に物量で負ける」

「……」

「そうでありながらも何故お前は我々に肩入れしたのだ?」

 

 私はカマリアの目を見ることなく問いかける。たしかに私はこの女を攫った。

 しかし、それに拒否する様子も見せず条件付きの返事で、快諾されたのだ。

 いくら私とは言え、あの反応は私も面食らった。家族や人に何の情も無いのだろうか。

 

「……私はジオンに光を見た、これでは不足でしょうか」

「私の前でつまらん嘘を付くのはやめよ」

 

 腹がたつような不信感を、私は腰のレーザーガンに形容し銃口を向ける。

 するとカマリアは怯えたような表情を見せ、口を開いた。

 

「……私は科学者です。その欲求を満たしたい」

「欲求のために、テム・レイどころか、娘であるアムロ・レイすらも敵に回すのか」

「アムロ達2人を傷つけたくない。しかし、科学の欲求は愛を歪ませる、私は兵器が好きですわ」

「……」

「それに私は、宇宙が好」

 

 カマリアが言い切る前に、私はこの老いた女狐の頭の横をかすめるようにレーザーを放った。

 カートリッジが腰から排出され、銃口と排莢口から鼻を突くオゾン臭が漂う。

 

「嘘が嘘を呼び、その嘘を塗りたくる嘘。何が本当か自分でも分からんのだな、下らん」

「……」

「私は科学者が好かん。クルストもお前も、平気で人を裏切る。ギニアスがマシに見えるわ」

 

 レーザーガンの薬莢を拾い上げて軍服のポケットに突っ込む。

 頭を光線が掠めたカマリアは俯いたまま何も言わない。口を閉じると静かなものだ。

 その見た目は褪めきった夫婦の妻。日本で隠居生活を送っても誰も気付かんだろう。

 だからといってあの様な無警護、放任とは、連邦軍は何故この女を保護しなかったのだ……?

 

「……」 

「お前に本音は求めていない。しかし言いたくなったら聞いてやる」

「……」

「しかし、今度私の前で下らん嘘を吐くなら、その時は覚悟せよ」

 

 私は俯くカマリアを睨みつけ、研究室の出口へと向かう。

 そうよ、この女の人格など不要、この人間の脳さえ有ればいい。

 ……テム・レイと言う男も不運な男だ。こんな女狐を掴まされるとは。

 

「R-2の強化案、推進剤の活用法は開発部にプランを送る、お前は予定通り、例のモビルスーツの研究を続行せよ」

「……はっ、キシリア様」

「……お前の思惑が何かは知らんが、お前には期待している」

 

 そう言い、私は研究室のドアを開け、地下を出た。

 

「虫の好かん女だ……あれがニュータイプの生みの親とは」

 

 




今回のアムロの行動の結果

・ガルマの病院にデギンお見舞い
・ガルマ、ギレンの独断で除隊
・ガルマとデギン、ギレンと衝突
・セイラ、アムロと共にゆっくりとシャアのことを聞く。
・セイラ、アムロちょっと仲良くなる
・カマリア、ザクⅡ高機動型R-2の強化プランを提示、ケンプファー開発計画を強制的に進める
・キシリア、カマリアに強い不信感を抱くも利用する

以上の結果となりました。







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