ドラクエⅤの主人公をTSさせてヘンリー×DQⅤ主を書こうと思った。

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告げられない気持ち

 力が欲しいと、王子から奴隷という立場に落とされて初めて思った。

 でもそれは自分がここから助かる為じゃなくて、俺なんかの巻き添えを喰って父親を殺され、奴隷の身に落とした親友の為だった。もちろん、俺自身ここから脱け出したいという想いがなかった訳ではないが、もし俺か親友のどちらかしかこの地獄から出られないなら迷わずに親友を送り出すだろう。

 

 父親を殺されたばかりのアイツはそりゃヒドイ有り様だった。

 身ぐるみを剥ぎ取られて奴隷の服を渡された時も反応すら返さず、虚ろな瞳で何処かを見つめるだけ。

 そんな様子で奴隷の仕事なんて勤まる訳もなく、監視役の鞭男に散々鞭で叩かれた。

 それを庇うのがここに入れられた時の俺の毎日だった。

 自分が人質に取られた為に父親が目の前で無抵抗に嬲られて最後には焼き殺されるなんて十にも届かない子供にはショックがデカすぎた。俺自身、あの日のことは未だに夢に見る。

 しかしそんな俺の頑張りも無駄じゃなかったのか、親友は次第に立ち直ってくれた。

 奴隷としての仕事を少しずつ出来るようになり、感情も少しずつではあるが取り戻していった。

 それでも置かれた境遇に嘆かない訳ではない。

 夜に身を縮めて眠っていると泣きながら「父さま……」と寝言を呟いているのを知ってる。

 そんな時に俺がいる!なんて力強く励ませればどれだけ良かっただろう。だが、パパス殿を失った原因である俺がいったいどんな面でそんなことを言えるのか。

 そんな親友の寝言を聞くたびにどうして?と憤りが募る。

 パパス殿と親友がラインハットの城に来たあの日に俺を誘拐したのか。

 アレがもっと早く起きていれば親友は今も父の下で笑顔を浮かべ健やかに旅を続けていただろう。

 だが、そう考えがと同時にこんな場所に独りで連れて来られたらと思うとゾッとする。

 俺がこの奴隷生活を耐えて行けてるのは親友の存在があるからだ。

 ()()を守らなければという使命感が俺の精神を腐らせずに留めている。

 親友――――リュカが居なければ俺はとっくに他の奴隷たちと同じように心が死んでいるか、この環境に耐えられずに自ら死を選んでいただろう。

 パパス殿の遺言。リュカの母が生きており、その為に勇者とその武具を探さなければならないという目的。

 そんないつ成し遂げられるのかも分からない希望に縋って日々を生きている。

 

 

 奴隷生活から数年が経った。

 この頃にはリュカの奴も大分感情を取り戻していた。

 理不尽に鞭を打たれない程度には奴隷としての仕事も出来ている。

 ただ、根本的に栄養が足りないのか、成長期だというのにほとんど差がなかった筈の身長は頭一つ分程に差が出来、瘦せこけた細い身体が心配だった。

 まぁ、これに関しては下手にリュカに変な興味を持つ奴が現れない理由でもあるので一概に悪いとは言えないのだが。

 

 寒い夜には互いに身を寄せ合って夜を凌いだ。

 

「あなたが一緒に居てくれて良かった……ありがとう、ヘンリー……」

 

 そんな言葉を聞くたびに俺は居た堪れない気持ちになる。

 安堵し切った笑顔。それを向けられる資格は俺にはないというのに。

 それでも彼女が元気になるならと少しでも元気になるならとガキの頃のようなデカい態度も取って見せる。

 いつかこんなところを飛び出してお前の母親を探しに行こう、と自分の胸を叩くと彼女はそんな虚勢1つに目に涙を溜めてうん、うん、と頷いて寄りかかってきた。

 誘拐されて助けに来てくれた時、少しの間だけ2人で――――正確には1匹のキラーパンサーの子供もいたが。

 前を歩いて手を引いてくれたリュカをとても強い子だと思ったが、今は誰かが支えてやらないと折れてしまいそうなほどにか弱く見えた。

 

 

 

 奴隷生活から十年。転機が訪れる。

 その日、リュカや俺と歳の近い最近連れて来られたマリアという名の女が鞭で打たれていた。

 なんでも監視役の足に石を落としたとかで酷く責められている。

 その子はリュカと仲が良かった。

 奴隷として連れて来られたことへの憐れみはあったが、やはり歳の近い同姓が居ることでリュカは俺と一緒に居る時とは別の安堵を表情に出していた。

 助けてやりたいとは思うが、出来る限り目立つ行動は取りたくない。

 どうするかと思案しているとマリアを庇う為に飛び出したのは見覚えの有りすぎる紫色のターバンだった。

 

「やめてください!?これ以上打たれたら彼女が死んでしまいます!」

 

 そうだった。ここ数年落ち着いていたがこんな現場を。それも仲の良い女の子が鞭で叩かれているのを黙って見ていられる奴じゃなかった。

 監視役がリュカにまで鞭を振るおうとしているのを見てカッとなり、俺は気が付けば監視役に体当たりをしていた。

 そこからはちょっとした乱闘騒ぎだった。

 リュカにマリアを守るように言い、監視役の鞭を無視して強引に押し倒す。奴隷生活で体は幾分か逞しくなった自覚はあるが戦闘訓練を受けていた訳で無し。ガキの頃は教養として体術や剣の手解きを兵士から受けたこともあるが、もうほとんど覚えていない。

 最後には衛兵が来て3人共に牢屋に入れられることになった。

 

「ごめんなさい、私の為にお2人が……」

 

「気にしないであんなこと、黙って見過ごすなんて出来ないから」

 

 なけなしの魔力でなんとか発動したホイミでマリアの傷を治療する。

 リュカは俺にもホイミをかけたかったようだが、魔力切れである。怠そうに様子の中に俺への申し訳なさからホイミを使おうとするが、やはり魔力不足で発動しない。

 

 仮にも監視役に怪我をさせたのだ。タダでは済まないだろう。

 

 

 どうするかと考えていると先ほどの乱闘騒ぎを抑えた衛兵がやって来た。

 その衛兵を見てマリアの口が兄さんと動く。

 

 

 

 

 マリアの兄の衛兵。名前はヨシュアという男は俺たちにある話を持ちかけてきた。

 ここを出る方法を教える代わりに妹のマリアを安全なところまで守って欲しいという話だ。

 ヨシュアは衛兵という立場を利用して妹のマリアをここから脱する方法を探していた。賭けのような方法ではあるが、なんとか脱出する目処が立ったこと。しかし、マリア独りでは心許なく信頼できる誰かに託したく、その相手を探していたらしい。

 そして鞭を打たれているマリアを助けた俺とリュカにマリアのことを預けたいと。

 

 方法は死体を流す水路は海に繋がっており、樽に詰めた3人を流すという。

 樽は特別頑丈で沈みにくい物を用意しており、運が良ければ陸地に辿り着くはずだと。

 

 ヨシュアが一緒に行けない理由は水路の柵は誰かが操作しないと開けられない為らしい。

 不安はあるがどうせこのままでは死刑になるのが確定している身だ。

 それなら、万が一にでも賭けたい。

 リュカを横目で見てみるとその眼には強い決意が宿っていた。

 それに俺も覚悟を決める。

 マリアとヨシュアの別れを聞いて樽に乗り込み海へと流される。

 渡された数日分の水と食料を3人で分けながら陸地に着くをの待った。

 

 

 

 

 

 

 何日樽の中で過ごしたのか。いつの間にか意識を失っていた俺たちが辿り着いたのはオラクルベリー南部にある海辺の修道院だった。

 最初に目を覚ましたのは俺だった。

 奴隷生活で傷だらけだった身体は丁重に治療されており、着ているのは奴隷の服ではなく清潔な衣類だった。

 起き上がると老婆のシスターが感激したように声を上げた。

 

「まぁ!?目を覚ましたのですね!」

 

 状況が飲み込めない俺にシスターは丁寧にこれまでのことを説明する。

 この修道院の浜辺から稀に死体が流れ着くことがあり、今回もそうだろうと思い樽を開けてみると生者である俺たちを発見し、大騒ぎになったこと。

 生きている以上、見捨てる訳にも行かず、眠る俺たちの面倒を見てくれていたらしい。

 そしておそらく流れ着く死体というのは死体として流された奴隷たちだろうと思う。

 俺も修道院の院長を名乗るシスターにこれまでのことを説明すると痛ましそうな顔をして同情してくれた。

 懐の広い院長は快く俺たちを置いてくれた。

 

 その晩に出された柔らかいパンとサラダと温かいシチューという質素な食事だったが長い奴隷生活だった俺には王宮で食べた豪勢な料理より美味く感じて泣きながら胃に詰め込んだ。

 

 

 

 次に目を覚ましたのはマリアだった。

 彼女は最初は状況を掴めずにオロオロしていたが、ここが安全な場所だと分かると身を抱きしめて涙を流していた。

 

 院長はしばらく安静にしてくれていいと言ってくれたが、タダで置いてもらうのは気が引けた俺はほぼ女性しかいないこの修道院で力仕事などを手伝っている。

 もしかしたら長い奴隷生活で何かしてないと落ち着かなくなっているのかもしれない。

 マリアも他のシスターたちと一緒に織物や菜園の手伝いをしている。

 

 

 

 そして最後に目を覚ましたのはリュカだった。

 マリアが目を覚ましたその次の日の夜に彼女は目覚めた。

 

 院長にリュカが目を覚ますまで同じ部屋に居させて欲しいと頼んだことで目を覚ましたことがすぐに分かった。

 

「ヘンリー……」

 

「あぁっ!生きてる!生きてるんだ、俺たち……!!」

 

 俺を見付けて縋るように伸ばす彼女の手を握って生まれて初めて心から神様に感謝した。

 

 

 

 

 目を覚ましたリュカは院長に礼を言ってすぐにでも旅に出ようとしたが、当然周りから止められた。

 ようやく父との約束のために動けることに逸っているリュカを院長がやんわりと諭した。

 

「リュカさん。貴女がお父さまとの約束をとても大事に思っていることは分かりました。ですがその痩せ細った体で旅に出るのはあまりにも危険です。ですから貴女が健康な体を取り戻す少しの間だけ、私たちに貴女を守らせてくれませんか?」

 

 心から自分の身を案じてくれる院長の言葉にリュカも自分の焦りを自覚して頭を下げて世話になることをお願いした。

 

 修道院には一か月ほど滞在させてもらった。

 その間に十年間碌に摂ることのできなかった栄養を摂取したことで俺たちはグングン健康な体を取り戻していった。

 

 特にリュカは瘦せこけた顔や骨と皮しかなかった体は年相応の丸みを帯びて行った。カサカサだった肌や髪も艶を取り戻していく。

 そうしているうちにマリアはこの修道院に残ることを決めた。

 ここで兄の無事を祈り、流されてくる奴隷(なかま)たちを弔いたいというのが彼女の願いだった。

 院長も特に反対せずに受け入れてくれてくれた。

 俺とリュカはヨシュアとの約束を守れたことに心から安堵する。

 そして俺の道は決まっている。

 リュカの旅を手伝うこと。

 彼女を守り、唯一生きているであろう母親を捜し出し見付ける。

 それだけを十年間思ってきたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 修道院を出て少し経った。

 今は馬車を買い、リュカの故郷であるサンタローズを目指している。

 焚火の火を消さないようにしながら夜の番をする。

 すると馬車の中からリュカが出て来た。

 

「どうした、リュカ?」

 

「うん。明日にはサンタローズに着くでしょ。だからかな、眠れなくて。そっちへ行っていい?」

 

「別に遠慮することないだろ」

 

「うん」

 

 了承するとリュカはスライムを抱きかかえて俺の隣に座ってきた。

 モンスター爺さんから魔物を使役する術を習い、こいつは今日初めて仲間になったモンスターだった。今はリュカに抱かれて気持ち良さそうに眠っている。

 

 というかリュカの胸にある膨らみを当てられながら眠るスライムを羨ましいと感じたがすぐにその考えを思考から振り払った。

 

(いかんいかん!俺はこいつを守らなきゃいけないんだ!そんな邪まな目で見ちゃダメだろ!)

 

 心の中で自分を叱咤しているとスライムを膝に乗せて俺の肩に体重を預けてくるリュカに心臓が跳ね上がった。

 あの修道院で年相応の肉付きを得たリュカは身内びいきを差し引いても綺麗だった。

 長く伸ばされた黒髪に整えられた顔立ち。少女らしい柔らかい肢体。

 俺を信頼しきった無防備な表情で寄ってくる姿が逆に理性を削ってくる。

 

「ねぇ、ヘンリー。初めて会った時のことを覚えてる?」

 

「……あんまり、思い出したくないんだけどな」

 

 なんせあの頃の俺とくれば周りが自分の言うことを聞くのが当たり前で、調子に乗っていたクソガキである。そもそも目の前のリュカに対しても意地悪な態度を取ってしまった。

 

 というか。

 

「ヘンリーってば、最初は()()を男の子だと思ってたんだよね」

 

「言うなよ、恥ずかしい……」

 

 クスクスと笑い、わざとらしくボクを強調するリュカに俺は顔を赤くしてそっぽを向いた。

 小さな女の子が攫われないようにするためにリュカは幼少時に男の子のような振る舞いを父パパスから心掛けさせられていた。

 その所為で自分のことはボクと呼び、男の子のような振る舞いが板についてしまっていた。

 だから俺は最初リュカを男だと勘違いし、それが間違いだと気付いたのは誘拐されてパパス殿と一緒に助けに来てくれた時だ。

 牢屋から立ち上がろうとした際にこれまでの緊張からか足を滑らせてリュカを押し倒してしまった。そしてリュカの薄い胸の部分を掴んでその時に本人が見せた顔を真っ赤にして恥じらう姿にようやくその勘違いに気付いたのだ。

 

(それにあの時パパス殿から発せられた殺気には本気で殺されると思っちまったぜ)

 

 その後、奴隷に身を堕としたリュカもなんだかんだで女の子らしい振る舞いというのに憧れがあったらしく、慰めに少しずつ矯正していった。

 その過程で一人称もボクから私へと変わっていった。もっとも、感情が高ぶるとボクと言う癖は抜けていないが。

 これまでことを話していると不意にリュカが話題を変える。

 

「ねぇ、ヘンリー。ヘンリーは、その……ラインハットに帰らなくていいのかい?」

 

 あぁ、なるほど。その話に持っていきたかったわけだ。もしかしたら、もうすぐ自分の故郷に帰れるということで、思うところがあるのかもしれない。

 

「いいんだ。パパス殿から親父が俺を王位にって考えてくれてたことは聞いたけど、もう十年も国を離れていた王子より、ずっといる筈の(デール)の方が王様になるべきだろ。それに俺は元々王様なんて柄じゃなかったんだ」

 

「でも!?」

 

 リュカが言いたいことはわかる。何年経っても故郷は故郷だ。俺自身帰りたくない訳じゃないし、気になってはいる。でもこれは決めた事だから。

 

「俺は、お前の旅を手伝うって決めたんだ!まぁ、お前が俺は邪魔だって言うんなら仕方ないけどさ」

 

「そんなことは思ったことないよ!ヘンリーが傍に居てくれて、ずっと感謝してる!でも……」

 

 躊躇いがちにリュカは質問する。

 

「ヘンリーは父さまのことを気にしてるから手伝ってくれるんでしょ?それなら――――」

 

 無理をしてまでついて来ないで。そう動こうとするリュカの口を塞いだ。

 パパス殿のことに責任を感じているからついてくるのか。

 そう言われれば否定は出来ない。

 死んだあの人の代わりに俺がこいつを守らなきゃって気持ちは当然ある。

 だけど1番の理由はきっと違う。

 

 今まで散々酷い目に遭ってきたリュカがそれに見合うだけ幸せになって欲しい。

 笑って生きて欲しい。

 そう思えるのは、同情でも責任感でもなく。

 

「―――――」

 

 この気持ちを口に出そうとして寸でで止めた。これはまだ口にして良い言葉じゃないから。

 

「ほら、もう寝ろよ!明日にはサンタローズに着くんだぞ!目に隈を作って昔馴染みに会う気かよ?」

 

「ちょっ!?わたしは真面目に――――!!」

 

 茶化して馬車の中へと促す。

 お前が唯一残った肉親である母親と再会したとき、俺はこの想いを口にすることを許せるだろうか?

 

 

 

 

 



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