成し遂げた男   作:猫パン

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束さんとの会合。


第七話

 

 

 

 

 

 

篠ノ之束。

根っからの研究者であり、彼女には解明出来ないものなど自分には存在しないと思っている。

 

時間は掛かるけど様々な謎は全て解明することが出来るから、未知の存在等あり得ないと。

そんな彼女だからこそ、今自分のお気に入りの公園でたかが刀1本程度で次元を斬り裂いたのを見たことで動揺が隠せなかった。

 

次元を斬り裂くと言うことは、空間に穴を開けると言うことと同義。

空間に穴を開ける行為自体そもそも仮説すら出来ていない状態で、もし仮説があったとしてもそれは膨大なエネルギーを使った巨大な装置によって引き起こされるものになるだろうと予測していた。

 

それを彼は、刀1本で成し遂げたのだ。

膨大な科学の結果成し遂げられると思っていたそれを生身で、しかも科学なぞ使わずに引き起こされたのだ。

科学の分野の大天災を自称する彼女にとって、それは存在の否定と思えた。

 

 

 

「なん…で。どうしてキミは『それ』を起こせるの?まだ仮説すら立証出来てないのに。この束さんでも、どうやったら良いか分からないのに。何でキミは…『空間に穴を開ける』事が出来るの?」

 

 

その言葉に、宗助はどう返答して良いか迷った。

そもそも宗助に、空間に穴を開けている自覚はない。

ただ彼の魔人のように斬擊を放っている、ただそれだけなのだ。

だが彼の魔人の斬擊【次元斬】は、文字通り次元を斬り裂く。

宗助にとって、次元斬を模倣しているだけに過ぎないのだから、理屈など分かるはずがない。

 

 

「どうして、ね。それを考えるのが研究者としてのあんたじゃないのか?篠ノ之束。」

 

その言葉に、グッと顔をしかめる束。

自分以外は凡人と思っている彼女は、凡人と評価を下した宗助から、ましてや自分よりも年下に言い負かされた事が感情を逆撫でされた気分になる。

 

 

「……凡人の癖に生意気言うじゃ無いか。」

 

 

「その凡人に言い負かされ夢を諦めた兎風情が、テロ紛いを引き起こして認められた気にでもなったか?ミサイルを撃墜する様を見せ付けて、大衆が宇宙(そら)への翼だと認識するとでも思ったか?」

 

 

宗助は束を兎だと評価する。

たとえ多大な才能を持ち周囲よりも優れていたとしても、道を外れてしまえばゴールまで一直線に進む亀に負ける。

 

無限の成層圏と名付けられたそれを、宇宙に羽ばたく為の翼になるはずだったそれを、開発者である束自身が兵器にしてしまったのだ。

 

その有用性を認めた軍等がいずれ軍事転用する日が来るかも知れなかったが、束は翼としてではなく兵器として世に出した。

何時か来る時を、自らの手で早めてしまったのだ。

 

 

「その発想が甘いんだよ、篠ノ之束。」

 

「凡人のお前に何が分かる!!束さんの苦労が!夢を否定された私の気持ちが!!」

 

「たかが1回失敗した程度で諦めた天才サマの事なんざ分かりたくもない。それとも何か?あんたの夢はその程度だったのか?」

 

宗助の言葉は、的確に束の心を抉っていく。

普段なら凡人の戯言と聞き流す束も、夢を諦めたと言われれば聞き流す訳にもいかずに真正面から食い掛かる。

 

 

「あんたの夢は、他人に認められなかった程度で諦められる小さいものだったのか?笑われた程度で諦めるようなどうでも良い事だったのか?」

 

「そんな訳無い!あの宇宙に行く事は、何を言われようとも変えられない私だけの夢なんだ!!」

 

「なら今の状況はなんだ、これはあんたが望んで引き起こした事だろう?各国が一斉にミサイルを日本目掛けて撃つはずがないし、その着弾地点に偶然あんたが発表した無限の成層圏(インフィニット・ストラトス)が有るはずが無い。ならあんたのマッチポンプだろう?世界に認められたいから各国の軍事ネットワークをハッキングしてミサイルを発射して、自分が作ったISがそれを全て撃ち落とす。良かったじゃないか、今あんたは世界中から認められているぞ?強力な兵器を作った開発者として。」

 

「あぁあああぁぁっ!!!」

 

 

遂に束はブチ切れて宗助へと掴み掛かる。

原作では天災だの細胞レベルでオーバースペックだのと自称する束、しかし現在は高校生。

確かに原作では超人レベルの身体能力だが、今の束にその力は無かった。ナノマシンやらで底上げしていたと考えられるが、それが開発される時期はまだまだ先の話。だがそれでも束の身体能力は常人を超えていた。

 

それでも束は、宗助には敵わない。

小学生だとしても既に常人を遥かに超えた身体能力を宿す宗助とは次元が違った。

掴み掛かった力をそのまま利用され、束は地面へと転がされた。

 

 

「がっ…!」

 

「無様だよなぁ。宇宙を夢見て作ったものが、今や国防を担う兵器なんだから。でもあんたにとっては嬉しい事だろう?認められたんだから。」

 

「ぐっ…」

 

束は地面へと転がったまま涙を流した。

確かに望み通り認められた。

だがその使われ方は束の望んでいたものではない、だからこそそれを指摘した宗助に対して怒りを感じ、自分が兵器としてしまった事に、そして夢を諦めたと絶望を抱いた。

 

 

「せっかく宇宙への足掛かりが出来たと、父と喜んだんだがな。必要経費全額を出資しても良いと。だがせっかくの開発者が宇宙に興味が無く、兵器として世に解き放ったと知って落胆していたよ。」

 

「え…」

 

 

宗助の言葉は、泣いている束に関心を持たせるのに十分だった。

束が作り出した無限の成層圏(インフィニット・ストラトス)は、どんなに企業に売り込んでも誰も現実的じゃないと断られ結局1人で作りあげた。

だが宗助の父、宗一郎は違った。

学会でそれを聞いたとき、これがあれば必ず単身で宇宙に行けると、束の援助を行うと、会社に戻って即会議の議題としたのだ。

そして決まりかけていたときに白騎士事件である。

全てが水の泡となったのだった。

 

 

 

「本当に…本当に認めてくれるの?」

 

「ああ。あと2週間あんたが行動を起こさなければ、あんたの家まで直接会いに行く算段は付いてたからな。」

 

その言葉に、束の中の最後の防波堤が崩れ、ブワッと涙が溢れてきた。

自身が認められる機会を、他ならぬ自分の手で潰してしまったと、宗助の言葉で理解したのだ。

たった一つ選択を間違えただけで、束にとって最悪の結果となっていたのだから。

 

 

 

「今からでも来るか?父…うちの社長も喜ぶだろうし。」

 

 

「……キミはいったい…」

 

その言葉に宗助は狂ったように笑みを浮かべる。

だがそこに狂気の類いは無かった。

 

 

「爪楊枝から人工衛星まで、あなたの町のクラタコーポレーション。社長の息子、倉田宗助だ。よろしく、篠ノ之束。」

 

 

束はその笑顔に、不思議と見惚れて居たのだった。

 

 




宗助は朧気な原作知識と状況推理によって、白騎士事件が束のマッチポンプであることを導き出した。



因みに現在の主要キャラクターの年齢

宗助10歳
篠ノ之束 18歳、今年19歳の高校3年生
織斑千冬 同上

織斑一夏 8歳 小学3年生
篠ノ之箒 8歳 重要人物保護プログラムによって転校。


宗助の会話誘導術!(無意識)発動!

束は宗助が次元を斬り裂いた事を追求出来なくなった!

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