いつから僕は狂人になったのだろうか   作:デルンタス

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第1話

その子供は人一倍物静かであった。

 

よく泣く子供ほど健やかである風潮を持つ村で生まれてしまったことは、不幸。ただそう形容するしかないだろう。

 

元々閉鎖的な村だった、ということもあり村での子供の家族の扱いは目に見えていた。

 

初めは両親とも物静かなだけと主張していたが、次第ににその主張を維持することすら出来なくなる。

 

村人たちが関わることを避け始めたのだ。

 

初めはあまり関わりのない家が。

もう1年ほどで、友人の家が。

さらに2年ほどで親戚までもが自分たちが無視を始めた。

それでも息子を愛して頑張ろう。

両親ともそう思っていた。

 

ただ、その意気込みは1週間と続かなかった。

都市からは離れている場所に村が位置しているために買い物にも行けず、村内の商店の利用もできなかった。

 

それでもその子供自体は幸せだった。

両親からの愛を受けていたからだ。これからも幸せは続くと信じて疑わなかっただろう。

 

しかしその確信は裏切られ、両親がたどり着いては行けない答えに着いてしまう。

 

それは子供が泣けば周りとの関係が治るのではないか、ということだった。夫婦でその意識を持ったその日から幸せだった家は一変、地獄と化した。

 

また自らの息子を悪魔憑きとして教会に連れ出したのだ。

悪魔の存在が信じられている世界で悪魔憑きとされた子供のこれからは想像に難くない。

 

朝起きてから夕方までは教会による悪魔祓いという名目の虐待が行なわれた。

 

「悪魔よォォ!その子供の体を返せ!!

 

大人しくぅ、魔界へと帰れェェェェ!」

 

字面だけならば実際に悪魔祓いが行われているように見えた、しかしその内容は人の腕ほどの木製の十字架による殴打だった。

 

曲がりなりにも愛を受け育ってきた子供が助けを乞う先はやはり両親であった、

 

「おどうさぁぁぁぁぁぁぁん!おがぁざぁぁん!やだぁ!いやだぁぁ!おろして!だすげで!!」

 

「き、さぁ、まぁぁぁ!!まぁだ子供を演じるかぁ!悪魔めぇ!周りが狂ってしまう前に私が祓ってやる!」

 

天井から吊られながらも必死に助けを乞う子供を見て目と口も三日月に歪ませ神父はひたすらに殴打し続ける。

 

また、時間が来たら頭に麻袋を被せ家へと届け明日の朝また来るように告げる。

 

それが数年の神父の生活の大半となるが、子供はその後も休まることが出来ない。

 

「ひとーつ、ふたーつ、みーっつ……」

 

暖炉の前で裸で四つん這いにされた子供を4人ほどで囲み焼き石で積み石をして楽しんでいた。

 

両親は神父に悪魔祓いを頼んだだけだと関係の修復に時間がかかると踏んで、自宅でも行動を起こしていた。

それが、他の家族を呼んでの悪魔に対する攻撃と名目した虐待だった、ただ殴って興奮するだけの神父と違い、その虐待は惨いの一言に限った。

 

焼き石での積み石、熱した鉄棒での落書き、子供の武器の練習の的、酷い時には、焼いた砂利を食べさせられていた。

 

初めは何度も泣き叫び、自分が悪かったのだろうと許しも願った。

1年もする頃には泣くこともなく、許しも願わずひたすら自分が悪いという考えに至っていた

 

(僕が悪いんだろう。みんな言ってた。僕は悪魔なんだって、狂ってるんだって。お父さんもお母さんもそう言ってた。僕が悪いんだ僕が……)

 

両親も初めは躊躇う気持ちがなかったわけではなかったが次第に薄れていき、いつの間にか本当に息子を狂ってるのだと、悪魔が憑いているのだと信じていた。

 

子供が10歳の冬、転機が訪れた。村長宅が管理する食料庫の火事が起こった。

 

村の人手が総出で鎮火に勤しんでる間、子供は1人自宅で倒れていたが、村の騒ぎによって目を覚ました。そして周りに誰もいないことがわかると痛む身体に鞭を打ち、ボロボロの服の上に父の服を一枚被せて着ると、家を出て、一人で道に沿って歩き始めた。

それはここ数年間で少年が初めて起こした自発的な行動だった。

 

当然行く宛もなければ、資金もない。

しかし村にいたらいつか死んでしまうそう考えた少年は1人歩き出した。通り道、看板があったが当然字など読めないので素通りをしたが看板にはこう書かれていた。

「この道北に3里ほど 都市オラリオ。」

 

と。

 


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