いつから僕は狂人になったのだろうか   作:デルンタス

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第3話

先程のロウグの発言が琴線に触れたのか、

突然現れた男にイラつきを隠せないのかは分からない。

ただ先程までの声とは180度変わり、重く冷たい声を出している。

 

「テメェ……今なんて言ったもっぺん言ってみろ…」

 

もう1回とは言っているものの、ここで間違いを訴えたりしても許すつもりはないと表情が語っていた。

 

「聞こえなかったのか。吠えるな、と言ったんだ犬。人間様の迷惑を考えろ。」

 

先程とは同じ内容の発言に加え、言外にお前は動物なのだと言う意味すら取れた。

 

「ちょっと流石にそれはー」

 

それを見かねたのか同席していたアマゾネスの1人が反論をしようとする。

 

「おめぇぇ!それは俺が誰だか知って言ってるんだよなぁ!?なぁ!そもそも雑魚の都合なんか考えるわけねぇだろ!雑魚は這いつくばってればいいんだよ!!」

 

 

しかしそれさえもこの男の大声によってかき消された。

そのままロウグへと突撃するベート。

酒が入っていようとLv5。

並の冒険者ならば残像を追うことすら叶わない。

ただ不幸だったことはレベル1つの重みが大きいこの世界でレベル差があること。

ロウグは考えなしに挑発した訳ではなくどうしたらいいかある程度考えていたこと。

 

あまり事を荒らげない為にロウグが行った事は、

 

「うっ!」

 

「おいおい!威勢がいいのは口だけかぁ!?アァ!?」

 

1度攻撃を受けること。

 

元々はあちらが駆け出しの冒険者の大半を軽んじた発言をしたため、注意をしに行くと、襲いかかってきた、という構図が出来上がる。

ロウグ自身が挑発したとも言われるだろうが、そのことはどうにでもなると考えた行動だった。

しかしこの行動はLv差があって初めて成功する。ただベートに対するロウグの相性は最悪と言ってもよかった。

肉弾戦主体な為に攻撃の射程距離を伸ばそうとも意味がなく、魔力に頼らないために消失と発現は意味が無い。

 

この世界はLv差が重いと言ったがここまで相性の優劣が決まっていたのならばベートが勝つことも不可能ではなかったのかもしれない。

攻撃を当て、怯んだ隙をひたすら狙うだけなのだから。しかし惜しむらくはロウグがまるで痛覚が働いていないかのように痛みに関する耐性が高かった為に顔を殴られる際、目をつぶったりすることも無く、虹彩にはベートが映り続けていた。

例え拳ではなく貫手だったとしても怯えることは無かっただろう。

 

そして殴ったはずなのに微塵も怯えや怯みを見せないロウグにベートの体が一瞬膠着する。

肉弾戦において一瞬の膠着や気持ちの引けは負けを意味する。

 

殴り掛かり伸びた腕の手首を右手で抑え、左手で外側から肘を押す。関節を抑えられると人は力が出せない。そのままベートは前のめりに倒され、その上にロウグが乗るという構図ができ上がる。

 

「……雑魚は地面を這いつくばってればいいか。まるで自分が強いと言ってるみたいだ。」

 

「糞がぁっ!離せぇっ!!」

 

「そろそろ黙ってくれ、ベート。」

 

床に押し付けられて尚抵抗しようとするベートの意識をを金髪の小人族を刈りとる。

 

ロウグの後ろにはロキ、アイズと呼ばれていた女性、先程までベートと言い争っていたエルフの女性が立っていた。

またそこにベートの意識を刈り取った小人族が混じる。

 

「まずは自己紹介を。ロキファミリアの団長を務めている、フィン・ディムナだ。今回はうちの団員が迷惑をかけてしまい。申し訳ない。」

 

「同じくロキファミリア副団長を任せられている。リヴェリア・リヨス・アールヴ。

今回のこと深く詫びさせて欲しい。」

 

「……アイズ・ヴァレンシュタイン。

ベートが……ごめんなさい。」

 

「そ、し、て、ウチがファミリアの主神のロキや!おたくネメシスの所の子やろ?会うのは初めてやけど君、ええなぁ!」

 

主要人物だろうか、4人が自分の身分を明かし、3人が今回の事の謝罪をする。

ただ主神ロキの一言で周りが一斉にざわめきだす。

 

ロウグはLv6であり、ネメシスファミリア唯一の眷属、そして狂人等と名前の知名度はかなり高い。が、一転してその容姿は知られていない。先程話しかけてきたリューでさえも。雇い主であるミアから聞き、知ったにすぎない。

 

初めは、呆れや同情。その次に驚愕と疑問と移り変わりしていた冒険者達の瞳に恐怖の色が着き始めた。

 

ロウグもまたその事に気が付き、本人でも自覚はしていないが、一瞬、表情に泣きだしそうな悲しみの相が現れた。髪の毛で目元が見えなくともハッキリと現れていた。

 

それに気づくことが出来たのはロウグと向かい合っていた神含む4名だけだった。

 

「……俺への謝罪は必要ない。あの少年に直接頼む。

 

それよりも、リヴェリア、さん。ひとつ聞きたいことがある。」

 

「同じLv6同士。私に敬称はいらないさ。

 

それでロウグ殿、聞きたいこととは?」

 

「そうか。ならば俺にも必要ない。

 

あなたはさぞ魔法に詳しいと思う。このオラリオで、悪魔祓いを生業にしている人物はいないか?」

 

「悪魔祓い?破呪ならばいるが悪魔祓いとなると……すまない。そのような人物に覚えはない。」

 

申し訳なさそうに告げるリヴェリアの後ろでロキがまるで哀れに思うようにロウグへ視線を向けていた。

 

「そうか。突然すまなかった。」

 

そう言って会釈をした後、ロウグは店を後にする。

 

残されたロキファミリアの面々が沈黙に包まれている中リヴェリアはロキに問いた。

 

「ロキ、ホームに戻ったら聞きたいことがある。」

 

一体彼は何故狂ってると表されるのか、オラリオ屈指の実力を持つあの『ロスト』が何故あんなにも悲しげ表情を出したのか。

 

またその疑問は団長であるフィンにアイズも持っていた。

そして店のカウンターの奥、兼ねてよりロウグを気にかけていた1人のエルフも持ち、ロウグへ気軽に話しかけることが出来るミアに聞いた。

 

しかし帰ってきた返答は

 

「あいつは狂った男じゃないんだよ。その実力に嫉妬したしょうもない奴等、気にかけていた神が深い愛を向ける対象と知って薄汚い嫉妬を向ける男神。そんな野郎どもが言ってるだけさ。」

 

表面上の説明であった。

ミア自身が重大な事を知っていると予測はできても普段隠し事をしないが故にどれだけ大きい事なのかと物怖じしてしまう。

 

狂った男出ないのならば何故なのか。

何故あんなにも悲しげな表情を出したのか。

 

考え出したならばキリのない疑問がふつふつと沸く。

ただ狂っていないとわかったのならば彼ともっと話してみたい。彼の事を理解したい。そういった気持ちが生まれ始めていた。

 

「今度からもっと話しかけてみましょうか。シルには悪いですが恋路の応援は少し後とさせてもらいましょう。」

 

そう1人ごちりながら、嘗て正義の元に活動していた一人のエルフはこれからの行動方針を大きく変えた。




今回も拙いながらも読んでいただきありがとうございます。

ミフィン、リヴェリア、リューは特に好きなキャラだったんですけど、原作だと少し出番が少なくて悲しいです。


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