ただのわーちゃんの恋話   作:北間 悠莉

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 わーちゃん好き好き病が発症したので、投稿します。




待ち時間

『天の光はすべて星』。一世紀も前に発表された小説のタイトルだ。内容は知らないけれど、その言葉が好きで覚えている。

 空を見上げれば街頭の先に燦然と煌めく星たちが広がっている。その一つ一つに違いがあったとしても、特別な知識が無い私には、それらは『すべて星』でしかなかった。

 

 ほう、と息を吐けば、それは白く曇って空に昇る。それをぼーっと眺めていると夜風が軽く吹いて、うっすらと雪が舞った。

 風は私にも冷たさを運んで、ぶるりと身を震わせた後、少しでも寒さを防ごうと、マフラーを口を隠すように引き上げて、かじかんだ手をコートのポケットに突っ込む。

 すると、ポケットの中で指先に何かが触れた。取り出してみると、ビニールの包装に包まれたキャンディーだった。

 包装をはがして、口の中にほうり込むと、キャラメルの、少しのしょっぱさと、それ以上の甘さが広がった。

 

「あま……」

 

 思わず口から言葉が飛び出る。心なしか、吐息まで甘く感じる。

 同じ甘いものならアイスが良かったなんて、寒さに凍えている事実に反したようなことを考えながら、舌の上でキャンディーを転がす。キャンディーはたまに舌から落ちて歯に当たり、コト、コトと音を立てた。

 しばらく舐めていると、キャンディーはその姿を少しずつ小さくしていって、やがて消えてしまう。

 他にも何かないかとポケットを探ってみるが、キャンディーは一粒しかなかったようで、口の中に残ったキャラメル味が無くなるまで楽しむことにした。

 

 たまに舞う雪も見飽きて、適当に星を繋げて勝手な星座を作る遊びに飽きた頃、次の暇潰しに選ばれたのは鼻歌だった。ラジオか何かで聞いた事のある曲を、覚えている部分だけを繰り返す。歌詞の内容は、恋に空回りする男の子を表したもの、だったはず。妙に共感した覚えがある。別に、私は恋とかしていないが。

 

「これは別に、恋とかじゃないし……」

 

 誰かに突っ込まれた気がして、何とはなしに呟いてみる。頭の中では、カフェを営んでいる姉があらあらと微笑んでいた。

 一段と、特に頬の辺りが冷たく感じて、いつの間にか下がっていたマフラーを顔を隠すように引き上げる。いつもより早い鼓動は、別にアイツの顔が思い浮かんだからとかではなく、寒いからだと、自分に言い聞かせた。

 

 ふと、辺りが急に暗くなった。空を見上げると、暗い雲が星空を隠している。そして間もなく、冷たいものが顔に掛かった。キラキラと、街頭の光を反射して輝くそれが雪であるというのは、考えなくても分かる。

 今日に限って傘を持ってきていない自分を恨めしく思う。今はまだ弱いとはいえ、雪が降る中でじっと待つのは気が滅入る。

 袖を捲って、時計を確認する。長針は、もう少しで頂点を示そうとしていた。

 

 ふっと、暗くなる。先ほどとは違って、今度は私の周りだけ。

 驚いて、顔を上げると、そこには。

 

「ごめん。待たせたよね」

 

 まだ待ち合わせには数分あるのに、そんな事を言って微笑む指揮官の姿があった。

 鼓動が、少しだけ早くなる。ちょっとだけ、頬が熱く感じる。

 

「別に。私も、今来たところよ」

 

 せめて態度だけは取り繕って、口元を隠すマフラーを左手で下ろして、気丈に言い放つ。

 それに対して、指揮官は何も言わず、少しだけ苦笑して、私の頭に掛かっていた雪を払った。

 

「ちょっと、なに勝手に触ってるのよ」

「いや、WAは可愛いなって思って、つい」

 

 私のきつい言葉も気にせずに、指揮官は歯の浮くような言葉を返してくる。それに何か返そうとして、頭の中をかわいいという言葉が駆け巡って、口を開いたまま閉じれず、結局俯く事しかできなかった。

 

「……本当に、アンタなんて待ってないから」

 

 なんとか口から出た言葉は、分かってるよ、なんて言葉に無力化されてしまった。

 

「うん。WAは待ってなかっただろうけど、ずっと寒いところに居るわけにもいかないし、そろそろ行こうか」

「私は別に寒くないけど、全然寒くないけど、寒がりのアンタの為に……アンタの為じゃないけど! 仕方がないから、ついていってあげるわ!」

 

 途中で自爆した気がしないでもないが、そう言いきって、指揮官の横に並ぶ。

 指揮官が苦笑する気配を感じながら、私は少しだけ距離を取る。

 

 この、うるさいまでの鼓動が、指揮官に伝わらないように。

 

 




 ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

 雪の中の待ち合わせ。あなたは何をしますか?

 





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