−数十年前 1973年 神浜市−
当時の高坂一族と松井一族は神浜市の領有権争いにより一族同士の構成員による争いが絶えず当時21歳という若さで高坂一族の幹部に就任していた吉田宗雄は対応に追われていた。
宗雄「・・・また抗争か。」
部下「はい、またしても中央区付近で松井一族の構成員と揉め事があったそうです・・・。」
宗雄「中央区に関しては松井一族と不可侵条約を結んだばかりだというのに・・・松井一族とは余計な面倒ごとは避けなければならんな。」
部下「どうやらアチラの構成員の言い分ではどうして不可侵条約を結んだ高坂一族が中央区にいるんだという理由で抗争に発展したらしく、逆に我々の方の構成員達は中央区の知り合いと合う予定だったとの事だとです。」
宗雄「向こうは何かこちらへの要求等は言ってないのか?」
部下「はい、今の所は。」
宗雄「そうか、ならいい・・・。」
宗雄は抗争を回避する「穏健派」の人間であり一族には「過激派」や「穏健派」が存在していた。
過激派の思想は「高坂一族こそ神浜を統一せし者」というスローガンを掲げている一方、宗雄達が率いる穏健派は「一族同士が共和し神浜を共に統べる者」を掲げている。
このように異なるスローガンを掲げている為に高坂一族は内部で過激派と穏健派によって分かれ今でも論争が続いていた。
それから1年・・・後に「高坂健太」の父となる「高坂影信」が産まれ、そして5月松井一族からある使者が送られてきた。
−1年後 1974年 5月−
宗雄「松井一族からの使者?」
部下「はい、なんでも宗雄様にお会いしたいそうで・・・どうされます?」
宗雄「仕方ない、その方を通してくれ。」
部下「了解しました。」
部下が使者を通してくる。その使者は宗雄よりも若い少年だった。
宗雄「貴方が松井一族からの使者か。」
「はじめまして、吉田宗雄様、私は伊東吉信と申します。」
その使者こそ、後に宗雄との確執を生んだ少年、伊東吉信本人だった。
宗雄「何やら俺と話がしたいようだが・・・何のようだ?」
吉信「宗雄様に松井一族からあるご報告がございましてね。松井一族族長の提案により高坂一族と同盟を結ぼうとの事です。」
宗雄「なんだと・・・?」
吉信「この事は高坂一族の族長も承諾されました。松井一族からの証として毎年一年間に「奴隷」を送らせて頂く事にいたしました。」
宗雄「・・・・・・」
吉信「要件はそれだけです。失礼致します。」
吉信はそれだけを伝え部屋を退出し宗雄は頭を抱える。
部下「宗雄様、今の話は・・・」
宗雄「穏健派も一枚岩ではないということがよく分かった・・・一族はとことん腐りきっている・・・。」
宗雄はこの一族の族長が結んだ同盟の証とされる「奴隷売買」を危惧していた。
宗雄は唇を噛み締め一族に対し静かに怒りを顕にした。
それから12年立ち、時代はバブル期へ入った。
−12年後 1986年−
産まれた高坂影信は12歳となり吉田宗雄は33歳となっていた。
影信は天性の持ち主と呼ばれ行々は高坂一族の次期族長継承者になれると噂になっていた。
そんな宗雄は影信のお目付役をやらされておりこの日は一族内の子供達と外で遊んでいた。
影信「ん?なぁなぁ宗雄さん、あの人達は何の人?」
宗雄「あぁ、あれは「お手伝い」さんだ。高坂一族をお手伝いする人達だ。」
幼かった影信に宗雄は「奴隷」という言葉を使うのは刺激が強すぎるために敢えて「お手伝い」という言葉に変えマイルドに話す。
影信「ふ〜ん・・・あっ。」
宗雄「ん・・・?」
すると影信が何かに気づき見てみると松井一族に連れて来られた人達の中に影信と同い年くらいの少女がいた。彼女こそ後に健太の母となる「高坂恵理子」だ。これが影信と恵理子の出会いだった
宗雄「(あんな幼い娘まで奴隷に駆り出すとは・・・ここだけ昔のままか・・・むっ?)」
影信は目をキラキラさせて恵理子を見ていた。それを見た宗雄はもしかしたらと思いつつ暫く様子を見ることにした。そしてとある日・・・
影信「ふ〜んふふ〜ん「キャアア!」っ!なんだっ!?」
影信は鼻歌を歌いながら廊下を歩いていると庭の方で叫び声がし、慌てて庭に出ると影信と同い年の子供が恵理子をイジメていた。
ガキ1「おめぇいつもいつも汚ねぇんだよ!」
ガキ2「しっかり風呂でも入れよ!まぁ奴隷のお前には豪華すぎるけどな!ハハハハハ!」
恵理子「うぅぅ・・・!」
ガキ3「お前さぁなんか腹立たしいんだよなぁ…!だから俺らのサンドバッグになってくれや!」
子供の一人が恵理子の髪を掴み罵声や誹謗中傷を放ち言いたい放題言っていた。
そう言って子供は恵理子を殴ろうとし恵理子は恐怖で目を瞑った。
すると恵理子が殴られる瞬間影信が走ってその子供めがけてドロップキックを仕掛けた。
影信「うぉあああああ!!」ドガァ!!
ガキ3「ぎゃあっ!?」
ガキ1「うわっ!なんだ!?」
恵理子「っ!」
影信「はぁ・・はぁ・・・大丈夫か!?」
恵理子「はっ、はい・・・。」
ガキ1「おいコラ影信!なに憂さ晴らしの邪魔してくれてんだコラァ!?」
影信「あっ、悪い悪い、憂さ晴らしだったんだな!!・・・ダッセェことしてんじゃねぇぞコラ。」
ガキ1「あぁ!?」
影信「自分より弱い奴を集団でイジメて何が憂さ晴らしだ。逆に俺がてめぇらサンドバッグにして憂さ晴らししてやるよ。」
ガキ1「上等だコラァ!」
そう言って子供達は影信に攻めにかかるが、数分もしない内に影信子供達を還付なきまでに叩きのめした。
彼は「魔法少年」であり宗雄から武術をたくさん習得しているため生半可な攻撃は通用しない。
ひと通り済ませた影信は恵理子に近づいて
影信「平気か?」
恵理子「・・・・・・」
影信「・・・喋れる範囲で良いから、何があったのか教えてくれないか?」
恵理子「・・・ごめんなさい!!」
影信「あっ!・・・まぁ仕方ないよな。」
−翌日−
翌日、影信が再びこの場所に来ると恵理子が廊下に座って庭の花を見ていた。それを見た影信が恵理子に声を掛ける
影信「やっほ。」
恵理子「っ!」
影信「花を見てるのか。あの花は白菊の花でな、特にあの白菊は真ん中がピンク色だから「甘い夢」っていう花言葉なんだよ。」
恵理子「・・・貴方はどうして私みたいな「奴隷」に近づいてくるんですか・・・?」
影信「あいつらも言ってたな・・・宗雄さんも気を使って「お手伝い」さんなんて言ってたけど…。」
恵理子「そんな事はどうでもいい!どうして奴隷の私を助けたんですか!?」
影信「・・・俺はあんたを好いたんだ。」
恵理子「えっ・・・?」
影信「あんたを好いたから助けたんだ。それ以外に理由なんてねぇ。」
恵理子「・・・私は「奴隷」なんですよ?貴方はこの一族の継承候補なのにどうして・・・」
影信「だからなんだよ、んなもん好きになった人に私は奴隷ですなんて言われても関係ねぇよ。そんなんで区別するほど俺は阿呆じゃない。それに・・・」
恵理子「?」
影信「俺は差別が死ぬほど大嫌いなんだ。」
恵理子「っ!・・・・・うぅっ・・・!」
影信「えっ?!」
すると恵理子が突然泣き始め突然の事で影信は慌てふためく。
影信「いやその!えっ!?俺なんか悪いこと言ったか!?」
恵理子「ちっ違うんです・・・!他の人と違って優しいからつい・・・」
影信「優しい・・・?」
恵理子「はい・・・一族で私をそんな風に見てくれるのははじめてで・・・」
ここに連れて来られる前から恵理子はひどい迫害受け松井一族から追い出される形でここに連れて来られた。
だがここでも陰口を言われたり、挙句の果てには殴られる事もあった。
それを聞いた
影信「(敢えて触れてはいなかったが、腕に痣があったのはそれが原因だったんだな・・・。)気にすんなよ、あんたは一人じゃない。もし何かあれば俺に相談してくれ。」
恵理子「ありがとうございます・・・えっと・・・」
影信「あぁ、名前がまだだった・・・俺は高坂影信だ。よろしくな。」
恵理子「影信さん・・・私は松井恵理子。今後もよろしくお願いします。」
影信「おう!あ、あと・・・」
恵理子「はい?」
影信「恵理子は俺に敬語なんて使わなくていい、同い年なんだから。」
恵理子「えっ、そんな一族継承候補の方に私語なんて・・・」
影信「一族継承候補なんてクソ喰らえだ!ましてやこんな娘まで奴隷にする一族のリーダーなんて死んでもごめんだぜ!」
恵理子「影信さん・・・」
そう言って影信は恵理子と打ち解け二人は一族内で密かに恋人同士となる。
宗雄「(ふっ、やっぱりあいつは優しいな。嬉しい限りだ。お前の行動でこの高坂一族を変えてくれる事を祈るばかりだ・・・)」
宗雄はそう言って二人の時間を増やすためその場を去っていった。
しかし数日後、高坂影信の元に一人の男が現れた。
影信「っ!族長・・・!」
現れたのは高坂一族の族長「高坂壱隆斎」
壱隆斎「君が影信くんか。」
影信「そうっすけど、何か?」
壱隆斎「単刀直入に言わせてもらうが、君は継承候補なんだからあんな小汚い娘と関わりを持つのは止めなさい。」
影信「・・・・・・」
壱隆斎「君は後々高坂一族の実権を握るんだ。あんな人権もないような奴隷に振り回されてちゃあダメだよ。」
壱隆斎はそう言って不敵な笑みを浮かべるが、影信は壱隆斎の思っていた事とは真逆の事を言う。
影信「あっそ、じゃあ継承候補から降りますよ。」
壱隆斎「なに・・・?」
影信「俺はな、あんたみたいに自分の利益の事しか考えないような奴にはなりたくないんでね。それにあんたの今言った人権も無い奴隷に俺は命掛ける覚悟だってあるんだ。だから俺は降りるから他の継承候補探しな。」
壱隆斎「なっ・・・!?まっ待て影信!」
影信「なんすか?」
壱隆斎「君は何か思い違いをしている!いいか!?族長という立場になれば、良い女は好きなだけ抱ける!一族を思うがままにする事だって出来る!あんな小汚い娘なんかよりそう言った女を抱くほうg「うるせぇ!!」っ!?」
影信「思い違いしてんのはあんただ!良い女を抱ける?一族を思うがままにする?ふざけんな!俺はあんたらになんと言われようが「松井恵理子」っつう存在を好いたんだ!俺は絶対にあいつを裏切る事はしねぇ!!」
そう言って影信は足速に壱隆斎の元から去る。入れ替わるように宗雄も現れた。
宗雄「ことごとく論破されてしまいましたね、族長。」
壱隆斎「む、宗雄・・・!!」
壱隆斎は足速に宗雄に駆け寄る。
壱隆斎「宗雄!は、早くあいつを説得してくれ!!」
宗雄「・・・・・・」
壱隆斎「あいつは優秀な知能もある!あいつが継承候補から降りられたら高坂一族の存続に関わるんだ!」
宗雄「話はそれだけですか?失礼します。」
壱隆斎「宗雄!命令が聞けないのか!?」
宗雄「命令を聞けない程、信頼を落としたのは貴方なんですよ。」
壱隆斎「っ!?」
宗雄は一言そう言って壱隆斎から去っていった。
壱隆斎「おのれぇ・・・!影信・・・!宗雄・・・!」