SwordArtOnline Anotherstory<黒の剣士と可能性の賢者> 作:NoaH AlmalS
今回は短編がいくつか合わさったものとなっています。少し時系列が分かりづらいと思いますが、詳しい時系列についてはあとがきの方にてご説明します。
では、本編をお楽しみ下さい。
「いやぁぁぁぁぁ、こっち来ないで!」
「や、やめてぇぇぇぇぇぇ!!」
「ヒュオオォォォオォォ!!」
「「・・・・・」」
ここはアインクラッド第六十六層の迷宮区、通称《テラー・ゴースト・タワー》。
この名称からわかるように、今回の迷宮区、いや今回の層のテーマは《ホラー》である。
その為、この層では大量のアンデッドモンスターが出現し、特に後半──迷宮区に近づくにつれてアストラル系の比率が高くなっていく。
こういった仕様のせいか、少し前の五十五層──通称《むしむしランド》に続いて、女性プレイヤーを筆頭とする一部の攻略組メンバーから嫌悪されている層である。
そして今、現在僕──ノアはキリト、カエデ、アスナの四人で迷宮区攻略をしていた訳だが...
「アスナ、カエデ、落ち着け!このままだと他のMobも引っ掛けちゃうぞ!」
「そ、そんな事言われたって!」
「こ、怖いんだから仕方ないじゃない!」
と、いつもは気が強い女の子二人が揃ってLv.68のアストラル系モンスター《エンシェント・クレイジー・レイス》に怯えている始末であった。
そんな彼女達を見て、キリトと一緒にため息を吐くと、それぞれの武器──キリトはいつも通り《エリュシデータ》、僕はこの前リズに《クスリタライト・インゴット》で作ってもらった大型ハンマー《グレイシャル・イクリプス》を構えると、レイスに向かって走り出す。
そして、それぞれの武器が輝きを帯び始める。
「「カエデ(アスナ)、スイッチ!」」
と僕達が叫ぶと、彼女達は同時に横に飛び退ける。
その直後、その留まっているレイスにアメジストパープルの光を纏った刃と、エメラルドグリーンに輝くハンマーが襲いかかる。
キリトの操る片手剣は、レイスの胸部──レイス系モンスターの弱点である「核」に突き込まれ、更に押し込まれれる。そして、手首を反転させて後ろに切り上げる!
片手剣三連重攻撃技《サベージ・フルクラム》を叩き込まれ、強力なノックバックが発生したレイスに今度は緑の軌跡を描くハンマーの高速の四連撃が襲いかかる!
両手武器の中でも、相当な重さの部類に位置する両手鎚に分類されるハンマー《グレイシャル・イクリプス》はその大きさからは想像できない程の速さで左右に四回振り抜かれると、最上段から全力で振り下ろされた!
神聖属性を含むソードスキルの多い両手鎚ソードスキルの上位、神聖五連撃技《バスタリング・ラファエル》は残り四割程だったレイスのHPを余さず削りきり、レイスは高周波の断末魔を響かせながら、その身を消滅させた。
[五十六層迷宮区安全地帯]
「ほんとキミ達、何でわざわざ苦手なアストラル系がひしめくこの迷宮区に行こうなんて言い出したんだ?結局逃げてばっかりだったじゃないか」←キリト
「だ、だって!オバケが出るのは知ってたけど、あんなトラップがあるなんて知らなかったの!」←アスナ
「そ、そうだよ!あんなドッキリ系トラップやオバケがいるのにノア達は怖くないの!?」←カエデ
今、体育座りをして震えている二人に対してキリトが色々と聞いている訳だが、二人とももう涙目で本気で泣きそうだった。
この迷宮区は少し特殊な仕様になっていて、安全地帯を除くすべてのエリアに転移結晶系のアイテムが一切機能しない(治癒結晶等、転移系以外のクリスタルは使用可能)。その上、この迷宮区をデザインした人物がホラー要素を重視したせいか、これでもかという程の、大量のホラートラップが用意されてある。
その為、ここの難易度はこの層の攻略適正レベルに対して相当高い。
(このまま攻略を続けても彼女達がこれじゃあ、あまり進展は望めなさそうだな)
そう判断し、彼等に一時撤退の提案をしたところ、全員が賛成した為、今日は帰る事となった。
第五十四層主街区《ロンディミニアス》
五十四層主街区の郊外にひっそりと建つ、中世ヨーロッパを彷彿させる洋館がある。
『ひっそり』と言いはしたが、この洋館は主街区の一角の一等地を丸々独占する程の広大な敷地面積を誇っている。
どこかの超大手ギルドのホームかと思う程の大きさだが、所有しているのはギルドでもNPCでもなく、僅か数名のプレイヤーである。
まぁ、つまるところこの洋館こそ、僕や他数名のプレイヤーホームであり、現在の探偵事務所である。
そして、今日迷宮区に潜っていたメンバーは、これまた広いリビングに集まっていた。
「はぁ~。やっぱりここは落ち着くなぁ~」
と、ソファーに埋もれながら腑抜けた声を出すのはここに住む同居人の一人であるカエデ。
この広大な屋敷を成り行きで入手した際、
「これだけ広いなら、他に誰かが一緒に住んでも良いでしょ」
と、彼女に言い寄られ、というか駄々を捏ねられて、渋々同居を許可した結果、いつの間にかアルゴまで住み着いている始末で、一時は色々と大変な事になった。
彼女達がいるお陰でこのばかでかい屋敷の維持ができている訳だが。
因みに、今はKoB副団長のアスナも居候中(良い家を見つけるまでの話らしい)だが、キリトは五十層主街区《アルゲード》のアジアの街のような雑多な雰囲気が好みらしく、ここには住んでいない。
「あ~、俺もこっちに引っ越した方が良かったかな」
と、僕の黒い相棒がポツリと呟いた。
その途端、
「キ、キリトくんはここに住んじゃ駄目!」
と、急に副団長様(居候中)が顔を真っ赤にして叫んだ。
「「「・・・・・」」」
「・・・・!?」
どうやらアスナ君、漸く自分の口走った事に気づいたらしく、
「...そっか、アスナは俺と住むの、嫌なのか...」
と、真ブラッキーになったキリトに、
「ち、違う、そう言う意味じゃなくて!」
「ノ、ノアさんに迷惑がかかるかもって思っちゃったの。あ、あの、本当にごめんなさい!」
と、何故か涙目になって弁明していた。
「...君たち、そんなにじゃれあいたいなら、今から一部屋ご提供致しましょうか?」
と、できる限り呆れて聞こえるように言ってみると、二人揃って一気に顔を赤くして、
「な、何をいきなり!///」
「え?キリトの要望通り一部屋提供しようと言っただけだが?」
「は?あ、あぁ、そういう事か。何だよ、勘違いするじゃないか」
「ほんとだよ~。ノアさん、そんな事言われると本当に勘違いしちゃうじゃないですか」
と、胸を撫で下ろす二人に、
「ほう。人様の屋敷で、一体
「「!?///」」
.....。
何だろう。からかってやろうかと思ってたのに、何だか見せつけられているような雰囲気になってきたな。
「二人とも、毎度毎度見せつけられてこっちもお腹一杯だよ~」
というカエデの発言にまた赤面する二人。
...もう、このままじゃ終わる気がしないし、そろそろ話題を変えるか。
「...それじゃあ、そろそろ本題に入らせてもらおうか。皆にあの迷宮区の感想を聞きた──」
「「超怖かった。もうやだ、あそこには行きたくない(泣)」」
「「・・・・・」」
...どうしよ、コレ。
今日の攻略で得た情報を纏めて、アルゴや他の攻略組の面々に渡そうと思ってたのに、彼女達がこのザマである。
でも、確かにアレは彼女達には少々キツ過ぎたと思わざるを得ない。
五層で初めてアストラル系モンスターに遭遇した時から、依然として苦手なままらしい。
「そう言えば、この層の攻略が始まってから、あまり君達の姿を前線で見てなかったな」
アスナはリビングデッド系は大丈夫らしく、序盤は攻略に顔を出していたが、最初のフィールドボスを倒した辺りからアストラル系モンスターがポップしだして以降、まったくと言っても良いほど姿を見せなくなった。
カエデに至っては、最初から何かと理由につけて攻略に参加しようとはしなかった。
まあ彼女がオバケが苦手な事は以前から知っていたので、無理に参加しなくてもいいように便宜を図っていたのだが、昨日家にやって来たアスナと話した後急に迷宮区に行くと言い出した。
あれ程嫌がっていた六十六層攻略に急に積極的になった彼女に仕方なく同行し、同じようなシチュエーションでアスナに連れて来られたキリトと合流して、「いざ、攻略!」と思って迷宮区に殴りこんだら、この有様である。
克服は難しいだろう。だが、もし彼女達が克服できたなら、今後の攻略、そして
「アスナ、カエデ。本当にどうしてこんな事言い出したんだ?」
と、キリトが二人に尋ねたところで物思いから覚める。
彼の言葉につられて二人の方を見ると、
「そ、それは...」
「キ、キリトくん達に私達がオバケが怖い理由をその身で理解してもらおうかな、なんて思いまして?」
「なんで語尾が疑問形なのか、気になるが今は気にしないことにしておこう」
「「・・・お願いします・・・」」
...色々と聞きたいことはあるが、それはまたの機会にしよう。
ほんと、この娘達はどうしたって言うんだ?
普段であれば、彼女達の考えていることを《視れば》すぐなのだが(四六時中見てばっかりだとプライバシー侵害になりかねないし、精神的な疲労が溜まりやすいので、いつもは自粛している)、最近は何故か彼女達の思考や感情が読み取れないことが多々ある。
ほんと、何なのだろう。
┌┤Side Kirito├┘
「え、えっと。それじゃあまたね、キリトくん」
「あ、ああ。またなアスナ」
あの後、何故か様子がおかしくなったアスナ達と話をまとめようとしたのだが、変に気まずい空気が漂い始めたので、話し合い自体は解散となった。
だが、俺はノアに聞くべきことがあったため、一人リビングに残っていた。
「粗茶ですが、どうぞ」
「ご丁寧にどうも」
ノアがコーヒーのカップをこちらに持ってきた。
彼の淹れたコーヒーは程よい酸味とコクがマッチした逸品で、中層にいる料理マイスターのブレンドしたものらしい。
前にそのプレイヤーについての情報をアルゴから買おうとしたのだが、得たのはそのプレイヤーが神出鬼没の幻のような存在ということだけで、結局買いに行く時間と余裕もなかったので断念するほかなかった。
まあ、それは置いておいて、目の前でコーヒーを堪能している白髪の青年から聞き出さねばならない事がある。
「それでキリト。僕に聞きたい事とは何だい」
と、ソーサーにカップを置いた彼が話を切り出してきた。
「決まってるだろ。
最近のお前の事だよ」
「僕の事?話すような事なんて無———」
「とぼけるな」
何食わぬ顔をしてとぼけたノアに声を低くして問い掛ける。
俺が真剣なのを感じ取ったのか、ノアは「悪い」と言って表情を引き締めた。
「...キリト、一体僕の何を聞きたいんだ?」
彼の発する雰囲気が豹変する。
いつもみんなの前で見せているモノではない。彼が本気になった時に発せられる、万物を凍てつかせるかの如き冷たいオーラ。
攻略組において、《最強の一角》とあのヒースクリフにすら言わしめた男。
βテスト時から、カエデと共に三人でパーティーを組んでいた俺ですら、そのオーラに気圧されそうになる。
が、俺は真っ直ぐ彼を見つめる。
「お前、何を隠してる」
「隠してるなんて、心外だな。君は多分、最近僕が一人で行動している事について知りたいんだろ」
「話が早くて助かるよ」
「まあ、そんなに真剣にキリトが聞くないし相談しそうな事なんて、僕かアスナ君の事ぐらいだろうしね」
そう茶化す彼は苦笑していたが、目は笑ってなかった。
「ノア。最近お前がよく姿を見せなくなったから、アルゴやエルさん達に調査を依頼してたんだ」
「...最近、周りを嗅ぎまわられているような気がすると思ったら、そういう事か」
今現在、アインクラッドで最も名を馳せている情報屋はアルゴだが、もちろん彼女だけが腕の良い情報屋という訳じゃない。
ノアはもちろんのこと、攻略組の情報収集ギルドとしても頭角を現した《
「彼女達に調べてもらった結果、お前の姿が《始まりの街》の黒鉄宮やその他様々な層で目撃されてた」
「...それがどうしたと言うんだ」
「お前が足を向けてる層がかつて使徒が出現した層だと言えば?」
「.....そこまで分かってるのか」
「大半はアルゴとエルさんに助けてもらったけどな」
俺の一言にノアはため息を吐き、身体中から放っていた威圧的な雰囲気を引っ込めると、
「《槍》の獲得条件が判明した」
と、出し抜けに言ってきた。
「《槍》とは?」と聞くのは、愚行だろう。
彼が言う《槍》とは、言うまでもなく《ロンギヌス》の事を指している。
現在、アインクラッドを脅かす災厄《使徒》、そして《黒の巨人》アルマロスとその眷族。
彼らに対して特効能力を持つであろう、その槍を所持しているのは件のアルマロスであり、奴を倒さずして、槍の入手は不可能だと思われてきた。
「オレンジの残党を捕縛して黒鉄宮に叩き込んだ後、僕は手掛かりを探して、これまで使徒が出現した層を中心に調べてたんだ。そして、その調査は見事に成功した」
そう言い、彼はウィンドウを操作していくつかのアイテムを取り出した。
それらは、青空のように澄んだ立方体の水晶片らしきものだった。
「...何だこれ」
「アイテム名は《方舟の欠片》となっている。恐らく、数ヶ月前に僕が攻略して、その後消滅したあの《方舟》に関係あるんだろうね」
「あの時のか...」
黒猫団を脱退した後に、ノア本人から聞いた謎のダンジョン。
彼がクリアした後は消息を絶っており、あのアルゴですら、情報の入手に失敗したらしい。
「これは推測なんだが、恐らくこれを全部集める事が槍の入手条件。これらは使徒の出現した座標にポップしていたから、多分使徒を倒さないと入手できない」
「じゃ、じゃあ、そもそも槍は使徒を全て倒さないと手に入らない...?」
俺の声にゆっくりと、しかし確かに頷いたノア。
はっきり言って、信じがたい。
あんなバケモノクラスのモンスターを全て倒さないといけないなんて。
「...ノア。使徒は後何体残ってるんだ?」
「この二ヶ月の間に行われた討伐戦で、第七使徒《マトリエル》と第八使徒《ガギエル》、そして第九使徒《サンダルフォン》を新たに殲滅したから、恐らく後3体」
「3体もいるのか...」
蜘蛛のような足を持つマトリエルは足を切り落として動けなくしたらすぐ倒せたが、六十二層で出現したガギエルは海、六十四層にいたサンダルフォンは溶岩地帯と、SAOにおいて最悪ともいえるフィールドでの戦闘となった為、これまでで討伐した使徒の中でも格別に厄介な相手だった。
これらの戦闘における死者はそれぞれ二桁に登った。
おまけに、
「やっぱり、ステータスは...」
「あぁ、これまでの奴らの比じゃないだろうな」
その一言がどれだけのものかは、これまで使徒を倒してきた俺達には痛い程に理解できる。
「まぁ、そいつらよりも更に上がいる今、ぐずぐず言っては入れないんだけどな」
「当然だ。...それより、他の奴には?」
「ヒースクリフにはもう話してある。お前のその反応からして、アルゴ達も知らないんだろ」
その通りだった。ノアの調査を請け負ってくれた彼女達も、結局彼がどういう目的で行動していたのかについては分からなかったらしい。
「まぁ、そう言う訳だ。それに、そろそろ頃合いだろう」
「頃合い?」
何の事か分からず、首を傾げる俺に、
「
.......は?
「な、何言ってんだよ、ノア!さっき、強力な使徒が今後出るって───」
「落ち着け。今すぐ脱退する訳じゃない。早くても、最後の使徒を倒してからの話だ」
「それにしたって!」
彼は攻略組に最も必要なプレイヤーの一人だ。
レイド戦等における作戦指揮能力の高さ、優秀な頭脳、そして何より卓越した戦闘センス。これら全てを併せ持った、いわば《仮想世界の申し子》とでも言うべき青年。
使徒の討伐やフロア攻略によって、数が少なくなってきた今の攻略組から、彼一人抜けるだけで非常に大きな損失が発生する。
そんな事態になった場合、俺も出し惜しみせずに《アレ》を使わなくてはならない。
「キリト、この事は誰にも言うな。...例え、アスナ君やカエデであっても」
ノアが目に鋭い光を宿らせて、釘を刺してきた。
そして、次の一言で俺の度肝を抜いてきた。
「もしバラしたら、お前の持ってるエクストラスキルについて洗いざらい吐いてもらおう」
「ッ!!知ってたのか...」
そう言う俺に、彼はさも当然と言わんばかりに眼鏡をクィッと押し上げた。
ほんと、底が知れない奴だ。
俺も周りには気を付けなければ。
そうしないと、いつ、誰にバレるか分からない。
「まあ、気を付けたまえ少年」
「そうさせてもらうよ」
...ほんと、気を付けよう。
┌┤Side Noah├┘
夢を見た
まだ幼い頃、吹雪の吹き荒れる雪山に建てられた天文台にいた頃の記憶
親はいなかったが、そこで働く人はみんな優しく、楽しい人達
そして、僕と同じ境遇の亜麻色の髪の男の子と、藤色の髪の女の子
二人とも僕と同い年で、一緒に遊び、学び、お菓子を食べ、本を読んだ
いつも活発で、よくいたずらをする少年に触発されていたずらをした結果、三人諸共怒られた時
真面目で芯が強く、それでいて天然な少女と共に部屋で本を読んだ時
自分の容姿を自身の描いた絵の人物に整形、もとい改造した天才(変態)にゲームを作ってもらった時
いつも僕達は一緒だった
この楽しく、温かい日々がずっと続くと思ってた
だけど、その日々は唐突に終わりを告げた
煌々と燃え続ける管制室
いつも青い光を湛えていた球体は、その身を周りの炎と同じ色に変えている
そして、崩れた瓦礫の下敷きになった職員の人達
その中には、血だらけになって倒れている少年の姿が...
『■■■■さん!■■■さんが、■■■さんがぁ!』
彼の亡骸にすがり付いて、嗚咽を上げる少女
僕はどうしようもなく、その姿を見ている事しかできず...
(?)
不意に背後から、鋭い視線を感じる
やめろ
背筋に寒気が走り、本能が警鐘を鳴らす
やめろ...!
しかし、僕は操られたかのようにゆっくりと後ろを振り向き、
やめろ...!
そこにあった幾つもの赤黒い眼球を見て、そして──────
「ッ!!」
あまりの恐怖で飛び起きた僕の視界に映っていたのは、いつも通りの僕の部屋だった。
窓から暖かな光が差し込んで来ている事から、もう朝になったのかと脳の片隅で呟く。
「....早く準備をしないと...」
別に寝起きが悪い訳ではないのだが、今日は何故か力が出ない。
心臓が早鐘を打って止まず、猛烈な気分の悪さも収まらない。
「ウッ」
襲いかかる強烈な吐き気に耐えきれず、ベッドの隅に手をついてえづく。
現実世界ならば、胃袋の中身を思いっきりぶちまけているところだが、仮想世界にそのような機能はない為、感じるのは胃と食道が脈打ち暴れる異様な感覚だけだ。
その感覚に苦しんでいたその時、
「ノア、いつまで寝てるの!早くしないと遅れちゃうよ!」
という、同居人の声と共にドアが勢いよく開いた。
慌ただしく部屋に入ってきたカエデはこちらを見て、
「もう、一体いつまで寝...て.....ッ!?」
苦言を呈そうとした彼女の声が減速していく。
その理由は言うまでもなく、僕の様子を見たからだろう。
「...ノア、どうしたの」
先程までの怒りは消え、代わりに心配そうな声を掛けてくるカエデ。
その紅い瞳には、不安げな光が揺蕩っている。
「...大丈夫だ。ごめん、寝坊してしまっ「そうじゃないっ」
誤魔化そうとした僕の声を、彼女が遮った。
「そんな苦しそうな、つらそうな顔をしているのにそんな事言ったって、信じる訳ないでしょ」
「.....そんなにつらそうに見えたのか」
「うん。だってノア、
今、泣いてるんだよ」
「...え?」
彼女のこの一言で、漸く僕は頬をつたる水滴に気づいた。
すぐに拭うが、それらは眼からどんどん溢れてくる。
「...あれ、どうしたんだろ。何で止まらないんだ?」
訳も分からず溢れる涙を、ただただ拭い続けていると、
顔に柔らかいモノが押し付けられた。
より具体的に説明すると、今僕の頭をカエデが胸に抱いている状態だ。
「え、あ、ちょ、カ、カエデ?」
普段の彼女ならばしないであろう行動に驚き、つい身動ぎをすると一瞬ピクンと硬直するが、すぐにいっそうその豊満な胸に押し付けられる。
一体どうしてこんな事を?
そう聞こうとするものの、口が思うように動かせず、
「...どうして」
と言うのがやっとだった。
彼女はそんな僕の問いに鈴の音のような声で答えた。
「今のノアを見てると、なんかしちゃいたくなっちゃって」
しちゃいたくなった、って...。
そう呆れつつも、同時に先程までの気分の悪さや吐き気が少しずつ和らいでいくのを感じた。
「...無理なんて、しないで」
「え...」
「私、知ってるんだよ。ほとんど毎日、寝もせずに戦ってる事」
「!バレてたのか...」
「当たり前でしょ。夜に部屋に行ったらもぬけの殻だった事なんて何度あった事やら」
「...すまない」
「別に謝れなんて言ってないよ」
彼女の優しい声を聞いていると、胸が痛くなる。
確かに、僕はほぼ毎晩高効率の狩場でレベル上げに勤しんでいる訳だが、ただ強くなる為だけにやっている訳ではない。
振り向かない事にしたはずの、蓋をしたはずの過去を夢に見てしまう事が最近多くなり、その夢のせいで僕は周りの人達も同じような事になるのでは、という恐れを抱くようになった。
だから、キリトやアスナ、シルヴィ、アルゴ、何よりカエデを、僕が────、
「──ア、ノア?聞いてる?」
「ん、あ、ああ。なんだ?」
「聞いてなかったんだ...。もう元気になった?」
と、頭上から声が降ってくる。
「ああ、元気にはなった。けど」
「?けど?」
「ちょっと、息が...苦しく....」
「?...ああ、ゴメン!!」
何故か急に慌て出した彼女から漸く解放され、僕は酸素を取り込むべく、何度か深呼吸をした。
カエデの顔を見ると、透き通るように白く、それでいて薄い桃色を帯びた肌はいつも以上に真っ赤に染まっていた。
彼女はしばらく、しばらく魚のように口をパクパクした後、
「じゃ、じゃあ下で待ってるから!早く降りてこないと置いてくからね!」
と言いながら、部屋を出ていった。
ホント、何だったんだ?
第六十三層
「夏だぁ!」
「海だぁ!」
「「海水浴だぁ!!」」
真夏(4月)の砂浜ではしゃぐ、
ここ六十三層は美しい海と砂浜があるリゾートフロアだ。
序盤の七層もリゾート地ではあったが、あちらはカジノをメインにした、ラスベガス等に多いタイプだった。
それに対し、こちらはハワイやグアムみたいに海や山等の自然をメインとしたタイプで、難敵サンダルフォンが北西部の火山に出現したのは記憶に新しい。
因みに、水中戦で僕達を苦しめた使徒ガギエルは一つ前の六十二層の大海で討伐された。
そして、三日前に六十六層ボス部屋にて、《
その後、攻略組の一部メンバーから、一時的に休暇を取らないかという意見が《会議》に寄せられ、話し合いの結果、全員が二週間の休暇を得ることとなった。
そして、アスナ、カエデ、シルヴィの仲良し三人組から「遊ぼう」と誘われたので、皆で集まるとここに連れてこられ、現在に至る。
のだが、
「...どうしてこうなった」
「諦めろ、キリト。あの《皇女》様の破天荒ぶりは知ってるだろ」
「それに、その海パンはアスナさん作のモノなんだろ。もっと堂々としろよ」
「いやいやいや、まさかあの時と似た状況になるなんて思ってなかったんだよ!!」
そう叫ぶ彼の格好は黒い水着───というか、黒いボクサーパンツに、これまた黒いシャツを羽織っている。
これだけであれば、ごく普通の着こなしだと思うであろう。しかし、彼の水着、正確にはボクサーパンツの方にちょっとしたいたずらが為されている。
なんと、ボクサーパンツの後ろ側に青白い体毛の狼がデカデカとプリントされていたのだ!!
「まさか、四層の牛パン姿のデジャヴを見ることになるなんて...(笑)」
六十六層ボスの狼王ロボをデフォルメしたのであろうそれを見て、笑いを堪えてきれていないオーロ。
僕も何とか笑わずにコメントをしようとしたが、堪えることができず、吹き出してしまう。
四層の水路で彼が(意図せずに)お披露目なさった、第二層ボスの一体のLAボーナスである、尻に大きくプリントされた牛印が印象的なインナーを思い出してしまい、ついつい笑ってしまったのはしょうがないと思う。
...とは言え、
「アスナ、それぇぇぇ!」
「きゃっ。...やったわね、シルヴィ!」
「わっ!ちょっ、アスナ、私にまで、ワプッ!?」
やっぱり、彼女達の方に目がいってしまう。
浅瀬で水を掛け合ってはしゃいでいる美少女三人。
この光景を見て、目を奪われない人はそうそういないだろう。
隣の黒髪ボーイズも目が吸い寄せられている。
「シルヴィ様達、楽しそうですね」
と、僕の左隣で呟いた金髪の女騎士。
「確かに。...だけど、」
と言いながら、彼女──エルの方を見る。
「なんでエルさん、水着着て来なかったんだ?」
「私には姫様の護衛という職務がありますので」
と、いつもの凛とした表情で答える彼女。
しかし、その声には少し別の響きが混じっているように聞こえ───、
「オーロ、ノア、キリト~。こっちに来て遊びましょう!」
「そうよ、せっかく海に来たのに楽しまないと損だよ~」
と言いながら、カエデとシルヴィがこっちに駆け寄ってくる。
その後ろをアスナが少しふらつきながらついてくる。
「ア、アスナ、どうした?」
「み、水掛けに夢中になってたら、カエデに...その...」
と、顔を赤くしながら、駆け寄ったキリトに答えるアスナ。
下手人だと思われる少女の方を見ると、案の定目を泳がせているカエデがいた。
「お前、アスナ君に何したんだ」
「い、いやぁ、今のアスナって結構エロ可愛い格好してるでしょ。だからついついあの綺麗な肌に触ってみたくなっちゃって」
「お前、それ
確かに、今のアスナはその豊満な肢体を赤と白のストライプのビキニに包んでおり、カエデの言う通り魅力的だと言える。
まぁ僕も健全な男だし、そう言う目で見てしまうのはしょうがないし、カエデが触れたいと思ったのも一応の理解はできる。
だが、こういった事を見せてはいけない相手がここにはいる訳であり...
「ねぇ、カエデ。アスナのってどうだった、どうだった!
?」
と、目をキラキラさせながら、カエデにグイグイと迫る無邪気な皇女様に、
「え?う、うん。結構大きくて、柔らかくて、気持ち良かったよ」
と、若干上体を仰け反らせながらもそう答えた。
因みに、現在の二人の格好についてだが、シルヴィはアスナに形の整った体を薄い水色のビキニで包んでおり、アスナに負けず劣らずの可愛さを醸し出している。
そしてカエデは、黒ベースの水着を着た上にライトグリーンのパーカーを羽織るといった出で立ちで、陽光を受けて輝く透明な髪に良く映えていて可愛い。
そして、好奇心旺盛なシルヴィがこんな状況で大人しくするはずもなく...
「アスナ~!それぇぇぇ!」
と言いながら、いきなりアスナの双丘を揉みしだき始めた!
「うわぁ。確かに柔らかくて、気持ちいい!」
「あ、ちょっと、シルヴィ、やめっ、んっ」
と、口元をニヤニヤさせているシルヴィに揉まれながら、何とか堪えようと顔を真っ赤にしているアスナ。しかし、堪えきれずに少しずつ色っぽい吐息を出している。
もう、やってる事が皇女様のそれではなく、ただのエロ親父それになってしまっていた。
我々男からすれば、目の前のピンク色の光景は非常に目の保養と成り得るのだが、それは流石にアスナが可愛そうなので、
「エルさん」
「はい」
パコ~ンッ!
「イタッ!」
目に剣呑な光を浮かべたエルがシルヴィに近づき、目も霞む勢いで手刀を一閃。それはシルヴィの額へと寸分の狂いなく命中した。
「~~~~!ナニするのよエル!」
「無論、シルヴィ様への教育ですが」
「教育!?主の額をチョップするのが教育なの!?」
「あなたこそ、一国の皇女ともあろうお方が他人の胸を揉みしだくとは何事ですか。今は休暇中で、羽目を外すとしても限度と言うものがあります!」
涙目になって抗議するシルヴィと、彼女を鬼の形相で叱りつけるエル。
お互いに一歩も譲らない二人。その近くに近づく人影があった。
「エルさん、少しいいですか」
「ア、アスナ殿?どうされましたか」
「ちょっとシルヴィを借りたいのだけど、いいですか」
と、両腕で自身の体を抱いたアスナが、しかしいつも通りのほんわかした声で言った。
それを言った時の彼女は依然顔を赤らめていたが、いつもの彼女の笑顔だった。
こめかみが怒りと羞恥で震えていなければ。
それを見たエルさん、
「ええ、構いませんよ」
「え、エルウゥゥ!?」
あっさりと主人を見捨てた。そして、涙目になるシルヴィ。自業自得だ。
「ああ、勿論カエデも一緒にね」
「え、ちょっ、ア、アスナ、さん?」
「向こうでちょ~~とお話、しましょうか」
「ヒッ」
と、カエデが小さな悲鳴を上げた。
...よく分かる。よく分かるとも。今の彼女の放つ、どす黒いオーラが僕でも見えるのだから。
カエデは恐怖で紅い瞳を潤ませながら、
「ノ、ノア...」
と、助けを乞うように(いや実際そうなんだろうけど)、僕を見つめてきた。
そ、そんな子兎みたいに見つめて来られたら、僕も君を助けるほかないじゃないか!
と、なる訳がなく、
「アスナ君、こいつの事だったら好きにしていいですよ」
「ノアあぁぁ!?」
先程のシルヴィのように、叫ぶカエデ。
「な、何で助けてくれないの!?」
「色々あるにはあるが、一番の原因はお前が僕相手に色仕掛けでどうにかしようとしたことだな」
「・・・」
さっきは触れてなかったが、カエデがこちらに助けを求めた時、彼女はその豊満な胸を腕で押し上げて強調した上に上目遣いという、間違いなく健全な男子の百や二百くらいなら余裕で落としそうな仕草をしていた。
これが初見であったなら、僕の心にも迷いが生じていたかもしれないが、カエデがこういった事をしてくるのは初めてではない。
ここ最近、彼女の僕に対するアプローチがかなり増えたような気がする。
...いや、違う。『気がする』ではない。実際にそうなのだ。
事実、僕が《視た》彼女の感情。あれが僕の想像通りのモノであるなら、彼女は───、
「ノア。おい、ノア」
と、
「カエデ達、アスナが連さt──。...大丈夫か?」
「...ん、ああ、大丈夫だ。アイツはちょっとはしゃぎ過ぎだ。.....でも」
それはしょうがない。あの娘は向こうじゃ、海なんて行けなかったのだから。
例え、それが仮初めの世界の海であっても、彼女にとっては楽しかったのだろう。
だからと言って、他人の胸を揉みしだくのはやり過ぎだが。
「まぁ、彼女達が帰ってくる前に、夕食の準備をしとこうか」
「OK」
「了解」
そして、僕、キリト、オーロそれぞれがウィンドウを開き、各自の持参したアイテムを出していく。
今回は皆でBBQ。食材、機材準備担当は僕達男性陣が受け持っている。
...肝心の調理担当は女性陣に任せているので、彼女達が早く戻ってきてくれないと困るのだが。
僕も《料理》スキルを取ってはいるものの、今は《カレス・オーの水晶瓶》に保存中でスロットには入ってない。その上、その《水晶瓶》はホームストレージに置いてきた為、今の僕はシステム的には素人料理人である。
「なぁ、ノア。アイツらが戻ってくる前に少し焼いて食っとくっていうのは...」
と言ってくる、事情を知らない黒髪金眼の少年。
「残念だけど、今の僕にできるのは炭の錬成だけだ」
「そ、そうか」
その後は軽い雑談を交えながら、コンロやテーブルを組み立てていった。
そこまで難しい作業でもなかった為、組み立て自体は早く終わったのだが、問題はそこからだった。
「はぁ!?ノア、お前大丈夫なのか?」
と、すっとんきょうな声を上げるオーロ。
今朝の一件をカエデから(一部を除き)聞いていたらしいキリトが話したらしい。
「大丈夫だ、そんなに心配するような事じゃない」
と、肩をすくめながら言ったのだが、
「でも、ノアお前、以前にも倒れた事があったろ」
と、痛いところを突かれた。
そう、実は前にも僕は
┌┤Side Kirito├┘
[1ヶ月程前]
「...あのなぁ、クライン」
「...おう」
「これで何度目なんだ?」
「だ、大体20くらい、か?」
「か?、じゃないよ、ホント」
呆れたような声を上げるノアと、少しばかり項垂れた様子のクライン。
彼は仮所有している屋敷の一部を探偵事務所としており、今日もクラインを含め、三人の依頼やカウンセリングを受けていた。
そして、このバカはもう何度目になるかも分からない恋愛相談に来ていた。
そして俺、キリトはいつも通りノアにお茶をご馳走になっていたところをクラインと鉢合わせ、彼らの同意を得て同席させてもらっている。
「で、今回はあの《歌姫》ユナちゃんか。ホントお前は次から次へと...」
「い、いいじゃねえか。お前らだって、アスナやカエデがいるんだからよぅ」
「それとこれとでは話が違う。...はぁ」
と、ため息混じりに答えるノア。
手元のカップを口に付け、中の珈琲の半分程を飲み干すと、
「良いニュースと悪いニュースがあるんだが、どっちから知りたい?」
と、クラインに問い掛けた。
その問いに彼は、「うぐっ」と変な声を出す。
...俺も大体予想がついた。彼がわざわざこう言ってくる時は───、
「い、良いニュースから、頼む」
「いや、そこは悪いニュースから聞いとけよ」
ヘタれたクラインに、横から突っ込む。
「じゃあ、良いニュースから」
と言ったノアは、ストレージを開くと何かの紙をオブジェクト化した。
机に置かれたそれを見ると、白と空色を中心に使った、
『《歌姫》Yuna Second・Live!!』
という文字が目に飛び込んできた。
どうやら、ライブのチケットらしい。
「ノ、ノア。お前、これどうしたんだよ!こいつぁ、ユナのライブの特別優待チケットじゃねえか!」
「え、これ、そんなにすごいものなのか!?」
特別優待って、何かノアしてたのか!?
「キリトも聞いた事はあるだろ。中層でトラップに引っ掛かって、ピンチになった攻略組二軍を救った《吟唱》スキル持ちの少女の話。その時助けた娘がユナちゃんで、その時のお礼としてもらったんだよ」
「あぁ、あの時のか」
半月程前、攻略組の中でも比較的練度不足のプレイヤー達、通称《二軍》を対象とした中層遠征があった。
四十六層の未踏破ダンジョンで行われたそれは、ボスを倒すまでは順調だったのだが、ボス撃破後に発生したトラップに巻き込まれ、絶体絶命の状況に陥ってしまったらしい。
その時、レアスキル《吟唱》でモンスター達のヘイトを集めて、付き添いのノアや《風林火山》の面々等が来るまでの時間稼ぎをしたのが、今話題に上がっているユナらしい。
「で、でもよぅ、あン時はオレ達だって助けに行ってたじゃねえか!何でお前だけ───」
「僕はあの後、彼女の相談に乗った他、彼女がライブ活動をするための援助もかなりしたからな」
「「・・・」」
ホント、こいつのステータス高過ぎではないだろうか。
戦闘から普段の生活に至るまで、そつなくこなす彼。
いつもであれば、「すごい」の一言で済ましてしまうが、今の彼は──
「って言うかよぅ、ノアお前大丈夫なのか?」
と、クラインが急に問い掛けた。
「大丈夫って、何が?」
「いやだってよぅ、先生今、すっげぇ顔色が悪いぞ」
「そう?そんな事はないは...ず...」
バタンッ!
「ちょっ!?」
「ノア、しっかりしろ!ノア!」
────────────────────
その後、突然倒れた彼はしばらくすると目を覚ました。
倒れた原因に心当たりがないか、彼に尋ねてみたところ、このアホは約一週間、昼は探偵業やカウンセリング、夜は一晩中レベリングや素材集め等を一睡もせずにやっていたらしい。
その上、目を覚ましてからしばらくすると、
「...仕事、しないと...」
と呟いて、部屋を出ようとしたところでカエデが現れ、事情を理解した彼女に止められて漸くベッドに戻った。
[現在]
「と、こんな事があった訳だ」
「ノアって、やっぱりアホなのか」
俺が語り終えた途端に呆れた声を出すオーロ。
ノアはただ苦笑いをしていた。
「まったく、これだからノアは!」
と、カエデがいたら言いそうなものだが、生憎彼女はまだアスナに絞られているらしく、戻ってくる気配はない。
「とにかく、今は機材の準備を済ませよう。話はその後にでも...」
と、話をそらすかのようにノアが言った。
彼に話を続ける意志がない事は明らかだった。
その後、機材の準備を終え、女性陣が戻ってくるまで俺達がその話題に触れる事はなく、ただ当たり障りのない会話をするだけだった。
そして、女性陣が戻ってきた後も、彼は語ることなくBBQはお開きとなった。
その数日後、《白の賢者》ノアが攻略組から姿を消す事になるとはその事を彼自身に示唆されていた俺を除いて、誰も予想はしていなかった。
それでは早速、今回の時系列についてです。
3月下旬 第六十六層迷宮区攻略
↓
4月初旬 第六十六層ボス撃破、
攻略組メンバー全員が休暇獲得
↓
次回 ラフコフ討伐戦(仮)
かなり大雑把ですが、だいたいはこんな感じです。
次回もかなり時間が空くと思いますが、内容は上記の予告通りになります。読者の皆様には申し訳ないのですが、お待ちして頂ければ幸いです。
追記
皆さんは今年のFGO福袋は何が当たりましたか?自分は見事スカディをお迎えする事ができました。
...楊貴妃?知らんな(77連爆死)。