グリッドマンがいるかどうかも怪しい世界線。
とある月曜の昼休み、内海将は友人・響裕太から思いがけない相談を受ける。
それが、騒がしい日曜へつながるとはつゆほども知らずに。

※Pixivにも別名義ですがあげています。

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日曜前

『やあ、私はハイパーエージェント、グリッドマン。

 今回ここにアップロードされている内容は所謂二次創作、という奴だ。

 

 本編には一切関係がない、純度120%の妄想と言っていい。それも第2話までに示された材料を元に、虚無から何かを想像したに等しい代物だ。

 なので、既に既存キャラクターの描写解釈がずれていると感じるところもあれば、今後の放送次第では「こんなキャラじゃなくない?」といった感想を持つかもしれない。

 その点については、どうか容赦していただきたい。

 

 所詮は虚無から作られた、貧弱なパラレルワールドに過ぎない。

 

 君が「別にいっか」という広い心で以て接してくれる人間だというのなら、目を通してもらえるときっとこのパラレルワールドの創造者も本望だろう。

 

 なお、私やアレクシス・ケリヴ、その他サポートメカの出番はないので、悪しからずだ』

 

◆ とある放課後 ◇

 

「ねえ裕太、今度の日曜、空いてる?」‬ ‬

‪ それは週明け月曜の帰り道。唐突な誘いだった。 ‬

 告白が受け入れられてから三週間。クラスメイトには悟られないようにしたい、という彼女の出した条件に応える形で始まったこの交際。一番過ごす時間が長い学校ではこれまで通り過ごさなくてはならないから、その変化は実に些細なものだった。こうして、クラスメイトと帰宅時間をずらして二人で帰るくらいのものだ。

 その中で、こんなに大きな変化は初めてだった。

 夕日に照らされ赤みを帯びた彼女からの問い掛けに、彼は二つ返事で答えた。

 何をどうするなんてことは全く分からなかったが、あとは任せて、と大見栄まで切って。

「わかった。じゃあ、次の日曜駅前に十二時ね」

 そう告げる彼女と別れ、一人帰路を歩む彼の足取りは心なしか早かった。努めて平静にしているつもりだったが、その口元が緩むのは止められない。

 同じ道で帰るだけでも、彼には十分だった。それこそもうしばらくこのままでも気にしなかっただろう。だからといって、そこから先の段階に進むことに異論はない。むしろ、予想よりも早いこの事態は望外の展開だったと言える。

 だから、その喜びに隠れてしまったある重大な事実を彼は忘れていた。

 

 そう、響裕太はこれまで一度たりとも、デートなどしたことがないということを。

 

‪◆‬ 火曜 昼休み ◆‬

 

‪「内海、ちょっと相談したいことがあるんだけど……」‬

 週明け月曜の昼休み。いつも通り昼飯に誘ったところで、裕太の奴が突然こんなことを言い始めた。

 四月から同じクラスになり、何だか馬が合うのでつるむようになったのだが、こういうことを言われるのは初めてだ。珍しいこともあるんだなーなどと思いながら、いつも通り外に向かう。

 道中に訊いてみようかとも思ったが、思ったよりも深刻そうな面をしているのでやめておく。頭痛でもあるのかってくらい、眉間にしわが寄っているのは尋常ではない。少なくとも、こいつはもうちょっとお気楽な奴だと思っていたのだけど。

 結局、話を切り出せたのは屋上で飯を食い始めてからだった。

「で、何だよ話って」

「……その……みんなには内緒にしておいてほしいんだけどさ」

 そこまで言ってから、裕太は言いよどむ。何だ、そこまでのことなのか。一体なんだ……どれほどの真実が俺を待っているというんだ。

 とまあ、勝手にハードルを上げていたのだが、意を決した裕太の口から出たのはまあ平凡でありふれた話だった。

「実はさ……今度の日曜、女子と出かけることになってさ」

「あ゛?」

 反射的に酷い声が出た。生まれて初めてかもれしない、こんなドスの利いた声。いやちょっと待てそんなことは今どうでもいい。今こいつなんて言った? 今度の? 日曜? 女子と? 女子? 女子!? え、こいつ何をいきなり言ってきてるの。

 持ってた野菜ジュースを握りつぶしちまう。幸い残量が少ないので大してこぼれはしなかったのだけど、まあ手について気持ち悪い。だが、裕太の奴は特段気づく様子もなく喋り続けている。こいつ、マジで視界に入ってないのかもしれない。

「勢いであとは任せてって言っちゃったんだけど、考えてみたら女子と二人で出掛けたことないし……昨日もいろいろ考えたんだけど、段々わけわかんなくなってきてさ……ただ、あんまり他の人にも相談し辛くて……で、何か内海だったらそういうことも詳しそうかなって思って」

「ちょっと待て、え、何お前彼女いんの? いつから? 誰?」

「ちょ、声大きいって」

 えらくびくついた様子で裕太はあたりを見回す。全く不要な心配だ。残暑じゃすまないこの日差しの中、好んでこんなところに来てるのは俺らくらいだって。入り口からだって多少距離あるし。まあ、そんなこともすっぽ抜けるくらいには本気の様子だってことは、マジっていうことなんだろうが。

 っていうか何にビビってんだこいつ。

「んなデカい声出してねえし周りに誰もいねえよ。ってかおいどういうことだよ、初耳だぞ彼女いるなんて」

「いや、その……みんなには付き合ってることは内緒にしてほしいって言われててさ……だから今までは黙ってたんだけど……正直、一人で考えるにも限界があるって言うか」

 と困った顔をこちらに向けてくる。知るか。裏切り者め。

 こう言うと失礼かもしれないが、まさかぼんやりしているこいつに先を越されるとは思ってもいなかった。そもそも、そんなに明確に意識する相手がいるなんて素振りすら見せてなかったのに、いつの間にかしっぽり収まるところに収まってやがる。

 何だかちょっと腹が立つ。出し抜かれたような、騙されていたような、なんとも居心地の悪い気分だ。それが被害妄想じみた感情であることは承知しているけれど。

 しかし、みんなにはって。お前、うちのクラスにいるってことじゃねえか、と声には出さずツッコむ。おそらく無自覚に口走ったのだろうことは想像に難くないが、流石に心配になってくる。会ったこともない裕太の彼女に、ひそかに俺は同情した。

 一応、名前までは口走ってないあたりはぎりぎり及第点か。実際、誰なのか全く見当がつかない。うちのクラスは可愛いめと言える女子は少なくないし、性格的にひん曲がった奴も(見たところ)いないから、クラス内でデキているというのもおかしくない話だ。俺も大して知らないが、他にも数組それっぽいやつらはいなくない。

 もっとも、こいつの好みがわからないので、目途はかなりつけにくい。対象外になりそうなやつくらいは目星が付くが――

 と、そこまで考えてから俺はそこで勘ぐるのをやめた。確かにこいつと付き合おうと思った女というのはすさまじく気にはなるが、知ったところで何かが変わるわけでもない。

 いや、羨ましくなんてまったくない。これっぽっちもない。そう、そんなつまんない感情を俺が四月からの友人に抱くわけがないでしょう。この内海翔さんがねえ。いやいや本当にそんな気持ちはこれっぽっちもないんだけど、まあ仮に百歩譲って俺にそんなやましい感情がったとしてもだ。こいつの恋路を邪魔したいわけでもない。

 でも、何か素直に祝福してやるのも癪だった。はあ、とため息が漏れる。

「……まあいいや。誰か訊かないし誰にも喋んねーよ」

「ありがとう。内海ならそう言ってくれると思った」

 心底ほっとした顔で裕太がそうつぶやく。

 お前なあ、そういうとこだぞおい。会って半年も経ってねえっていうのに、こいつはどんだけ人が好いんだろうか。でもまあ、こんな風に信頼を置かれちゃあ、裏切りにくいのも確かだ。そういう意味じゃ、こいつは得な奴だと思う。

「しょうがねえなあ……ま、四月からのよしみだ。手伝えるだけは手伝ってやるよ。やっぱあれか、一発目は失敗したくないもんな」

「うん。どうせなら出来るだけ楽しい思い出にしたいしね」

 至極当然な意見だ。初っ端のデートで失敗してフラれた奴は数知れない。中学の頃の友達からもそういう恐ろしい話はまあ耳にする。

「そりゃそうだよなあ。初デートで失敗なんてしたら、フラれるの確実だもんな……うーわこえー」

「やめてよ……まあ、もちろんそれもあるんだけど、やっぱり純粋にr……あー、好きな人には楽しんでほしいっていうかさ。つまんないよりは楽しい方がいいし、やっぱさ、笑っててほしいじゃん」

 なーにくさいこと言ってんだよ、と返そうとして、隣の裕太を見た俺はその言葉を飲み込んだ。

 何というか、幸せそうな顔だった。遠くを見てる目にはこの突き抜けた青さとそこに掛かる白い雲じゃなく、別のものが映っているんだろう。かすかに緩んだ口元から、こいつが今どんだけ満たされているのか、一目でわかる。今言った言葉も、きっと根っからの本音なんだろう。

 マジなのか。

 相手がどこの誰か知らないが、取り敢えずまあそいつは幸せ者であることは間違いない。抜けてるところはあるとしても、こんだけ真摯に相手を思ってくれる人間、そうは見つからないはずだ。

 しかし、何で俺は会ったこともない女の惚気を表情一つで見せつけられているんだろうか……襲い掛かる虚無感に、俺は思わずつぶやいていた。

「お前気持ち悪……」

「ええ!? 酷くない!?」

 見慣れたリアクションに思わず口元が緩む。本当に、こいつは得な奴だ。

「まあ任せとけって。正直そんな詳しくもねえけど、一緒に考えるくらいはしてやるよ」

 バンバンと裕太の背中をはたく。ちょっとだけむかつくので強めに。咳き込む裕太に留飲を下ろして、無いなりの知恵と知識でどこまで役立てるだろうかと考える。

 なーにやってんだかなあ、俺。彼女出来たことなんてないのになー。

 

 

◇ 火曜 放課後 ◆

 

 その後、まずは作戦会議をしようという方向で纏まったのだが、響の奴は用事があるとかなので、会議は後日に。というわけで、俺らは早々に分かれて帰った。

 別段、やることもないので取り敢えずは一人で調べてみるかーと駅前の商店街をぶらつく。まあ、そうはいってもやれることなんてたかが知れているんだけど。

 取り敢えず地元はよした方がいいよなーなどと考えながら歩いていると、ちょんちょん、と誰かが俺の背中を突っついてきた。最初は気のせいかと思ったが、続けてもう一度。どうもそうではないらしい。

 仕方なく、俺は振り返った。

「誰d――」

「やっほー内海くん」

「――って新条さんん!?」

 振り返ったら声が裏返った。ダジャレかよ。いやそんなセルフツッコミを入れている場合じゃない。俺の目の前には、なんとあの才色兼備才貌両全の完全無欠のパーフェクト女子、新条アカネが立っていたのだ。そう、あの新条アカネが。え、新条さん? 嘘、マジで!? え、何、何がどうなってんの!?

 不意打ちに心臓バクついてる俺を見て、彼女はきょとんとした顔をしていた。そりゃまあそうか。声掛けたくらいでこんなリアクション取られたらそりゃあ驚くわ。恥ずかし。

 だが流石はクラスの憧れの女子。そこについては流すことにしてくれたらしい。彼女はいつもの笑顔で俺に語りかけてくる。

「ちょっと訊きたいことがあるんだけど」

「え、あ、はい、何?」

 超噛んでる。すっげえカッコ悪い俺。でもそんなことは今はどうでもいい。この一瞬、重大な機会を逃すな俺! 咳払い一つしてから、俺は仕切り直しに掛かった。

「め、珍しいね新条さんがこんなとこいるなんて」

「あのさ、響くんなんだけど、今度の日曜日、どこか出かけるの?」

「え、裕太?」

 彼女の質問に、俺は肩を落とした。何だ、新条さんまで響目当てか。

 何か今日はあいつに負けっぱなしじゃないか……今日のところはあいつの手伝いすんのやめようかなーと後ろ向きな思考が始まったところで、ふと気づく。

 裕太が日曜にデートだということを知らない?

 ここで気にするってことは、新条さんは裕太の彼女ではないということでは?

 だとすればまだ俺にもワンチャンあるということだな?

 いくつかの要素から希望的観測を導き出した俺は、迷わずその可能性に乗っかることにした。後ろ向きな答えは健康に悪い。きっとそうだ。古事記にも書いてある。

 と、そこまで考えてまた思い至る。いつどこで知ったんだ?

「あーえっと、その話……」

「あ、そっか。ごめんごめん。お昼休みにお昼食べるところ探してたら、偶然聞こえて来ちゃって。何か日曜に出かけるとか出かけないとか言ってたから、何かあるのかなーって」

「あ、なるほど」

 考えてみたら、屋上入り口のドアは開けっ放しにしていた。そこから漏れ聞こえたんだろう。なるほど、まあ、途中から俺も裕太もすごく声を潜めて話していたわけでもないから、聞こえていたとしてもおかしくはない。しくったな。

 一瞬、やはり新条さんがあいつの彼女であいつが人に相談したことに感づいたんじゃないかという線も考えたが、一旦廃棄する。まずその想像は俺の心に致命的な傷を負わせかねないし、そこを抜きに考えても感づかれるとやばい。秘密の関係なんだし。

 とはいえ、どう答えたものか。

 素直に話すのは当然NGとしても、あんまり不自然な言い訳をするとどのパターンでもまずいことになる。とはいえ、ここで新条さんの力にもなっておきたいのも本音だ。万が一、いや億が一にも、新条さんが完全フリーでありなおかつ俺にもチャンスがあるのなら、この機会は千載一遇だ。逃してしまえば、次がいつになるか分からない。

 この間僅か0.05秒。俺は素早く答えを纏め上げた。

「ああ、何かそうらしいね。俺も詳しくは知らないんだけどさ。ははははは」

 死ね。内海将は死ね。今すぐ車道に飛び出してトラックにはねられてそのまま異世界転生でも何でもしてしまえ。

 表には一切出さずに俺は俺自身を呪った。お前なんだそのまるっきり隠し事してますよーって看板出しての返事。パニクりすぎだろ。うわーだせーありえねー!

 はははと乾いた笑いを繰り返しながら、俺は裕太に謝り続けた。裕太、ごめん。色んな意味でしくったわ、俺。

 さあどんなふうに問い詰められるやら。もう野となれ山となれな気分だったが、意外なことに新条さんからは質問は続いてこなかった。

 ふーん、とつぶやくと顎に手を当てて何やら思案顔。だぼついたパーカーからのぞく白い指が、何か妙にエロい。うつむき気味な顔っていうのもそういえばあんまり見たことないなと思うと、何かむしろ役得という感じもしてくる。いや待て落ち着け、内海将。今は盛ってる場合じゃない。割といろんな意味でピンチで正念場だぞ。

「そっかー。なるほどねえ」

 ひとしきり考え終えたのか、決断を下すように一度頷くと新条さんは俺の顔を見つめてきた。夕日の光のせいか、赤みを帯びて見えるその瞳と視線が合う。心音が跳ね上がる。え、何、何ですか。何が起こるんですか。

 そして、彼女が口にした言葉に、俺は目玉を引ん剝くことになる。

「うん、決めた。ねえ、内海くん、次の日曜って暇?」

「へ?」

「デートしよ」

 にっこりと微笑みかけてくる彼女に、俺は間抜けな声を出すことしか出来なかった。

 

 当然、俺は二つ返事で応えた。

 

(続く)







肝心の本編ねーじゃんって意見はごもっともですが、まだ描き始めて2日何で勘弁してください。


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