Survivor from NeighborHood   作:くそもやし

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異世界転生ものです(大嘘)。ワールドトリガー再開おめでとう!!!!!!!!!!!!


プロローグ

 

 

 

「………………イルガー……」

 

 おそらく、爆撃の地響きで目が覚めた。

 

 少し遅れて敵襲の警報が鳴り響く。ここの兵士たちは自分と同じく警報が鳴る前に起きているだろう。

 既に鍛え抜かれた肉体は眠気を引きずる事は無く、装備を整えて出撃準備を完了する。

 

「ちくしょう、黒角だ! 野蛮な獣人どもが……!!」

 

 敵戦力を確認した将官が泡をくった様子で騒ぎ立てる。

 どうやら国土の防衛も限界が近いようだ。

 これまでも『角つき』が戦線に出てきた事はあったが、()が出陣するのは久しぶりだ。白は何度か殺した事があるが、黒と戦う事になれば死ぬのはこちらだろう。

 

 ────この国はあとどれくらい保つのか

 

 大国からの侵略に抗い続け、恐ろしい速度で死んでいく兵士を補充するために、絶え間なく他の国から奴隷を確保する。

 自分もそうして連れてこられた兵士の一人だが、どうやらその無茶な戦線維持もここまでらしい。

 

「何をしている、クズどもが! さっさと出撃しろ!!」

 

 本国の将官ががなりたてる。奴隷軍人(自分たち)を捨て駒に退却するらしい。

 

「護国の為に死ねるのだ、光栄だろうが! 一匹でも多く敵を殺して国民を守れ!!」

 

「了解」

 

 彼らは一体どこに逃げるというのだろう。

 

 門から湧いてくる敵を迎撃するならまだしも、()の一部を占領され、橋頭堡を作られている致命的な事態だというのに。

 

 

 ────関係ないか

 

 

 いつか来る終わりが、今日だっただけだ。

 自分が死んだ後、彼等がどうなろうがどうでもいい。

 どこか別の国へ逃げ延び、命を長らえるかもしれない。

 問答無用で虐殺されるかもしれない。

 降伏が受け入れられ、属国として国の名前は残るかもしれない。

 だがどうあっても、この国は滅ぶ。

 属国となって名前が残ろうが、それは心の拠り所にはならない。

 

 彼らは自らの故郷を自らで守らず、彼らの言う『クズ』に国の命運を預けたのだ。

 命を脅かす敵から目を背け、振るうべき剣を拾い物の野良犬に握らせた。

 

 当然の結果だ。

 

 自分たちはここで死に、彼らのうちのいくらかが生き延び、これからも生きてゆく。

 それがこれまでの彼らと同じような生活なのか、それとも彼らがゴミのように使い捨ててきた自分達よりも下等な扱いをされるのか。

()()()()()()

 最早こうなれば彼らには死ぬか、故郷を蹂躙されるのを指をくわえて見ているかしかないのだ。

 そしてもし、そのどちらかを選べるとすれば、彼らの多くは迷わず後者を選ぶだろう。

 

 ならば、

 ああ、

 ここで死ぬまで戦える身で良かった。

 

 ────そういえば、自分の故郷は、一体どんな景色をしていたのだろうか。そんな事も、戦い続けるうちにいつの間にか忘れてしまった。

 

 空と地平線を埋め尽くす敵を前に、いつもの様に呟いた。

 

「トリガー、起動(オン)

 

 ────この腐ったごみ溜めでは、よくある事だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

『反応アリ、(ゲート)、開きます』

「わかったわ」

 

 通信から聞こえる小夜ちゃんの報告に、私は小さく首肯して応えた。

 

「くまちゃん、茜ちゃん。お願い」

「了解っ」

「了解です!」

 

 攻撃手(アタッカー)のくまちゃんが鍔付きの孤月をすらりと抜き放ち、狙撃手(スナイパー)の茜ちゃんが後方のビルの屋上から重量級狙撃トリガー、アイビスを構える。

 

 那須隊の結成から数週間。

 ようやく戦闘時の連携が安定してきた事で、最近の私たちは調子が良かった。

 今日も皆とお話ししながら、当直の防衛任務をこなしている最中の事だった。もちろん、気を抜いたりはしていない。私たちが敵を取りこぼせば、それは市民の命に関わるのだから。

 

 ——2年前の惨劇は、未だに色濃く脳裏に焼き付いている。

 

 ——黒煙、悲鳴、肉と瓦礫の山。

 

 ——あんな光景はもうたくさん。

 

 ゲートの予測地点に到着した私は意気込み、戦闘態勢を取る。

 身体が弱くまともに出歩けもしない私に、トリオンの身体を与えて外の世界を与えてくれたボーダーに対する感謝の念は、そのまま私の戦う原動力になっている。

 

 細かく分割したトリオンキューブを周囲に浮かべ、いつでも出現した敵を迎撃できる様に準備する。

 

「来る……」

 

 ズッ、と。

 空中に一軒家をまるまる飲み込めるほどの黒いエネルギーが球状に広がった。

 

 ──それはまるで、空間そのものが切り取られたような、異様な光景だった。

 

 出現したゲートを前に少しの緊張感を覚える。

 ゲートの端に、細かな雷状のエネルギーがチリチリと迸り、暗闇から浮かび上がるかのように、白い装甲のトリオン兵たちが姿を現した。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「え…………っ!?」

『何、これ』

 

 私達が混乱する間にも、ゲートからは絶え間なくトリオン兵の残骸があふれ出てくる。

 中型戦闘タイプ(モールモッド)、凶悪な大剣と化すその鋭利な八本足は、その全てをへし折られ、胴体に巨大な穴が空いている。

 大型捕獲タイプ(バムスター)、建造物と見紛うほどだったその巨躯は、見るも無惨な瓦礫と化して降り注いだ。

 

 そして、何等分かに細切れにされた、見た事もないクジラのような巨大なトリオン兵と3m程の人型のトリオン兵が残骸の山に積み上がった時、ようやくトリオン兵の出現が止まった。

 

『こんなの、聞いたことない……』

 

 通信の小夜ちゃんが呆然とした様子で呟いた。

 それは私や他の皆も同じだ。

 ゲートから破壊されたトリオン兵の残骸が出てくるなんて、聞いたことが無い。

 

「何が起こっているの……?」

 

 突然の事態に沈黙が降りるなか、ぴくりと何かを感じ取ったくまちゃんがゲートを見上げて言った。

 

「まだ、何か来る」

 

 収縮を始めるゲートが空に消える直前、トリオン兵に比べるとかなり小さな影を吐き出した。

 ちょうど人間くらいの大きさの────

 

「ひ、人だ!!」

「うそぉ!?」

 

 くまちゃんと茜ちゃんが驚愕の声を上げるが、それどころではない。

 私は駆け出し、ゲートに最も近い場所に立つくまちゃんへ叫んでいた。

 

「落ちる……くまちゃん!」

「っ、うん!」

 

 混乱した状況にあっても私の意図を迅速に察してくれたくまちゃんは、落下する人影が地面に激突する前に素早く走り込み、その人を受け止めた。

 

 戦闘服のような格好の、おそらく同年代の男の子だった。

 いや、それより、

 

「酷、い…………!」

『ひっ……』

 

 私は思わず口許を押さえ、通信からは小夜ちゃんの悲鳴が聞こえる。

 

「ごぽっ、っぁ……」

 

 喀血。

 ばしゃりと夥しい血液が吐き出され、コンクリートの舗装路を赤く染める。

 

 落ちてきた人は、生きているのが不思議な程の怪我だった。

 バケツをひっくり返したかと思う程大量の血に濡れ、おそらく身体のあちこちが骨折している。

 最も酷いのが左肩から右脇腹へばっさりと抜ける大きな切創だ。

 ひゅうひゅうと辛うじて小さく呼吸はしているようだけれど、正直、私にはいつ死んでしまってもおかしくはないように見えた。

 

「トリガー、解除(オフ)

「玲?」

 

 私は男の子の状況を見ると、トリオン体を解除し、羽織っていた上着で止血を始めたあと、もう一度トリオン体へ換装した。

 

「小夜ちゃん、本部に報告をお願い。私はこの人の傷を縛って病院に連れていくわ。ここで救急車を待つより背負って走った方が早い」

『……はい』

 

 傷を縛り終え、私が男の子をおぶさった所でくまちゃんが声を上げた。

 

「玲、あたしも行く」

 

 くまちゃんの眼は静かで、だけどとても強い意志が込められているように思った。こうなったらくまちゃんは頑固だ。だけど、こんな状況なのに、私はそれが嬉しかった。

 

「くまちゃん……ええ。ごめんなさい、茜ちゃんは本部へ報告がてら小夜ちゃんの所に行ってあげて。一人じゃ心細いだろうから」

「は、はい!」

 

 小夜ちゃんの元へ向かう茜ちゃんを見送った私たちは、トリオン体の許すかぎりの速度で疾駆した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん…………」

 

 ふと、目が覚めた。

 身体は半ば無意識に出撃の準備を始めようとする。

 

 ────そうだ、敵……一匹でも多く……

 

 しかし、体を起こそうとした時、全身に激痛が走った。

 

「ぐっ、う…………っ!」

 

 そこでようやく、自分の状況に気がついた。

 全身の至る所に包帯が巻かれ、清潔感のある柔らかいベッドに寝かされている。

 

「な、んだ、これは……」

 

 ズキズキと鈍痛の響く頭を押さえつつ、息を落ち着かせ、冷静に自分の記憶を辿っていく。

 

 我先にと逃げ出す本国の将官。

 敵を殺せという指示とすら言えない命令を受けて戦場に出る奴隷たち。

 空と大地を埋め尽くし、地下茎に雪崩れ込む敵の軍勢。

 

 思い出せる最後の記憶は、戦線が後退し正にコロニーに敵が攻め込むなか、遠征艇のドックで大量のトリオン兵と(ブラック)トリガーを相手に死にものぐるいで戦っていた所までだ。

 

(捕虜にされたのか……?)

 

 有り得ない話ではないが、妙だ。

 手足が拘束されている訳でもなければ、監視もついていない。

 おまけにトリガーすら奪われていなかった。

 自分の場合、トリガーを奪われるとはつまり死を意味するので、生きているということは()()()()()だ。

 

(この傷では動けないから……? いや、目を覚ました以上、トリオン体に換装さえすれば関係ないはず)

 

 捕虜として扱うためにトリガーを奪わないのは百歩譲って有り得るとしても、敵の兵士に監視すらつけないのは異常だ。

 

(……どうする)

 

 思い浮かぶ選択肢は3つ。

 

 1つは今すぐにここを脱出し、安全な場所まで逃げる事。

 これは却下だ。あまりにリスクが高すぎる。

 ここがどこの国のどういった建物かすら分からないのに安全な場所も何もない。

 

 もう1つは、ここに入ってきた人間を人質に取り、情報を吐かせる事。これも却下。

 人質に選んだ人間がトリガー使いだった場合、人質ごと吹き飛ばされる可能性もある。こちらもトリオン体に換装すれば死にはしないが、そうして再構築に時間のかかる戦闘体を無駄にするのは避けたい。

 

 最後は、寝たふりで様子を見る事。

 消去法かつ地味だが、これしかないだろう。いざとなればトリガーを起動し、建物を破壊して外へ逃げればいい。まあ、その後どうするか見当もつかないのだが。

 

 大まかな方針を決めた所で、人の気配が近づいて来るのを感じた。慌てて目を閉じ全身の力を抜く。

 

 ドアが開く。

 

「お邪魔します」

 

 女の声だ。足音からして人数は3人。

 

「もう1か月だね」

「仕方ないわ。あの大怪我だもの……」

「お医者さんは峠は越えたって言ってましたけど……」

 

 ——1か月。

 

 1か月の間、自分は寝ていたらしい。

 

(…………国は滅んだだろうな)

 

 思ったよりというか、当然というか。何の感慨も浮かばなかった。

 

 ただ、あの大地で散った夥しい数の命を哀れに思った。

 

「城戸司令たちは近界民(ネイバー)の可能性が高いって言ってたけど……やっぱり、心配ね」

「うん……」

 

 そういえばここはどこなのだろうか。捕虜をこれ程までに丁重に扱う国は聞いたことがない。

 

「……そろそろ、帰りましょう。彼も静かに寝たいだろうし」

「はい」

「そうだね」

「じゃあ、また来ますね」

 

 寝ている(と思っている)相手に話しかけるとは変な奴らだ、と思っていると、声の主たちは部屋を出ていった。

 

「……」

 

 身体を起こす。短い時間だったが、収穫はあった。

 

『キド司令』と言っていた。司令官の名を出すという事は、先の彼女達も軍もしくはそれに類する組織の人員という事か。

 

『ネイバー』。この単語には聞き覚えがない。自分の事を言っていたのだろうという予想はつくが、そんなものになった覚えはない。

 

「……疲れたな」

 

 ふと窓がある事に気づいて外を見る。夕日が沈み始め、おそらくは住宅地をオレンジに染めていた。

 

 脱出するのは簡単そうだ。

 

 

 

 

 

「やばいやばい、携帯忘れちゃった」

「珍しいね、くまちゃんがうっかりなんて」

「いや、あたしだって忘れ物くらい普通に…………え?」

「? どうしたんですか、せんぱ────」

 

 

 

 

 しっかりと、目と目が合った。

 

(…………………………あ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

「……では、本題に移ろう」

 

 ボーダー本部。

 その日、会議室は異様な雰囲気に包まれていた。

 

 ひと月前、B級の那須隊が防衛任務中にゲートから人型近界民(ネイバー)らしき人物を発見。瀕死の重症を負っており、本部の指示を仰ぐ時間が無かったため、現場の判断で保護したという前代未聞の大事件が起きた。

 

 那須隊の独断による情報の流布を恐れた上層部だったが幸いにもそんな事は起きず、隊長である那須玲が「怪我人の見舞いをしたい」という希望を出したため、「この一件に関して今後一切、如何なる他言も禁ずる」という事を条件に口を封じる事ができた。

 那須隊はゲートからその人物が出現した瞬間を目撃しており、下手に誤魔化すのは悪手という判断だった。

 

 そしてつい先程、昏睡していた件の近界民(ネイバー)が目を覚ましたという那須隊からの報告を受け、急遽ボーダー幹部が集ったのである。

 

「ディスプレイ、出ます」

 

 本部長補佐である沢村響子がそう言うと、会議室のテーブル上に大きなホロディスプレイが浮かび上がる。その中には、一人の少年が映っていた。

 

『この人達がボーダーの幹部。真ん中の人が城戸司令よ』

『わかった』

 

 ベッドから体だけ起こした少年の傍らに立つ那須玲が簡単に説明する。少年は会話だけならば問題ないようで、受け答えもはっきりしていた。あの重症を考えれば驚異的な回復速度だ。

 

「界境防衛機関・ボーダーの司令を務める城戸だ。早速だが幾つか聞きたいことがある」

『知りうる範囲なら』

「名前は?」

『スガ・カナメ』

「スガ……」

「……なんというか、随分と日本人らしい名前ですねえ」

「ふん、偶然じゃろう」

 

 メディア対策室長、根付(ねつき)栄蔵(えいぞう)の小声の呟きに、開発室長の鬼怒田(きぬた)本吉(もときち)が吐き捨てた。ボーダーにとって欲しい情報はいち近界民(ネイバー)の名前などではない。

 

 しかし、1人だけ顔色の違う者がいた。

 

(おいおい、こりゃあ……)

 

 玉狛支部支部長、林藤(りんどう)(たくみ)である。

 

(…………直ぐにわかるか)

 

 支部のメンバーに近界民がいるからか、林藤は極小さな、普通ならば有り得ない可能性を、既に頭に浮かべていた。

 

「次の質問だ。君は()()から来た?」

『わからない』

「わからんだと? 自分の国すらわからん奴がいるか!」

 

 少年の答えに、鬼怒田がテーブルを叩いて怒鳴る。

 

 

『知らない。俺たち攫われてきた奴隷には、戦えという命令しか下されない。おそらく、あなた達の知りたい情報は無い』

「はっ!?」

「奴隷……」

 

 空気が重くなる。つかの間、会議室を沈黙が支配し、画面内、少年の傍らの那須も顔を青くしていた。

 

 しかし、聞き逃せない言葉があった。

 

「攫われてきた、と君は言ったな。傷を抉るようで済まないが、その国に攫われる前はどこの国にいたんだ?」

 

 ボーダー本部長、忍田(しのだ)真史(まさふみ)が全員の疑問を代弁した。

 

 

 

 

 

 

 

 

『────もう覚えていないほどの昔だが。俺はかつて玄界(ミデン)、正確には地球の日本という国にいた』

 

 

 

 




主人公
5歳くらいの頃に近界に攫われてずっと戦い続けていた。一応三門市出身。

名無しの国
主人公を攫った国。名前はあるけど主人公は知らない。
トリオン技術は近界最高峰と言われるほど高かったが、超強国(すっとぼけ)ほか色々な国に攻め込まれ、トリオン技術のノウハウ、豊富な資源その他もろもろをごっそり持っていかれ続けた。


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