保護されておしまい、ではなく…?
1-0 居候
「君、大丈夫か。見たところはぐれた子供…という訳ではなさそうだな。」
私は何故かこの少女を放ってはおけなかった。
ほぼ裸、傷だらけの素足、顔の右半分と手足に浮き出ている謎の紋様。ひと目でわかる、異常だと。
「…アッ。」
緊張の糸が解けたのか、気絶したようだ。
このままメディカルセンターに預けるのもいいが、不思議と何故か放ってはおけなかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
シップにてーーー。
「なに?今なんて言ったよお師匠。」
「2度も言わせないでくれ。この娘を引き取る、と言ったのだ。」
シップに戻ってすぐ、飼い犬かのように近づいてきた自称弟子がそういった。
「たはーっ!こりゃ珍しい、冷酷無慈悲と言われたお師匠が人助けの上に面倒まで見るとは…。」
「…ディルク、君のの私への評価はよく分かった。今日は夕飯抜きだ。」
「うえっ!?そりゃないっすよお師匠ー!!」
やかましい自称弟子を尻目に、メディカルセンターへと向かう。
先程話にもでた少女を引き取る、その話を本人からの了承を得るためだ。
「てかさ、お師匠。なんでまた身元も分かんないやつを引き取ろうと思ったんだ?」
「…別に。意味は無いさ、あのまま放っておいたら危険だと。そう直感的に思っただけさ。」
「ふーん…。ま、賑やかになるなら俺は大歓迎っすよ。」
意味などない、と言ったが。私は身寄りのない者に弱い。自分がそうだったこと、寂しさは何よりもつらいという事を分かっているからだ。
そしてディルクもそうだ。彼も両親を失って保護施設に入りそうだったところを咄嗟に引き取ると言ったのだ。その時を思い出したのか、今回も1人の少女を引き取る事にした。
「ガレットだ。先程の件で伺ったのだが。」
「あぁ、お待ちしてましたよ。どうぞ、まだ目覚めてませんが…。」
主治医の案内を受け病室へ向かう。病室は驚くほどに静かだった。
まるで慰安室、耳をすませば微かに聞こえる寝息。
目覚めていれば返答を聞くところだが、これでは聞きようがない為日を改めようと思っていた、すると。
「…ん。」
「おぉ、目が覚めたようですな。」
物音がしたせいか、目が覚めたようだ。
「私を覚えてるかね」
少女はゆっくりと首を縦に振る。
「そうか。聞くが、君は帰るところはあるかね。」
ゆっくりと首を横に振る少女。、
「なら、私のところへ来ないか。五月蝿い輩が一人いるが…まあなに。気にするほどのものでは無い、君さえよければだがね。」
「…ツバキ」
「む…?」
「名前、帰る場所なんてない…だから…。」
ほそぼそとした声で語りかけるツバキという少女。
今にも折れそうなその声は決心させるには充分すぎた。
「決まりだな。ディルク。」
「はいっす!」
「使いを頼みたい。恐らく街に出れば揃うだろう。」
了解っす、という返事と共にダッシュで消える自称弟子。
こう言ったものに使えるとは思ってはいない、断じて。
「…さて、では我が家に案内しよう。」
ーーーーーーーーーーーーー
自分よりもずっと大きい大人におんぶしてもらいながら街を行く。
知ってるような、だけど知らない景色を尻目に目の前の大きな背中と綺麗な銀の髪に目をやる。
「…ねえ。なんで助けてくれたの。」
あの時、道端の虫同然だった消えゆく運命にあった私を救ってくれた彼に問う。
「何故、か。アークスとして当然のことをした、それだけの事さ。」
「…ちがう。」
ほう、と彼は逆に私に問いかけた。それもそうだ、あの時の私の格好とこの髪の色。青色の髪の先の赤紫色の不気味な毛先。不自然な格好。
迷い子、とはとても言いきれなかった私を何故救ってくれたのかと。純粋に気になった。
「…そうだな。放ってはおけなかったとでも言おうか。奴、ディルクがいただろう。あいつは君ほどではなかったが、別な市街地で見つけたんだ。目の前で親を殺されていた、無残にもね。あの時私がもっと早く来ていれば…と自責の念に駆られたせいか、気づけば引き取っていたということさ。」
やれやれとため息をつく彼。実に単純な動機、だけど芯が通っててお人好しだ。
でも、どこか安心する。そんな背中だった。
「…私みたいなのといると後悔するわよ。」
「はははっ。やかましいのは嫌いではないさ。任せたまえ。」
談笑しながら、まるで親子のように夕方の市街地を流れ歩いた。
それから数分後、普通のマイルーム前までたどり着いた。
「ようこそ、我が家へ。ディルクももう戻ってるだろう。」
「…」
スっと扉が開く、そこにはーーー。
「おかえりっす、お師匠!そしてようこそ…えーっと名前なんだっけ。まあいいや、よろしくな!」
「君は人の名前くらい覚えたらどうだね…。まあいい。ようこそツバキ。ーーー我が家へ。」
暖かい空気と共に食べ物の香ばしい香り、偉くやかましい私より数歳年上の男の子の掛け声が一気に流れ込んできた。
2人が何かを言ってるが、それどころではなかった。とにかく情報量が多かった。目を回してると男の子、ディルクが声をかけてきた。
「ツバキ、で合ってるよな。俺、ディルクって言うんだ。兄貴と思ってくれていいぜ。」
「…よ、よろしく。」
さあさあ、と背中を押され席に座らせられる。席に座ると数々の見たことの無いような料理があった。
「君、栄養剤ばかりで過ごしていたそうだね。メディカルセンターのスタッフに聞いたよ。何があったとは今は聞くまい、まずはお腹いっぱいに食べるといい。」
「そーそー!腹が減っては…なんだっけかな。とりあえず食べようぜ。」
もう食べてる、なんてのは言うまい。お腹は空いてるつもりでは無かったが、目の前の光景と直接訴えかけるような香りを目の当たりにしたせいか。ぐーっと自然とお腹が鳴ってしまった。
「…いただき、ます。」
暖かい食事は何年ぶりだったか、なんの料理かも分からないが口に運んだ。
するとどうだろう、泣きたいなんて微塵も感じなかったのに。涙が溢れていた。
「うおっ!?ど、どうした!!腹でも痛いのか…。」
「何か苦手なものでもあったかね。」
首を横に振る、言い表せないけど、気持ちとしては安堵と喜びだと思う。ただ、この時はこの言葉しか出なかった。
「…おい、しい。(グスッ)」
ぽかーんと私を見たあと、笑い合う2人。
「そうか、それなら良かった。ゆっくり食べるといい、食事は逃げはしないさ。」
「ふぉーふぉー!ふぁふはぁんあっふぁら、ひっふぁいひゃべろよ!(そーそー!沢山あるんだから、いっぱい食べろよ!)」
口にものを入れて喋るんじゃないと叱られるディルクをよそ目にご飯を食べ進めることにした。
私の新しい家族は、とても暖かく、やかましいですが。安心する所のようだ。
続く。