ソードアート・オンライン Alter Heaven   作:留確惨
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プロローグ
世界は唐突に


────────何処からか声が聞こえる。

 

 

 

 

血を吐き出すような慟哭と怨嗟の声だ。

枯れ果てていてわかりづらいが男の声だ。聞き覚えのない声だが、なぜか懐かしさを感じる。

だが、彼はどうしてこんなにも苦しそうに泣くのだろうか。

別に謝られるようなことはされて無いしこの声にも心当たりは無い。

 

 

────────────────「済まない、俺が、君を、殺した」

 

勿論この男に殺された覚はない。あったこともない人間にどう殺されろというのか。

しかし、この知らない男の声に不思議と気持ち悪さも罪悪感も覚えなかった。

この声に聞き覚えはある。だけれどもそれが誰なのか、なぜ謝っているのかが全く思い出せない。

記憶も意識も混濁する中声帯から絞り出すような謝罪が脳内で反響する。

 

 

────────────────「だから、俺が君を、世界を救って見せる。この人工の煉獄を楽園に変えて見せる」

 

 

 

────────どうして、泣きたくなるような憤怒がこの声の主に湧いてくるのだろう。

それだけがわからなかった。

 

 

 

 

 

────────何の前触れもなく気づいたら森の中にボクは立っていた。

仮想世界にログインしたような感覚もなく、いつまで経ってもチュートリアルが始まる気配も世界観について説明してくれる誰かもいなく、ボクはただ森の中で目を覚ました。

ひょっとしてこれがちょっと昔に流行っていた「異世界転生」というものなのだろうか…子供の頃そういうアニメがやたらと乱立していた記憶はあったが、まさか自分がそういった機会に出会うなんて思いもしなかった。

 

「うーん、こういうのはまず人里に行かないと始まらないよねぇ。ってかこの世界何なの!?なんか色々リアル過ぎない!?」

 

宛もなく歩き出したところで感覚の情報量にゾッとした。

土を踏む感覚、空気抵抗、木漏れ日の陰影、どれもハイレゾというかリアル過ぎる。

これほどの“画質”をザ・シードで再現するには一体どれ程のメモリが必要なのか…素人目にでもこの世界は異常な程の世界の再限度でまるで本物の異世界のようだった。

少なくとも『あの機械』よりは高スペックのマシンが必要なのは解る。

だがアレ以上のフルダイブマシンなんて聞いた事は無いし、そうたくさんあるとも思えない。

 

「ここはやっぱり仮想世界じゃぁないのかな…うーん、でもさすがにここまでの再現性のある世界作って採算ってとれるもんなのかなぁ?」

 

まるで夢でも見ているようだ。いや、この世界が夢で現実世界のボクは何も変わっていないんじゃないかという可能性だって否定出来ない。

 

そうこう思案しているうちに背後からぶっきらぼうな声が響いた。

銀髪と言うよりは若白髪に近い灰色の短髪にいくつものポケットやホルダーがついた黒い皮のジャケットを着たの青年だった。

歳はボクより3〜4歳上くらいか。身長は青年男性の平均より少し大きめな程度。

三白眼気味の灰色の目が年齢不相応の昏い光を帯びていて見た目より大人びた印象を思わせる。

顔立ちは整っているものの、口元の斜めの切ったような大きな傷跡がどことなく剣呑な気配を発してイケメンというよりは男前といった威圧感を放っている。

腰には扱いやすそうな剣。前の世界でボクが使っていたものより少し短めの代物で、威力よりも取り回しを意識した造りになっている。

 

「何やってんだこんな国境付近で。しかも女の子1人、ビーストの連中に何されるかわかったもんじゃねぇぞ。危ないしエルナ村まで送っていくか?」

 

「え?いいの?ありがとう!いやー、ここがどこかわかんなくってさー、それにどこから来たのかも道に迷ってわかんなかったんだよー」

 

異世界転生物の定番その1、開幕の迷子だ。

何はともあれ助けてくれる人がいないと何もかもが始まらない。いきなり助けが来たことはラッキーだ。

 

「迷子ねぇ…呑気というか何というか…とりあえず村まで行こう。ここじゃあビーストの連中に襲われるかもしれん。」

 

青年は呆れた様子で苦笑しつつも色々話してくれるみたいだが、一転何かに気づいたように剣呑な気配を発し、懐から黒塗りのナイフを取り出して臨戦態勢に入る。

────────敵襲?こんな起きて間もないタイミングで?

 

「クソッタレが…ビーストの連中め、言ったそばからこれだ。2,3人くらいか…」

 

青年が気づかなかったら分からなかったが背後から不自然な物音がする。

索敵系のスキルもなしにこの感知能力、かなり鋭敏な注意力の持ち主だ。

 

「どうするの…やっぱり戦う?」

 

「バカ言え。そんな丸腰で何するってんだ。連中はおそらく俺達を拉致するつもりだ。どうにかして各個撃破したいところだが…」

 

彼はその先を言わなかった。ボクが足でまといなのは分かっているがそれでも見捨てようとはしないらしい。

見ず知らずのボクを助けようとしてくれる当たり本当に頼りにしてもよさそうな人だ。

 

「大丈夫。自分の身は自分で守るから。君は君の戦いをして」

 

ボクは足元の頑丈そうな棒を拾い、そう提案した。

 

「馬鹿言うな。そんなんでどうやって戦うんだよ。地図とコンパス貸してやるからとっとと逃げろ」

 

「でも……一人で大丈夫なの?」

 

「訓練されてるからな。そんなことより自分の心配しろよ。こいつ貸してやるからさっさと行け。ここは俺が食い止める」

 

そう言って彼はナイフを2本渡した後踵を返し、単身敵に戦いを挑んだ。

投擲用の小ぶりなナイフだ。正面での斬りあいにはとてもじゃないが貧弱すぎる代物だがないよりはマシだ。

 

 

装備はひのきのぼうと短剣、戦力は状況を全く分かっていないボクと謎の青年、敵は複数で位置は不明。

チュートリアルも説明も存在しないクソゲー極まりない世界での強制イベント戦闘が幕を開ける。

 



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