ソードアート・オンライン Alter Heaven   作:留確惨
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闇の中

投擲された灼風弾(シャップウダン)が開戦の合図となりアルファルドとその他歴戦の傭兵たちが一斉にキャンプになだれ込む。

 

無論、獣人たちとて見張りを怠っていないわけではない。彼らがキャンプにたどり着くころには獣人たちはそれなりの防備を固める余裕はあった。

だが彼らにあったのは僅かな時間的余裕だけだった。

第一に戦力の3分の2がエルナ村の制圧に向かっていること。

第二にアルファルドが敵の正確な位置とそこに行くまでのルートをランファルから教わっていること。

そして何より彼らは敵に回してはならないものを敵に回したことだ。

アルファルドはカーラーン皇国の歴史上もっとも若くして傭兵としての『青』等級を取った男だ。

この世界では多くの傭兵たちがより強力な剣術や槍術をもって敵を倒そうとするのに対し、アルファルドは()()()()()()を求めた。

その結果開発されたのがくるみ割り爆弾こと灼風弾(シャップウダン)や発火性の粉塵を利用した殲滅戦に特化した魔術爆撃だ。

粉塵を風属性魔術で制御して敵の視界を奪い、着火してまとめて焼き殺す。

魔術そのものの威力は必要なく、凶悪極まりない火力に対する圧倒的な天使の力(テレズマ)の燃費の良さを誇る魔術爆撃に音もなく敵を暗殺するサイレントキリングの技術。

傭兵たちがいかにして敵を倒すかということに拘っているのに対し、彼の技術は初めから多対一を前提にして完成された技術だった。

いかにして敵の長所を封じるかに特化した彼の能力は他の傭兵たちにやっかまれたものの、ひとたび戦場に出ればほぼ無傷で結果を出して帰還する彼の姿に直接文句を言えるものはいなかった。

「敵と正面から向かい合った時点で敗北」アルファルドの哲学はその戦術に如実に表れ、いつしかアルファルドは青等級まで上り詰めた。

 

 

 

そもそも獣人たちは対人戦は殺害よりも捕獲を重視して装備を整えている。ゆえに彼らは集団での弓矢ややり投げなどの対多数向けの戦術には疎い。

それに対して人間側は集団戦法や密集陣形、アルファルドのアウトレンジ攻撃など対多数の戦い方にある程度慣れている。

自分より弱い者しか相手にしてこなかったものと弱い者のために立ち上がった者たちの練度の差がここに現れた。

風に乗った粉塵や破裂するクルミが敵陣を焼き尽くし、アルファルドを狙って襲い掛かる獣人たちは傭兵たちによって阻まれ集団戦法の餌食となる。

人数的には不利な戦いではあったが天秤は着実に人間側に傾いていった。

 

「こちらは順調。ランファルの情報のおかげでずいぶん楽をさせてもらってる。むしろ大変なのはあちらか・・・」

 

東での人間サイドの戦いはおおむね予定通りに運び、獣人たちの殲滅も時間の問題だ。

だが人間側が獣人たちを制圧するとなるとハーフの一族は確実に殺される。そうなる前にユウキたちは全員救出してこの場を離脱しなければならない。

 

「頼んだぞ・・・ユウキ。」

 

 

 

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場面は変わって獣人キャンプ西の森、アルファルドたちの陽動もあってかなり楽に回り込んで拠点内部まで潜入できた。

エルダー大森林はとても広くて深く、内部の闇鍋のような戦況も相まってか地図が作られておらず、結果獣人の大規模な戦略拠点やハーフの一族のような小規模集落ができても気づかれにくく、補足が難しい。

つまり人間側が獣人を補足しづらいということは逆もまたしかりだ。

人手を東側に移された以上ユウキたち実行部隊の進軍は非常にスムーズだった。

だが、それは対獣人だけのものだった。

 

「ガウ!ガウガウ!ガウ!!!」

 

よだれを垂れ流し、牙をむいた大型の犬2匹が左右からユウキたちに手荒な感慨をした。

獣人は魔術適性が低い代わりに人間以外の動物に対してある程度の命令権がある。

そのテイム能力によって拠点の周りに配備されていた犬たちが襲い掛かってきた。

 

突然の犬の襲来にユウキはひるみ、ランファルは戦慄した。

────────────────見つかった。

 

「はぁ!」

 

静かに近づくことを諦めたランファルとウィンは剣を抜いて迫りくる犬を迎撃する。

清冽な気合とともに左の犬が切り裂かれ、右の犬は飛びかかる勢いを殺せずに剣に刺さって自滅する。

 

「なに?もしかして見つかっちゃった?」

「そのもしかです!ユウキはまっすぐ進んでください!左右は私たちでフォローします!」

「了解!」

 

サイレントモードを解除して全速力で進む。

しばらくすると森が開け、キャンプのようなものが見えてくる。

 

「着きました!あれが我々の収容所です!」

 

地理の授業の資料集で見たモンゴルのゲルのような建物が乱立する中ランファルが右手のゲルを指で指す。

無論、この混乱下でも一人の見張りはついてる。

見張りの男は大声を出して仲間を呼ぼうとするが、アルファルドがひっきりなしに起こす爆音にかき消されてなかなか仲間に届かない。

4人がかりで見張りを突破して扉を叩き斬ると内部ではユウキの想像を絶する光景が広がっていた。

 

むせかえるようなオスの臭い。通気性の良い住居のはずなのにこの中には不快極まる湿気と臭気が漂っていた。

ハーフ女性たちは容姿は様々だが皆ランファルと同じように動物の耳が頭頂部についているファンタジー世界の住人だが、その美しさや非日常を思わさる愛らしい外観はその一糸まとわぬ姿と体中にへばりつく乾いたゲル状の液体と汚らしい体毛によって無残にも台無しにされていた。

彼女たちはうわごとのように虚空を見上げながらうわごとのように言葉にならない音を発している。

欲望のはけ口にされているのは年齢に関係なく理不尽な暴威は幼い少女にまで及んでいたた。

ユウキは彼女たちのこの姿になる前の姿など知らない。だがこの生気のないただ光を吸収する機能しか残らない目を生きている人の目とは思えなかった。

一族の数少ない男たちは錠を外そうと必死になり、手が赤くボロボロになり、体中に赤い内出血痕が残っている。

口にはめられた猿轡は唾液と涙を吸収しきれずに襟元まで体液でびっしょりと濡れている。

 

地獄だ。この世に地獄というものがあるとしたらきっとこういう場所のことを指すのだろう。

 

「そんな・・・どうして・・・」

「糞、奴らめよくも・・・・」

 

ランファルたちは涙を流して立ち尽くし、一人、また一人と握りしめた剣を落としていく。

救いたかったものはもう既に失われていた。

彼らに与えられたのはただ間に合わなかったという絶望だけだった。



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