ソードアート・オンライン Alter Heaven   作:留確惨
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アルファルド家の日常

「おはよ~アル。」

「おう、飯できてるぞ。降りて来いよ。」

 

この世界に来てはや1週間強、今は林月(りんげつ)の30日。

初めは緊張したアルファルドとの同居生活にもかなり慣れてきたと思える。

始めこそ猜疑心を少しは抱いていたものの3日もしないうちに彼に心を開けていると思うし、彼もそう思っているだろう。

年頃の男性らしく襲い掛かられでもしたら、なんてこともなくイヴリースがギルドや村の人々から持ってきた害獣退治などの仕事を片付けながら異世界ライフを満喫している。

今ではアルファルドは愛称の『アル』、妹弟子であるイヴリースは『イヴ』と呼べるようになった。

そりゃあ今でも元の世界に帰りたい気持ちも強いし、スリーピングナイツの面々やアスナのことを思い出して郷愁にかられることもしょっちゅうある。

だけれどもその回数も寂しい気持ちもこの世界で新しくできた『家族』の暖かさによって少しずつ少なくなっていっていった。

 

寝ぼけまなこをこすって階段を下りてリビングに向かうと何故かアルファルドはこちらと視線を合わそうとしない。

そういったものは男子はともかく女子は敏感なのだ。

めったに見せない弱みを握ろうとぐいっと詰め寄って問い詰めてみることにする。

 

「あれー?アルどうして目を合わせてくれないの?なにかやましいことでもあった?」

 

するとアルファルドはさらに露骨に目を逸らし始める。

あやしい。ただでさえこの人は隙が少ないうえに謎も多いのだ。詰め寄れるタイミングで詰め寄って見なければ。

 

「さあね?俺は窓の外の鳥を見ているだけだが?」

 

窓の外にはムクドリのような鳥が2匹戯れている。しかしそんなの苦しい言い訳だ。

だんだん嗜虐心にスイッチがかかっていく。

いつもクールな人ほどこういう反応は楽しい。

 

「あれあれあれ?君がそんなに鳥好きだったっけ?」

「ああ大好きさ。だから・・・な。ほら飯にしようぜ。」

 

追い詰めるボクと追い詰められるアルファルド。

後退するだけ後退したアルファルドは逃げ場を失い、キッチンの隅まで追いつめられる。もう二人の間の距離なんてあってないようなもので、少しでも動けばお互い触れあえるくらいになっていた。

 

「あやしい・・・何かボクに大事な隠し事してない?」

 

流石に限界が来たのかアルファルドは助け舟を求める。この世界でもっとも求めてはいけない人に。

 

「た、たすけてイヴ!こいつを止めてくれ!」

 

振り向くとアルファルド家二階、階段の踊り場にいるイヴリースがおなかを抱えて苦しそうに転げまわっている。

正確には声を上げないように必死にこらえながら笑っている。

ふと自分を見返すと寝間着、それも前がかなりはだけて薄い胸やおへそが大胆に見えてしまっている。ポロリしていないのが奇跡、もしかしたらしていたかもしれない。

さらに寝起きなのでノーブラと来ている。

H路線の少年漫画なら完璧なコースだ。

 

「ひゃあ!」

 

慌てて襟元を正して隠し、アルファルドとの距離を開けて背を向ける。

 

「み、見た?」

「見ないようにしていた。」

 

つまり努力はしたが結果は伴わなかったと。そういうことだ。

 

「────────────────アルのえっち。」

 

漫画よろしく平手打ちする覚悟もなくそんな捨て台詞を吐いて部屋に戻る。

ああ、どうしよう。ボクそんなことも知らずにアルファルドに迫っていたのか・・・

さんざん恥ずかしい所を見せて懐で泣きわめいてしまった相手だがそれとこれとは別問題だ。

異世界生活に慣れすぎるのもこういう事故を招きかねない。

地雷はいつも日常の中にある、今日の教訓その1だ。

 

「いやー、ユウキもやるもんだなァ。うちの妹もそれくらいの積極性を見せてくれるといいんだがなァ。アッハッハッハ」

 

朝っぱらから微妙な空気の中、イヴリース笑いながらバンバン床をはたく音だけが響いていた。

 

 

 

朝の喧騒はお互いに忘れて仕切り直し。無理矢理心の便器に羞恥心を流していつもの席に着く。

傭兵生活は思ったより平和なものだった。

先の1戦で獣人たちも前の戦いで壊滅的被害を負っており、ボクたちの仕事といえば時折現れる害獣退治やランファルたちから魔鉱石を受け取って行商人に売り渡すくらいなもの。

聞くところによるとエルダー大森林には結界のようなものがあり、1日当たりに出入りできる人数が限られるらしい。

だからしばらくは国境を超える獣人たちの犯罪者集団はここ周辺ではできないらしい。

 

「なんていうか、最初のドタバタが嘘みたいに平和だよねー」

「そうだな。仕事が少なくて困ってはいるんだが。」

 

本日もいつも通りの朝、アルファルドと向かい合って朝食。隣にイヴリースが座っている。彼女は基本的に自宅で朝食をとっているが今日は例外らしい。

最初こそこの世界の状況に振り回されるだけだったが今ではこの世界の基本システムも把握してきた。

人やオブジェクトのステータスを見れる”天の窓”、『システム・コール』から始まる呪文から発動できる魔術。

本物の人間のように会話できる日本語を母語とするこの世界の住人。

まるで本物の異世界といっても信じられるレベルだが重力的、平衡感覚的なフィードバックは仮想世界のものだ。

しかし、元の世界に戻るための方法は全く糸口すら見つかっていない。

魔術、つまりはシステム・コールの中でログアウトのようなコマンドが存在するのではと思い、思いつく限り様々な方法を試したものの、全て無駄と悟るのに1週間あれば十分だった。

アルファルドと傭兵生活のなかで何かしらの情報が見つかるかもと思っていたが進展はなにもなかった。

アスナやキリトには申し訳ないけれどこれではあのデスゲーム、『ソードアートオンライン』のほうがペインアブソーバがある上に脱出方法が明確な分マシかもしれない。

『HPが0になったら死ぬ』と『0になったらどうなるのかわからない』はどっちがマシなのかは解らないが。

 

「いや、今日は仕事が糞のように山盛りだぜェ。村はずれの草原でバルバトス杉が現れたそうだ」

「そうか、今年も丸太がやってくるのか。」

「丸太がやってくる?」

 

丸太といえばあの丸太で間違いないだろう。エルナ村の特産品だ。

それにやってくるという動詞はあまりにもミスマッチだ。

 

「1年に1度くる()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「はい!?」



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