ソードアート・オンライン Alter Heaven   作:留確惨
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契約

練武場での練習試合が終わり、アルファルドとともにギルドへ向かった。

村のギルドは思っていたRPGやハンティングゲームのものとは違って「『ボロ小屋』と表現するしかないものだった。

老朽化した木製の物置のような小屋に風化した板にかすれて何が書いてあるのかかろうじて読めるくらいの『傭兵ギルド エルナ村支部』と書かれている。

建付けが悪く、蝶番が悲鳴を上げるドアを開ける。

本当に無駄にリアリティがある世界だ。

 

「しゃいませー」

 

接客態度としては赤点な挨拶とともに赤髪の少女がけだるげに出迎える。

小柄な少女だ。

湿った巻き毛にジト目、着崩した制服と、なんともだるそうな表情が整った顔を台無しにしている。

中華風のロリータ服にちかい恰好をしていて、なんかそれが様になっているというか小さいのにかわいいというよりかっこいいに近いような印象を受ける。

 

「よーゥアルの旦那じゃねぇかい、その子は何だ?随分と小せぇなァ。任務帰りに女連れとはいい御身分だがそのこはちょいとアウトよりなんでねェかい?」

 

・・・なんていうか、妙にアクの強い受付嬢だ。

 

「相変わらずだなイヴリース、この子はユウキ。これから『傍付き』にするつもりだ」

 

用件だけ伝えて早めに終わらせようとするアルファルドだが、そんなシンプルな話し合いはイヴリースには通じなかった。

 

「はっはぁ!その子を『傍付き』に!こんな可愛らしい嬢ちゃんを。いい趣味してるじゃんかよォ」

 

「ねぇ、イヴリースさん。傍付きって何なんです?」

 

「あーら嬢ちゃん、そんなことも知らずにここ来たんかィ。いいかい、うちには階級ってもんがあってね、傭兵や兵士の仕事に就いたものはまず先輩のそばで経験を積むんだよ。それが傍付きさ。タグの色から赤等級なんていうやつもいるんだァ。それが終わって師匠に認められるか一騎打ちで負かせられれば卒業で橙等級からスタートさ。」

 

「じゃあアルファルドは何等級なんですか?}

 

「こいつは青だ。階級は虹の七色にちなんでつけられてね。赤橙黄緑青藍紫の順に高いんだが最高級の紫は国内に一人しかいないのさ。つまりは実質こいつは上から2番目だ。」

 

「ちなみに俺は師に認められる前に殉職されたからな。結構ここまでくんの大変だったんだわ」

 

「へー」

 

よくあるRPGの設定みたいだ。アルファルドが出世で苦労したのは多分あの突出してもいない剣技のせいでもあるのだったがまぁ、言わぬが花だろう。あれは野良試合だったがアルファルドを何度も破ったユウキは実質的にはどの等級なのだろうか。

 

「そんじゃ登録よろしく。」

 

「おいおィつれねーなーァもっと雑談しようぜ暇なんだよー」

 

とかいいながらもイヴリースは手際よく書類仕事を進めている。態度はともかくそのへんはちゃんと受付嬢の仕事はしている。態度はともかく。

 

「ところでその嬢ちゃんは何でそんなことままで知らねェんだ?言っちゃなんだが常識だろォ?」

 

いくつかの書類を手渡しながらイヴリースはしゃべり続ける。

 

「記憶喪失だそうだ。記憶の回復手段も目下捜索中だ。戻るまでは色々教えてやってくれ。おまえその辺得意だろ?なにせ元教会のシスターだったんだから。」

 

「人の黒歴史掘り返してんじゃねェーよ。アタシみたいな不良娘を娘だからって出家させた親父が悪いんだよ。親父が。」

 

教会というにはやはりお決まりのRPGのようにこの世界独自の宗教があるのだろうか。まるで旧世代のゲームのような世界観にユウキはこっそり胸を躍らせていた。

いくつかの書類にサインしながら二人は幼馴染のように取り留めのない会話を繰り返す。

それらの書類は異世界の不思議言語ではなく日本語で書かれている。

また現れたヒンノムが異世界でなく人工的に作られた証拠を見せられて辟易する。

 

「だいたいよー神様なんてほんとにいんのかよォこの500年誰も見てないんじゃんよー」

 

「その神様この世界作った後部下に暗殺されて死んだんじゃなかったか」

 

「んでもよーォこの世界を人知れず見守ってるとかいう”天使”だって誰も見たことないんだぜ。」

 

「いいからタグ渡せよ。もうお互いに書く書類ないの知ってんだよ。あとはユウキの指印だけだろ。」

 

アルファルドの言うとおり、後は二つの書類に左手人差し指の指印を押すだけだ。

イヴリースが何でできているのかは解らない朱肉っぽいものを渡してくる。

 

「しゃーねーなァ、ほーらよォ。これで登録は完了だ。そのドックタグなくしてもいいけど再発行めんどくせェから覚悟しろよー。そいつは逃げ足だけは定評のある奴だからしっかりついてくんだぞー」

 

イヴリースは赤いドックタグを投げて渡し、相変わらず受付嬢とは思えない態度で送り出してくる。

この時『ユウキ』は正式にこそ世界の市民権を手に入れたのだった。

 

 

その後、鍛冶屋か何かでユウキの装備を買いそろえるのかと思いきやアルファルドの用意は異様に早かった。シンプルな鉄製の両刃片手直剣、皮鎧や鎖帷子等々、家にはすべて用意されておりそのサイズもどれもユウキにぴったりなものだった。

 

「ここまで用意がいいと逆に呆れちゃうねー。傭兵やめて執事にでもなったらどうかなぁ」

 

あまりの周到ぶりに流石のユウキも若干の気持ち悪さを感じていた。

 

「お前の前にも弟子がいたんだよ。それはそいつのもんだった。」

 

とはいえこのサイズはレディースの中でも割と小さめだ。アルファルドには弟子に小柄な女の子をとる趣味でもあるのだろうか?

 

「その人は今何をしてるの?」

 

「独り立ちしてな。あいつ、とっくに師匠は越えましただの抜かしやがって。覚えていてほしいもんだよ。まったく。」

 

「あははは・・・」

 

ここにいない弟子とやらに愚痴をこぼすアルファルドは少し寂しそうだった。

 

「それで、明日はどこ行くのかな。やっぱりギルド?それともまた練武場?」

 

「明後日に別の村に向かう。」

 

「えー!いきなりじゃないか!」

 

予想以上に話が早く進んでいた。

 

「連中の根城が西エルダ川沿いに見つかってな。さらわれた人を救出する作戦が行われる。夜襲を計画しているんだ。」

 

西エルダ川とはここエルナ村の近くを流れる川、東エルダ川と源流を同じくする川のことだ。ここからは相遠くはない距離だ。

 

「俺たちはともかくこの作戦は大規模の作戦でな、遠くの町から等級の高いやつをよんだものだから移動に時間がかかる。だから明日は一応自由行動だ。色々見て回るといい。」

 

「明日戦うんだね。うん!わかった!遂に実戦か・・・よーし」

 

この世界に居ついていきなりの実戦というのはユウキにとっては酷な話だったが、いやだとも言ってられない。仕事につかなければ飢えて死ぬ。それはどの世界でも一緒なのだ。とはいえアルファルドも素人をいきなり前線に送るようなことはしなかった。

 

「意気込むのはいいがお前は前線に出る訳じゃない。救出が終わった後の回収地点に待機して護衛するだけのいわば予備戦力だ。」

 

アルファルドの話ではビースト達はひとは捕らえられてもすぐには連れ去られないらしい。まずは人質を集める拠点が国内にあるらしい。

人質交渉や深い森を突き抜けて人を運ぶ以上どうしても拠点、中継地点が存在するからだ。

今回はそのなかでも中規模の西エルダ川キャンプを叩く。前線にはアルファルドと同業者たち(傭兵団)予備戦力にユウキや黄以下の等級のものが参戦する。初陣にしては随分と大きな舞台だった。

ユウキの仕事は回収地点の警備で実際のところ戦う必要性のない配置だ。

夜襲するのなら人数は絞って行うのが鉄則、アルファルドは少数精鋭で切り込む危険な任務を請け負っていた。

 

「ホントにボクは戦わなくていいの?」

 

「むしろ戦っちゃダメだ。こういうのは初めは戦場の空気を吸うことから始めんだよ。一番慣れてるやつが最前線に立たないと次が育たないだろうが。」

 

「へー!そういうもんなんだー」

 

「本音を言うとな、死ぬほど嫌いなんだよ。戦いに慣れてないやつを逐次投入して無駄に死人を作んのが。」

 

そういうアルファルドは苦々しげな表情をしていた。

きっと過去に何かあったのだろうがユウキはそれを聞くことはしなかった。

 

 

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「被検体の様子はどうだ。」

 

草木も眠る丑三つ時、風の音しか聞こえないはずの草原で妖しい明りを放つ”窓”から声が響く。周りには人影はなく、開けた原野に一人の影が”窓”と会話している。

 

「————崩壊は一度起きかけましたが何とか耐えました。」

 

「耐えるだけでは不十分だ。崩壊そのものを起こさないようにならなければ意味がない。()()()()()()()()()()()()()()()

 

「全力を尽くします。いくらコンティニューが無限だからといって俺が使える時間が無限ではありませんから。」

 

「よろしい。必ずやお前の手で()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

音もなく窓が消える。暗中の密談は終わり、歯車が加速する。

 

「————————ああ。わかってるよ。」

 

誰も見ていないはずの影を空の大蛇だけが見つめていた。

 



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