ガールズバンドの六人目(シックスマン)   作:YEBIS_nora

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大変ご無沙汰しています...。

文章詰まると中々抜け出せない病、再発!

どうにかしなければ...

続き、始まります___


星が紡ぎし縁の糸

空に若干赤みがかかり始めた頃であった。

 

「____んぅ……………ん……?」

 

自室のベッドで目を覚ました少女は、まだ開ききってない目元を軽く擦りながら上体を起こす。

 

 

「(………あぁ……確か今日は学校サボって、その後ずっとネットサーフィンして…そんで……………)」

 

その後の記憶が曖昧なことを鑑みるに、恐らくそのまま寝てしまっていたのだろうと少女は結論付ける。

 

「……シャワー浴びよ」

 

まだ本格的な夏ではないものの、布団にくるまって1日過ごしていればそれなりに汗はかく。

 

「(ついでに今着てるパジャマも洗濯して……と__)」

 

寝過ぎた時特有の頭痛に顔を顰めながら、少女はフラフラと扉の方へ歩いていく。

 

 

「___おう、おはようさん。シャワー浴びるかと思って着替え一式とタオルそこ纏めといたから、良ければ使ったって頂戴な」

 

「あー、うん。助かるわ〜」

 

 

部屋にある丸テーブルの前で胡座をかき、少女の小学校の卒アルを見る制服姿の少年にそう声を掛け____バタン、と扉を閉める。

 

 

「…………」

 

ペタ、ペタ、ペタと、裸足でフラフラと廊下を歩き。

 

「………………………………………ん?」

 

脱衣所の扉に手をかけた所で__少女は固まった。

 

というか、意識が完全に覚醒した。

 

 

「……んな………あぁ…………なあぁぁぁぁっ//////」

 

顔をみるみる内に紅潮させながら、踵を軸にクルっと方向転換した少女は自分の部屋へと全力で走り出す!

 

 

 

__ところでこの少女、ボケかツッコミかと聞かれれば断然ツッコむ側の人間である。

 

加えてそのセンスはそこそこ秀でている方だったりもして。

 

 

『なんで私の衣類の場所知ってるんだよ!』とか、『その卒アルどっから引っ張り出してきやがった!』とか。

 

ツッコみたいポイントは多々あれども、少女の頭は無意識下でそれらを後に回していく。

 

その時の彼女の潜在意識を言語化するならば、そう。

 

___今ツッコむべきはそこじゃない…ッ!

 

 

___バァンッ!!と勢いよく扉を開ければ、ちゃっかり少女のベッドの上に移動して卒アルを眺め続ける少年が1人。

 

「…んあ?どったの()()、なんか忘れ物か?」

 

更にツッコミポイントを追加しやがった少年を目の当たりにしても、少女のセンスという名の無意識は迷わない。

 

素晴らしいことに少女のセンスは、どれだけ動揺していてもツッコむべき時にツッコむべきポイントを違えたりなど決してしないのだ!

 

 

「____なにしれっと人の部屋で寛いでんだ()()()()()()()()()()()()()()!!!!」

 

そう叫んで蓮華の顔面にバスタオルを思いっ切りぶん投げる彼女こそがこの部屋の主____市ヶ谷有咲なのである。

 

───────────────

 

「__ありえねー………マジありえね〜」

 

「つってもしゃーないだろ〜?声掛けても揺すっても有咲起きなかったんだから」

 

「ぐぬっ…確かにそうかもしんねーけど………やっぱこっちにも色々あんだよ!___寝顔見られたこととか寝顔見られたこととかっ!

 

「ん〜?まあよく分かんねーけど…とりあえず機嫌直せって、なっ♪」

 

「だ〜!!濡れてる髪ワシャワシャすんなぁぁぁぁぁぁ!!」

 

タオルで軽く水気をとっただけの有咲の髪を両手で撫で回す蓮華と、その両手首を掴んで抵抗しようとする有咲。

 

取っ組み合いのような様相でじゃれ合う2人を、シャンプーとリンスの混ざった良い香りが包んでいた。

 

 

「フフん♪どーよ、ちょっとは機嫌直ったか?」

 

「なんで今ので直ると思ったんだよ……」

 

所々が愉快にはね上がる髪を手で抑えながら、有咲は恨めしそうな目を蓮華に向ける。

 

「んだよ、まだご機嫌斜めか?なら何すれば機嫌直してくれる?」

 

「………ん」

 

フイッ、と蓮華から目を逸らした有咲は、テーブルに置かれたソレを指し示す。

 

 

「ドライヤー……なるほど。いいぜ有咲____じゃあこっちおいで?」

 

「ん……///」

 

ぶっきらぼうにそう答える有咲の顔は、耳にまで赤みがさしていて。

 

それを見てニヒヒ♪と笑う蓮華に手を引かれるまま、有咲はベッドの縁に腰を落とすのだった。

 

───────────────

 

 

「___え〜っと…?まず前髪を根本から____こんな感じか〜有咲」

 

「そうそう、んじゃあ次は____」

 

夕日差し込む部屋で、聞こえてくるのはそんな話し声とモーターの駆動音。

 

蓮華は有咲のレクチャーを受けながら、慣れない手つきでヘアドライなるものに挑戦している所であった。

 

「しっかし乾かす順番からやり方まで色々細けーのな。もっとこう…最初俺がやったみたいに___ドバ〜ッ!って風送ってワシャワシャ〜ッ!!って水気吹っ飛ばした方が楽なのに」

 

「蓮華にぃのは雑過ぎなんだよ。あんなんずっとやられたらボサボサのまま乾いちまうだろ?」

 

「別に良いじゃねーか。これから外出するわけでもないし、そんな有咲見んのも俺と市ヶ谷のばーちゃんくらいなんだしさ!」

 

「………そういう問題じゃねーんだよっ///___ほっ、ほら!また手の動き雑になってきてるぞ蓮華にぃ!ちゃんと乾かなかったら今日はもう口聞いてやんないからなっ!」

 

「へいへい」

 

「へいは1回!」

 

「へ〜い」

 

「へいを伸ばさない!」

 

定番のやり取りと微妙に違うことに突っ込まぬまま、有咲はどこかソワソワした様子で目を細める。

 

それもそのはず。一見普段通りの有咲ではあるが、その頭の中は____表面から断続的に伝ってくる甘い刺激の処理で一杯一杯になっているのだから!

 

「(ヤバい……なんつーかもう____これヤバいっ/////////)」

 

蓮華に頭を撫でられる時というのは、両手でワシャワシャと撫で回されるのが常だった。

 

決して乱暴という訳ではなく、少し強めの力加減で撫でてくれるあの感じは、なんだかんだで有咲も気に入っているのだ。

 

 

だが今伝わってくるコレは____有咲が経験したことの無い新たな刺激!

 

温風の当たる頭皮に優しく触れ、そのまま髪を梳くように流れていく蓮華の指先。

 

加えてだ。

 

慣れない手つきで繰り返されるそのタッチから、「いつもより優しく、優しく…っ」という蓮華の意識が同時に伝わって来るようで。

 

 

「(あ〜もうっ!クセになったらどうしてくれるんだよ蓮華にぃぃぃぃぃっ//////)」

 

甘く痺れる思考に身体を支配されないよう、有咲のなけなしの理性の奮闘は暫く継続するのだった。

 

 

 

「__どうっすか有咲、仕上がりの方はよ?」

 

「ん....まあ、今日のところは合格.....///」

 

「そいつぁ何より!いや~、ドライヤーこんなに長い時間持ってたの初めてだわ!」

 

ドライヤーをベッドの置いて左腕を振った蓮華は、目の前で揺れる有咲の髪にその指を通す。

 

「長い髪ってのも大変なんだな。色々気にすること多くて__正直慣れる気がしねーわ!」

 

「.....別に__これからも私の髪で練習すれば慣れてくるだろ...」

 

「んあ?なんか言ったか有咲?」

 

「___っ///なんでもねーっ!」

 

思わず本音が漏れてくるあたり、有咲のトリップがちゃんと解けるまでにはまだまだ時間が掛かりそうなのだった。

 

 

「___それで?今日も見に行くの?」

 

「おうとも!やっぱ有咲ん家来たら一回は見ておかないとな!」

 

立ち上がった有咲が差し出した手を掴み、蓮華もベッドから降りる。

 

「ったく、そう何回も同じもの見てよく飽きないよな」

 

「有咲だって庭にある盆栽見てても飽きねーだろ?それと同じだって!」

 

話しながらも玄関にたどり着き、壁に掛かるカギを手に取った有咲は「んっ」とそれを蓮華に放る。

 

「っと!ナイススロー__退屈なら部屋に居てもいいんだぜ?ただ気の済むまで眺めてるだけだしさ」

 

...別に、蓮華にぃがいれば退屈になんてならねーよ///

 

そんな有咲の呟きは、蓮華が玄関扉を引く音にかき消されてしまったけれど。

 

斜め後ろを付いてくる少女の顔を見れば、退屈とは思ってないことくらい蓮華にも丸分かりなのだった。

 

「フフん♪よ〜っし、そんじゃすぐ近くだけど__流星堂にレッツらゴー!」

 

夕焼けのオレンジと紺色の夜空が照らす花咲川の一角で、蓮華の高笑いが響き渡った。

 

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独特なボディーの形に、軽く埃を被っていても鮮やかに映える赤色。

 

ピンと張られた6本の弦は、蓮華が頼み込んで許可をとり張り替えたものだ。

 

 

曰く__ソレを扱う者は、決まって界隈で『変態』と称される実力を備え。

 

曰く__その目を引くデザインで多くの人々が手を伸ばそうとし、傍らにある値札を見てすぐさま引っ込めてきたとされる代物。

 

 

そのギターは__ランダムスターと呼ばれていた。

 

「フハ~...やっぱ良いよな~。会いたかったぜランダムスター!」

 

「...なに楽器に話しかけてんだよ。頭大丈夫か蓮華にぃ......?」

 

「失礼な、有咲だって盆栽に水やる時とか話しかけてるじゃんかよー」

 

「なっ!いっ、良いんだよ盆栽は生きてるんだから!」

 

「楽器だって生きてるんですぅ~!魂宿ってるんですぅ~!!」

 

無茶苦茶だろ、と有咲は肩を竦め、蓮華の隣に腰を下ろす。

 

 

「__やっぱ買うつもりねーの?そのギター」

 

「…だな、買おうとは思わない」

 

それは前にも____蓮華と有咲が初めて出会った時にも交わされたやり取りだった。

 

 

不思議なことに、常陸蓮華がランダムスターを欲しがったことは1度も無い。

 

話しかけるくらいに愛着を持ち、ボディーの掃除や弦の張り替えまでしているのにも関わらず、その赤いギターを「欲しい」とも「買いたい」とも言ったことが無いのだ。

 

「蓮華にぃが欲しいって言うなら安くするって、ばーちゃんも言ってるぞ?」

 

「ん〜……別に値段云々は理由じゃないんだよ」

 

慈しむような……それでいてどこか悲しげな笑みを浮かべる蓮華は、指先でそっと弦に触れる。

 

「例え買ったとしても____コイツを満足させる程、俺は楽器を弾くことが出来ないから」

 

「……前言ってた、『楽器酔い』ってヤツ?」

 

蓮華は頷く。

 

「…でっ、でも別に弾けなくたって!……蓮華にぃ、そのギターすっごい大切に扱ってるんだし、鑑賞用に飾っとくだけでも「それじゃあダメだよ」……」

 

有咲の提案を、蓮華はそう遮った。

 

「……これは俺の勝手な考えだけどさ…『楽器を大切にする』ってのは、なにもメンテすることだけを指してる訳じゃないんだよ」

 

立ち上がった蓮華は、ランダムスターを手に取って構えてみせる。

 

弦をチラリとも見ずに左手の指がポジションにつくその様は、弾き慣れた者がするソレと何ら遜色のないものだった。

 

……それでも。

 

それでも一向に()()()()()()()()()()蓮華は、こちらを見上げる少女に向かってこう言った。

 

___大切なのは、沢山使ってあげることだと。

 

「当たり前だけど、大抵の楽器ってのは演奏するために作られてんだ。演奏してメンテして、そんでまた演奏して……寿命尽きるその時まで使い続けることが、本当に『楽器を大切にする』ってことなんじゃないかってな____だからさ、有咲」

 

ランダムスターを立て掛け直し、蓮華は少女に目線を合わせるようにしてしゃがみ込む。

 

「有咲の主観で良い。本当にこのギターが欲しい、弾きたいって思ってるんだなって人が来たら____そん時は、手頃な価格で売ってあげてくれ」

 

「………良いのかよ、それで」

 

少年の優しげな眼差しを真正面から受け止め、有咲も真剣に言葉を紡ぐ。

 

「私のジャッジは厳しいぞ?蓮華にぃが初めてここに来た日のこと、私はハッキリ覚えてる……あの日の蓮華にぃくらい強い意志が無い人に、そのギターを売るつもりはない」

 

市ヶ谷有咲は忘れない。

 

春先のある日、丁度流星堂の店番を頼まれていた有咲に詰め寄り、頭を下げてきた少年のことを。

 

そのギターを買いたい訳でもなく___メンテ代はこっちが持つから、せめて弦だけでも張り替えさせて欲しいと意味不明なことを頼み込んできた、常陸蓮華の強い眼差しを。

 

……だというのに。

 

「____現れるよ」

 

だというのに、当の本人はさも当然のようにそう答えるのだ。

 

「有咲が納得するくらいの買い手は、必ず流星堂(ここ)に現れる」

 

「楽器屋でもないこの店に?」

 

「おう」

 

「…ネットに商品をラインナップして掲載してるわけでもないのに?」

 

「おうとも」

 

「……どうして、自信満々にそう言えるんだよ?」

 

「ンなもん___俺が流星堂(ここ)に辿り着けたからに決まってる!」

 

常陸蓮華は、そう言ってなおも笑う。

 

「思うんだよ。使い込まれた良い楽器ってのは、どこにあろうと自分と相性の良さそうな人を引き寄せる力があるって」

 

自分が兄のように慕う少年は、傍らにあるランダムスターに触れながら続ける。

 

「現に楽器屋でもないこの店に、置いてある物なんて何も知らないこの店に__俺はちゃんと辿り着いたぞ?」

 

右手の親指で指し示すのは、他ならぬ自分自身。

 

「何も知らないまま入った店で、このギターに出会って____有咲にも出会えたじゃんか」

 

「何だよそれ」

 

呆れたように、市ヶ谷有咲は深々とため息をつく。

 

だがその口元には、柔らかな笑みが浮かんでいた。

 

「なんか蓮華にぃとこんな話すんのバカらしくなってきた。結局何も根拠なんて無いんじゃねーか」

 

「まあそう言うなって。人との縁もモノとの縁も、殆ど偶然が紡いでくものなんだぜ?」

 

蓮華の頭を()ぎるのは、今もどこかで頑張っているだろう同い歳の姉貴分の姿。

 

「ならその『偶然』を捏ね繰り回して、少しでも『運命的』な出来事にしてみたら___ちょっと世界が素敵に見えてくるじゃん♪」

 

「ったく……よくそんな恥ずかしいこと面と向かって言えるよな。かえってちょっと尊敬するわ」

 

それほどでもあるな!と笑う蓮華にデコピンをお見舞し、有咲はその場から立ち上がる。

 

「……あんまり長い間買い手がつかないと蔵の中にしまい込んじゃうから、その時は蓮華にぃが責任持って買うんだぞ?」

 

「そりゃあ早計ってやつだぜ有咲。マジで引き寄せられたヤツなら、蔵ん中に忍び込んででもコイツを見つけ出すかもしれないからな!」

 

「その話まだ続いてたのかよ……偶然を捏ねくり回すための設定だったんじゃねーのソレ?」

 

「いんや、相性良さそうな人を引き寄せるってのはマジだぜ?さっき言ったろ、『魂宿ってる』ってさ!」

 

どっからが冗談でどこまでが本気なのか分かりにくいのが困った所だよな、と有咲は肩を竦める。

 

「それで?そのギターが引き寄せて来る買い手ってのは、一体どんな人だと思うよ蓮華にぃ?」

 

「はてさて。メタル好きの(あん)ちゃんかもしれないし、グラサンかけたクールビューティーかもしれないし___有咲と同い歳の女の子かもしれない」

 

でも1つだけ確実なことがあるとすれば…と呟きながら、蓮華も床から腰を上げる。

 

「かの変態ギター『ランダムスター』の使い手になろうってんだ。そいつはまず間違いなく___中々にぶっ飛んだヤツだろうよ!!」

 

 

───────────────

 

___揺蕩うは、まだまだか細い縁の糸。

 

『__へっぷし!!』

 

『うわっ!?…ちょっと急にどうしたのお姉ちゃん、風邪?』

 

弱々しく、繋がっただけの縁の糸。

 

『ん〜、大丈夫大丈夫!なんか急にムズムズって来ただけだし!____それよりあっちゃん、今度のお休みプラネタリウム行こうよ!!』

 

今はまだ、こちらに引き寄せることは出来ないけれど。

 

増やして、束ねて___太くして。

 

糸の紡ぎ手は、ただその時を待ち続ける。

 

星に魅せられたその少女が、星の名を冠する自分のもとにやってくるその時を。

 

少女のその手で、世界にキラキラした音を解き放つ、その瞬間を____

 

 




今更かもしれないですが




有咲可愛すぎじゃね?

更新頑張ります!

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