ガールズバンドの六人目(シックスマン) 作:YEBIS_nora
「(__最近、学校に行くのが楽しい)」
学校までの道を小走りで駆ける少女__大和麻弥は、ここ最近ずっと上機嫌である。
理由は、新しくできた二人の友人。
あの二人と音楽の話をするのが、平日の麻弥の楽しみになっていた。
「(今日は、お二人とどんな話ができるのかな~♪)」
「__フヘへへへへへへへっ♪」
だらしなく頬を緩ませながら駆ける麻弥に周りの視線が集まっていたが、当の本人は気にする様子もなく教室へ急ぐ。
たどり着いた教室の扉を開くと、二人はすでに教室にいた。
『__ほれほれ~、なんか良いフレーズ浮かんだのかよ~?』
『...今集中しているの。話しかけないでくれる?』
『フフん♪そろそろ観念しちゃえって~。あれからそこそこ経つけど、今んとこ俺の閃いたフレーズが一番しっくりきてんだろ?悔しいのは分かるけど、そんなムキになって考えたって大して良いフレーズなんて「(ガスっ!)」_痛ってえ!ちょっ、脛蹴るのはナシだろ!?』
『...そんなルール知らないわ』
二人はいつものように、スコアノートを挟んで談笑(?)をしていた。
その光景を見ただけで、麻弥はなんだかとっても嬉しくなった。
__ジブンの好きなことを、思いっきり話せる存在。
ジブンの好きなことを、ジブンと同じかそれ以上好きだと思わせるような存在。
話し合っていた二人が、こちらの存在に気付いた。
一人は、ニヤニヤした笑みを浮かべ
もう一人は、ほんの少し柔らかな表情を浮かべ、こう言ってくれるのだ。
「おう大和、おはよーっす!」
「...おはよう、大和さん」
それがまた嬉しくて、麻弥はまた「フヘへっ」と笑う。
「(__そしてジブンも、こう言うのだ)」
「__おはようございます、お二人ともっ!」
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「__ライブ来てくんね?」
授業と授業の合間の休憩時間。
転入からしばらく経ってもクラスに馴染めてる感じがしない少年、常陸蓮華は、隣と後ろに座る二人の少女たちにそう話しかけた。
先日行われた席替えで、近くに来た二人だ。
「おおっ!ライブですか!?」
「........」
隣に座る麻弥は流石の食いつき。
対して、後ろに座る友希那は無言でスコアノートをパラパラめくっていた。
だが接している内に、こうしてても話はちゃんと聞いてることは蓮華も分かっているので気にせず続ける。
「おうよ。月島さんってスタッフさんから、『チケット自体の売れ行きは良いからさ、ここはCiRCLEの知名度を上げるためにも、地元の若者たくさん呼んできて♪』って言われてさ、いつもよりお安くなってるチケットがパラパラと」
そう言って蓮華は、チケットの束を見せる。
「お〜...そこそこ枚数ありますね。それ全部捌くんですか?」
「それなんだよな〜」
チケットの束をパタパタ振りながら、蓮華は椅子にもたれ掛かる。
「いや~、皆にも聞いたんだけどよ、『あ~...うん、そうなんだ........。うん、考えとくね〜...』ってな感じで目も合わせてくんねーの........か~!思い出すだけで泣きそうになるぜ!」
「えっ...まさか、クラスの人全員に聞いたんですか?」
「....大した度胸してるわね」
始業式での一件以降、未だに蓮華達のイメージは、『なんかヤベー奴ら』で固定されている。
「仕方ないんじゃぁ。あれは俺と大和が友になるために必要なことだったんじゃ〜」
うんうん!と腕を組んで同意の意を示す麻弥を見て、友希那はため息をつく。
「...そもそも、最初は普通に機材の話をしていただけなのよね?」
「ええそうです。話してる内に、『ほほう、中々話せますね〜この人』って思いだして、ちょっとマニアックな路線に話題を切り替えようと、クイズを出したんです......もちろん常陸さんは即答だったんですけど、問題はその時の顔っスよ!顔!」
麻弥のボルテージが上がっていく。
それこそ、椅子から立ち上がるくらいに。
「____ドヤ顔ですよ!ドヤ顔!まあただのドヤ顔ならいいんです。けど常陸さんのは別格です!あれほどウザいドヤ顔は初めて見ました!」
「ヘイヘイヘイ!そういう大和だって、その後俺が出した問題即答してウザいドヤ顔かましてきたじゃねえか!
こんな感じで、『フフん♪』って!『フフん♪』って!」
「そっ、そんな顔してないっスから〜!///」
「...二人とも落ち着きなさい。また引かれてるわよ」
「「...あっ......」」
こちらに奇異の視線が向けられているのを感じた二人は、平常運転に戻り席に着く。
「____コホン、まあそんなこんなで、俺と大和の考えは一致したわけよ。『こんなこと知ってるくらいで「機材オタク」って名乗ってる、コイツにだけは負けたくない!』ってな」
「......何度聞いても、なんでそういう結論に至ったか私には分からないわ...」
「まあ、あの時は頭に血がのぼってたりしましたけど、長年育んできた機材オタクとしてのプライドが、お互いを許せなかったんでしょうね〜」
うんうん!と腕を組んで同意の意を示す蓮華を見て、友希那はまたため息をついた。
「まっ、過ぎたことは置いといて、今はライブの話よ。
今度の土曜日なんだけど、お二人さん空いてる?」
「ジブンはもちろん行きますよ!CiRCLEのライブって行ったことないので、是非とも!」
「おー!大和ならそう言ってくれると思ってたぜ!こんくらいするんだけど、今お金持ってる?」
「えーっと...ひい、ふう、みい......うん、ありますよ。常陸さんに渡せばOKですか?」
「おうよ。大切にお預かりして、CiRCLEの金庫までお持ちしまっす!」
蓮華は麻弥にチケットを渡し、視線をぶっきらぼうな銀髪少女の方へ移す。
当の銀髪少女湊友希那は、ノートに目線を落としたまま答える。
「...私は遠慮してお「そう言うと思ったぜ!」......まだ最後まで言ってないわよ...」
友希那は不機嫌そうな眼をして顔を上げた。
そんなことは何処吹く風か、どこか得意げな顔の蓮華は構わず続ける。
「実は二人のことを、その月島さんって人に話したらな?
『そんなに音楽好きな友達ならさ、スタッフのお仕事見せてあげたら?』って言ってくれたんだよ!」
「おおおっ!ホントですか!?」
「......へえ」
麻弥のテンションがまたもブチ上がる。
そして友希那も、少し興味を持ち始めた。
「お前、そろそろライブハウスを渡り歩いて実力をつけたいって言ってたろ?ライブの裏側を見といて損はねえと思うんだが......どうよ?」
「......」
しばしの沈黙。
そして
「...チケット代、渡すのは後日でいいかしら?」
「もちろんよ!お買い上げ、ありがとうございま〜っす!」
「やりましたね、常陸さん!」
ウェーイ!
と、蓮華と麻弥はハイタッチをして喜び合う。
「全く...」
そんな二人を見て、湊友希那は____
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今回のイベントで号泣した麻弥ファンは自分だけではないはず。
執筆頑張ります!
追記
「ガールズバンドの六人目」について、活動報告を投稿しました。
個人的に大事な報告なので、読んでいただけたら幸いです。