東京喰種:re cinderella   作:瀬本製作所 小説部

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何事にも繋がりがある。


それは良くも悪くも、必ず。


relation

千夜Side

 

 

私はいつも通りに10分前に346プロダクション前に車を止め、お嬢様の帰りを待っていた。いつも346プロダクション前に路上駐車をするとその横に通りかかる歩行者から敬遠するような視線が伝わる。私はそんな輩を気にすることなくただお嬢様の帰りを待つ。たまに『お前はなんでここで路駐しているんだ、成金野郎』、と何もわかっていない無教養な歩行者から声をかけられるが、別に私がいつも路上駐車をしている場所は警察に切符を切られる場所ではないのだから、愚かなまま愚民の声を聞く価値はない。

 

私の頭の片隅にあった中々消えない嫌な記憶を思い返していると、ずっと閉まりぱなしだっだ車内に新しい空気を入れ替えるように後部席が開いた。

 

「おかえりなさいませ、お嬢様」

 

「ええ、ただいま」

 

助手席から現れたのは私の主である黒埼ちとせお嬢様であった。本来なら私は運転席ではなく、車の外でお嬢様の帰りを待ち、そして後部席のドアを私が開けるのだが、しかしお嬢様は『そこまでやらなくてもいいわ』と何度もおっしゃったため、行う回数は少ないもののこうして運転席に待機したまま待つことをやるようになった。後部席からシートベルトが閉まる音を耳にした私はしばらく止まっていた車をゆっくりと走らせた。

 

「今日のお仕事はいかがでしたか?」

 

「ええ、今日も問題なく無事に終わったわ」

 

「お嬢様がご無事にお仕事を終えてよかったです。それで本日のご夕食はーーー」

 

お嬢様は嘘が混じっていない返事をし、綺麗に作られたアームレストに肘を置いて安らかな顔でバックミラーに視線を向けた。これがお嬢さまがお仕事から終えた後のいつものやりとりだ。その後の流れは私が今日の夕食のメニューを言うはずなのだが...

 

「んー晩ご飯のお話は後にしてくれるかしら?」

 

「あとですか?」

 

話していた私に突然、お嬢様は言葉を挟んだのだ。普段のお嬢さまは夕食の話を省くようなお方ではないのだが、いったいどうしたのだろうか?

 

「ええ、晩ご飯よりも知りたいことがあるの。とても知りたい欲求が空腹でしかたがないのよ」

 

「お食事ではなく情報がお望みとは珍しいですね。それはどんなことでしょうか?」

 

「前に私が依頼した3つのことなんだけど、全部わかったかしら?」

 

「...まだすべてを解き明かしておりませんが、現時点わかっていることをお伝えしてもよろしいでしょうか?」

 

「ええ、全く問題ないわ。何せちーちゃんの進歩が良さそうに見えるからね」

 

お嬢様が知りたがっていたことは以前お嬢様が依頼した3つのことだった。1点目は都内で起きている人さらいの正体、二つ目は美食家の消息、最後は島村卯月が助かったのは運だけなのか、の3つの依頼だ。

 

「まず人さらいの"ロゼ"について、奴らは主人が口にする食材のために大量に誘拐していることが判明しました」

 

「主君用?主君用にしては大量に拐いすぎじゃない?その主君さんは結構食べるわね」

 

「いいえ、主君が過食だからではないと思います。これは私の見解になりますが、主君の意を反した従者の勝手な行動だと思います」

 

「あらら、従者の勝手な行動とは勝手な行動って嫌なことね」

 

お嬢さまは妙に意味が含んだ言い方をすると、私の目をまっすぐと見るようにバックミラーを見た。

 

「通常喰種は月に一人の人間を口にすれば生きていけると言われていますが、ロゼは半年で約50人以上の人間をさらっており、いくら主君が口にする食材にとはいえ、明かに異常です」

 

「聞いた感じだと食材の質から量へと変わったようね。うちの千夜ちゃんがそうならないことに祈るしかないわ…」

 

「よく私の前でよく言えますね」

 

私はお嬢様の言葉を指摘すると、話を指摘してくれたことに待っていたと言わんばかりに「ノリはいいわね、ちーちゃん」と嬉しさが含んだ笑いを見せた。相変わらずお嬢様は様々なお顔を見せる方だ。

 

「それで2点目は何か分かったからしら?」

 

「2点目はまだ推測範囲段階ですが、おそらく美食家はロゼと関係があると思われます」

 

「お?いきなりすごいこと言うわね。ちーちゃんの推測にしては結構大雑把じゃないかしら?」

 

「いえ、ご安心を。ちゃんと理由もございます」

 

2点目についてはただの自分の考察ではなく、関連性のある情報をもとに考察したものだ。

 

「ロゼの活動がCCGに目をつけられるほど活発し始めたのは去年の12月頃。その1ヶ月前の11月にCCGが喰種オークションに襲撃を始めた時期であり先ほど説明をした喰種の食事事情のことを考えると、従者は主人にふさわしいものを探そうとたくさんの人をさらい始めたのだと思います」

 

「でもそれだと美食家の関連性が見出してないように聞こえるけど?」

 

「ええ、今の話だけでは確実に足りません。そのために"つながりのある情報"をお伝えします」

 

どんな場面も必要なことだが、どこでも繋がりが無ければ完成はしない。

単発的な話を一つ一つ言っても、とある重大事件をただ捜査をしても、とある議論を収束をしようとも、結局は繋がりを作らなければ完結はしない。

 

「ロゼの活動が開始したのは半年前ではなく約三年前になります。三年前と言えばちょうど美食家の活動が途切れた時期でもあります」

 

「あーそれ、前にちーちゃんが言ってたね。ちょうどお酒を飲んでいる時にね」

 

「お酒で酔っていたにも関わらずよく覚えていますね」

 

「ええ、覚えてるわ。って、ちーちゃん、その発言はひどくないかしら?」

 

「時には毒が必要かなと」

 

私はそう言うと少し鼻で笑い、頬を少し上げた。普通ならばやってはいけない行動なのだが、お嬢様はとは浅い付き合いではないためできる行動だ。

 

「まぁ、それは置いといて。ロゼと美食家の関係性は時期が同じだったからでいいかしら?」

 

「はい。現時点ではそのような可能性があります」

 

「情報は途中でも、結構調べているわ。どこで得たかは聞かないけど」

 

お嬢様はそうおっしゃると納得された様子で数回うなずいた。

 

「それで最後の3点目の卯月ちゃんについてはどうかしら?」

 

「最後の3点目ですが...申し訳ございません、お嬢様」

 

「ん?」

 

「島村卯月が20区に取り残された件についてですが、現時点では有力な情報がございませんでした」

 

「あら?ちーちゃんにしては珍しいわね」

 

先ほどまで淡々と2つの情報を話していた私だが、最後の情報になると詳しい情報を言うことなく話を途切らせてしまった。

 

「先程私がお伝えした情報は不十分ながらご用意することができましたが、最後の島村卯月に関する情報はもう少しお時間を頂けましたら有力な情報を得ることができます」

 

「どうしては聞かないけれど、次回までに用意してね。にしても、いつもちゃんと依頼を受けてくれるちーちゃんが遅れるとは本当に珍しいね」

 

「申し訳ございません、お嬢様」

 

お嬢様は遅れている原因を言及することなく『まぁ、人間だから失敗するのは当たり前だ』と楽観的に言葉を返してきた。

 

私は最後のお嬢様の依頼である島村卯月の件についてすぐに終わるのではないかと考えていたが、残念なことに考えが外れてしまった。その島村卯月の情報の鍵となったのは島村卯月本人ではなく、一ノ瀬志希だ。

 

この私の話を聞いて、島村卯月本人に聞けばすぐ終わるだろうと考える者が現れるだろう。

しかし本人に聞くとなれば変な察しを抱く可能性が現れると思われ、私は島村卯月が20区に来るきっかけを作った一ノ瀬志希に聞くことになった。

 

私は一ノ瀬を決して只者と捉えていない。持ち前の化学の知識と喰種の知識で作り出した薬品に喰種やCCGの情報を取引している人間が只者なわけない。

 

もしかしたら20区に起きたことについて知っているのではないかと、私は一ノ瀬志希に情報を得ようとしたのだがーーー

 

 

 

 

 

あの女はそう簡単に情報を提供する人間ではなかった。

 

 

 

 

 

私は一ノ瀬が欲しがるだろう情報のいつくかを提示し、島村卯月が20区に取り残された本当の理由を探ろうとしたのだが、一ノ瀬は『あの時の出来事は覚えていないの』とまったくと言っても良いほど応じなかった。

 

ヤツは明らかにあの時の真実を知っている。

これは私の勘ではない。

ヤツから現れた仕草や雰囲気が教えてくれた。

ヤツは間違いなく"真実"を知っている。

 

「ーーー以上が現時点でわかっていることです」

 

私はお嬢様が依頼した情報を報告しそのまま終わるのかと考えてたその時、お嬢様が「あ」と何かを思い出した仕草を見せた。

 

「そういえば、一時期活動していた”眼帯の喰種”はどうなったかしら?」

 

「眼帯の喰種?なぜ3年前に消えた喰種を?」

 

私は疑問を抱いた声を出してしまった。

 

「つい最近ふと思い出しのよ。なぜかその喰種の活躍を耳にした時、私に胸の中から親近感というものが湧き上がるの。その喰種について、ちーちゃんは何か知っているからしら?」

 

「…いえ、眼帯の喰種については()()()()()。知っていることと言えば4年前に消えたことぐらいしか知りません」

 

私の返事を耳にしたお嬢様は「んーそれは残念わね」と嘆息を漏らした。

 

「でもその眼帯の喰種はCCGでは駆逐された扱いかしら?もしかして誰かのクインケになっていたりして?」

 

「…そのような情報はございません。眼帯の喰種に関係する」

 

私が眼帯の喰種のついて把握していることは、ヤツの活動が消えた年と言えば...

 

「確かCCGから高レートの喰種としてマークされたんだよね?その喰種が急に活動が止まるだなんておかしいじゃない?」

 

お嬢様がそうおっしゃると、『んー』と悩んだ様子で流れ行く街の景色を見る。 

 

「だから、ちーちゃん。また一つ頼んでもいいかしら?」

 

「また依頼ですか」

 

「ええ、信頼しているから頼んでいるのよ。他の人間だったら悪い返事しか聞けそうだし」

 

「おそらくは『給料に似合わない労力』と言うでしょうね」

 

人を糧にする喰種から情報を聞き出すなど、生死に関わるような仕事を私以外頼めそうな家中の者はいない。

 

いや、そもそも私がやっている仕事は黒埼家の者には知られていない。私がこのようなことをしているなど、知られてはいけない。

 

「分かりました。次回まで不足していた3点の情報を完全に用意してきますので、どうかお待ち頂けますでしょうか?」

 

「ええ、いつでも待っているわ。その時には私を満足させるぐらいの結果が来ることを願っているわ」

 

 

 

 

 

 

眼帯の喰種

 

 

 

 

その名を聞いて、私の頭の中に心当たりがある人物が一人特定している。

 

 

 

 

 

 

いや心当たり程度の言葉で表すのは足りない人物がCCGにいる。

 

 

 

 

 

その人物の名はーーーー

 


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