東京喰種:re cinderella   作:瀬本製作所 小説部

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偽装されているところを探す

今のあたしの中ではマイブーム

キミは一体どんなことを隠しているのかな?



報告書

それは皆が仕事を初める朝のこと。

プロデューサー(武内P)は346プロダクションに訪れるや否や、美城から部屋に呼び出された。

そしてプロデューサー(武内P)は美城から彼の手元に渡された書類を目を通すと、彼は思わず沈黙してしまった。

 

「...月山グループが、喰種...?」

 

「ああ、まさかあそこが黒だとはな」

 

椅子に座る美城はそう言うと、額に手を当て大きくため息をした。

 

「それって...本当なんでしょうか?」

 

あいつら(CCG)曰く、既に喰種である証拠を掴めたらしい。具体的にどんな証拠なのかは聞かされていないが、おそらくは検査の改ざんがあるだろうな」

 

月山グループは大企業グループであり、我々346プロダクションとは衣装デザインを依頼するなど仕事上ではかなり関係のあるグループである。

 

「月山グループとなると...関連の会社も対象でしょうか?」

 

「ああ、関連会社も対象だ。一覧表を見るだけでも気が滅入る」

 

美城はそう言うと持っていた二十枚以上あるであろう書類を机に放り投げ、プロデューサー(武内P)に「君は見たいか?」と尋ねた。もちろんプロデューサー(武内P)は「いや...大丈夫です」と断った。

 

「いずれにせよ、完全にイメージが回復するまでには時間がいる。信用を一度失墜するほど辛いものはない」

 

「そうですね...しばらくは月山グループ下の企業に依頼していた仕事について、別の企業に依頼しなければなりませんね」

 

「ああ、おそらくは我々だけではなく、他の企業もそう考えているだろう。間違いなく今回の件で相当な経済損失が生まれるな」

 

美城はそう言うと「まったくだ」と気難しい顔で頭を抱えた。何せ今後イベントの衣装を別の企業に依頼しなければならず、おそらく今回の件で多額な費用の損失と今後行う予定であったイベントの変更を余儀なくされる。

 

「あと、今回企業を摘発することなのか、我々の元にまた検査の依頼が来ている」

 

「え?それはつい先日提出したものとは別の検査ですか?」

 

「ああ、どうやらあいつら(CCG)はもう一度検査を実施しろと言っている。まったく検査実施にどれだけの費用が出るのか間違いなくわかっていない。健康診断よりもかなり費用が張るのにな」

 

美城はそう言うと額に手をつけ、またもや大きなため息をした。

 

「我々には他のどの企業よりも喰種の根絶を掲げる者にもかかわらず、最近のあいつら(CCG)は我々を他の企業とは同等の扱いをする。なんたることだ」

 

346プロダクションがCCGと提携を結んだ当初は他の企業とは先立って喰種対策をしたことにより、CCGからRc検査ゲートの無料設置や346プロが置く13区の警備強化など(CCG本局が置かれている1区の警備並)をしていたのだが、最近では13区の治安改善や346プロダクション以外の企業との提携をするようになったのか、CCGにとって346プロダクションの存在は最初の提携企業から他の企業と同等の扱いになりつつあった。

 

「我々の中に喰種などいないにもかかわらず、今度はなんだ?次は喰種と接触したことのある人間でも捕まえる気か?」と一人不満をたらした美城の言葉に、プロデューサー(武内P)はわずかながらぎくりと肩が震えた。

 

プロデューサー(武内P)が知る限りでは社内に喰種と疑われる人物などいない。

だがもし喰種と接触したことのある人間を挙げるのならば、346プロダクション内にいるのはプロデューサー(武内P)も含め何人かはいる。

しかも346プロダクション内に喰種の血を受け継ぐ人間がいることなど、プロデューサー(武内P)はまだ知らない。

 

 

 


 

 

千夜Side

 

 

人々が帰路につき始める、夕暮れの頃。

私は家には帰らず胸の中にある疑問を抱えながら、私がいつも訪れるバーへと足を運んだ。

そのバーは薄暗い照明にジャズが奏でるオーセンティックバーで、入り口は普通の人間からしたら気づかない所であり、雑音を嫌う私にとって憩いの場だ。

そんな場所にまさかあの女がいるのだろうかと半信半疑でバーの重々しいドアをゆっくりと開けると、一人の客がバーの席に座っていた。

 

「やぁ、やぁ、久しぶりだね♪」

 

「やっぱり、お前はここにいたのか。一ノ瀬」

 

店内には私が予想した通り、一ノ瀬志希が座っていた。

一ノ瀬の様子をみる限り少々ながらうとうととしており、おそらくは数十分前からここにいるみたいだ。

 

「うん、正解♪志希ちゃんはここにいました〜♪せっかくだから一緒にテネシーウィスキーを飲んで語り合わない?おすすめはジャックダニエルだけどーーー」

 

「悪いな、私は車で来たんだ」

 

私がそう言うと、一ノ瀬に自分が乗ってきた車の鍵を見せた。

その同時に私は一ノ瀬に相手をしていたバーのマスターに「すまないマスター、今日は飲みません。後日ここに訪れる予定がありますので、先に支払いをします」と財布から数万円を渡した。

 

「えー。あたしと会話する気ないじゃん」

 

「当たり前だ。私はお前に対しては信用は皆無であり、そもそもどうしてここの店を知っているんだ?」

 

一ノ瀬はこのお店に馴染んでいる雰囲気を醸し出しているが、この女は初めてここを訪れているのだ。

なぜそう言えるかというと、ここのバーは会員制である。

私がどうして一ノ瀬がこのバーにいると判断できたのは、最近新たな会員が現れたと言う知らせを知ったのだ。

ここのバーの会員数は5秒があれば覚えられるほど数は少なく、今まで新たな会員が入ったと言う知らせは少なくとも数年前の知らせが一番新しかった。

 

「なぜあたしがここを知っているかって?そりゃ、キミには言えないよ。それにしてもここはいいお店だねー」

 

「悪いがここからさっさと出ろ。ここは私にとって隠れ家だ」

 

「へぇ、キミにとって隠れ家なんだね。確かにこのお店って目立たないところに構えているよね。あたし、気に入っちゃった♪」

 

一ノ瀬はそう言うと、メディアで散々見た一ノ瀬のウィンクを私の前で見せた。

一見すると街中に歩いている女と同じように見える一ノ瀬だが、実際は安易に油断など見せてはいけない。

 

「それにしても今日キミが乗ってきた車、いつも事務所に来る車とは違うんだね」

 

一ノ瀬に返事を聞いた私は「ああ、よくわかったな」と幼児に声をかけるように返事をした。

 

「キミがいつも持っている車の鍵ってⓂ︎が重なったマークがあるのに、今日はamgのエンブレムがあるじゃん。もしかして、Sクラスの63?」

 

「正確にはS63ロングだ」

 

「て言うことは、右ハンドルモデルね」

 

「ああ、日本(ここ)に住んでいるなら、右ハンドルでいい。私は栄えを求めて左ハンドルを選ぶような人間ではない」

 

AMGと言うのはメルセデス・ベンツ内のスポーツブランドであり、通常モデルとは別物と考えていただけたらいい。

私が乗ってきたS63はSクラスのamgモデルのことで、もちろん性能は下手なスポーツカーより凄まじい性能を持っている。

なおこの車を選んだ理由は自分で所有しているだけではなく、お嬢様の送迎用として使用しているSクラス.マイバッハが使用できない時に使うためでもある。

 

「キミは本当にベンツが好きだね」

 

「ああ、そのおかげかよく低能どもから喧嘩を売られるがな」

 

「あはは、想像がつく」

 

一ノ瀬はそう言うと、私の下らぬ言葉ををつまみにしたかのように、ウイスキーを飲んだ。

私が所有している車は名前と金額のせいか、よく盗難しようとするアホが無数にいる。

あるアホはボンネットに十円玉で傷をつけようとした貧民。

またある愚者は私が車の鍵を開けようとした瞬間に、集団で私に攻撃を加えようとした無能どもなど、今思い出すだけで苛立ちが生まれるほどのことばかりだ。

 

「それで今回はなんだ?少なくともお嬢様の薬は渡すと言うことはなさそうだな」

 

「うん、ちとせちゃんの薬はまだストックがあるでしょ?今、ここで薬を出しても」

 

「じゃあなんだ?くだらない世間話をするぐらいなら、席を外させてもらう」

 

「くだらない世間話?キミからしたら、つまらないお話じゃないよ」

 

一ノ瀬はそう言うと、持っていたウイスキーグラスをカウンターに置き、次の瞬間 私をゆっくり睨むように見た。

 

「そろそろ()()のことを知ろうかなって」

 

「は?」

 

いつもあやふやに言う、一ノ瀬。

今回の発言はどうも意味があるのではないかと不自然さを感じてしまう。

 

「お前は何を言っている?いつもよりはーーー」

 

「キミはどんな経歴を歩んできたのかな、というお話だよ。あたしはキミのことをある程度調べたのだけど、"ひっかかること"があったんだよね」

 

一ノ瀬は私の発言を遮ると、先ほどまで酒の酔いでうつろな目だったにもかかわらず、酔っていたことを忘れさせるようにまっすぐと私を見た。

 

「キミはちとせちゃんと出会う前、一体何していたの?」

 

そして無言で私を見ていると、一ノ瀬はゆっくりと笑みを見せた。

それは不気味さと言う影がかかった笑みであった。

 

 

 


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