東京喰種:re cinderella   作:瀬本製作所 小説部

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おかえり、自分。

彼女たちがいる世界に。


Awake K

美嘉Side

 

時計はちょうど9時になった頃。

今日やるべき仕事が終わり、家に帰った、アタシ。

家に上がったアタシは迷わずまっすぐとソファーに向かい、そのまま体に任せるように飛び込んだ。

 

(はぁ...いろいろと疲れた)

 

ソファーに寝転んだアタシはポケットにあったスマホを見ると、つい10分前に東京で大きな事故があったとのニュースが表示されていた。

でもそのニュースは普段アタシが通ることのない知らない道での事故だったから、一通り目を通すとすぐに通知を消した。

そのニュース以外に誰からの返信などの通知はなかった。

 

「...さてと」

 

アタシはそう呟くとソファーから立ち上がろうとした。

アタシが今日やることはシャワーに入って寝るぐらいという簡単なこと

 

ーーーだけど。

 

「....」

 

だけどアタシは立ち上がらずにそのままソファーに固まったままだった。

ふと懸念していることを思い出したのだ。

 

(なんで今思い出すの....あれが?)

 

アタシはそう心に呟くと、『なぜこの時?』と額に手を置いた。

アタシが思い出したのここ最近の人間関係のこと。

別にアタシが好きな人を見つけた訳ではなく、アタシの友人の中で不穏な空気が流れている二人がいる。

 

 

それは誰かって?

 

 

それは文香さんと志希のことだ。

 

 

ここ最近、二人の間にギクシャクした空気が生まれつつあった。

 

(確か...クリスマスの時からだっけ?)

 

きっかけはアタシの家でやったクリスマス会のことだ。

クリスマス会を企画したのは志希で、参加者は企画者の志希にアタシ、そして文香さんの3人で集まった。

ちょうどアタシが佐々木さんから電話がきたとの話を進めていたら...

 

『…は?』

 

突然誰かが心の奥底から苛立ったような声を出したのだ。

その声を出したのはアタシでもなく志希でもなく、文香さんだった。

今思えば文香さんのあの声を聞いたのは初めて出会った。

周りの人から『最近の文香はどこか恐ろしい』とか『ときどき文香さんは普段聞かないような怖い声をする』との声が他の人から聞いたことがあったのだが、まさかクリスマス会であの声を聞くことになるとは思わなかった。

あのクリスマス会のことを思い出したアタシは考えるだけでもため息をしてしまう。

 

アタシは二人からは普通に仲良くしてもらっているけど、志希と文香さんだけにした場合は空気が一変する。

前までは二人だけにしても普通に仲良くしていたのだげど、最近は二人だけにしても話す様子を忘れさせるぐらいに話はしない。

それはただ話題が尽きているからではなく、一方が相手を嫌っている空気が肌に感じるほどだ。

 

まさかどちらかが爆発をするのではないか?とアタシは心の隅で恐れている。

志希はいつもは自由奔放にしている人間だけど、時折冷淡な態度になることがある。

アタシは直接見てなかったけど、この前の化粧品PRでイメージキャラクターとして出演していた志希にしつこくプライベートの質問してきた芸能記者に『キミは今それは関係あるの?いいかげんやめなよ。キミたちの仕事はゴミクズ以下の社会悪しか見えないのだけど』と切り捨て、会場の空気が一気に悪くなったらしい。(この後、司会者さんがなんとか嫌悪な空気と取り除いたらしいけど)

 

文香さんはアタシと話す時はいつも通りに優しいのだけど、文香さんと話すたびアタシはいつか誰かに怒りを見せてるんじゃないかと恐れてしまう。それはアタシだけではなく周りの人もそうだけど、誰も文香さんの怒りを見たことがないからだ。そのせいか周りは文香さんと話す時は腫れ物を触るかのようにぎこちなさが入った慎重な会話になってしまう。

 

 

もしかして志希から爆発するのか?それとも文香さんから?

 

 

そんな二人にアタシができることはなんだろうか?

 

 

言葉を発せずに緊迫した空気を漂わせる二人にできることは?

 

 

ただ、二人の関係が壊れるの見過ごすなんて、アタシはやりたくない。

 

 


 

 

時計の針が午後8時30分を示していた頃。

346プロダクションに戻ったちとせたちは今日すべき用事をすべて終え、ちょうど事務所から出る頃であった。

 

「いますぐ家に戻りましょ、お嬢様」

 

「うん、さっさと帰ろうね♪」

 

二人は車に乗ると、警備員しかいないであろう事務所から出た。

 

「それにして千夜ちゃんが事務所に入ったのは何気に入ったのは初めてじゃない?」

 

「...ええ、そうですね。今までは玄関からさらに奥に入ったことはありませんでしたね」

 

「千夜ちゃんなら私がいる部屋まで迎えに来てもいいけど...なぜ今まで奥に踏み入らなかったの?」

 

「それは簡単です。単に邪魔をしないためです」

 

「邪魔をしない?別に邪魔をしたっていいんじゃないの?」

 

「いえ、さすがに346プロダクション関係者に迷惑をーーー」

 

すると千夜は何か思い出したかのように会話を止め、左腕につけていた時計に視線を向け、『失礼ですがお嬢様』と話を変えた。

 

「どうしたの?千夜ちゃん?」

 

「また少し遅れてしまいます」

 

「遅れる?それはあいつらの検問所があるから?」

 

「いえ、"ただの事故"ですね」

 

「事故?」

 

「いつも通るルートで行きますと20分ほど遅れます」

 

「それの情報は千夜ちゃんがつけているイアホンから情報を得たのね」

 

「ええ、そうです。ちょうど今届きました」

 

千夜はそう言うと、いつも通る道とは別のルートにハンドルを切った。

 

「また遅くなってしまいましたが、気分転換に別のルートを行くのもありだと思います」

 

「そんなこともあるよね。人生は必ずしも真っ直ぐに行くわけないし」

 

ちとせは不満を言うことなく『まぁ、そんなこともあるよね』とつぶやいた。

 

「食事まで少し遠のいてしまいましたが、お許しください」

 

「いや、別に千夜ちゃんが謝ることはないわ。私はある程度空腹に慣れないといけないし、そうしないと今の体型が維持できなくなるからね」

 

「了解しました。別ルートになりますが、なるべく早く向かいます」

 

千夜はそう言ったものの車のスピードを上げることなく、通常通りに走らせた。

だが千夜が通った道はいつも通る道は違えど、所要時間は本来通る道を使用した時と変わらなかった。

 

 

 

しかしちとせは指摘することなかった。

 

今日の千夜の行動に。

 

 


 

文香Side

 

 

眠れない。

就寝をつこうとベッドに数時間横たわっても、眠気というものが一向に現れない。

 

(....)

 

いくら目を閉じても、いくら眠りの訪れを願っても、私は眠ることができない。

まるで今の私のように眠気にも見捨てられたかもしれない。

 

(....)

 

眠気が訪れないせいか、思い出したくはない記憶、不安が根拠もなく現れる。

過去の失敗した出来事、誰かからの侮辱、仕事の嫌味、誰かの怒号、将来への不安、

 

そして彼を突き放してしまったこと。

 

(...っ)

 

私は彼との出来事を思い出すと、嫌なことからそらすためにシーツを握った。

私はあの行動が忘れられない。

彼を今はなきあの人だと認識してしまい、激情してしまったことを。

あの時の私は何もかも堕落していた。

とにかく彼の帰りが待ち遠しかった。

 

(....)

 

それから私は彼と別れてから連絡はしておらず、最近連絡したのは彼から『しばらく連絡できません』との返事だけ。私は彼からのあの突き放した出来事を振られるのが怖いのか、彼に返事をする気力が全く湧かなかった。

 

だけど私が躊躇している間に、もしかしたらあの女が行動をしだすかもしれない。

そして最後に私を嘲笑うあの女の姿が目に浮かぶ。

 

(...っ)

 

私は突発的にベットから立ち上がり、スマートフォンを取り出した。

私は彼に謝罪の文を送ることにした。

真っ暗な部屋に眩しく映るスマートフォンに彼宛の返信を打つ。

 

『先日の件、本当に申し訳ございません。私が起こした過ちをどうか許してください』

 

眠気がなく焦りが生まれ、今の私が思いついた文章。

前の私ならばもっと丁寧な文章が打てたのに、今の私は昔より落ちぶれている。

 

(...これで彼から返信が来る)

 

彼からの返事はおそらく朝か、もしくは翌日以降か。

そう思い、再び眠りにつこうとしたその時だった。

 

「...え?」

 

すると先ほど返信を送ったスマートフォンから突然、着信音が聞こえた。

普段スマートフォンからくるのは彼か、もしくは美嘉さんしか。

私はまさかと思いスマートフォンを取り出すと、彼からの返事が来たのだ。

 

「か、彼から...!」

 

先ほどまで否定的な思考を持っていたことを忘れるぐらいに嬉しさが生まれていた。

もしかしたら、この前にお会いした時の謝罪かもしれない。

 

そう期待し彼からの返事を開いた、私だけど。

 

 

『申し訳ございませんですが、仕事の都合でしばらく連絡ができません』

 

 

彼からきた返事は、私の返事を無視した業務連絡じみた感情のない返事。

 

「...っ」

 

私はその返事を見ると手に力が入らなくなり、手に持っていたスマートフォンを床に落としてしまった。

ああ、私は見捨てられてしまった。

彼は私を見ていない。

私はあなたのことを誰よりも寄り添ってあげているのに。

 

(....私のせい?)

 

これは自分のせいだろうか?

自分の無力さなのか?行動のなさか?

 

 

いや、これは私だけのせいではない。

 

 

あの女のせいだ。

 

 

「...っ」

 

あの女が頭に浮かんだ瞬間、私は自分らしくない舌打ちをした。

これは彼があの女と結びつき、送った返事。

私はもう"用済み"との返事だ。

 

「....っ!!!」

 

そう考えた私は言葉にならない怒りの声をあげてしまった。

ただ怒りを発散するために。

あの女に対しての怒り。

惨めな私に対しての怒り。

 

「...なんでこうなったの?全部、全部、あの女の仕業?」

 

あの女は自分一人で彼を落としたのか?

でもあの女は自分だけで行動できる性格ではない。

じゃあ、誰なのか?

あの女と手を組んだ愚か者は?

渋谷凛か?

本田未央か?

それとも...?

 

「...ああ、だから親しかったんだ。あんな猫被った態度をとったもの、私を陥れるため...」

 

私は該当する人物が頭に浮かんだ。

そう、あいつを忘れてはならない。

あの女が彼に近づかせた原因を作った女の存在を。

 

「....一ノ瀬志希」

 

いつもニヤニヤしている、あのチェシャ猫野郎。

確かあいつはあの女といつも一緒に行った。

やっぱり、私を陥れるために私に近づいた。

 

そう考えていると、また私の元から眠気に見捨てられた。

 

眠気よりも、遺恨が私の心に根付いていた。

 

 

 

 


 

 

 

今日、彼は眠りについた。

 

あれほども生きたいともがいていたにもかかわらず、最後はすべてを受け入れたかのようにすんなりと落ちつていた。

彼の中にいた僕は久しぶりに外の空気を味わった。

最後に息を吸ったのは花が不気味に咲き誇る地下。

今では遮蔽物がなく、空が綺麗に見えるビルの屋上。

 

不気味に残る不味い肉を口にする、僕。

それは美味を得るためではなく、体に適応させるための行為。

昔の僕が見たら、信じることはないだろう。

 

不味い肉を口してると、彼女を思い出した、僕。

彼女を抱きかかえたことを思い出した。

彼女は今でも僕のことを覚えていた。

女性の記憶は上書きされるものだと、どこかで聞いた話を思い出したのだが、彼女はどうやら違うみたいだ。

 

彼女を思い出し、彼女たちを思い出した、僕。

彼女たちも僕の帰りを待っていた。

彼に会いながらも、結局は僕と比較していた様子が僅かならがあった。

 

 

彼女たちはきっと今の僕に会いたがるだろう。

 

 

だけど僕は彼女たちと会うのはやめる。

 

 

僕にはまた一つ、重荷が乗っかってしまったのだから。

 

 

 

 

 


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