東京喰種:re cinderella   作:瀬本製作所 小説部

63 / 71
ヒガンバナ色の糸

 

美嘉Side

 

 

皆が昼休みで事務所から出ていく昼頃のこと。

昼食休みに皆が輝かしく出ていく中、アタシは事務所には出ず、一人頭を抱えていた。

 

(はぁ...まったく、どうすればいいの)

 

何を頭抱えているかと言うと、半年前に気づいてしまった志希と文香さんの仲の悪さだ。

志希と文香さんの関係は未だに改善せずに、徐々に悪化し続けている。

特に二人が同じ部屋にやってきた時の緊張感はひどくて、二人の仲を知らない人でも仲の悪さに察知し、その場から離れるほどひどくなっている。

そのせいかアタシは二人の仲介役みたいな役割になりつつあり、苦労が絶えない。

アタシは二人の仲をなんとかしたいと考えているのだが、未だに解決につながる行動に移せていない。

二人の関係でアタシが苦労を混じったため息をしていたら...

 

「どうしたの?美嘉ちゃん?」

 

「あ、楓さん」

 

ちょうど頭上に声がして振り向くと、悩んでいたせいか楓さんがいつの間にか目の前に現れていた。

 

「何か困っているような顔をしたみたいだけど?」

 

「いや、最近仕事が忙しいもので...」

 

先ほどまで悩んでいたことを話さず、別に話題を振った、アタシ。

楓さんは最近の二人の事情を知っていると思うが、流石に志希と文香さんの話を今振るわけにはいかない。

もし誰かに話をしてしまえば、また一つ亀裂が出るんじゃないかと、恐れていたんだ。

アタシの話を聞いた楓さんは「なるほど、お仕事なんですね」と少し納得した様子になり、アタシが座るソファーの隣に座った。

 

「ここ最近美嘉ちゃんが何かに悩んでいた様子だったので、私心配していましたよ?」

 

「え...ええ、そうなんですよ...今やっている仕事は楽しいは楽しいでのすけど、楽しさではカバーできないところもあって」

 

「溜め込んでいては、元の子もありませんよ?もし何かあったら私だけじゃなくて、志希ちゃんや文香ちゃんにも相談してくださいね」

 

「あ、ありがとうございます...あの、楓さん」

 

志希と文香さんに限っては今は相談しにくいのだけど、楓さんは話題を紛らわしたアタシに察したような様子は見られず、少しほっとしてしまった(安心してはいけない問題だけど)。

このまま楓さんと仕事の話をするのはいいのだけど、アタシには楓さんに話したい話題があった。

 

「そういえばなんですけど...」

 

「ん?」

 

「楓さんは最近、佐々木さんと会いました?」

 

「佐々木くん?」

 

「最近佐々木さんと会っている人がいなくて、楓さんはもしかして佐々木さんと会ったりしてますか?」

 

楓さんと言えば、何かと佐々木さんと一緒に喫茶店に行く機会が多く、意外とアタシより会っている。

それに佐々木さんからの最後の返事は実はもらっていないらしい。

多分、楓さんの口から『会ってないわ』との返事か聞きそうと予想をした、アタシ。

しかし、結果は違った。

 

「...ええ、この前に彼と会ったわ」

 

「え?」

 

楓さんの返事に思わず間抜けな声を出してしまった。

アタシの周りでは最近佐々木さんとは会ったことも連絡を貰ったこともない人ばかりいるのに、楓さんは佐々木さんに会ったのだ。

 

「会ったって...!?」

 

「ええ、先週のお昼頃にコーヒーのお誘いをしたら、彼は乗ってくれたわ」

 

凛や志希でも佐々木さんからの連絡は一切来なかったのになぜか楓さんには連絡ができ、それだけではなく会ったことに驚いた。

 

「そ、それで佐々木さんはどうでした?...」

 

「しばらく会ってなかったから、心配していたのだけど、彼は元気にしてたわ。...だけど」

 

すると楓さんは「だけど」と言った瞬間、視線を落とした。

この瞬間、空気が一変したかのように楓さんから暗い感情を感じ取ってしまった。

 

「彼、結構変わったのよ」

 

「変わった?」

 

「そう、姿だけじゃなくて性格も変わったみたいで」

 

「か、変わったって....どのようにですか」

 

楓さんはどこか躊躇するように複雑な顔になり、しばらく間を空け、こう言った。

 

「一言にいえば...()()()()()と言えばいいかしら」

 

「黒くなった?」

 

「ええ、姿も性格も黒に染まったかのように変わったの、彼は」

 

佐々木さんと言えば黒と白のツートンカラーの髪に黒シャツとスラックスのイメージがあるのだが、それ以上に真っ黒になったと言えば良いだろうか?

いや、容姿だけではなく性格も黒くなったとはどういうことなのか?

 

「性格も黒くなったって...?」

 

「....」

 

すると楓さんは口を閉し、沈黙が生まれた。

空気からわかることと言えば、少なくともこれ以上聞いてはいけない嫌な空気。

もしこれ以上言及すれば、聞いて後悔しそうな状況に出会うのではないかと。

状況を察したアタシは「...佐々木さんとはどんな話をしたんですか?」と別の話題を振ることにした。

 

「彼から仕事のお話とか身の回りのこととか話したのだけど...」

 

先ほど口を閉した楓さんは別の話題には口を開いたのだが、暗いオーラはまったくと言ってもいいほど払拭はされなかった。

 

「彼と話して感じたことは言うと...なんと言うか...別の人と話しているように思えたのよ」

 

「別の人?」

 

「ええ、話している人は彼ではないように感じたのよ...」

 

楓さんはそう言うと再び口を閉してしまい、沈黙がまた生まれてしまった。

 

(...何があったの?)

 

もしかして仕事に関係しているのか?

それとも佐々木さんの人間関係にトラブルでも?

まさかだと思うけど、卯月に関係することか?

そう考えていたら..

 

「...でも、彼を探ろうとしないほうがいいと思うわ」

 

考えていたアタシを止めるように、口を閉していたはずの楓さんはぽつりと口を開いた。

 

「え...?」とアタシは楓さんに振り向くと、楓さんは「あ、えっと...」となぜか言葉を詰まらせた。

 

「...か、彼には彼なりの問題があると思うから、関わるのではなくそっとしておくのがいいかもね」

 

「...わかりました」

 

アタシはこの時、ふと気づいてしまった。

楓さんは何かを隠すように話題を止めたことに気づいてしまった。

楓さんはアタシの考えたことに勘付いたのか「そろそろ、出ないと」と急いだ様子でソファーから立ち上がった。

 

「...じゃ、じゃあね、美嘉ちゃん。またお話ができたらいいわ」

 

「ま、また...」

 

アタシがさよならの言葉を言う前に、楓さんはアタシの前から立ち去り、事務所から出て行ってしまった。

アタシの前から出る楓さんは一瞬、アタシから去っていく楓さんはどこか寂しそうな顔をしていた。

ただ寂しいのではなく、誰かと別れた悲しみが入った寂しさに見えた。

 

(...何が起きてるのよ?)

 

楓さんから佐々木さんのことは関わるなと言ったのだけど、アタシはむしろ気になってしまった。

まるで押すなと書かれたボタンを押したくなる心理に近い。

 

(...よし、行動を起こそうかな)

 

アタシは決意をした。

今まで触れなかった佐々木さんの件を触れることにした。

志希と文香さんのことは行動に移す勇気はないけれど、佐々木さんのことならまだ行動に移せる。

 

 

一体佐々木さんに何があったのか?

アタシは何が起こるかわからない問題に踏み入れようとしていた。

 

 


 

佐々木Side

 

同時刻 CCG本局。

僕は本局のベランダでちょうど休憩に入っており、ある人と会話をしていた。

 

「それで、高槻先生のご自宅になにかありましたか?旧多さん?」

 

「いや、まったく手がかりとなる物は全然出ませんよ〜。あるのは散らかったゴミぐらいしか」

 

僕の隣にいるのは旧多一等捜査官。

かつてはキジマ準特等捜査官の元にいた捜査官だが、半年前のロゼヴァルト戦でキジマさんが殉職したため、僕の配下に入った。

 

「そうですか...まったくですか」

 

「ええ、それにしても勝手に家宅捜索してもいいんですか?」

 

「そうしないと、逃げられますので」

 

「まったく、社会人失格ですよ...おっと失礼」

 

旧多さんはそう言うと嫌味を含んだ笑いをした。

僕は作家である高槻泉(たかつきせん)の捜査をしているのだが、上層部には許可を得ずに家宅捜査をしており、つい先ほど高槻泉のマネージャーである塩野に事情聴取をしていた。

なぜ作家の高槻泉を捜査しているのか?

それは彼女は喰種の疑いだけではなく、もう一つの疑いがあるからだ。

 

「とりあえず、捜査は慎重にやってください。彼女は社会的に影響力がある人ですから」

 

「ええ、わかりましたよ。未だに彼女はどこにいるか知りませんけど」

 

だが一向に証拠が出ることなく、容疑者である高槻泉はなぜか現在の所在は不明であり、時間がかかるのは明白であった。

僕は持っていたコーヒーが残り一飲み程度になった時、その場から離れようと考えていたら...

 

「ーーーそれで準特等の女性関係はどうですか?」

 

「...女性ですか?」

 

「ええ、準特等は関係をお持ちですよね?まぁ、今は興味なしって感じしますけど」

 

旧多さんは「おっと失礼」と嘲笑に似た笑いをした。

 

「なぜその話題を挙げるのですか?」

 

「昨日、()()()()準特等が高垣楓とお話していた姿を見ましてね。ここから2キロちょいの喫茶店で見ましたよ」

 

「ええ、そうですよ。それがどうしたんですか?」

 

「もしかして、お付き合いーーー」

 

「...変な推測をやめてくれますか。僕は彼女とはお付き合いしていませんよ」

 

「おっと、これはこれは、大変失礼しました。あまり口を開きすぎると、不幸を糧にするクソ記者が寄ってきますよね」

 

旧多さんはそう言うと笑ったが、またしてもふざけた態度が含んでいた。明らかにわざとらしい振る舞いでキジマさんの元にいた時は見せなかった姿なのだが...?

 

「わかりましたよ、準特等。高垣楓との関係はお友達関係と言う感じで認識すればいいのですよね?」

 

「ええ、そうですよ。彼女とは友達の関係で付き合っています」

 

「そうなんですね。見た感じ、長い付き合いぽいですけど?」

 

「彼女とは僕が喰種捜査官になった時から知り合っています」

 

「喰種捜査官から....?」と旧多さんはなぜか納得のいかない顔を見せた。

 

「...なんですか?」

 

「いや、ずいぶん前から会っているように見えたんですが...気のせいですかね?」

 

「...楓さんとは喰種捜査官になる前には会っていませんよ?」

 

少なくとも、佐々木琲世としてはそれが正しい。

 

「それはともかく、僕が喫茶店で見かけた時、最近会っていなかったようですね」

 

「ええ、そうです。かなり期間を空いていましたから」

 

「あっちが誰もが知る人気アイドルだから、仕事で忙しかったと予測がつきますが...」

 

「...?」

 

すると旧多さんは意図的に間を空け、僕にこう聞いた。

 

「もしかして、準特等から避けていたりして?」

 

「...いえ、違います」

 

「本当ですか?346プロと提携を結んでいるので、彼女のスケジュールを好き勝手に見れそうですがーーー」

 

「ーーー旧多さん、引き続き高槻泉の捜査の方を進めてください」

 

「まったく、あなたはプライベートのお話をしたがらないじゃないですか」

 

「ここは職場ですよ、旧多さん。もし僕とそんなお話をするなら、今回の捜査から外しますよ?」

 

「まったく、わかりましたよ。準特等」

 

旧多さんはそう言うと「面白くない人だなぁ」と愚痴を漏らしながら去っていった。

 

(彼女たちか...)

 

ふと気がつけば彼女たちと連絡を途絶えさせてから半年になるのだけど、僕は未だに返事を無視したまま。

着信数では志希ちゃんがトップであり、その次に凛ちゃんが多い。

 

 

しかし、僕は彼女たちとは会うことは望まず、連絡することもまったく望んでいない。

 

もし今、彼女たちの誰かが僕を見た時、きっと気づいてしまう。

 

 

 

あなたは()()()()()()()()()、と。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。