東京喰種:re cinderella 作:瀬本製作所 小説部
ちとせさんから言われるまで、気づかなかった。
彼からの返事を待っていた、私。
そんな状態で待っていても、変わりやしない。
それは346プロダクション内にある346カフェで一休みをしていた時だった。
私・島村卯月は午前中の雑誌の撮影のお仕事が終わり、次の仕事までに346カフェで休んでいました。
今の時間帯はお昼休みが終わり、私の周りには人の姿がなく、ベランダ席に座っていた私はまだ飲み慣れていないブラックコーヒーを飲んでいました。
まだ私の舌はコーヒーの苦さに未だに慣れてなくて、一飲みするたびに苦味が口に広がり、しばらく飲めなくなる。
その行動を繰り返していき、コーヒーを飲み切るのが、私がコーヒーを飲む時のルーティーンだ。
苦さで再びコーヒーに口をすることなく、しばらくコーヒーを睨めっこするようにカップを持っていると...
「どうも、卯月」
「っ!」
急に声をかけられて、少し肩が上がってしまった。
誰だろうかと横に振り向くと、外国人と思わせる金色の長髪に真っ赤に染まる赤い瞳の女性が風のようにすっと現れました。
その人の名は黒埼ちとせさん。
私と同じ346プロダクションに所属するアイドルです。
ちとせさんはハッと驚いた私に『おっと、失礼』と片手を少し口にかざし、ふふっと笑った。
「あ、ど、どうも、ちとせさん」
「一人でゆっくり時を過ごしている中、急に声をかけちゃってごめんね」
「い、いえ...大丈夫ですよ」
そう言った私だけど、危うく持っていたコーヒーを手放すところだったことは、ちとせさんには内緒。
それからちとせさんは『隣に座っていいかしら?』と私に尋ね『いいですよ』と私が了承すると、私と対面する感じに席に座った。
「それにしても周りには誰もいないわね」
「ええ、ちょうどこの時間帯は人は少ないんですよ」
今、過ごしている時間帯は346カフェは混み合っておらず、今は私たちだけが店内に過ごしている状態。
いつもなら、片手で数えれるぐらいの人がいるのだけど、なぜか人の姿は見当たらない。
「そうなんだね。私、あまりここに来ないからわからなかったわ」
「あれ?ちとせさんは346カフェには訪れないのですか?」
「ええ、いつも私の
ちとせは『あの子はきっちりとしすぎのよ』と困った様子でため息をした。
「僕さん?もしかしてあの黒髪の運転手さんですか?」
「ええ、運転手と言うか...なんでもこなしてくれる執事わね」
「なんでもですか...?」と少し頭を傾げた、私。
ちとせさんの執事の名前は確か"千夜さん"と言う名前なのはわかるが、知っていることといえば名前ぐらいしかなく、具体的に何をしている人なのかわからない。
「ええ、あの子は家事や料理、私のスケジュール管理だったり、金銭管理もきっちりとやってくれるのよ。あと年齢は確か...卯月ちゃんと同じよ」
「私と同じ歳ですか!?」
千夜さんのことを聞いた私は思わず席をガタッと音を立ててしまった。
執事と聞くと初老の男性を思い浮かぶのだけど、千夜さんは私とは歳が変わらない女性であり(私の年齢は22)、しかも大きめの高級車を運転し、家事もこなすなんてすごすぎる...
「ええ、意外と思ったでしょ?千夜ちゃんのことを話すと、ほとんどの人が驚くのよ」
「お、驚きますよ!私と歳が変わらないのに、完璧にこなすなんて驚くのは当然です。千夜さんは何か執事の学校とかで学んだのですか?」
「学び...と言うか、私はあの子に対して何も口を出さない放任主義を取っていたから、あの子はどこで学んだかは把握してはいないわ。ただ言えることは、あの子は自分がやりたいことはやってきたんじゃないかと思うわ」
「自分がやりたいことですか...」
「ええ、あの子が執事を勤めるのは仕事ではなく好きでやっているのよ。それに車が好きみたいだから、私はあの子が運転する車にいつも乗ってあげているのよ」
「車がお好きですか...と言うかちとせさんが乗る車って結構高い車っぽいですが?」
「うん、私が乗る車は高いちゃ、高い。確か今乗っている車の価格は...新車価格で約2000万円ぐらいかしら?」
「2、2000万円っ!?」
ちとせさんの言葉に私は思わず声が上ずる。
少なくとも車についてわからない私でも驚愕してしまうほどの値段だ。
「私が乗るクラスは2000万円台は当たり前なのだけどね。なんなら上はいくらでもあるわ」
「そ、そうなんですね...」と圧巻され、力が抜け切ったたのような返事をしてしまった、私。
ちとせさんが乗る車は見かけたことがあるが、それ以上にいい車があると聞くと、いったい何が違うのかわからない。
「ち、ちとせさんはそれ以上の車に乗りたいと思いますか?」
「それ以上の車?んー、私はいくつもの素晴らしい車を試乗はしたことはあるけど...ないかな」
「ないのですか?」
「ええ、私は車のことはそんなに気にしないから、車の選別は全部千夜ちゃんに任しているわ。あの子は車のことについて結構知っているから、適当に高い車を選ぶよりはマシかな」
「そ、そうなんですねぇ...」
車のことはあまり詳しくない私は失礼がないよう相槌を打ったのだけど、ちとせさんは私の様子を気にするとなく話を進めた。
「最近ってロールスロイスやベントレーとかをSNSで自慢げに投稿する人たちがいるらしいけど、私は彼らの行動には理解する気ないかな。別に本当に好きな車を映すのはいいよ?彼らが乗る車はいい車のは間違いないけど、誰かに見せびらかしてやる見栄っ張りの行動は愚者がやる行動とだと思うわ」
「ロールスロイス?ベントレー?」と話についていけてない私は曖昧な口調で呟くと、ちとせさんは「簡単に言えば、英国のお高い車メーカーよ」と把握していない私の姿に微笑んだ。
車のことは正直あまり知らないため私は『そろそろ話を変えませんか?』と聞こうとしたら...
「ーーー人も同じく言えないかしら、卯月?」
ちとせさんがそう言うと、突然空気が変わり、私は無意識に口を閉してしまった。
「ただ栄えを求めて付き合うだなんて、それ以上につまらないことはない。そう思わない?」
「付き合う...?」
車のお話の時心に響くことなくただ驚いていた私だけど、人付き合いの話になった途端、ぼんやりと聞いていた私は目覚めたかのようにハッ反応してしまった。
はっきりとしないけど、なぜか引っかかる。
私がそう思っていたら、ちとせさんが『ところで、卯月』と話すと、嫌な予感を察してしまった。
「...ササキハイセってご存知かしら?」
「...え?」
ちとせさんの口から彼の名が出た瞬間、私はあっけない声で呟いてしまった。
(え...?な、なんで、ちとせさんは知っているの...?)
状況が把握できず。頭の中が混乱してしまった、私。
事務所内で佐々木さんのことを知る人は限られているのだけど、ちとせさんは私が知る限り佐々木さんのことは知らないはず。
なのに、なぜちとせさんは彼の名を知っているの?
誰かから佐々木さんのことを知ったと思うかもしれないけど、ちとせさんの口調はただ名前を知っていると言うには知り過ぎていると言えばいい。
もしかしたら同名の別人のことを取り上げたのではと頭に浮かんがのだが、その可能性が一瞬にして消え去ってしまった。
ちとせさんは間違いなく私が知る人物のことを聞いている。
頭が真っ白になり、しばらく口を閉した私を見たちとせさんは「急に驚かせてごめんね、卯月」と私の手をそっと触れた。
「卯月は、なぜ私がササキハイセと言う名を知っているか、混乱しているよね?」
「...はい」
私は恐れを抱きながら、まるで尋問される容疑者のように小さく頷いた。
「どうして私が彼の名を知っているかは詳しくは言えないのだけど、私は前から彼のことを調べているの」
「調べている...?」
「そう、調べていくうちにいくつもの壁にぶつかって、調べたいことが進めないのよ」
ちとせさんは『彼は結構難しい人なのよね』とやれやれとため息をした。
「それで彼の知り合いを調べていくうちに、私はふと思い出したのよ。うちの事務所に彼の知り合いがいるじゃないかってね。それでおそらく彼とかなり親しいはずの卯月にいくつか聞きたいことがあるの」
「...いくつかですか?」
「ええ、本当はたくさん時間があればいいのだけど、生憎、私の僕ちゃんが地下駐車場で待機しているから、長くは聞けないわ」
たくさんって、どういうこと?
佐々木さんに関することだけでもたくさんある?
混乱していた私はこのままでは黙っていられないと、ちとせさんにあることを聞くことにした。
「...その前に、ちとせさんにお聞きしたいことがあるんですが」
「ええ、いいわ。答えられる範囲なら」
「...危害は加えませんよね?」
「危害、ね」
ちとせさんはそう言うと口を閉し、視線を落とした。
私たちの間にしばらく沈黙が漂い、私はその沈黙にじっといられずに緊張してしまっていた。
私はちとせさんを味方だと思いたいのに、なぜか味方ではないのでは?と考えてしまう。
ちとせさんは何を知りたいの?
佐々木さんの名を知り、私に彼のことを聞こうとする。
ちとせさんを本当に味方だと信じても良いの?
そう思い巡らしていると、沈黙を保っていたちとせさんはゆっくりと口を開いた。
「私だったら...危害は加えないわ」
「私だったら...?」とつぶやくように言った、私。
「少なくとも今は卯月に危害を加える者はいないわ」
「いない...?」
私はそう呟くと、ちとせさん『そう、今のところはね』と周りを見渡してと言わんばかりに人差し指をゆっくり回した。
今、私の周りに人がいないのはちとせさんが来る前から知っていたのだけど、なぜか人がいないことが意図的にやっているのではないかと考えてしまった。
結局、ちとせさんは私の味方だと思えばいいの?
そう思いたい気持ちはあるが、心の中にある疑いが妙に減ってくれない。
疑いが『油断してはいけない』と訴えかけるように。
「では、私の番ね」とちとせさんは私にふふっと笑みを見せた。
「まず一つ目。最近、彼と会った?」
「...会っていませんよ。佐々木さんはお仕事の関係でしばらく連絡はできないと」
「仕事ね。本当に仕事で連絡できないのかしら?」
「え?」
まるで状況を把握しているかのように話した、ちとせさん。
私はふいに見抜かれてしまったかのように目を剥いてしまった。
「彼は確か喰種捜査官で忙しい時期に入っているかもしれないけど...仕事はあくまで表上の理由に見えるわ」
「表上の...?」
「ええ、これは私の考えにすぎないことだけど..彼は別の理由を言って何かから避けるように感じるわ。本当の理由は知らないけど、少なくとも卯月が関係しているのは間違いないんじゃない?」
「....」
私は思わず黙ってしまってしまった。
信じたくはないけど、私の心情を見抜いているようで怖くて。
私の様子に察したのか、ちとせさんは『ところで...』と別の話題に移った。
「最近、彼と連絡したのいつ?」
「...約半年ぐらいですね」
「彼としばらく連絡してないの?」
「ええ...迷惑をかけるのではないかと...」と躊躇した感じに話すと...
「なら、連絡したら?」
またしてもちとせさんは言葉を遮るように口を開いた。
「れ、連絡ですか...?」
「ええ、そうよ。だったら、突然電話をかけた方がいいんじゃない?そしたら彼は出てくれるかも」
「佐々木さんに迷惑じゃ...」と恐れを抱いた口調で話していたら...
「それはあなたの思い込みよ、卯月」
「っ!」
ちとせさんの言葉を聞いた瞬間、曖昧に動かしていた口が閉まってしまった。
「あまりきつく言うつもりはないけど、何もせずに過ごすことは罪の行為よ。『相手から来るかもしれないから、待つ』とか、『どうせ嫌われるかもしないから何もしない』と言う理由で何も動かなかったら、行動を起こして失敗するよりも後悔が来る。その後悔はいくら悔やんでも、死を迎えるまでまとわりつく傷となるわ」
ちとせさんは怒鳴るように声を大きくしたのではなく、先ほど変わらず穏やかな口調で話しているのだが、ちとせさんの周りに漂う空気は怒りに似ていた。
「いい、卯月?もし卯月が不老不死を持つ者だったら待っても良いけど、あなたは普通の人間でしょ?人間は約80年ほどしか生きられないのよ。100年も生きるという話もあるけど、大体の人間は80年じゃない?80年と言う短い時間の中、その思い込みは無駄なのよ」
先ほどよりも少し早口に話し、まっすぐと私の目をみる、ちとせさん。
その話し方はどこか情が籠もった話し方で、『人間』『生きる』を強調するように話していた。
まるで余命を言い渡された人のように。
そしてちとせさんは何も言わず、ただまっすぐと私の目を見つめた。
ちとせさんの"赤い瞳"に飲み込まれるんじゃないかぐらい、私の目を見る。
しばらく沈黙が流れていると「...少し、熱が入っちゃたわ」と自嘲するように笑った、ちとせさん。
「ほら、凛や夏樹たちが歌ったあの曲を思い出してごらん?”待っていても手に入らないわよ”」
「...ええ、そうですね」
そう言うと私は自然と笑みを見せていた。
ふと気がつくと、私の心に恐れというものが和らいでいた。
詳しい理由はわからないけど、先ほどの話を聞いたかもしれない。
「それで次の質問なんだけど...いや、もう時間か」
すると、ちとせさんは自分の腕に巻いていた小さな時計に視線を向け「話していたら、あっという間に時間が過ぎちゃったわね」と席から立ち上がった。
「そういえば、卯月は私の連絡先を知らなかったよね?」
「ええ、そうですね...」
私とちとせさんは別に仲悪くはないのだけど、今思えば私はちとせさんの連絡先は知らなかった。
ちとせさんは「よかったら...」とテーブルにあった紙ナプキンを取り出し、11桁の番号をボールペンで書き、私に渡した。
「あれ?メールアドレスじゃないのですか?」
「私、メールでやるの好きじゃないの。本当の感情が感じられないから。あと、もし私に連絡する時、私の僕ちゃんには連絡しないでね」
「え?どうしてですか?」
「たまには、"こういった関係"が欲しいからね」
「こういった関係...?」
私が意味を尋ねようとしたら『またね、卯月』とちとせさんは私の前から去ってしまった。
動きは普通の速さなのに、私は立ち去るちとせさんに聞くことができなかった。
(あ...コーヒー)
気がつくとコーヒーの存在感を忘れていた、私。
コーヒーをぐいっと飲むと、暖かさはなく、冷えきってしまった。
冷えきったコーヒーは苦さよりも、暖かさを失った冷たさが先に感じる。
冷えたコーヒーを飲むのが良くない理由を今、知った気がした。
(佐々木さんに連絡...)
ちとせさんから連絡するよう言われたのだけど、果たして佐々木さんは返事を送ってくれるだろうか?
何度も佐々木さんに連絡している志希さんや凛ちゃんでも未だに連絡が来ないと聞いた。
そんな状況で佐々木さんは私に返事を出してくれるだろうか?
私はスマホを開き、佐々木さんに返事を出すことにした。
流石に長文で送る気力はなかったため、短めな挨拶を送ることにした。
『こんにちは、佐々木さん』と。
(さてと...しばらくしないと返信がこないかも...)
佐々木さんに返事を出した私は今日中に返信が来るのはないだろうとスマホをカバンにしまうおうとしたら...
(...ん?)
すると、手に持っていたスマホから一瞬振動が現れた。
振動の感じ、誰かの返信を受け取ったみたい。
(...まさか)
送った人が誰なのか頭に浮かんでしまった私はスマホの画面を見たら、頭に浮かんだ人から返事がきたんだ。
『久しぶり、卯月ちゃん』
佐々木さんから返事だ。
私の周りでは誰も佐々木さんからの返信を受け取っていない人ばかりなのに、
同時刻・喰種対策局
自分のデスクに座っていた僕はつい先程ある人に返信をした。
携帯をポケットにしまおうとしたら、「誰からですか?準特等」と旧多さんが顔を覗かせるように携帯を見ようとした。
「...いえ、なんでもありません」
「そのご様子だと...また女ですかね」
「...ええ、そうですが」
開き直った様子で答えた、僕。
旧多さんは僕が楓さんと知り合っていると知って以降、なぜか僕の女性関係に興味を示している。
「誰ですか?また高垣楓ですか?それとも出会い系サイトで出会った添加物を大量に摂取したかのようなブス女ですか?」
「少なくとも、旧多さんがおっしゃった人ではありせん」
「おや?なんか怒りの感情がかすかに出たような?」
確かに自分の口調が苛立った気がした。
少なくとも楓さんの時には見せない行動。
「それで、誰ですか?さっき、連絡を送った人は?少なくとも
「旧多さんは取調室にいらっしゃる塩野さんの元に行ってください」
さらっと旧多さんの言葉を遮った、僕。
旧多さんは『また別の話題に逃げた』と馬鹿にするように嘲笑した。
塩野さんは
「しばらく放置しているみたいなんで、とりあえずあの人にカツ丼でも渡しときますか?机は準特等が壊しましたが?」
「ええ、彼はおそらく空腹だと思いますのでお願いします。あと別に机がなくても食べれますしね」
「ひっどいヒトですねぇ、準特等は」
旧多さんは出前をするために携帯を取り出し、そのまま取調室に向かった。
(...卯月ちゃん)
旧多さんの姿がいなくなったことを確認した後、少しため息をついてしまった、僕。
彼女から連絡が来た時、僕は驚きは隠せなかった。
彼女から返事をもらうのは半年ぶりで、一度も連絡はしてこなかった。
今、どうして連絡したのかはわからないが、僕はまだ彼女に会う気にはなれない。
彼女が今の僕の姿を見たら、どんな反応を示すのか考えたくはない。
僕はそう考えると、机に置いてあった自分の携帯をカバンの奥底にしまった。
こんにちは、瀬本です。
やっと投稿することができました。
今回は難しく考えてしまったため、執筆のペースがかなり長引いてしまいました。
次回は早く投稿できるようがんばります。
そう言えば物語には関係ないのですが、シャニマスの七草にちかのコミュを見て、アニメ版の卯月を思い出しました。
とにかく幸せになってほしいあまりです。