悪堕ち勇者とエルフ   作:AMEKO

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ストックを使っての予約投稿です。


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ベッド横の床から体を起こし、しばらくベッドの上で眠るエルフの寝顔を眺めたりして、太陽が昇るまだ朝には早い時間に自分の一日を始める。

 

朝に限らず、人間に必要なものが何かと言えば水だ。

身支度や飲料に料理、家事や湯浴みなど、色んな事に水は使われる。

だがこの時代には水道なんて便利なものは無く、少し離れた小川へ水汲みに行くのが毎朝の仕事だ。

 

シンと静まった朝の森。

森の獣達はまだ目を覚ます前で、夜行性の生き物も寝静まる時間帯。

聞こえる音は自分が出す音さえなければ全て自然が出す風や草木の音や水の流れる小さな音。

生き物の気配が限りなく少ないこの朝の森時間が、自分は嫌いではなかった。

 

「んっしょっと」

 

小川に着き水瓶を水の中に沈め、一息で引き上げる。

水瓶は一日使うだけあってそれなりに大きく、自分が中に入れるほどにはある。

普通ならば重くて一回で終わらない作業だけれど、この体ならちょっとした労力で終わらせられる。

この体にあまり感謝したことはないが、こういったときには便利なものだ。

 

朝の水汲みついでに顔を洗うため川辺に座り込む。

水面にはまだ幼いと言っていい少女の無表情な顔が映り込む。

この世に生まれてきてずっと見てきて、未だに見慣れない顔。

将来美人になると予想できるがこの鉄面皮の無表情じゃあなぁと、少し表情が歪み、皮肉気な表情が少し浮かんだ。

それをかき消すように水に手を突き入れ掬った水で顔を洗う。

夜明けということもあって川の水は冷たく、思わず体がフルフルと震えてしまう。

体が様々な耐性を持とうが、寒いのは苦手なのだ。

 

洗顔を済ませ満たされた水瓶を片手に帰路へ付く。

そろそろ森の生き物も目を覚まし、川へ水を飲みに来たりする頃だ。

自分がいたのではそういったものも落ち着いてここを使えないだろう。

 

少女は寒さに小さく体を震わせながら、この前拾われたエルフの家に戻った。

 

 

家に戻るとエルフの少女は相変わらず眠りの中にいた。

窓から差し込む朝日から顔を背けるようにベッドで横になり、暖かそうにシーツにくるまっている。

 

この季節は、早朝確かに冷えるが火を付けて暖を取るほどではなく、時間が経てば自然に気温は暖まる。

そのため自然に温度が戻ってくるのを待つしかないのだが、それとは別に今目の前にはこうして暖まっているベッドと彼女がある。

先ほども述べたが自分は寒いのが苦手だ。

それをおして朝の冷たい仕事を行ってきた自分に少しくらいの報酬があって然るべきではないか。

別に金銭の要求や何かを欲しているわけではない、ただ少しだけベッドで暖を取らせて貰うだけで、精神はともかくとして身体的には同性、やましいことなどする気はこれっぽっちもない。

 

何も問題は無いとして、自己を正当化。

ベッドの端からもぞもぞとシーツの中に入り込み、暖かさにほっと息を吐いた。

じんわりと暖まりながら彼女の顔を見つめる。

 

エルフは以前思っていたとおり、不自然なほど美形しかいない。

目の前で寝静まる彼女もその例に漏れず均整の取れた美しい顔をしていた。

 

白い肌に陽の光を思わせる金髪、今閉じている目を開けばエメラルドのような瞳。

この暖かいシーツを剥げば人間の16歳ほどのスラリとした体つきをしており、非現実的なまでに理想的な体型が見えることだろう。

胸は小さい。

 

正直見ていて飽きない。

人間と比べ完成された生命の格の違いを感じる。

 

寝顔を無表情でジッと見つめていると、寒さに震えていた体は温まり、次第に眠気が襲ってくる。

 

朝の二度寝がどれほど贅沢なのかを理解している少女は、その瞳をゆっくりと閉じてゆく。

一度起き一仕事してきたとはいえまだ本格的に一日を始めるには早い時間、次の仕事を始めるにしても二度寝する猶予はまあ、あるのだろう。

 

数分もしないうちに少女の意識は微睡む。

静かな朝、人間の少女とエルフの少女がベッドで向かい合い、穏やかな呼吸だけがそこにはあった。

 

 

 

ほんの数分後、腹部に圧迫感。

 

「ぐぇ」

 

衝撃、急激な意識の覚醒。

今朝と同じようにベッドの下から見える天井の風景。

ベッドからは足が飛び出ており、スルスルとベッドの内側へと戻っていく。

 

ベッド横の床から体を起こし、すやすやと眠る彼女の、寝相の悪い彼女の顔をジッと見つめる。

 

毎夜ベッドから蹴落とされる少女の眼差しは、心なしか恨めしそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゆさゆさと小さく体が揺すられる。

薄く目を開けると、まだ少し眠いのか半目の少女が私を起こしに来たのだとわかった。

 

「おはよう」

 

「おはよう、ごはん」

 

短く告げて少女は今に戻り朝食の調理に戻っていく。

別に実は起きてて調理の音が聞こえていただとかそういうことではないけれど、あの少女が来てから私が起きてくる頃にちょうど朝食の支度を終えるのだ。

 

眠い目を擦りベッド横に用意してあった水の入った桶で顔を洗い、用意してあった布で顔を拭く。

寝間着からこれまた用意してあった普段着に着替え居間に向かうと暖かい朝食と少女が待っていた。

 

今まで朝食は果実一つ囓っていただけだったが、こうして毎朝ちゃんと食べていると、日中動いている時の疲労具合が違うと最近気づいた。

はじめは朝食に時間を使うことを面倒がっていたけど、朝食が雑だった元々の理由は朝の仕事を熟す時間が無かったからであって、その朝の仕事を今はこの少女がほぼすべてやってくれている。

何も問題は無かった。

というより快適すぎて以前の生活に戻れる気がしなくて、ほんとどうしようかと思っている。

 

「いただきます」

 

食事の度に手を合わせ食材に感謝するという彼女の生まれ育った場所の風習。

森の糧を得て住まうエルフにとってある意味当たり前の思想だけど、わざわざ感謝するなんて人間にしては殊勝な心がけだと思ったが、別に誰に迷惑を掛けるものでも無いから好きにやらせることにした。

 

「それ一々面倒くさくない?」

 

「べつに、手間じゃないし」

 

まあ確かに。

他の人間や他の種族には食事前に長々とお祈りなんてするのも居るらしい。

それと比べれば彼女のは「いただきます」と「ごちそうさま」だけで、わざわざ作ったご飯を冷ますようなものでもない。

 

以前の生活の癖で手早く朝食を食べ終わった私とは対照的に、彼女はゆっくりと朝食を食べていた。

効率的な食事方法だとか彼女は言い張っていたが、それにしたって遅いと思う。

まあ作って貰った手前何も言わず私は私に残された唯一の仕事、弓の手入れを始める。

 

彼女が家に住むことになってから彼女は家事全般を引き受けると言って、いつの間にか家事以外も家のことは全て請け負ったが、自分の武器の管理や手入れに関しては自分でやるべきだと言って極力触らなかった。

彼女のことだからきっとそこらへんも出来るのだろうが、確かに自分の武器の手入れは自分でするべきだろう。

弓から少し目を離し彼女を見ると、時間が経ち少し冷めたであろうスープをゆっくり飲んでいた。

 

まるでなんてことはないただの子供のよう、しかし彼女がただの子供ではないことは私の記憶が知っている。

 

「ねえ、森の外っていまどんなになってるの」

 

「ん...、森の外ってどこらへんの事?」

 

「たとえば、あんたのいたところとか」

 

森で彼女を拾ってから今まで何も聞かずに住まわせて来たが、こういうことを聞くのはこれが初めてだ。

弦を引っ張り具合を確かめながらチラリと彼女を見てみると、両手でシャリシャリと果実を小さく囓りながら考えていた。

その小動物じみた姿は何かを気負うようなものはなく、ただ何をどう伝えようかと考えている。

 

「自分がいた国はまあ、平和だったよ。戦争後って国内の治安が悪く傾向があるけど自分がいた国は異常なほど治安はよかっただろうね」

 

「それってあいつらがいたからとか?」

 

思い出されるのは黒ずくめの男達。

エルフの魔法使いと対比しても引けを取らない破壊のプロフェッショナル達。

確かにあいつらがいるのなら、それを恐れてその国で犯罪なんてしようとは思わないだろう。

 

最もそれを撃退したのは目の前にいる少女なわけだが。

 

「いや、確かにそれもあるだろうけどね」

 

「含みのある言い方ね」

 

「うん、まあ」

 

正直に言えば、気になった。

あいつらの見たことの無い魔法、人間としてまだ幼いと言っていい彼女の凄まじい戦闘力、なぜ彼女は追われていたのか。

気にならないわけがない。

 

けれど。

 

「...言いたくないならいいわ」

 

先程から減っているとは思えないほど小さく果実をシャリシャリさせながら目線を宙へ投げかけ、出来ることならばこの場から逃げ去りたいと言わんばかりにそわそわとした姿は、聞かれたくなかったことをついに聞かれてしまった子供そのもの。

彼女が見た目よりもずっと成熟した知性を持っていることは、少し一緒に暮らしていてわかっていたけど、時折見せるこういった幼いしぐさに彼女がまだ幼い子供であることを思い出させる。

 

どうにも演技めいたかわいさにも見えるけれど。

 

「いや、話すよ」

 

諦めたように一つ息を吐き、さして減っていなかった果実にがぶりと食いつき、二三口で全て食べつくす。

 

「さて、いざ話すとなるとなるとどこから話そうか。本当に知りたいのは周りの世界のことじゃなくて自分のことなんだろう?なら本当に始めから話した方が良いのだろうね」

 

「まず口拭きなさい、べとべとよ」

 

「しつれい」

 

袖で乱雑に拭う彼女の姿を見て、締まらない奴ねと私は思った。

 

「事の始まりは君も知っているだろう、人間族の国"帝国"と国境を接する魔の領域内で、魔の領域全てを支配下に置く魔族による国家"魔国"が作られ、帝国と魔国の戦争が勃発した」

「他種族からみて人間とは優れた特徴を持たない脆弱で短命な、しかし数だけは多い奇妙な生き物だった。脆弱とはいえ魔の領域から湧き出る魔物に負けるほど弱いわけでは無く、各種族の思惑によって人間の国は防波堤の役割として建国された」

「弱いが故に貧乏くじを引かされ、否応にもその役割が全うされるその時が来たわけだ」

「けれど帝国が建国され時が経ち、いざ戦線が開かれたその時、人間族は人間族なりの強さを手に入れていたんだ」

「人間族の強みはその数と多様性だ。色んな人間が各種族の元へ行き様々な事を学び、それを国へ持ち帰り研究する。そして研究者の数だけ発想があり、帝国の中でいくつもの研究が独自に発展していった。人間は自分の種族の利点を上手く生かし他の種族から見ても凄まじい勢いで力を付けることに成功。まさに黄金期といっていいだろう」

「たとえただの魔物の軍団が攻めてきたとしても撃退できるほどで、実際魔国の最初の攻勢は容易に押しのけた」

 

「さらに言うのなら、戦争が起こることは神託によって以前よりわかっていた。覚えているかな、魔国との全面戦争とそれに伴う勇者の選定」

 

「ああ、あったわね。たしかエルフ族も勇者候補として二人くらい送ったらしいわ」

 

「うん、神託によって各種族は選んだ勇者候補を選別の地として選ばれた帝国に集めた」

「大体戦争が始まる一年前のこと」

 

「あ、ちょっと待って」

 

たしかに私が知りたいことは周りの世界の事なんかじゃなくて彼女のこと。

だから始めから話すといった彼女の事を信じ黙って聞いていたが、なぜ今私は歴史の講義を受けているのだろうか。

いやまあいい。それは問題ない、が。

 

「今話のどこらへん」

 

「まだ最初らへん」

 

「もしかしてその話長いわね」

 

「もしかしなくても長いね、えるふちゃんはながいおはなしがにがてなのかなー?」

 

長い話を聞けない子供を見やるような生温い眼差しを向ける幼女。

頭ひっぱたこうかと思った。

 

「話は夜に、最近誰かさんが来ていつもより多く狩らなきゃいけなくなったから」

 

「あぁ、うん」

 

せやったーと我に返ったように一言呟く。

その意味はわからないが、この家に来て喋った分量を朝のこの時間で容易に超えてきたあたり、彼女は喋ることが苦手な訳ではなかったのだと知った。

というかなにやら語りたがりな気がする。

 

こうして狩りに出かける準備しながら彼女を見てみれば、長話を中断され不満げな顔を隠そうともしていない。最初話すのを渋っていた姿はどこへいったのだろう。

 

「じゃあ、いつも通りあんたは家の外に出ないように」

 

「...うん」

 

いつも外に出るときは彼女に見送られ家を出る。

一応いつも通り見送りには来たようだが、いつものように元気な見送りは...いつもないが、いつもの慎ましい見送りはなくまさしく子供が家族を見送るような感じだ。

 

「はぁ、今日はちゃんと帰ってくるから。家で待ってなさい」

 

「...はやくかえってきてね」

 

ちょこんと服の裾をつまみ、うるうると上目遣いでおねだりしてきたこいつの姿を見て、やっぱいつものアレは演技なんだなと確信した。

 

 

 

ちっくしょうかわいいな。




開いた期間を抜けば二日で書けた。
だがしかし!もうストックは尽きた!!

うん、読者がいるという圧により執筆にいきつくまでの期間を短くしようというあれなので。
声が上がればまあ、きっと書きますよ、ほんと。

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