多分続きません。
───とある五人兄妹の話をしよう。五人といっても男は一番年上の長男だけで他は全員女であるのだが。
目付きは悪いがとにかく面倒見がいい長男、猫のように気まぐれだがやるときはしっかりやる長女、面倒くさがり屋だが何でも出来る天才肌な次女、そんな次女に憧れ努力で近づこうとする三女、長男に似たのか口調が男のようになってしまっている四女、この五人だ。
この兄妹には親がいない。今現在でも行われている深海棲艦との戦争で亡くなってしまったからだ。よって長男が他の四人の世話をすることとなった。両親の死に悲しみはしたが、このままではいけないと奮闘した。
五人の仲はこれでもかというほど良かった。というか、長男に皆なついていた、というのが正しいか。面倒見がいいということで甘えられる対象となったということだろう。
更に五人には不思議なものが見えていた。自分達の手のひらよりも小さくて可愛く、甘いものが好物でニコニコしながら食す姿はもう小動物そのもの...『妖精さん』と呼ばれるものの類いだ。彼らはそれをペット的な感覚でしか捉えていなかった。
そんな時だった...長男に軍隊からの出頭要請が来たのは。
両親が軍隊関係に属してたというのは長男も知っていたが、そこまで立場が上のほうではないということも知っていた。あまり両親は関係ないだろうと思いとりあえず要請に応じた。そこで言われたのは──夢としか思えない言葉だった。
「現在、深海棲艦に対抗する艦娘、そしてそれを指揮する提督が不足している...だから、君には艦娘提督というものになってもらいたい」
長男はもう「は?」としか言えない表情になっていた。それはそうだろう...艦娘というのは女の子の容姿をしているのだ。提督はまだしも、艦娘になるいうのは不可能であると。それを伝えると、
「その技術は既に完成されている。ただ、一度とったらもう二度とつけれないがね...」
ダメじゃねーかそれ、と思わず突っ込んでしまった彼を攻める事は誰も出来ないだろう。
だが、断ることは出来なかった。言葉には出されなかったものの、断ったら殺すという雰囲気がもうばっこりと出ていたのだから。
「これは初めての計画であり色々と我々も分からない状況だ。そこは許してほしい」
つまり実験ってわけですかそーですかふざけんな、という言葉を寸前で飲み込みわかりました、と心にもないことを告げる。というか、彼自身別に軍隊に所属することに対して嫌悪を抱いてるわけではない。確かに自身達の両親が軍隊に殺されたと言っていいかもしれないが、両親はそれを誇りに思ってたことを彼は知っている。というよりも自身の妹達のほうが数千万倍心配だからという理由が大きいだろうが。
結局その日は時間をくれと言って強引に帰宅した。その後、彼は妹達に無理矢理と言っていいほど家事を教え込んだ。元々手伝ってくれてた三女、四女はまぁいいとして...長女と次女はヤバかった。やれ飽きたと言って途中でゲームするわ、やれ洗濯物を干してる最中にお日さまが気持ちいいからと言ってそのまま寝るわ...と、とても苦労したようだ。
──そして大体一週間後。軍から迎えが来た。まだ妹達が寝静まっている時にだ。
彼は四人それぞれに置き手紙をして軍へと向かったのだった───
そして現在、彼...いや、彼女は提督の知識を得た後艦娘になる手術を受けさせられ艦娘になってしまった。その際、人間の時の名前を忘れてしまったが。
これは、そんな一人の艦娘であり、提督である者の物語である───
「横須賀第九十九鎮守府の提督兼球磨型軽巡洋艦の一番艦、球磨だクマ。目付きが悪い? ...これが素クマ」
◯ ◯ ◯ ◯
早速だが自己紹介をしよう。俺はこの横須賀第九十九鎮守府の提督をやっている球磨という者だ。着任したばっかで全然艦娘はいない...というか、俺を含めた五人だけだ。
というか何だよ艦娘提督って...直接現場で指揮出来るし戦えるの一石二鳥ってか?ふざけんな馬鹿野郎。過労で死ぬぞマジで。いや艦娘だからある程度人間より丈夫なんだけどよ。
人間の頃は覚えているが覚えてない。悲しいかな、必要じゃないことは殆ど消されたようだ。人間の頃の名前とか妹達の名前とか...せめて妹達の名前だけは消さないで欲しかった。まぁこの『球磨』の記憶を無理矢理押し込むためにある程度消しとかないといけないってのは知ってたけどさぁ...にしても...
「書類はだりぃクマ...」
この『クマ』という語尾は俺が進んでつけてるものじゃない。何故か勝手に付く。ついでに一人称も俺じゃなくて球磨になってる。なんでや。
「...球磨兄さん、大丈夫にゃ?」
「なんとか大丈夫クマ...」
この鎮守府に所属してる俺を除く艦娘の一人目、『多摩』。何の因縁か知らねぇが俺の妹だ。だが、多摩曰く自分の名前と他の兄妹の名前も消されたようだ。だが、本能か俺が兄であることは分かるらしい。だからかこいつは俺を球磨兄さんと呼んでくる。
こいつはいつもここ、執務室に遊びに来て床でごろごろするやつだ。割と気が散るから止めて欲しいが...たまにお茶とか淹れてくれるから強くは言えないでいる。
と、考えながら書類とにらめっこしてると突然ドアがバンッと開かれる。
「おーっす、球磨にぃいるー?」
「...北上。ドアはノックするよういつも言ってるクマ」
「ごめんごめん。次は気を付けるよ」
「それで、どうしたクマ?」
「暇だから来た。球磨にぃ構ってー」
「今仕事中。また今度来いクマ」
「ちぇ」
こいつは所属してる艦娘の二人目、『北上』。多摩と同じく俺の妹だ。そしてこいつも俺を兄だと分かるようだな。
こいつは謂わば天才。大抵やらせれば期待以上に仕上げてくる。だがそれ以上に面倒くさがり屋だった。そこは多摩に似たんかねぇ...
そしてこいつは妹の中じゃあかなりの甘えん坊だ。なんかあればすぐ俺のとこへ来る。今まで会えなかった反動もあるのか知らんがそろそろ兄離れ...いや、姉離れ?すべきだな。
「球磨にぃ、後どれくらい?」
「余裕で6時間はかかるクマ。だから多摩も自室に帰ったほうがいいクマよ」
「多摩はここのほうが落ち着くにゃ」
「んー、あたしもここにいるほうがいいかな。球磨にぃがいるし」
「同感にゃ」
「...書類仕事してる球磨を見てお前らは楽しいクマ?」
「「割と楽しい(にゃ)」」
「意味わかんねぇクマ...」
ため息をつきつつ書類に向かってると、今度はノック音が聞こえた。
足音は2つ...だが、念のために尋ねてはおく。
「誰クマ?」
『オレだ、球磨兄さん』
『すみません球磨兄さん、そこに北上さんは居ますか?』
「いるクマよ。まぁ入るクマ」
「失礼します」
「失礼する」
二人は所属してる艦娘の最後の二人。名は『大井』と『木曽』だ...もう言わずもがな、俺の妹だ。ホントになんかの因縁なん?しかも同じ球磨型だし。
大井のほうは妹の中で一番の常識人といってもいい。しかも女子力もかなり高い...んだが、北上のことになるとちょっとヤバい。もうあれは狂愛っつーか...信仰のレベルっつーか...とにかくヤバい。姉妹愛に溢れてるってレベルじゃねーことは確かだ。まぁいいやつなんだぞ?
そして木曽。こいつは何故か俺の前の口調で眼帯をしてやがる。俺はそんな子に育てた覚えはないのに...どうしてこうなったのか...だが、めっちゃいい子で可愛い。それは俺を含む他の妹らも理解している。巷では『きそすき』なんて言葉が流行ってるやら流行ってないやら。
「よっす、大井っち」
「北上さーん♥」
「わっ、痛いよ大井っちー」
「...相変わらず大井姉さんは北上姉さんが好きだよな」
「いつもの光景にゃ」
「全くクマ...」
...うん、平和だ。あぁ、俺は幸せだな...また妹達と再開出来てまたこうやって話が出来てるなんてさ。もう奇跡だなこりゃ。
──せめてだ...せめて俺がいる間は絶対こいつらだけは沈ませねぇ。軍に入ったのは強制だったが...守るものが出来ちまったからな。
「...絶対に、先に沈むのは球磨だクマ」
「にゃ、球磨兄さん、何か言ったにゃ?」
「や、何でもないクマよ」
オリ主タグの理由はもはやこの球磨さんが『球磨』の思考をしてないと思ったからです。思っただけなので間違ってたらごめんなさい。