そんなこんなでエンディング後にボスがまたもや。小西克幸いいですねー!最近またよく聞く気がします。例の薩摩弁の人とか。
駆け足です。
「…なあ。」
「あァ、変だぜこれは。オレ達がこの男をボコボコにしたってことを、この霧の本体が気づいていないわけがないんだ。…なぜ何もアクションをとってこないんだ?」
霧は眩しかった。橙色で温かみのあるはずのその色は、相変わらず生き物の気配を感じさせず、不気味なままだった。
車で移動していない今、聞こえるのは、オレ達の呼吸音と足音、そして前を歩かされているJ・ガイルのうめき声だけだ。粗い砂が靴と地面の間で擦れ、静かな中でやけに音が際立っているとオレは思った。
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しばらくも歩かないうちに、オレ達はIエリアの発掘拠点についた。まばらに掘られた地面と、気休め程度のテントがあった。そこらにはお湯を沸かしていたのか、小さな鍋が落ちていて、持ち込んだのであろう折りたたみのベンチが、畳まれた状態で横たわっていた。生活感があり、ここに人がいたのは明らかではあったが、今はいない。
ここにエンヤがいなければ、オレ達は夜をここで過ごさなければならないだろう。この、突然人が消えたような場所で。なぜか尿意に近しいものを感じた。そんな緊張で、オレは身体の動きが鈍くなったような気がした。
ふと、前を歩かせていたJ・ガイルの歩みが止まる。しかし、オレは他所を見ていたので気づくのが遅れた。いち早く気づいたサルシッチャが声を荒らげる。
「おいおいおい、テメーなに勝手に休憩してんだ、ああ! 歩けよ、じゃねーとその手の穴が増えちまうぞッ! 」
「……。」
「なんとか言ったらどうなんだッ!」
立ち止まったJ・ガイルの肩がかたかたと揺れる。震えているのかと思ったが、いや。どうにも様子がおかしい。
「サルシッチャだめだ、あまり近寄るな。様子がおかしい。今は危険だ。」
「んなこたァどーでもいいんだよ。ただオレはこいつが舐め腐った態度だからなァァー。」
緊張のせいか急にキレたサルシッチャに、ゆらりとJ・ガイルが振り返った。肩を震わせている。いや、J・ガイルは笑っていたのだ。その震えは、笑いを堪えている震えだったのだ。
周囲の霧に、突然影が浮かび上がった。人の影だ。目測でざっと十三人。そして、少し離れたところに一人。
J・ガイルは叫んだ。
「テメーらはここでおしまいだァーッ! ひゃはははあッ! 」
ゆらりゆらりと近づいてくる影。敵だというのは明白だった。
「貴様謀ったなッ!こうなることを知っていて、この場所に誘導してきたのかッ!」
影は、オレ達二人をぐるりと囲むようにたっていた。サルシッチャは言った。
「おい、こいつらおかしいぞ。呼吸音がしねえ。」
先程の激昂は嘘のように、今は落ち着きを取り戻している。流石はその道の人間といったところか。
呼吸音がしない人影。息をしていないということは、つまり生きていないということ。こいつらは、エンヤの
影が近づいてくるにつれ、その細部が浮かび上がってくる。その顔は、案の定というか、見覚えのある顔ぶれだった。
「帰ってきていないエリアの奴らか。やはり殺されていたのか。しかし死体を操るとは、吸血鬼のようだな、ン? なあ、エンヤ・ガイル。」
遠くの影が近づいてくる。小さな体にどれだけの悪意を潜ませているのか。それはエンヤ・ガイルだった。
エンヤはぺらぺらと話し出した。
「ああ、かわいい私の息子よ。酷く怪我をしている。きっとその男にやられたのだろう? かわいそうに、こちらへおいで。」
「それをこのオレが許すわけねーだろうがッ!」
そういうなり、サルシッチャはJ・ガイルに触れ、J・ガイルは面白いほどに老いて、萎びていった。目の前で彼がスタンドを使うのを見るのはこれが初めてだが、そんなことだろうと予想はしていたので、オレに驚きはなかった。
太陽はもう沈みかけている。あとそう何分もしないうちに、地平線の向こうに行ってしまうだろう。それから完全に暗闇になるのには時間がかかる。それまでに勝負を付けなくてはならない。
「き、きさま!私の息子になにをしとるんだァァーッ! 楽には死ねないと思えッ、
エンヤがそれを見て喚き散らす。J・ガイルを無力化したのはいいものの、サルシッチャがヘイトを集めてしまった。サルシッチャはナイフを手に構えている。既にエンヤが死体も操ると伝えていたので、銃は向いていないと判断したのだろう。銃で脳天を撃ち抜いても死体は動き続けるが、アキレス腱を切り裂けば動けなくなる。
「オレは大丈夫だ! マリオは本体を叩けッ!」
もう一本持っていたのであろう、サルシッチャは持っているナイフとは別のナイフを俺に投げ渡してきた。サルシッチャが囮で、オレが本体をやる。作戦にはなかったことだが、しかし。
身を低くし、オレはエンヤに向かって駆け出す。しかしエンヤは年齢に見合わない機動力で、軽々とオレのナイフを避けるのだった。最中に、エンヤは全く臆する様子もなく、オレに向かって話しかけてくる。
「やはり貴方様がきましたか。ええ、わかっていましたですとも。そういう星の下に生まれているのですじゃ。」
オレは無視をして切りかかり続ける。エンヤは持っている杖を巧みに使い、ナイフを避け、時には盾とし、軽業師のように動いていた。
「これは貴方様にとっての試練。わたくしめも、貴方様を殺すつもりは毛頭ありませぬじゃ。」
どこに隠し持っていたのか、エンヤは手に持っていたハサミで反撃してきた。不意をつかれ避けきれず、左前腕に血が迸り、
「もっとも、わたくしめにも目的があり、それを邪魔されるというならば、そのために貴方様を手にかけてしまうかもしれませぬが…ひひ。」
その怯みの瞬間、エンヤはオレの右腿と右前腕にハサミを突き立て、痛みとともにオレはバランスを崩し、がくんと地面に倒れ込む。案の定身体には穴が空いていた。
立ち上がれない程ではない。ただ、立ち上がるためには時間がいる。そして、エンヤはそんな時間をオレに与えることは無いだろう。
無様を晒したオレに向かって、エンヤはなお話を続けた。
「しかし、あの男のことは別。あの男はわたくしのかわいい息子を酷い目に合わせたのですじゃ…。だからあの男だけは許さねええェーッ! この恨みッ! 今晴らさずにいつ晴らすのだッこのドグサレがァァーーッッ!」
エンヤはサルシッチャにキレながら、オレの右のふくらはぎに二度、ハサミを突き立てる。右足は穴だらけで、左足は無事だが移動は困難になってしまった。
「さて、あの男にトドメが刺される様子を、貴方様はそこで見ていると良いでしょう。」
「…う、ぐぅっ……。」
エンヤはそう言って、サルシッチャの方を向く。サルシッチャの周りに五体満足の死体はもういなく、むしろ立っている死体すら4、5人しかいなかった。残りは足を切られ、地面を這っている。
いや、エンヤはサルシッチャを見ていたのではない。その向こうのJ・ガイルを見ていたのだ。
エンヤのもつハサミが、キラリと反射した。オレは大声で叫んだ。
「さ、サルシッチャ! ナイフを捨て_______」
そして、J・ガイルが萎びた顔でにたりと笑った。
3月ぐらいまで多分更新遅れます!すみません!