面白いものが好きな彼の万事屋生活   作:エンカウント

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MはマダオのM

 

 

万事屋の玄関をガラガラと開け、竹仁は一応、一応自身の職場に出勤。

出勤しても、今日は仕事もせずにすぐに出掛けてしまうが。

 

靴を脱いで居間に行こうと廊下を歩けば、寝起きらしくまだ眠そうな様子の神楽とすれ違う。

 

「おはよう神楽。」

 

「おはよーアル・・。」

 

そうして居間に来れば、来たばかりの新八がこちらを振り返る。

 

「おはよう新八。」

 

「おはようござ、・・。あの、その猫どうしたんですか。」

 

新八の視線の先には、竹仁に抱きかかえられている1匹の白猫。

玄関開けてからここに来るまでずっと抱きかかえていた、白くてちょっとふくよかな猫。

 

「近所の猫をちょっと拝借してきた。」

 

「返してらっしゃい。」

 

当然だが即返却願い。万事屋にこれ以上ペットが増えるのはいささかよろしくないという事だ。金銭的に。

 

しかし、それに対する竹仁の返事は拒否ではなく。

 

「返すよ。任務達成したら。」

 

拒否ではないものの、後半の意味が新八には良く分からなかった。

 

「任務、って何するつもりですか。」

 

その疑問には答えず、竹仁はしー、と口元に人差し指をあてた。

 

すると、銀時が寝ている部屋の前まで静かに移動し、襖にそうっと手をかけた。

そしてゆっくり、音をたてないように開け、部屋の中へと進入する。勿論気配を殺して。

 

足音もなるべく立てないようにしてゆっくり銀時の傍まで歩み寄り、竹仁は猫を両手ではさむように持った。

 

そして。寝ている銀時の顔面に、猫ちゃんのお腹が来るようにセットすれば。

 

「任務完了。」

 

「どこが!?銀さんの顔面に猫置いただけじゃねーか!!」

 

「ふっふっふ、見てみなよ。」

 

指を差された銀時の方を、新八が再度見ると。

銀時は布団の上で足をバタバタさせ、猫を引き剥がそうともがいていた。

 

「ちょ、え?猫になんかしたんですか?」

 

「してないよ?空丸はくっついたら剥がれないってだけで。」

 

「なんですかソレ!」

 

急いで新八が猫の空丸を引き剥がそうと引っ張るが、まるで離れない。

 

「あ、爪食い込むから引っ張んない方が良いよ。」

 

「じゃあどうやって取るんですかこの猫!」

 

「はははは、うん、楽しかったしもう取るよ。」

 

言い終わり、竹仁は銀時の顔面にしがみついている空丸を再び両手で掴んだ。

 

「もういいよ空丸。」

 

そうして彼が空丸を持ち上げれば、いとも簡単に銀時の顔面から離れた。

 

「ぶっは!、てっめ、コノヤロォオ!!」

 

腕を振り上げ向かってきた銀時に対し、竹仁は殴られないように数歩後退する。

 

「行け空丸。」

 

そして、直前で竹仁が銀時に向かって空丸をぽいっと投げれば、再び彼の顔面にくっついて。

 

「よっしゃ。」

 

「よっしゃじゃねーよもうやめろや!!神楽ちゃんもう準備出来てますよ!!」

 

苦しむ銀時を放って開いた襖の先に目をやれば、呆れた様子で立っている神楽。

 

「遊んでねーでさっさとしろヨ。」

 

「あぁごめんごめん。空丸ー、帰ってこーい。」

 

「にゃあん。」

 

一鳴きした空丸は銀時の顔面から離れて床に降り、しゃがんだ竹仁の腕の中へと戻った。

一方空丸に2回も引っ付かれた銀時は、ぜえぜえと苦しそうに息をしている。

 

「お前、・・マジ、1回死んでくれや・・・。」

 

「だったら頑張って殺してねー。」

 

死ねと言われて死んであげる程、竹仁は優しくない。死んでほしいなら殺しに来てください。

 

ひら、と手を振って銀時に背を向けた竹仁は、何かを思い出したようにウエストバッグに手を入れた。

 

「神楽、コレ昨日言ってたやつ。はいプレゼント。」

 

手を入れたウエストバッグからネックレスを取り出し、神楽に手渡す。

 

金のチェーンに、その半分ほどの長さでパールとシェル型の貝を交互に付けたネックレス。

そして、真ん中の貝に垂直に通した細いリングには、オパールと貝殻がぶら下がっている。

 

「ウオォ。何か綺麗アル!」

 

「すごいですね、・・っていうかコレ、本物ですか?」

 

新八が聞いたのは、パールやオパールの事だ。

まさか本物を使う訳、とは思っているが本物のような見た目をしているから分からない。

 

「さあ。家にあるヤツ適当に使ったから分かんない。」

 

首を傾げてみせた竹仁に、新八は呆れてしまった。

自分の家にある物なのに分かんないのか、とかまさか人の物勝手に拝借してんじゃないか、とか。

 

「使って大丈夫なんですかソレ・・・。」

 

「いーのいーの。誰かに怒られるわけでもないし。」

 

「窃盗罪で通報しといていいか。」

 

「お前は給料未払いで通報しとくわ。」

 

先程まで空丸の窒息攻撃で苦しい思いをしていた銀時は、どうにか復活したらしい。

顔中空丸の毛が付いており、爪が食い込んだ痕も血と共に付いている。

 

「あはは、痛そう。」

 

銀時は竹仁を睨み舌打ちをしたが、何も言わず洗面所へと歩いていった。

 

すると、その後にゆっくり近づいてきた定春が竹仁の顔をベロリと舐めた。

 

「・・・うん、定春のはもう少しね。それに自分の大きさ理解した方が良いよ。」

 

「何で言いたい事分かるんですか・・・。」

 

「何となく?」

 

「ねー、後ろ、これ。付け方分からないアル。」

 

困った様子の神楽の代わりに金具をとめる為、竹仁はネックレスの両端を受け取る。

 

「うん、見ずにってのは難しいよコレ。はい、できた。」

 

「ヤッタァ!なぁ、どうアルか?」

 

「・・似合うか、って意味だと、洋服の方が良さそう?」

 

例えば、白のワンピースとか。

服との組み合わせは良く考えずに作っちゃったな、と竹仁は少し頭を傾げた。

 

「あぁ。確かにそうですね。」

 

「なんだヨー。」

 

「ごめんよ。もしまた作る時は服に合うようにするから。」

 

ふぁっしょんって難しいんだな、と竹仁は知った。

 

「さ、そろそろ出掛けよっか?」

 

「そうアル、早く行こうヨ。」

 

「ワンッ。」

 

神楽と定春の返事にニコリと笑い、竹仁は定春をモフりながら玄関まで歩く。

 

玄関で靴を履いた後に扉を開けたら、元気に行ってきますの挨拶。

 

「ちゃんといい子にしてるんですよー新八ー、銀時くーん。」

 

「うぜーよさっさと行ってこい!!」

 

「あはは、行ってらっしゃい。」

 

銀時に怒鳴られ新八に見送られ、彼らは万事屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

万事屋を後にし、お店に行く前にまず拝借してきた空丸を返却しにきた2人と1匹。

具体的に空丸を拝借したのは1人だけだが、通り道に返却場所があるのでついでにという形だ。

 

「よいしょっと。」

 

定位置である塀の上に大人しい空丸を置く。

空丸は、いつもこの場所で通る人を眺めている。多分ボーッとしているだけだが。

 

竹仁が塀の上に座る空丸に向かってまたねと手を振る。

すると、挨拶し返すかのように空丸はにゃぉんと鳴いた。

 

抱っこしたい気持ちを押さえ、空丸に背を向けて2人と1匹は再び歩き出す。

 

「・・やっぱ、こっちの言葉分かってんのかなぁ。」

 

「定春だって分かってるアル。きっとその子も分かってるヨ。」

 

「ワンッ!」

 

「うーん・・、半分窒息させて殺す、とか言っちゃってたけど大丈夫かな。成長に悪影響が出そう。」

 

「大丈夫アル。ちょっと鬼畜に成長するだけネ。」

 

「それはやだなぁ。誰彼構わず襲い掛かるギャング猫になったらどうしよう。」

 

顔に傷をこさえ、銃片手にタバコを吸う空丸。

流石に愛嬌は無い。ハードボイルドなかっこよさはそこらの猫より大アリだが。

 

「それは責任取って飼うしかないアル。」

 

「毎日血だらけになりそうでこえーな。別にいいけどさ。」

 

「いいのかヨ。」

 

そんな希少種がいるなら大歓迎である。

しかし一日中家にいる日がそんなに無いので、飼いたくても生き物を飼う事はしない。

 

そうしてボーッと考え事をし、町並みをボーッと見ながら、ボーッと歩いていると。

 

「・・うわ。」

 

「ボーッとしてたくせに急にどうしたネ。」

 

ボーッと歩いていたかと思えば見たくない物を見た時のような声を出し歩を緩めた彼に、神楽は怪訝そうな顔を向ける。

 

「うん、神楽、定春に乗ってくれる?」

 

「?何かあったアルか。」

 

急にどうしたのかを疑問に思いながらも、神楽は定春に乗る。

 

「アレだよ、あの黒いの。」

 

黒いの。定春に乗ったまま竹仁の視線を追いかけ、黒いものを探せばすぐに何の事か理解する。

黒い隊服の真選組所属である土方ともう1人、名を知らぬ隊士が、巡回だろう、前方を歩いていた。

 

「チンピラ警察じゃねーかヨ。あれがどーかしたアルか?」

 

ちょっとね、と言いながら、竹仁も定春に乗る。

 

「じゃあ定春、左の奴を軽く轢き逃げしてください。後でちょっと高いドッグフード買うから。」

 

「ワンッ。」

 

定春は少し嬉しそうに鳴き、無邪気に走り出した。

ドドドド、獣が道を駆ける重い音を鳴らしながら、土方目掛けて。

 

その地鳴りのような音に、何の音だと振り向いた彼を前足で踏みつけ、竹仁と神楽を乗せた定春はそのまま走り去っていく。

 

「副長ォォオ!?」

 

隣にいた隊士の叫び声が、辺りにこだまする。

しかし、犯人が止まる事は無い。轢き逃げなので。

 

「あははは。定春ー、その角右に曲がって着物屋の隣ねー。」

 

「ワンッ!」

 

「うさは晴れたアルか?」

 

ただの悪戯にしては、少し暴力的。銀時相手ならまだしも、土方相手に。

 

十中八九、あの祭りの後の事だろうと神楽は思ったのだ。

 

滅茶苦茶疑ってきやがってあの野郎タバコくせーしやっぱ警察嫌いだわ1回滅びろ、などなど竹仁がソファの上で三角座りをしながら愚痴っていた事を覚えているから。

 

「あっはは、晴れた晴れた。残ってた飛行機雲が消えた気分だよ。」

 

「小さすぎダロ。」

 

その程度のうさで轢き逃げしているのだから、でかい雨雲にでもなったら建物1つ爆破しそうだと神楽は思った。

しかし、この男がそこまでうさを溜め込む事などあり得なさそうだ、とも思いながら、神楽は視界の端に見える膝を引っ叩いた。

 

 

 

 

 

 

土方を轢き逃げした道を右に曲がった、着物屋の隣。

全面ではないがほとんどガラス張りの、洋風なお店がそこには鎮座していた。

 

「おー・・・。スゴイ。何かいっぱいあるヨ!」

 

「そりゃ、一応ちゃんとした?お店だからね。」

 

ちゃんとした、と言っても高級店ではない。しかし、品数があり、ちょうどよいお店だ。

正面の自動ドアから、2人は定春も一緒に店内へと入る。

 

そして、キョロキョロと店内を見回していた神楽は、入って左側にあるイヤリングやピアスの場所に行って眺めたり手に取ったり。

 

「・・ねーねー、ピアスとイヤリングって何が違うアルか?」

 

「ん、ピアスは耳に穴を開けて付けるんだよ。他にも鼻とか舌とか。で、イヤリングは開けないやつ。」

 

「あ、穴開けるって、ドリルとか使うアルか。」

 

「それじゃ耳大変な事になるぞ。・・ちゃんと開ける用の道具あるから。」

 

「これで耳たぶ挟んでバチッ、っとやってハイ出来上がり。」

 

「何でわざわざ耳に穴開けたりするネ。作った奴ドMだったアルか?」

 

「そういうものだって認識しとけばいいよ。あと作った奴がドMかは気にしなくていいよ。」

 

ピアスを誕生させた人間が、耳に穴をあけられて喜ぶMだろうが人の耳に穴開けて喜ぶSだろうが今を生きる自分達にはどうでもいい事だ。

 

しかし神楽は作った奴がドMかもしれない事を気にしているのか、それとも耳に穴を開ける事を気にしているのか、ピアスよりもイヤリングを見ている時間の方が遥かに長かった。

多分、作った奴の性癖なんて気にしてないだろうけど。

 

ひとしきり見終わったのかいつの間にか神楽はその隣へと移動しており、定春に埋もれていた竹仁は後を追うようにコーナーの近くへ。

 

すると、商品を手に持った神楽がこれはなにアルか、と竹仁に尋ねる。

 

「あぁ。それはチョーカーだよ。首に巻いて付けるやつ。」

 

「へぇー、要するに首輪って事アルか?」

 

「うん、まあ。そうなんだけど。・・首輪って言っちゃうとさ、道徳とか倫理的に問題アリじゃん?」

 

人間が付ける、となると奴隷だとか、悪い意味が連想されてしまう恐れがあるので。

 

「あとドMに見られるヨ絶対。」

 

「確かにそうだね、つかさっきもMの話したよね。なに、アクセサリーってM要素満載?」

 

「そうヨ、多分これだって首輪つけられて喜ぶドMが作ったアル。」

 

首輪しながら、アレ?これアクセサリーになるんじゃね?俺イケてね?とか言ってたというのだろうか。

 

「何かやだな、興奮しながら発明したって事だろ?」

 

「ウン、あとネックレスは首吊ってるマダオが元ネ。」

 

「M限界突破してんじゃん生死彷徨っちゃってんじゃん。」

 

「・・ていうか、アクセサリーはオシャレ用だからね?どんな経緯で作られてよーがオシャレ用だからね?」

 

最初のネックレスがどれほどマダオの怨念が籠められてようが、他のネックレスに関係は無い。

 

「でも呪いの剣みたいに呪われたアクセサリーがあるかもしれないアル。」

 

「呪われた物が市販されてるってどういう事?てか余計な事考えないで適当に好みの物とか、似合いそうなのとか探してみなよ。」

 

そう言われ、神楽はチョーカーを首元にあてたり、指輪をはめてみたりするが、どれも反応はいまいち。

そして、たくさん吊り下げられているイヤリングを眺めていた神楽は、うーんと唸ってから、竹仁の方を向いた。

 

「自分じゃ似合うのとか、よく分からないアル。なんか適当に選んでヨ。」

 

「えー・・・。神楽に似合うやつ?」

 

指輪、ペンダント、イヤリング、などなど竹仁は、アクセサリーをつけた神楽の姿を想像してみる。

 

「うーん。・・神楽って元気いっぱいなイメージだし。髪飾りとかなら・・・。」

 

神楽はまだ14歳。顔も、大人っぽさはほとんど感じられない。

だから、アクセサリーを付けるにはまだ早いかもしれない。ピン止めやバレッタなどの髪飾りならば似合いそうだが。

 

「ぶー。ガキだって言いたいアルか。」

 

「そんな悪く言ってないって。ほら、彼氏とSMぷれいするような歳になったらまた考えてみなよ。」

 

「SMぷれいするようになったら大人アルか。」

 

「いや、彼氏作るような歳になったら、って意味だから。」

 

SMぷれいはただの冗談。

MとかMADAOの話をしていたせいか、何となく思いついたので言っただけ。

 

なのにこの子、やる気である。

 

「よおし、頑張って習得するアル!」

 

「あのね神楽、そーゆーのはもうちょっと大人に」

 

なってからにしようか。

 

その言葉が音になる事は無かった。

突然体が浮いて、視界がブレて。

 

気付いた時には。

 

ドガッシャァアン!!

 

主に背中の痛みを感じながら、店の天井を見上げていた。

 

「やったー!キレイに決まったアル!!」

 

そして神楽はガッツポーズ。

投げ技が決まって嬉しそうだ。

 

「・・・SMどころかただの殺人ゲームじゃねーか・・・。」

 

このまま何も知らずに成長したら。

彼氏は夜兎族でない限り身が持たないだろう。SMぷれいをする気なら。

 

まだ知らぬ神楽の未来の彼氏に、竹仁は心の中で合掌した。

 

 

 


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