面白いものが好きな彼の万事屋生活   作:エンカウント

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日々の水やりは大事

ドカッ。

 

大江戸警察所と書かれた名板を靴裏で蹴ったのは、爆弾テロの仲間であるという疑いを掛けられ3日間取り調べを受け続けた4人の内の1人、坂田銀時。

 

テロリストだという嫌疑は晴れたものの長時間の取り調べによる疲れや警察への恨みなどのせいで彼らの顔は晴れやかではない。

 

「命張って爆弾処理してやったってのによォ、3日間も取り調べなんざしやがって腐れポリ公。」

 

「だから警察は嫌なんだよ、あいつら笑いもしないしちょっとふざけただけでめっちゃ怒るし・・・。つまんないったらありゃしない。おかげで心が死にそう。」

 

顔を両手で覆いながらそう言う彼の目の下にはクマができており、他の3人よりもよっぽど疲弊して見える。

 

「竹ちゃん、も少しここにいたら死んじゃってたアルか?」

 

差した傘を少しずらして神楽が彼の顔を覗き込む。

それに対し彼は、彼女に顔が見えるよう覆っていた手を外し眉尻を下げ笑って答える。

 

「うん警察による精神圧殺事件になってた、訴えようかな未遂で。」

 

「もういいじゃないですか、テロリストの嫌疑も晴れたことだし。」

 

伸びをしながら新八が彼らに警察に対する怨恨をそこら辺に捨てろと言う。

しかし彼のように簡単に恨みの感情を投棄出来るような者たちではない。

 

「どーもスッキリしねェ、ションベンかけていこう。」

 

この男は警察所の前で用を足そうとし、

 

「よっしゃ、私ゲロ吐いちゃるよ。」

 

またこの少女は吐瀉物を置き土産にしようとし、

 

「バカって書いとこ。」

 

最後にこっちは落ちてた石を拾い、壁に落書きをしようとしている。

 

「器の小さいテロすんじゃねェェ!!」

 

傍から見れば小さなテロリスト集団、通報されればまた警察送りになるかもしれない。

しかし、そうなる可能性が彼らの目にはまるで見えていないのだろう。

 

「アンタらにかまってたら何回捕まってもキリないよ!僕、先に帰ります!ちゃんと真っすぐ家帰れよトリプル馬鹿!!」

 

「・・・俺馬鹿じゃないよ・・・ちょっと疲れてるだけだよ・・・。」

 

流石に堪忍袋の緒がちょん切れてしまったらしく、3人を怒鳴り新八は1人でさっさと帰ってしまった。

馬鹿と言われた3人の内2人はその事をまるで気にした様子ではないが、竹仁だけは3日間の疲れと退屈のせいで精神が若干幼くなってしまい、怒られた事に対ししょんぼりとしている。

 

「オイオイどうすんだ、ボケ担当だけじゃ会話が成立しないどころか壊滅するぞ。」

 

「お前はボケ担当っていうか頭がボケてるだけだろ。」

 

一時的に疲れが回復する事があるらしい。

 

「オイコラ誰が老人のような白髪だらけの頭だって?」

 

「誰も髪の話なんてしてませーん。中身のこと言ってんだよー、やーい。」

 

「オメーは小学生か!っておまっ、どこにゲロ吐いて・・・くさっ!!」

 

「う、くさい・・・。」

 

2人の言い合いの途中、神楽が銀時の隣で犯行予告の通りゲロを吐き出してしまい周辺にゲロ特有の鼻をつくような臭いが漂う。

 

その臭いに戸惑っていると、警察所の方から、ピイイイ、と笛の音が聞こえ、1人のおっさんが壁を飛び越えて現れた。

 

「ん?」

 

何だろう、と銀時が現れたおじさんの方を見ると、

 

ザン、ズルッ、ガン!

「う゛え゛!」

 

おじさんは見事な三拍子で、着地して転倒して頭部を強打した。

 

「いだだだだだだ!!それに、くさっ!!」

 

「おじさん加齢臭独特だな、娘どころか誰も近付かなそう・・・ん?」

 

竹仁が周辺に漂っているキツイ臭いを何故かおじさんの加齢臭だと置き換え憐れむような目で見つめていると、

 

ピイイイ!

またも笛の音が聞こえ、警察の人が何人か急いだ様子で門から出てきた。

 

「オイそいつ止めてくれ!脱獄犯だくさっ!!」

 

彼女が吐き出した物の臭いが門のあたりまで届いているとは、やはり夜兎。人間とはまるで比べ物にならない。

 

「はィ?」

 

「?あれ?俺ちゃんと釈放されたよな。」

 

彼らは壁の向こうから現れたおじさんのことを言っているのだが、誰に向けたものなのかちゃんと理解出来ていない竹仁は彼らをボーッと見たまま思考を時速1kmで動かす。

 

しかしその低速ぶりでは理解して行動するまで何時間かかることか。

 

「ちっ!」

「!!」

 

銀時と竹仁が反応に遅れてしまい、神楽がおじさんに捕まってしまった。

彼女の戦闘能力を考えればおじさん一人に負ける訳はないだろうが。

 

「来るんじゃねェ!!このチャイナ娘がどーなってもいいのか!」

 

「貴様!!」

 

「大変だな神楽、お父さん束縛強くて。」

 

「オメーはいい加減そのボケた頭をどーにかしろ!!」

 

神楽が人質にされ大変な状況だというのに竹仁はボケたままで戻りそうにもない。

 

「オイそこの白髪、免許もってるか?」

 

「普通免許はもってっけど。」

 

脱獄犯のおじさんは、免許を持っているか銀時に聞く。

そんなの、もう車で逃げるという展開しか見えてこない――。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

ブロロロ・・・

 

「なんでこーなるの?」

 

「zzz...。」

 

「おい起きろ、助手席だけ事故ってやろうか。」

 

運転しているのは銀時で、助手席に座っている竹仁は腕組みをしたままスリープモードだ。

そして後部座席にはおじさんと、人質にされたままの神楽が座っているが、彼女もまた彼と同じくスリープモードだ。

 

「ハァ・・・おじさーん、こんなことしてホント逃げ切れると思ってんの。」

 

「いいから右曲がれ。」

 

有無を言わせないような言い方で銀時に指示をするおじさん。

しかし捕まっているはずの神楽が鼻提灯を出しながらぐーぐー寝ているため危機感が半減している。

 

「今時脱獄完遂するなんざ宝クジの一等当てるより難しいって。」

 

「逃げ切るつもりなんてねェ・・・今日一日だ。今日一日、自由になれればそれでいい。」

 

説得の言葉に返ってきたおじさんの言葉に、銀時は何も言わなかった。

 

「特別な日なんだ、今日は・・・。」

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「みなさーん!今日はお通のライブに来てくれてありがとうきびウンコ!」

 

「とうきびウンコォォォ!!」

 

・・・着いたのは、寺門通というアイドルのライブ会場だった。

そして、会場に来ている他の観客たちと一緒に全力で叫んでいるおじさん・・・と、神楽。

その後ろで1人佇む銀時・・・と、隣で座って寝ている竹仁。

周囲との温度差で結露しそうな状態だ。

 

「今日はみんな浮世の事なんて忘れて楽しんでいってネクロマンサー!!」

 

「ネクロマンサー!!」

 

「じゃあ一曲目、『お前の母ちゃん何人?』!!」

 

聞いているのが母ちゃんだけだから、その母ちゃんの子どもはハーフなのだろうか。

天人がそこら辺にいっぱいいるこの時代では、母ちゃんが宇宙人だとしても不思議ではないだろう。

というかそんなことはどうでもよくて。

 

「・・・なんだよコレ。」

 

「今、人気沸騰中のアイドル寺門通ちゃんの初ライブだ。」

 

銀時の何だこれ意味わかんねえという問いにさらっと恥ずかしげもなくおじさんは答えた。

 

「てめェ人生を何だと思ってんだ!!」

 

「てめェ人の睡眠を何だと思ってんだ!!」

 

怒った銀時がおじさんに、そして怒った竹仁が銀時に踵落としを食らわせるが、今まで寝ていたくせに目覚めてから踵落としまでのスピードは目にも止まらぬ速さであった。

 

「テメーこの五月蠅さじゃ起きねぇくせに俺の声じゃ起きるのかよ?!」

 

「お前の声はマンドラゴラの悲鳴なんだよ自覚しろ。」

 

「残念だったな、悲鳴を聞いたお前は死ぬんだよ!!」

 

「そうだったちくしょう!!」

 

死亡確定だと知った彼は、やってしまったと至極残念そうに頭を抱えうずくまる。

その隣で勝ち誇ったような笑顔を浮かべ銀時は彼を見下ろしていた。

 

「喧嘩するんじゃない!お通のライブを一緒に楽しむんだ!さあ、L・O・V・E・お・つ・う!!L・O・V・E・・・」

 

別に喧嘩ではないのだがおじさんの目にはそう見えたのだろう、お通のライブを観て仲良くしろと言ってくる。

しかし彼らはそんな性格ではない。

 

「やってらんねェ、帰るぞ神楽。」

 

案の定さっさと会場を後にしようと、舞台に背を向け竹仁を引きずりながら神楽を呼ぶ。

 

「え~、もうちょっと見たいんきんたむし。」

 

「影響されてんじゃねェェェ!!」

 

「俺はここで寝ると決めた、放せ。」

 

「帰ってから寝ろ!!」

 

しかし神楽も竹仁も帰宅拒否。

竹仁を投げ飛ばしたい気分になったが一応ライブ中なので、諦めてぐるりと会場を見渡す。

会場のそこかしこから「L・O・V・E・お・つ・う」という彼女に向けた愛のメッセージが聞こえる。

 

「ほとんど宗教じみてやがるな、なんか空気があつくてくさい気がする。・・・!」

 

会場を見渡していた彼の目に留まったものが。

 

「もっと大きい声で!!」

 

それは、列に並んだファンの前で1人、舞台に背を向けて木刀を持ち監視するかの如く彼らを見ている少年は――新八だった。

 

「オイそこ何ボケッとしてんだ声張れェェ!!」

 

「すんません隊長ォォ!!」

 

普段の彼とは違い大声で人を怒鳴っている。

普段の彼からは想像もできない姿だ、服装もだが。

普段の彼なら誰かに対して大声を出したり、更に怒鳴るなんてしないだろう。

 

「オイ、いつから隊長になったんだオメーは。」

 

「僕は生まれた時からお通ちゃんの親衛隊長だァァ!!」

 

お通ちゃんの親衛隊長。それが彼の生まれ持った宿命だという。

 

「って・・・ギャアアアア銀さん?!ってなに引き摺ってんですか?!」

 

「粗大ごみ。もしくは生ごみだな。」

 

「竹仁さんに殺されますよアンタ。」

 

引きずられているというのに起きる気配がない。

もしも彼が起きていたら銀時がごみとなっていただろう、普段の彼だったなら。

 

「ていうか、てめーがこんな軟弱なもんに傾倒してやがったとは。姉ちゃんに何て謝ればいいんだ。」

 

「僕が何しようと勝手だろ!!ガキじゃねーんだよ!!」

 

まるで別人のような新八は更に反抗期へと突入したらしく、あんコラ、とすごい顔ですごいすごんでいる。

 

「ちょっと、そこのアナタ。」

 

階段の上から聞こえた、銀時に向けたであろう言葉。

そちらを見ると、1人の女性が立っていた。

 

「ライブ中にフラフラ歩かないでください、他のお客様の御迷惑になります。」

 

「スンマセンマネージャーさん、俺が締め出しとくんで。」

 

「あぁ親衛隊の方?お願いするわ。」

 

この女性は現在ライブを行っているアイドル、寺門通のマネージャーらしい。

 

締め出しとく、と彼は言ったが逆に〆られてしまうだろう。

 

「今日はあの()の初ライブなんだから、必ず成功させなくては・・・。」

 

そう呟くマネージャー。

銀時のような客によってライブが中止になったり、ゴタゴタで延期になったりとアイドルとしてやっていくのは色々と大変なのだろう、その言葉と表情には今までの苦労と彼女に対する愛情が見える。

 

「L・O・V・E・お・つ・う!!L・O・V・E・お・つ・う!!」

 

他の観客に負けじと大声を出すおじさんの姿をたまたま見つけたマネージャー。

 

「・・・・・・・!!アナタ・・・?」

 

どうも、ただの観客とマネージャーという関係ではないらしい。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「うーん・・・。」

 

目を開ければ自分以外は色も光も何もない、ただ真っ暗な空間。

確か自分はライブ会場の階段で寝ていて・・・。

 

「夢か・・・。」

 

ぼんやりとした視界。

立ち上がり手足が動くことを確認する。

走ったりジャンプしたりバク宙したりするが何も起こらない。

 

ずっとこのままだったら・・・。

 

「・・・。」

 

ただでさえ退屈で死にそうな日々を過ごしたというのに、これでは本当に死んでしまう。

絶望に駆られ始めたその時、目の前に自分以外の人が現れた。

 

「イーッ!イーッ!」

 

それはショッカー戦闘員だった。

最初は1人だけだったが2人、3人、と数が増えていく。流石夢。

 

「イーッ!!」

 

「ふふっ、あはっ、あはははは!」

 

ついでに攻撃してくるが軽く避けて全力の返り討ちを繰り出す。

少し倒したところで、カシャン、と足に何かが当たった。

見れば、それは刀だった。

 

「っふふふ、ハハハハ、酸欠で死ぬってこれ。」

 

拾い上げた刀を鞘から抜き放ち、次から次へとショッカーを斬り伏せていく。

もう絵面が大変すぎて笑いを抑える事が出来ない。

 

「イーッ!イーッ!!」

 

「あはっ、あははは、ゲホッ、勘弁して本当に死ぬ。」

 

そして正面にいたショッカーの心臓を一突きにし、刀についた血を振り払う。

心臓から血を噴出し倒れゆくショッカーの向こうに人影が佇んでいるが、ぼんやりと輪郭が浮かんでいるだけで顔も服装も分からない。

 

「お前で最後かー、んじゃラストサービスとして時間をかけて遊んであげよう!」

 

「・・・()()以外を知った貴方に私が負けると思ってるのですか?」

 

言葉を聞いた瞬間、目の前の影が何なのかが理解した。

 

「ふーん・・・この俺はいらないってか。まぁいいや、どっちが強いか試――――」

 

影を睨みつけるように見据え刀を構えたが、突如視界が揺れ――――

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「―――ぐえ!?」

 

何かに押しつぶされた。

何だ?と圧をかけてくる物体を見れば、それは新八だった。

 

「すっ、すんません!ってかここで寝ないでくれます?!」

 

「うるせェ、こっちは気持ちよく、いや、気持ちよく寝てたんだよ邪魔すんな。」

 

「ここ寝る場所じゃねーから!寝るなら家帰れ!!」

 

ライブ会場の移動場所で寝ているなど非常識極まりないし、今まで誰にも起こされなかったことも驚きだ。

 

すると、竹仁が何かに気づいたようにくるりとあたりを見渡す。

会場が別の意味で騒がしいことに気づいたのだ。

 

あたりを見渡した彼が見つけたものは、人間の二倍近くありそうなデカブツだった。

 

 

「お通ちゃ~ん!」

 

「オイ、何あれ。」

 

「あれは・・・会員ナンバー49だ!」

 

「いや誰?知らねーって。」

 

会員ナンバーなど言われても竹仁はメンバーではないので分かるわけがない。

だが会員ナンバー49のデカブツが騒ぎの元であることは確実だろう、お通の名を叫びながら彼女の元まで一直線に進んでいる。

 

「ハァ。俺だってなぁ、ただの粗大ごみじゃねぇんだよっ!」

 

「聞こえてたの?!」

 

だるそうに立ち上がり、会員ナンバー49の元まで走る。

その勢いのままデカブツを登り肩を足場にして飛び越え、正面に着地する。

 

「ついでに生ごみでもねェ!!」

 

真正面から鋭い蹴りを放つが、当たった音も衝撃もない。

それもそのはず、彼の蹴りはデカブツの脚と脚の間、それもちょうど真ん中を通ったからだ。

 

自分よりも身長が二倍ほどある巨体の腹に蹴りを食らわせるなど、どこかに上るでもしなければできない。

 

「・・・あ、そっぐべぁ!」

 

頭の上に?マークを並べ続けた彼だが理解したときには既に遅く、デカブツの平手打ちによって吹き飛ばされてしまった。

 

「アンタ結局生ごみじゃねえか!!」

 

「生ごみは臭いから粗大ごみにして・・・。」

 

よく分からない訂正を出すが、ごみであることには変わりない。

自分が銀時の言う通り粗大ごみであったというショックは大変なもので、もはや彼からは動こうとする気配すら見えない。

動くも動かないも生ごみも粗大ごみも別にどうでもいいが、このままではお通が危険だ。

 

「お通ちゃ~ん!!」

 

デカブツがお通にむかって手を伸ばす。

しかし、ビニール袋を被る何者かによってその手は一時的に止められた。

 

「だっ・・・誰だアレェェェ!?」

 

「お通ぅぅぅ!!早く逃げろォォ!!」

 

逃げろと叫ぶも、デカブツの一撃によってその何者かは吹き飛ばされてしまう。

 

「いけェェ!僕らもお通ちゃんを護れェ!!」

 

親衛隊長である新八を中心に、デカブツを止めようと一斉にかかる親衛隊。

 

「しっかり、しっかりしてください!」

 

一方、舞台の上では先程吹き飛ばされ気を失っているビニール袋の人にお通が必死に声をかけていた。

すると、

 

「あ・・・気がついた。」

 

そんなにひどい衝撃ではなかったらしく、彼はすぐに目を覚ました。

 

「無茶するねェアンタ。こんなバカな真似して・・・何者だい?」

 

マネージャーのその言葉に、彼は自分の正体を告げることが出来なかった。

 

「・・・ただのファンさ、あんたの。」

 

 

ドドン。

 

お通を狙っていたあのデカブツが、倒れ込んだ。

背中に「おつう」と書かれたハッピを着た彼の上に乗っていたのは、銀時と神楽、一応竹仁。

 

「てめぇ人を武器にするとかどんな神経してんだ!!」

 

「使い道のねぇごみを再利用してやったんだ、感謝しろ・・・・じゃなくて、おい、おっさん。」

 

言い合いを一旦中断し、彼が何かをおじさんに投げ渡した。

 

おじさんが受け取ったものは、紙に包まれた三輪のたんぽぽであった。

 

「そんなもんしか見つからなかった、百万本には及ばねーが後は愛情でごまかして。」

 

「いたいいたい放せ段差地味にいたいんだってば!」

 

竹仁の脚を銀時が掴んで引きずり、彼らは去っていった。

 

 

残されたおじさんは、彼から受け取ったたんぽぽをお通へと差し出した。

 

(バカやろう・・・あんな約束、覚えてるわけねーだろうが。)

 

(だが、この際覚えてよーが忘れてよーが関係ねーや。俺は俺の約束を護ろう。)

 

そうして、たんぽぽを受け取ったお通に背を向け、去ろうとする。

 

「あの」

 

しかし、扉を少し開けたところで彼女に呼び止められた。

 

「・・・今度はちゃんと、バラ持ってきてよね。私それまで、舞台(ここ)でずっと待ってるからさ、」

 

 

「お父ちゃん!」

 

彼女の言葉に何も返すことなく彼はバタンと扉を閉め、今度こそ去っていった。

 

「よォ、涙のお別れはすんだか?」

 

扉の向こうにいたのは、先程ベンチに座っておじさんの話を聞いていた銀時だった。

 

「バカヤロー、お別れなんかじゃねェ、また必ず会いに来るさ。・・・今度は胸張ってな。」

 

 

被っていたビニール袋をぐしゃりと握りしめ、目と鼻から液体を垂れ流す不器用で優しいおじさんが、そこにはいた。

 

 

 

 

 

ちなみに竹仁は翌日ゴミ捨て場で目を覚ましました。





ゴミ捨て場に捨てられた主人公はしっかり寝たので次の日の元気はいっぱいでした。

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