余った資材を数回に分け使い、駆逐艦3隻を建造した。駆逐イ級、駆逐ロ級、駆逐ハ級だ。駆逐艦はどうやらしゃべることができないようだが、人間の言葉は伝わるようだ。
「お手」
「イッ!」
「伏せ」
「ロッ!」
「ごろーん」
「ハッ!」
どう見ても犬だった。俺の指示に従いそれっぽい動きをする。俺はこの犬としか思えない駆逐艦たちに名前を付ける。イ級はイチ、ロ級はロッチ、ハ級はハッチだ。首輪替わりと布を首に巻いてやり、さっそく遠征任務に行かせることにした。
深海棲艦の燃料となる怨念は放っておくだけでも勝手に溜まるが、鉄とボーキは取りに行くしかない。幸いどっちも海の底にいくつかあるようだし、沈んだ深海棲艦からも回収できる。駆逐艦の3匹にそれらを回収するように命じた。
「イチ達は遠征で頑張ってもらうとして、問題は初音たちの練度上げだな……」
艦娘たちであれば深海棲艦を倒すことでレベルが上がるし、大破することはあっても、轟沈することはほとんどない。轟沈寸前に一度だけ自動で展開される浮き輪で轟沈を防ぐ。浮き輪も特別製で数回のダメージでは割れたりはしない。そのため艦娘たちは轟沈することなく帰ってこれるのだ。
しかし、深海棲艦は違う。深海棲艦は致命的なダメージを受けると大破轟沈してしまう。そのため艦娘と戦わせてレベリングするというのは危険極まりない。
「初音、お前たちってどうやって練度を上げてきたんだ?」
「私たちは怨念を消費することで少しずつ練度が上がっていきます。極度の緊張や危険に晒された時は特にレベルが上がります」
つまり、普通に生活しているだけで練度が上がる。そして極度な緊張や危険というのは、出撃や遠征に行ったときということだろう。海の生物を守る深海棲艦は戦うことを嫌い、そのように進化したようだ。
「なら別に急ぐこともないしのんびり訓練とかして、万全な体制で艦娘に挑もう」
「……そう簡単には行きません。私たちの仕事は地上の棲艦たちとは違い、”防衛”なのです。進撃してくる地上の棲艦たちを撃退するのが主な目的なので、こちらが望まない状況下で地上の棲艦が攻めてくることが多いです」
「なるほどな……今まで深海棲艦が攻めてきたことなんてなかったのはそういうことか。ならのんびりしてる暇もないのか……」
「もちろん私たちもそんな簡単に壊滅するつもりはありません。素早く態勢を整えられるように、一つの切り札を作りました」
「切り札?」
「今までの棲艦の経験を本に書くことで、他の棲艦に今までの経験を受け継がせ、練度を上げることができるというものです」
「なんだその装置」
「私たちは経験の書と呼んでいます。仕組みは怨念に込められた記憶をその棲艦に引き継ぐというものなのです」
「記憶を引き継ぐことで今までのような動きをできるという……あれ?それって同じ艦を復活させることができるってことじゃないか?」
「はい。例えば私の記憶の書を別のヲ級に使えば、私が二人できることになります」
「切り札と言っていたのはそういうことか……記憶の書は使わない方針で行こう。お前たちがたとえ同じヲ級でも、お前たちそれぞれに人生がある。一人の人生を生贄にもう一人を復活させるなんてできない」
「テイトクは優しいのですね。でも、決断しないといけないときが来たら迷うことなく使うべきです」
そういうと経験の書を一つ俺に渡してきた。
「これはこの鎮守府で最も活躍したヲ級の経験の書です。もし戦力が足らないとき、遠慮なく使ってください」
「お前の記憶を消してまで戦力増強はしたくない」
「……あ、いえ、記憶を”追加”するだけで今までの記憶は普通に残ります」
「残るんかい!!」
俺はツッコミを入れた後椅子に深く座る。
「まあ、使わないさ」
「え?」
「前のヲ級はおそらく辛い経験をしてきた。その経験を自分の経験として受け入れると、お前は辛い思いをするだろう。それに記憶のヲ級として過ごせばいいのか、初音として過ごせばいいのか迷うだろう?」
「でもすぐに強くなれるんですよ?」
「いいさ。すぐに強くならなくても。攻めてこられても失うものはその海上だけだ。深海で過ごしている俺達に気づかない」
「……いつかは気づかれます」
「一つ考えがあるんだ」
俺はヲ級にその作戦を話す。
「そんなことできるのですか?」
「ああ、おそらくな。それまで練度を上げることに専念しよう」
「……了解です。二葉や初海にもそう伝えておきます」
「ああ、頼んだ」
俺は記憶の書をそっと机の引き出しにしまったのだった。
あれから数日が経った。何度かレーダーに艦娘が映ったが、俺たちはひたすら無視した。艦娘たちは深海棲艦がいないことに困惑しながら帰っていった。棲艦たちの練度もそこそこ上がってきた。これだけ練度が上がればやれるだろうと判断し、一つ目の作戦に出る。それは俺の鎮守府に手紙を送るというものだ。
「これをできるのは初海くらいか。頼めるか?」
「ゴボボ(任せてください)」
「……よろしく頼むぞ。ただ渡すだけだ。危なくなったら逃げてくれ」
「ゴボボ(了解)」
「……(わからんっ!!)」
不安を残しつつ、初海を信じて出撃させた。
提督が行方不明となって数か月が過ぎた。私たちはいろいろな海域を探してみたが、見つかることはなく、この鎮守府を任せられる提督を探すことになった。しかし、最近はブラック鎮守府というものが多い。道具のように使われる艦娘たち。私たちも偵察等に行った際に、その光景を見た。絶対にあのような姿にはなりたくない。
「長門、新しい提督は見つからないの?」
「慎重にしないと、ブラック鎮守府になりかねない。あの提督のように優しい人を……」
「そのことなんだけど、ついさっき海岸にこんな手紙が置いてあったという報告があったの」
私はその手紙を読む。
『俺の鎮守府の艦娘諸君、元気にしているか?私は元気だ。実はひょんなことから深海棲艦の提督をやっている。そこで艦娘である君たちの力も借りたいと思ってこの手紙を送る。今更生存報告してくるくせにこのような手紙を送るのは虫が良いのは分かっている。が、どうか考えておいてほしい。もし力を貸してくれるというなら、サーモン海域北方に来てほしい。』
私はその手紙をぐしゃぐしゃにした。どう考えても罠だ。
「長門……」
「こんなの罠に決まってるっ!!……でも」
でもこの字は間違いない。深陽提督の物だ。私は一縷の望みを託して、そこに行ってみることにした。そしてサーモン海域北方に向かってもらう艦娘に指示を出す。
「編成は戦艦金剛、霧島、空母赤城、加賀、駆逐艦雷、電。目標はそこにいると思われる深陽提督の救出だ。罠の危険性もあるため、十分に注意すること」
「了解ネー!」
「司令官そこにいるのね!私が助けてあげるわ!」
「一航戦の誇りにかけて、救出してみせます!」
「第一艦隊旗艦金剛、出撃せよ!!」
こうして、深海棲艦と艦娘のそれぞれの作戦が開始された。