圧倒的に時間が足りません..。
〔Ⅰ〕
IS〈インフィニット・ストラトス〉。
日本のライトノベルの一つで、ハイスピード学園バトルラブコメというジャンルで発売された作品だ。
私は前世において、死ぬ2年ほど前に知り、割とハマっていた。 その為、先程のやり取りを見聞きしたことで、この世界がISの世界だと分かったのだが...。
「ね...ねぇ、君...。 い、今...
......や っ て し ま っ た !
先程の言葉と反応から察するに...この女子は...篠ノ之 束だ...。
...無難な返答をしておいた方が良いだろうか...?
「えっと...はい。 確かに言いましたが...」
私が返答すると、篠ノ之 束と思われる女子は焦りの表情を見せながらも、面白そうなものを発見したかのような目を私に向ける。 割と器用なことをするな...。
「...君...名前は?」
「...シャーロット・エインズワースと申します」
...なんだろう。 イヤな予感しかしない。 だって、さっき彼女の瞳が妖しく光っていたもの!
「...シャーロット...ならシャロちゃんだね。 それでさ...
最後の部分で、彼女は私にしか聞こえない音量でハッキリと口にした。
...やっぱりか。 この状態で誤魔化せる訳がない。 ならば、私もカードを切ろう。 とっておきの
「知ってるも何も...
「...!?」
そう、私は転生時に3本の剣(宝剣)を特典として手に入れたのだが、それらを使っている内に、いつの間にかISのような状態に変化させることが可能となっていた。 今思えば、私が欲した剣はISとしてこの世界に顕現したのかもしれない。 ...まぁ、あくまで推測でしかないのだが。
「そうかぁ...。 ねぇ、シャロちゃん。 シャロちゃんはさ、今の世界をどう思う?」
...来たか。 ここでもし間違えたら全て御仕舞いだな...。
「楽しくあるのと同時に...退屈だと思う」
「へぇ...。 それは...何故?」
「一日の中における一つ一つの出来事は楽しいと感じる。 けれど、長期的に見ると退屈に思える。 毎日が同じことの繰り返し。 これでは機械と一緒になってしまう。 人間としての意味を持たないまま終わってしまう。 分かっていても何も出来ない。 故に退屈。 無価値で、普遍的で、必要性が皆無。 今のボクでは自分の人生に意味を持たせることが出来ない。 その為の全てが足りない。 故に退屈と思わざるを得ない。
しかし、普遍的であるが故に美しい、と感じるものもあったりする。 家族の仲睦まじい会話。 平和の道を歩む民衆。 人類の可能性の増大。 それらは全て当たり前に存在するべきモノ。 しかし、存在しているからこそ美しい。 少なくともボクはそう思う」
「そっか...」
まぁ、納得はしてもらえないだろうが、理解はしてもらえただろう。 兎に角、これで少なからず私と彼女が全面衝突することは無いだろう。
「成程...なら、束さんとシャロちゃんは似た者同士、ってことだね!」
...まぁ、確かに。 そう思われても不思議ではないのかもしれない。
この世はつまらない。 そう思うが故に、世界を壊すことにした束。 この世を退屈だと思うものの、世界の良い側面を肯定し、守ることを決めた私。
両者に共通するのは、世界に弄ばされ、現実における絶望を知ったということ。 しかし、私と束の違いは、絶望を知った後にある。
絶望を認められず、人を、世論を、世界を恨んだ束。 絶望をすぐに認め、諦める選択を選んだ私。
はっきり言って、どっちもどっちだ。 どちらも等しく、愚者である。
「...束。 ...それにお前も。 2人共、私たちの存在を忘れてはいないだろうな...?」
「「「「「............。」」」」」
「「............あっ」」
束との会話に夢中で忘れてた......。
「...本当に私たちを忘れていたとは...」
織斑 千冬とおぼしき女子が、私と束を現実に連れ戻した直後、織斑 一夏らしき男児が、
「ねぇねぇ、お姉ちゃん達ってどこに住んでいるの?」
...と、私達の家の場所を聞いてきたため、私は正直に話した。 すると、
「えっ、そこって僕の家のすぐ近くじゃん!」
...などと言いやがった。 えぇ......嘘でしょう......?
「じゃあさ、この子たちの歓迎会やろうよ! 勿論、皆で!」
さっきまで再起不能になっていた束が突然そんなことを言い出す。 ...もう好きにしてよ...。 私は静かに思考を手放した......。
〔Ⅱ〕
結局、彼女らの善意に勝つことなど出来るはずがなく、現在私は織斑邸のリビングに居座っている。 ...私、どこで間違えたんだろう? リセットボタンは何処ですか? セーブデータのロード機能はありますか? そもそもセーブデータってあるんですか?
「さて、ご近所さんということで、これから仲良くしていこうね! という訳で、早速自己紹介でもしようか! まずは私からだね。
えぇ、いつの間にそこまで進んでいるのか...。
「じゃあ、次は私がやろう。
「こんどは僕!
「私の番だね!
「最後は私が。
はい、原作キャラ組の自己紹介終了~! さて、観念して私たちも自己紹介をすることにしよう...。
「じゃあ、私からにしましょうか。 私はアリス・エインズワース。 12歳よ。 千冬ちゃんと束ちゃんとは同級生よ!」
「私はエレン・エインズワース。 36歳よ。 アリスちゃんとシャーロットちゃんの母親よ」
「「「「「えぇっ!? てっきりお姉さんだと思ってた!」」」」」
「ウフフ、ありがとう」
そう、私の母は実年齢以上に若々しく、私と姉と母を並べると、仲睦まじい三姉妹にしか見えないのである。 ...私、生物学的には一応「男」なんだけどなぁ...。
「それでは、最後にボクが。 シャーロット・エインズワースと申します。 6歳です。 4月から、帝都大学理学部1年として入学する予定です。 ...このような格好と容姿ではありますが、これでも一応男です」
「「「「「「嘘ーーー!? 男だったの!?」」」」」」
いや、そこかい...。 ここにいるほぼ全員が驚きの表情で私を見つめており、御母様だけが静かにニコニコしていた。 ...流石です、御母様。 ...って、アレ?
「あの...御姉様? 御姉様は何故、驚愕されているのですか?」
「............」
......完全に忘れていたな、御姉様。
〔Ⅲ〕
私たちの歓迎会と称したパーティーは結果的に大成功。 私たちのことや、彼女らのこと、時にはこの世界のこと。 色々なことを話したなぁ。
「ところでさぁ、千冬ちゃん」
「どうしたんだ? アリス」
「千冬ちゃんの両親は何処にいるの? 私、挨拶しようと思っていたんだけど...」
「「「「「......」」」」」
確かに私も少し気になっていた。 私がここに来たとき彼女たちの両親らしき人物はおらず、いつまで経ってもそのような人物が現れなかった。 アリス姉様がその疑問を口にした瞬間、5人が暗い表情になる。 ...アレ? 何かあったのだろうか?
「私たちの両親は............もう、此処にはいない」
............え? それってまさか............。
「...ちーちゃんたちの両親は、つい10日ほど前に亡くなったの。 父親の方は交通事故、母親の方は心臓麻痺で亡くなられた。 それで今は、2人が遺した遺産を使って3人とも生活しているの」
私の知らない所で、そんなことがあったなんて...。 私はその事実に驚愕すると同時に、助けたいという思いが湧いてきた。 少しでも助けになれるのなら、私は今すぐにでもなりたい、と思ったのだ。
「......御母様、御願いがあります」
「何かしら?」
「親を喪った3人に、もう一度親の愛情を与えていただけないでしょうか?」
「「「「「!?」」」」」
「............」
そう、私は『家族になる』という形で助けることを決心した。 私が出来る範囲では、これ以上のことは出来ないから...。
「......いいわよ?」
「「「えっ!?」」」
良かった...。 私の言動で3人の命が救えるのなら、万々歳といったところだ。
「ただし! 条件があるわよ?」
「......条件、とは?」
私は少し不安になった。 まさか、家族にしたのを良いことに、奴隷のような扱いを強いるのでは...と、一瞬思ってしまった。
「家族になる以上、貴女も、アリスも、千冬ちゃんも、一夏ちゃんも、円華ちゃんも、皆幸せになってもらうわ。 不幸になんかなったら、許さないからね?」
「「「「「......!」」」」」
御母様......貴女って人は......。
「そういう訳ですので、改めて宜しくね? 千冬お姉ちゃん、一夏くん、円華ちゃん」
私は今世最高の笑顔を3人に向ける。 すると、3人が涙を流しながら、
「シャーロットォォォ!!!」
「「シャロお姉ちゃぁぁぁん!!!」」
と言いながら、私に抱きついてきた。 まぁ、こうなるのも無理はないのかもしれない。
「今はもうちょっと泣いていて良いんですよ? ボクは皆さんを待っていますからね?」
私は、彼女たちの救いになれたのかもしれない。 そう思う私なのであった。
......あと、一夏に円華よ、私は男だから。
こんな形にしてみました。
最終的に、織斑一家はエインズワース家の一員となりました。
......あっ、名字は変わりませんよ?