我、黒き“無慈悲な王”となりて [凍結]   作:阿久間嬉嬉

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使エ

何時ものように風の吹く、切り立った山々が連なる地で、嬉しそうな声が聞こえてくる。

 

『ねぇねぇお兄様! この前のアレをやってほしいのね!』

『……そんなに気に入ったのか?』

『気に入ったのね!』

 

青い鱗を持つ風韻竜の子供・イルククゥは、黒い甲殻を纏う竜・ハンニバルに、キュイキュイとはしゃぎながら何かを頼んでいるようだ。

頼みごとをするイルククゥの足元には、大小様々な魚がピチピチと跳ねている。

 

『早く食べたいのね!』

『……少し待っていろ』

 

そう呟いたハンニバルは、左手に“黒い焔”を作り出し、右手に魚を持って魚を焦がさない様に焼いていく。

 

『ルンル~ン…キュイ!』

 

楽しみでしかたないと言わんばかりに、体を左右に揺らすイルククゥの姿は何処か微笑ましく、禍々しいほど黒く、一瞬で鉱物をもを消しズミに出来そうな焔で魚を焼くハンニバルの姿は何処かシュールに見えた。

 

『…ほれ』

『焼けたのね! 頂きますなのね!』

 

イルククゥはがつがつと焼き魚を美味しそうに頬張り、ハンニバルは傍に生えていた小さめの木を引っこ抜き、齧り付く。

外見的にいえばイルククゥとハンニバルはどちらも肉食に見えるのだが、どうやら食性はお互い違うらしい。

 

『それにしても……お兄様にはビックリしたのね』

『……なにがだ』

『だってお兄様、草や木しか食べないのね。お兄様の食べ物、見た目と合ってないのね』

『食いモンと見た目は関係ないだろ……』

 

それに、とハンニバルは木を手にしたまま何処か力のこもった声で言う。

 

『木や草にだってそれぞれの味がある、食いなれれば旨い木だって分かる』

『じゃあ、今お兄様が食べてる木は美味しいのね? 何時も食べてるけど』

『旨いぞ』

『ちょっと頂戴なのね』

『……ほれ』

 

少し悩んだ後、ハンニバルは木を差し出す。顔を若干しかめているのは、あげたくない……とはまた違う理由のようだが。

そしてイルククゥは木に思いっきり齧りつき、

 

『ギュエッ!? 不味いのねーっ!?』

 

その不味さに、慌てて魚に齧り付いた。

 

『やっぱりか』

『ま、まさか分かっててイルククゥにこれ食べさせたのね!?』

『……いや、もしかしたら食えるか、とも思っていたんだが……』

『木なんか食べないのね!』

『……欲しいって言ったのはお前だがな』

 

何やかんや有りながらも食事は終わり、ハンニバルはイルククゥに、ある事を確認した。

 

『……それで、だ。本当に存在するのか? お前がいった“魔法”…確か―――』

『“精霊魔法”なのね』

『それだ』

『存在するも何も私は目の前で見せたのね、見たのに信じられないのね?』

『見たから余計に、な』

『それを言うならお兄様の“黒い炎”だって、おかしさ満点なのね。魔法じゃないのが信じられないのね』

『俺の焔はまだ“不可思議な炎”でも方が付く、だがお前のソレは俺にとっては完璧に“異質”だ

 

 

―――外見だけでなく大きさまで人間に変化させる魔法なんてな』

 

 

そう、イルククゥが目の前でハンニバルに見せた物、それは“精霊魔法”で人間に変身すると言うモノだった。

初めは外見をそう見せているだけかと彼も思っていたのだが、大きさや質量さえも人間になったと確認でき、唖然とした。

 

『下等な人間に変身なんて普段はしないけど、いろいろと便利な時もあるって言われて、お母様から教わったのね』

『……これが、“魔法”か』

『ちなみに人間どもはこんなもの使えないのね、使えても一握りの運のある奴だけで、しかも私たちには劣るのね』

 

イルククゥは胸を張って言いきる。ハンニバルはイルククゥの言った“ある一言”を頭の中で響かせていた。

 

《――色々と便利な時もあるって言われて――》

 

ハンニバルの体はかなり大きく、翼も無く、人と竜を合わせた様な体躯は、体色と合わせてかなり目立つだろう。

ハンニバルは少し考えた後、イルククゥに話しかけた。

 

『イルククゥ、頼みがある』

『何なのね? お兄様』

『俺に“精霊魔法”を教えてくれ』

『きゅい! お安い御用なのね!』

 

イルククゥは特に疑問も持たず、ハンニバルのお願いを承諾した。

 

 

 

精霊魔法の特訓は三日三晩続いた。

 

幸いハンニバルには才能があったのか、精霊魔法による“攻撃”は無理だが“変化”は普通の竜よりも呑み込みと成長が早く、課題の“精霊と仲良くする”もクリアーし、(イルククゥいわく、精霊が怯えていたらしいが)あっという間に“精霊魔法”を使えるようになった。

 

『それじゃあ、お兄様。変身するのね』

『ああ』

 

ハンニバルが呪文のような物を唱えると同時に風が集まり、そのそよ風の様で何処か荒々しい風はハンニバルを完全に包み込む。

 

そして、風がはれ、そこに居たのは―――

 

 

『……アレ?』

 

角のような二つの毛束と、元の姿と形は変わらない右手の手甲を持つ、黒いオオカミだった。

 

 


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