ギルドマスターにはロクな仕事が来ない   作:道造

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黒騎士と魔女

「徒党キルフラッシュ、その全員に逃げられた」

「あらあら、お気の毒様」

 

俺は接合金具を外し、兜を脱ぎ、しかしその兜を抱えた脇から放そうとはせず。

ただ、礼儀として兜を外しただけの姿勢を崩しはしない。

完全な協力関係ではない。

この魔女、マルガレーテとは。

 

「……水魔法無効の腕輪、感謝する。返すぞ」

 

水魔法無効の腕輪を、彼女の机の上に置く。

 

「あれ、もういいの? 腐食のコゼット相手には必須アイテムよ」

「もう腐食のコゼットを追う気はない。捉える機会は二度と巡って来ないだろう」

 

俺は冷静に考える。

全てはあの道化師のせいだ。

或いは、王家の諜報機関がゴミなせいだ。

思考を続け、問う。

 

「逆に貴公から見て捉える機会は有り得るのか? マルガレーテ」

「無いわね。次からは警戒されるわ。ゲンイチロウに正面勝負を仕掛ける?」

「冗談を」

 

決戦。

騎士団と冒険者集団、数百人を揃えた決戦を除いて、ゲンイチロウに勝負を挑む気にはなれない。

勝てる気がしないわけではない。

だが――

 

「俺は勝てる戦が好きなんだ。博打は趣味ではない」

「それはいいことねえ」

 

魔女マルガレーテは微笑みながら呟いた。

魔術学院の大図書館。

その傍では、このイスカリテの魔術学院の弟子達が忙しそうに書類を運んでいる。

――魔女マルガレーテ。

イスカリテの王家に仕える『寿命伸ばし屋』。

イスカリテの王の寿命を呪術により200年まで伸ばした女。

そして、余命1年を宣告した女。

忌まわしくもあるが――彼女を責めても仕方ない。

呪術や薬草による延命は200年が最大と聞く。

イスカリテ王の年齢は199歳だ。

もう死んでもいいだろう。

黒騎士マシューと呼ばれる俺はそう思うが――

イスカリテ王はそうではないようだ。

もう半分呆けているくせにな。

もっと寿命を!

もっと寿命を!

そればかり望んでいる。

さっさと次代に席を明け渡せばいい物を。

ちっ、と舌打ちする。

それが聞こえたのか、マルガレーテは反応する。

 

「あら、舌打ち。唾飛ばさないで頂戴。この魔術学院の部屋には色々な薬品があるんだから」

「あのボケ老人。さっさと死ねばいいものを」

「そして貴方は次代の王に? 王子や王女やその孫、曾孫の系譜を皆殺しにして? 最後に残された少女でも嫁に娶って、婿入りした後に最後は暗殺して邪魔者は排除?」

 

先読み。

マルガレーテは俺の考えを読んだように、呟いた。

そうだ。

俺はこの国が欲しい。

先日、あの道化師ミゲルとやらに吐いた言葉には嘘が混じっている。

スズナリ・ゲンイチロウが魔女モルディベートに負けるから、俺はゲンイチロウに頭を垂れないわけではない。

本当の理由は違う。

見事に『腐食のコゼット』を捕まえたなら、もっと別な『協力』をゲンイチロウに要求するつもりだった。

俺はこの国が欲しい。

再度、頭の中で呟く。

いや、この国は俺の物になるべきなのだ。

名誉。

地位。

金。

『上から与えられる』、という形を為している、それだけでは最早足らないのだ。

この国が。

この国が俺の元にひれ伏した瞬間、俺の全てが満たされる。

スラム街で多数の人間を殺し、独学で――人を殺すことで剣技を学び。

そうして剣術大会で優勝を成し遂げ、この国イスカリテの暴力装置と為した俺が。

この国最強の騎士となった俺が。

最後に望む物は、それだけだ。

掛け金は俺の命。

支払いはこの国だ。

それの何が悪い。

実際に口に出して言う。

 

「それの何が悪い。掛け金に対し、対価は不相応か?」

「なーにも悪くは無いわ。イスカリテ王の次代が貴方なら、他の王子より大分マシだし」

 

他の王子の年齢知ってる?

もう百歳越えよ。

くすくすと、マルガレーテが笑う。

そうしたのはお前だろうに。

ちっ、と。

俺は再び舌打ちを打つ。

俺はこの女の事を――嫌いではない。

気は合う方だろう。

だが、事実上、この国を支配していると言っていい。

寿命という足かせを王家に着けて。

魔女マルガレーテ。

俺が王位に着いたからには、思うとおりに上手くいくとは思うなよ。

俺が剣術大会で優勝し、騎士になって10年。

俺は、俺の実力だけで長命になれるだろう。

この世の身体能力に溢れた人間は、それだけで長命になれる。

その長命になれる自負が俺にはある。魔女の力などの助けを得ずとも。

そして呆けた時は、自刃しよう。

それでよい。

何もかも、それでよい。

26歳であるマシュー・ノードハーゲンはそんな事を考えている。

未だ、寿命というその束縛には囚われていない若者であった。

そんな事を、魔女マルガレーテは頭に感想を思い浮かべる。

そんな事を言っていられるのは今だけだ。

いずれ、お前も寿命に捕まる。

マルガレーテの――我が手中に落ちるのだ。

まあ、それはいい。

先の話だ。

まずは、ゲンイチロウに――スズナリ・ゲンイチロウに勝てるか否かである。

いやはや、これは困難だ。

魔女マルガレーテの思考は止まり、そして世界は黒騎士マシューの視点にまた戻る。

 

「マルガレーテ、ゲンイチロウに勝つことは果たして本当に可能なのか?」

「半々、といったところね」

 

マルガレーテは、手を横の弟子に向ける。

弟子は、慌てたような仕草で資料をマルガレーテに手渡した。

俺は、マルガレーテの口から洩れる呟きを待った。

 

「スズナリ・ゲンイチロウという世界最高峰の土魔法使いであり、生物魔法使いによる禁忌の研究成果。そして人生を何百回繰り返しても使いきれない、彼の財産はすべてスズナリ・ゲンイチロウ自身に『くべられた』」

「『くべられた』とは」

 

俺は呟き返す。

マルガレーテは答える。

 

「スズナリ・ゲンイチロウはとても弱く脆弱で――強大な魔法の力を除けば単なる後衛のマジックキャスターの一人でしかない」

 

呟きは続く。

 

「しかし、彼は賢くて。それだけは誰にも負けない。多分私にさえ。自分の現実くらいわかっている。だから、自分がキメラであるということに全てを注いで『くべたんだ』」

「それがわからない。何故に『くべた』などという表現を使う」

 

俺は疑問を口にする。

マルガレーテはやれやれ、と溜息を吐いて、また呟きを続ける。

 

「スズナリ・ゲンイチロウは脆くて、貧相で、弱いマジックキャスターだ。だが――たった一つの武器がある」

「それは?」

「キメラであることだ。それに全てを賭けた。魔女モルディベートに改造された世界一の技術であるその魔女の窯の中に、ゲンイチロウは全てを『くべたのよ』」

 

マルガレーテは結論をまるで吐いたような――それでいて、結論になっていない言葉を述べる。

 

「スズナリ・ゲンイチロウはありとあらゆる人体改造を自身に対して行った。資金。マジックアイテム。ユニークアイテム。レジェンダリー。魔核。まさにありとあらゆる物を。魔女の――賢者の石を組み込んだだけの、定命を脱し、自刃するまで永命と成り果てた私達魔女や――魔術師とは明らかに違う生き物になっている」

「ふむ」

 

話は真核に近づいていく。

 

「もう一度言うが、スズナリ・ゲンイチロウはキメラだ。魔核さえ破壊すれば死ぬ。そのはずだが――」

「破壊できない?」

「その可能性が有り得る。いや、高い。その身の血と肉を根辺から打ち砕き、上手く魔核を引きずりだしたとして」

 

お前の――マシューの、身体強化術を用いた渾身の一撃を用いても魔核を砕けないのではないか?

そう思える。

これはあくまで予想だが、とマルガレーテは付け加え。

 

「お前の力がスズナリ・ゲンイチロウに届くかどうか――それが疑問だ」

「届く」

 

俺は断言する。

マシュー・ノードハーゲンの一撃はスズナリ・ゲンイチロウに届く。

そう確信できる。

俺はイスカリテ最強の騎士だ。

 

「相手はスズナリ・ゲンイチロウで、その全てを、用いる存在を全て自分の身体に『くべた』物だぞ。虚仮にされる可能性が高い」

「虚仮にされる?」

「お前にはおそらくゲンイチロウは殺せないよ。マシュー。今回は諦めた方が良い」

 

マルガレーテは結論を述べた。

俺は納得しない。

 

「俺はイスカリテ最強の騎士だぞ」

「お前がアルバート・アポロニアの強さなら何も言わなかったよ」

 

アルバート・アポロニア。

間違いなく人類種最強の生物。

 

「馬鹿にしてるのか!?」

「若さを諫めている。お前の実力はまだ伸びしろがある。だから次の機会を待つべきだ」

 

マルガレーテは冷静に言葉を連ねるのみだ。

 

「ホーカス・ポーカス。種も仕掛けも無い手品。全ての攻撃をねじ伏せる。その領域にスズナリ・ゲンイチロウは手をかけた可能性が高いと私は考える。お前は最初から相手にされてないんだよマシュー。アイツの目当てはあくまで魔女モルディベート。お前は前座にしかならない」

「俺が前座だと!?」

「おそらくスズナリ・ゲンイチロウはそう考えている」

 

マルガレーテは椅子に座り、足を組みながら。

300年以上からは覚えていないその年齢で、その美女といえる美貌を維持しながら。

俺に向けて呟いた。

 

「ああ、マシュー・ノードハーゲンという奴がいるのか。実験には丁度いい。私の全てを『くべた』身体を見せてやろう。あいつで試してやる。スズナリ・ゲンイチロウはそう考えている」

「……」

 

俺は怒気を孕みながらも、口を荒げはしない。

なるほどなるほど。

俺は確かに前座役って扱いなわけか。

よくわかったよマルガレーテ。

だが――

 

「諦めてたまるものか。今回はいい機会なんだ。あのボケ老人をゲンイチロウと相打ちさせ、取って返して王宮で王家の一族を殺戮する。その機会が幾度ある。すでに、騎士団の実力者の何十人かは俺の手の内に収めている。今更クーデターを取り止めれるものかよ」

「……残念だよ。マシュー・ノードハーゲン」

 

マルガレーテは、本当に残念そうに呟いた。

俺が負けると思っているのか。

 

「俺は勝つ。必ずな」

「そうなるといいわね。そっちの方が私もいいわ。ゲンイチロウが貴方に勝つと、この国にアポロニアが攻めてくる可能性が高いし」

「アポロニアが攻めてくる?」

 

アポロニア王国とイスカリテ王国は遠国である。

その距離はロック鳥を用いても5日はかかるといったところ。

だが。

 

「……誰が来るというんだ」

 

アルバート・アポロニアは。

あの人類種最強の男は、来ないだろう。

すでにゲンイチロウは婚約者の座を追われている。

 

「スズナリ・ゲンイチロウの元婚約者よ」

 

アリエッサ・アポロニア姫。

未だに年齢ダブルスコアの男に執着している少女が来る。

山河も国境線も乗り越えて。

アルバートの遺伝子を継ぐ、レッサードラゴン殺しも果たした姫君がやってくる。

マルガレーテは目を閉じ、そう呟いた。

貞操逆転世界観童貞辺境領主騎士をチラシの裏で書いてみたけど続ける?忌み子だよ?(本作の週一更新には全く影響せず更新されます。作者は読者の想像以上に暇です

  • どうせ暇ならギルマスの更新を早めようよ
  • 貞操逆転世界観童貞辺境領主騎士書いて
  • 夏侯惇の第三部書いて
  • 何か別な新作を考えて
  • 何か好きな二次創作書いてみて

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