ギルドマスターにはロクな仕事が来ない   作:道造

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091 アルバート王の決断

 

目覚めの挨拶に来た王宮で。

通された王の間にて、待ち構えていたアルバート王が口を開く。

 

「まずはそこに座れ」

 

アルバート王が玉座から話しかける。

私は胡坐を組んで、王の間に敷かれたふかふかの赤い絨毯の上に座り込んだ。

 

「思えば、ゆっくり話す機会がなかったな」

「――思えば、そうですね」

 

のんびり話し込む機会が無かった。

パチン、とアルバート王が指を鳴らして親衛隊を歩かせる。

その手にはワイン瓶が握られていた。

私はそれを受け取る。

 

「グラスは無しで?」

「必要ないだろう」

 

同じくアルバート王もワインを瓶だけ持っている。

 

「全員、王の間から立ち去れ」

「お断りいたします」

 

屹立した親衛隊が拒否の言葉を述べた。

だが、アルバート王の気配がそれを許さない。

死の気配。

それを王の間に充満させ、アルバート王は手に顎を乗せながら親衛隊に二の句を告げる。

 

「失せろ」

「……承知致しました」

 

ガチャガチャと規則正しく鎧を鳴らす足音が響き、親衛隊が王の間から出ていく。

まあ、親衛隊も命令に逆らう意味はない。

なにせ、私がアルバート王を害そうと考えてもそれは為せない。

元々、警備に意味は無いのだ。

形ばかりの警備兵である。

 

「お前、異世界から来たんだってな」

 

親衛隊が王の間から退いた早々に、アルバート王が口を開く。

私はそれに素直に頷いた。

アルバート王はワイン瓶を口にする。

そして軽く一飲みした後、また口を開く。

 

「両親はどうした」

「この世界に来る前に他界しました」

 

私を幼児の頃から虐待した両親の行く末等知らない。

私は児童養護施設で育った。

ただ、ロクな死に方はしなかったと聞いている。

そう考え、嘘を吐く。

 

「そうか。親から虐待にあって育ったか」

 

だが、アルバート王の直感スキルの前には意味を為さない。

私は嘘をため息へと変えて、言葉にして吐き出す。

 

「アルバート王、そう直感スキルでズバズバと人の心中を見抜くと嫌われますよ」

「お前に嫌われても俺は困らん。今日は容赦なくいくから覚悟しとけ」

 

またハッキリとした物言いをする。

覚悟? いったい何の覚悟だ。

アルバート王はワインを一口グビリとやった後、喋り始める。

 

「俺は8歳の頃にモンスターの……ダンジョンのホードに遭ってな。モンスターに両親を殺されて孤児になったよ」

「そうでしたか」

「それが憎くて憎くて仕方なくてな。冒険者になった」

 

8歳の子供が無茶をするものだ。

このアポロニアでも子供ながらに冒険者になろうとするものは珍しくない。

孤児になっても、手厚い保護が16歳までなら受けられるのにな。

まあ――それはこの目の前の男が、王の座に就いてからの話だがな。

 

「才はあったんだろうな。10歳の頃にはミノタウロスを斬り殺してたよ」

「才に溢れすぎです」

 

どんだけやねん、アルバート王。

私はどこかげんなりとした気分になる。

 

「……お前も大概だろう。こっちの世界に来て僅か数年で土魔法と生物魔法の最高峰に辿り着いた」

「……ま、そうですが」

 

否定はしない。

才もあれば師匠――環境にも恵まれた。

 

「話も戻そう。お前のモルディベートへの愛情は、父や母から終ぞ与えられなかったそれへの憧憬ではないのか?」

「……」

 

いきなり何を言いだすのか。

そう思っていると、アルバート王は私の人間性をいきなり貶しだす。

 

「お前のやる気のなさというか――判断や決定の主体性の無さには、時々赤子のようなそれを覚える。自己評価の低さもあるな。お前さあ、お前の方からアリエッサが好き以前にそもそも『アリエッサ姫に好かれるスペックなんか自分には無い』とか思ってないか。」

「……思っていますね」

 

グサリと突き刺す事を言われる。

自分が欠陥人間であることは判っているさ。

何せマトモな幼児期を送っていないのだから。

精神レベルは未だ大人になったと言えないかもしれない。

何故アリエッサ姫は私ごときに惚れているのか?

心の底から理解ができない。

それはルル嬢や他のメンツに対しても同じことだ。

 

「俺はお前しか俺の跡を継げる者はいないと思っている。同時に、酷くお前の稚気じみたところを――そうだな、哀れんでいたという言い方になるかな」

「哀れむ? 王の後継ぎとしては危惧していたという言い方ではなく?」

「お前の能力は、その人格面の欠陥を十分に補填している。危惧などしない。跡継ぎとして不安に思う点はない」

 

アルバート王が、またグビリとワイン瓶を口に傾ける。

 

「……お前の人格面を貶すのが本題ではない。話を戻すか。お前のモルディベートへの愛は本物なのか? 再度聞くが、終ぞ両親から与えられなかった愛と混同していないか? よく考えてみろ」

 

やや、頭にカチンときながら冷静さを保つように答える。

 

「……混同? 何故アルバート王がそう思われたのかがよくわかりませんね」

「お前はモルディベートから同じように虐待を受けていた。両親からと同じように」

「……あれは修行ですよ」

「そうだな。魔術師にとっては、ただの修行なのかもしれんな。だが、お前から見た視線では違うものだ」

 

アルバート王は王座から立ち上がり、座っている俺を見下すように呟く。

 

「愛してくれなかった両親と同じ行為をする相手から、愛を掴み取ろうとした、違うか?」

「違う!」

 

立ち上がり、視線を合わせ、睨みつけながら答える。

しばらくにらみ合っていると、やがてアルバート王の方から視線を逸らした。

 

「ちっ」

 

アルバート王の口から舌打ちが漏れる。

 

「悪かったよ」

 

謝罪の言葉。

それは私の心中を余りにも貫いたがゆえの発言だったのか。

それとも違ったためなのか。

今の私にはわからない。

……そう、わからない。

 

「まあいい、どのみち意味のない口論だ、これは。お前がどんな憧憬を抱いていようが無意味だ」

 

今日のアルバート王は何を考えているのだろうか。

そこに視野を飛ばした事で、少し冷静となり、口が回る。

 

「……私の人格面の稚拙さは別として、私は過去とは決別しています。先代――モルディベートへの愛は本物ですよ」

「どうやらそうらしいなあ」

 

少し挑発するような口調でアルバート王が答える。

 

「ならば、俺があの魔女を殺すと知れば邪魔だてするか」

「そうなるでしょうね」

 

――アルバート王の知りたい結論がようやく見えて来た。

要は――

 

「私が先代に対してどう振舞うかをお知りになりたいのですか?」

「そうだ。俺が殺そうとすればお前は邪魔するかどうか。一つはその確認と――」

 

アルバート王は指を三つ立て、一つを折る。

そして更にもう一本を折りながら呟く。

 

「お前はモルディベートを未だに愛しているのかの確認だ。ここまで――自分の愛情や尊厳をコケにされてでも愛しているのか?」

「愛していますよ」

 

この気持ちは変わらない。

私は先代を――不死の魔女、モルディベートを愛している。

それは変わらない。

 

「三つ目だ」

 

アルバート王は最後に残った指を折りながら呟いた。

 

「ならば、お前はこれからどうするつもりだ」

「……不死の魔女、モルディベートに自分という存在を認めさせます」

「つまり?」

「殴り合い――いえ、殺し合いしかありませんね」

 

『話し合い』はとうに終わった。

もう一度言う、『話し合い』はとうに終わったのだ。

私の告白が無残にも敗れた時点で終わった。

だから――

 

「不死の魔女モルディベートを屈服させることで、私という存在を認めさせます」

「認めさせてなんとする?」

「もう一度告白しますよ」

 

私の目の前で倒れ伏すモルディベートに愛を囁く。

それが私の出した結論だ。

 

「お前は愚かだ。俺もモルディベートの事は多少は知っている。あのプライドの高い女が自分に勝利した相手の告白を受け入れる様など、想像つかん」

「そうでしょうね」

 

私は確信を持ってアルバート王の言葉に頷く。

間違いなくそうだろうさ。

 

「受け入れられなければなんとする?」

「殺します。愛しているからこそ」

 

その時は――もういいだろう。

私にロボトミー手術以上の悪辣な処置を加える、ただの愛おしかった女だ。

容赦はいらない。

 

「ならば、俺が殺しても同じではないのか」

「全然違いますね」

 

アルバート王と私が殺すのでは全然違う。

愛、受け入れられずして殺すのだ。

それは仕方のない結論だと思っている。

ああ、こういうところが人間的に未熟で愚かなのかもしれないが。

 

「それに――お前が勝てる状況が想像つかんぞ」

「勝率はゼロではありませんよ?」

「だろうな。だが限りなくゼロに近い。お前とモルディベートでバッチバチのケンカなんぞ成り立つものか。それで負けたらお前はどうするつもりだ?」

 

異世界の知識を引き出すための――天地の構造を知るための哀れなブックシェルフに成り下がるのか?

そうアルバート王が小さな声で呟いた。

私は答える。

 

「その時は考えがありますよ」

 

私はコツコツ、と脳を叩く。

キリエに施術を施してもらった部分だ。

それをアルバート王は一目見て――おそらくは直感スキルであろう。

それで私の意図を見抜いて、かぶりをふった。

 

「愚かだな、お前は」

「そうですね、愚かですね」

 

アルバート王の言葉に笑って答える。

再び、アルバート王は同じ言葉を呟いた。

 

「スズナリ。お前は愚かだ」

「はい」

「ゆえにお前を――アリエッサの婚約者候補から外す」

 

アルバート王は、私から見ても――酷く酷く残念そうな顔で、その言葉を呟いた。

 

 

 


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