ギルドマスターにはロクな仕事が来ない   作:道造

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092 アリエッサ姫の激昂

 

スズナリが立ち去った後の王の間――すぐに城内に、スズナリの王宮への許可無しの立ち入り禁止令が。

……アリエッサ姫やアンナ姫に会う目的での、王宮への立ち入り禁止命令が下った後。

スズナリがアリエッサ姫の婚約者候補から外れた旨が連絡された中で。

宮廷雀達が騒がしくする中。

呼び止める者すべてを振り切って、アリエッサ姫はアルバートの前に立っていた。

そうして、さも怒りを抑えているといった風情で質問する。

 

「どういう事、お父様」

「どういう事も何も、そう言う事だ。スズナリはお前の婚約者候補として相応しくない」

「私はそうは思わないわね」

 

グビリ、とワイン瓶を玉座で口にしながら、俺は冷たく呟く。

 

「お前に決定権はない」

「私の事は私が決定する。――それに何よ。スズナリは、最初は御父様が選んだんじゃない」

「スズナリの人格面の愚かさを読み間違えた」

 

俺はワイン瓶を再び口にする。

そして、酷く不愉快そうに呟くことにした。

さて、どこまでこの愛しい娘に話したものか。

俺の内心をどこまで話すべきか。

わからない。

ただワインで口が滑らかになっている間に話してしまう事にする。

いつ、この尻にした玉座を怒りのままに破壊してしまうかもわからん。

俺は酷く不機嫌になっている。

 

「たった一言、『モルディベートを殺してくれ』、そう言ってくれれば俺は奴に王の座を譲ってやったのに、奴はそれを言わなかった。だから婚約者候補からは脱落だ」

 

結論から述べる。

俺の不機嫌を察しつつ、それでも力強く娘は反論する。

 

「何よそれ。スズナリはモルディベートを愛しているのでしょう。だから……」

「スズナリはもうモルディベートに愛してもらえるなどと欠片も思っていない。最初から殺すつもりでいる。ならば同じことだと、俺に殺してくれと頼めない時点で愚かだ」

「殺すって――愛しているのに?」

「愛しているからだ。スズナリにもプライドというものがある」

 

自分の想いを裏切り、尊厳を奪ったモルディベートを愛しつつ――心の底から憎んでいるのだろう。

そう俺はスズナリとの会話で結論付けた。

アレは愛に飢えた狂った餓鬼だ。

酷く酷く幼稚な、欲求のままの純粋な愛情。

それを拒まれたスズナリの憎悪はどれほどか想像もつかない。

 

「俺の手は借りない。自分の手で殺す。殺せない時は――だから稚拙で愚かだというのだ。俺はスズナリを見切っていたと思っていたが、その事実は違った。33を超えてワガママなガキから抜け出せていない。あれはただのワガママで愚かな子供だ」

「そんなの知ってるわよ。まるで主体性のない、大人ぶっただけの子供みたいな人。それでも私はスズナリを愛しているのよ。今更、他の人を愛せと」

「……そう言う事になるな」

 

他にどうしろと言うのだ。

俺のありあまる力をもってしても解決できない事と言うのはたまにある。

その中でも今回は格別に不愉快だ。

全ての決定権はスズナリにある。

 

「アリエッサ、俺が勝手に仮にモルディベートを殺しに向かったとしよう。そしてうまく殺したとしよう」

「それでいいじゃない。後は私がなんとかスズナリを陥落するわよ」

 

ふふん、と鼻を鳴らし、俺の言葉を良い考えだと肯定する娘に。

ただ一言、残酷な事実を告げる。

 

「するとスズナリは自殺を選ぶ」

 

俺は根本的なところの、スズナリの愚かな点について呟いた。

全くもってどうしようもない。

 

「……はあ?」

 

アリエッサはあっけにとられた顔をして、しばらく停止する。

そして地団駄を踏みながら、喚き声をあげる。

 

「どうしてそうなんのよ!!」

「スズナリが愚かだからだ」

 

アレもヤダ、コレもヤダ、完全にワガママな子供だが。

スズナリのプライドは自死を選ぶ。

モルディベートを自分で殺せないのなら自死を選ぶ。

それがあの会話で――直感スキルで嫌と言うほどわかった。

 

「少しだけフォローするなら、それほどまでにスズナリの尊厳は――告白を無視され、頭を貪られたことで傷つけられたという事だろう。その復讐は自分でするということだ。邪魔されれば自殺するぐらいに」

「……」

 

娘は口を閉ざす。

なんとか頭を回そうと、俺の言葉を理解しようとしているらしい。

無駄だぞ。

俺の結論は変わらん。

スズナリの心は変わらん。

本当にどうしてあんな歪んでるんだ、スズナリは。

 

「それじゃあまるでスズナリが気狂いみたいじゃない」

「そう言っているのだが」

 

認めろ娘よ。

あれはもう気が狂ってしまっているのだ。

愚かすぎて婚約者候補にはもう留められない。

 

「……そうだな、スズナリがモルディベートを殺せる事を祈っていろ。可能性はゼロではない。それが、おそらく最高の結末だ」

「映像で観たけど、無理よ、あんな化物! 御父様でもない限り殺せないわ」

 

娘も脆弱ではない。

モルディベートのプレッシャーを映像からでも受け取ったわ。

 

「なら諦めて新たな婚約者候補を探すとしよう」

「それもヤダ」

 

お前はスズナリか。

アレもヤダ、これもヤダでは済む話ではない。

もうスズナリは諦めろ。

どうすれば納得――

 

「私がモルディベートを殺すわ」

「……」

 

娘が摩訶不思議な事を言いだした。

お前、さっきまで自分が言っていた事を忘れたのか?

 

「いや、スズナリより弱いお前では無理だろうに」

「御父様の娘よ。素質はあるんでしょう? 私を鍛えて御父様。私がモルディベートをきっと討ち果たしてスズナリを手に入れるわ」

「お前がモルディベートを殺しても、スズナリは……」

 

手に入らない。

そう言おうとして――

 

「私は私の愛を歩む。認めさせるわ。スズナリに」

 

私がモルディベートを討ち果たしたなら、スズナリと結婚を約束させる。

そうアリエッサ姫は両手を空に掲げながら宣言する。

そんな約束――スズナリがするかな。

いや、するかもしれないな。なにせ――俺から見ても無理難題だ。

だが、やるだけやらせてみるのもいいかもしれない。

それで娘が一応の納得をするのなら。

もしアリエッサが勝ったなら、拍手喝采だ。

 

「良いだろう――アリエッサ、俺の修行は厳しいぞ」

「どんな修行でも耐えて見せるわよ」

 

アリエッサが腰に手を当てながら、ふん、と鼻を鳴らす。

まあ、無理だろうが俺の娘だ。

可能性は無きにしも非ずかもしれん。

俺は少しくすりと笑いながら、玉座から立ち上がり、剣を抜いた。

 

「では、今から早速修行の開始だ」

「よろしくってよ」

 

アリエッサは腰にぶら下げたメイスを上段に構えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

王宮から離れ、コツコツと足音を立てながら王宮を離れていく。

また来る機会はあるだろう。

だが、アリエッサ姫やアンナ姫との二週間に一度の面会はなくなった。

 

「気が楽になった――というべきかな」

 

半ば義務化してたしな、アレ。

それでも――こちらに好意を寄せているらしい女性と話すというのは疲れる。

自分はこんな点でも未熟だ。

婚約者候補から離れて――アルバート王の判断は正解だと確信する。

いや、アレは私の本意を読んだのかな。

私は復讐を邪魔されるくらいなら自死を選ぶ。

そして――先代、モルディベートに操られるくらいならば。

その覚悟も、もう固めた。

後はただ決戦に向けて突き進むだけだ。

そんな事を考えていると――

道の端から、モーレット嬢が現れた。

 

「おや、モーレット嬢。何のようです」

「何用ですか、と来たか」

 

ガリガリとその短髪を指でとかし、巨乳を揺らしながらモーレット嬢は呟く。

 

「一応聞いとくけど、アタシと寝る気はないか?」

「随分ストレートな口説き文句ですね」

 

私は出来るだけ冷静になって答える。

なんちゅう事を言うんだ、この女は。

 

「頭のコレは外れたんだろう?」

 

私に歩み寄り、コツコツ、と私のコメカミを指で叩きながらモーレット嬢は呟く。

――艶めかしい、女性の体臭を感じる。

 

「外れましたよ」

「じゃあいいじゃないか。モルディベートとの闘いを前に、種をまいておくのも」

 

本当に直接的な表現をするな。

ふーっ、とモーレット嬢が私の耳に息を吹きかける。

私はそれを根性で黙殺する。

凶悪な理性面であった――歯を錐で抉る痛みのような、モルディベートの呪いはもう無い。

 

「……何故私が先代と闘うと?」

「あそこまで侮辱されたら殺し合うしかない、男ならそーだろ」

 

モーレット嬢は幾ばくか私の心境をくみ取っているらしい。

だが――

 

「まあ、そうですが。すいませんが、貴女の誘いはお断りしますよ。私に――」

「そんな価値はない? あるさ。少なくともアタシには。自分を卑下するのもいい加減にしておくんだね」

 

モーレット嬢の言葉。

そうかもしれない。

だが、私は――

 

「すいませんが、全てが決着するまでは何もかもお断りしたい気分なんですよね」

「逆に言えば、全てが決着すればアタシも受け入れてもらえるのかね?」

 

モーレット嬢は不服そうに呟いた。

私はそれに少し笑って頷いた。

もっとも、その決着後に私が生きている可能性は薄いが。

いや、恐らく無いからこそ苦笑い気味に頷けるのだ。

 

「じゃあ、待ってるよ。まあ今日は諦めるだけなんだがね」

「また別の日には誘うと――」

「判ってるじゃないか。可能性がある限りはそりゃ誘惑するさ」

 

口の端で笑い合う。

私はモーレット嬢に深々と頭を下げた後、横を通り過ぎて一路ダンジョンのギルドマスター室へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 


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