個性『英雄』   作:ゆっくりシン

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個性:『魔王』
は自己申告で、本当の個性名は不明。



短編
短編① 『魔王』


 機鰐龍兎が雄英高校受験をする1ヶ月前に起きた事。

 

 

 ぷにぷにピョンピョンとその人物は街を跳ね歩く。

 その人物は『敵同盟(ヴィランどうめい)』という組織の所属している(ヴィラン)だ。

 と言っても、自由人で『敵同盟(ヴィランどうめい)』の集まりや会議に参加をすることは無く、着の身着のまま世界を飛び回っている。

 飛び回っていると言っても、飛行機を使う事もあれば、自身の個性を使って飛んでいることもある。

 その人物は跳ねて移動することが面倒くさくなったのか、普段の姿から“人間の姿”へと体を変える。

 そして、手に持つジャンクフードを頬張る。

 

(うん。やっぱり人間の姿じゃないと味覚は感じないんだな)

 

 そう思いながらただひたすら夜の街を歩く。

 その人物の名は“魔物(まぶつ) (さとる)”。

 転生者としては最年長に当たる人物だ。

 魔物はこの世界に超常が発生してから5年後に生まれた。

 その時代は、突如として“人間”の規格が崩れ去り、裏で『オール・フォー・ワン』が暗躍していた。

 そんな時代だったからからこそ“生まれた時には完全に人間の姿ではなかった”魔物は出生届を出されることなく捨てられた。

 つまり、戸籍上は存在しない人間なのだ。

 だが、魔物本人はその事を一切気にしていない。

 

『死なない人間に戸籍があるだけ無駄だ』

 

 そう思ったからだ。

 それに、転生者である魔物は個性の関係上、食事もいらないし呼吸をする必要もない。

 今している食事だって、魔物からしたらただの娯楽でしかない。

 (ヴィラン)として暴れることによって暇つぶしをしようとも考えたこともある。だが、個性があまりにも強すぎるためそんな遊びはすぐに終わってしまう。

 だから、歩き続ける。

 だから、旅を続ける。

敵同盟(ヴィランどうめい)』に所属したのだって、単なる暇つぶしの一環でしかない。

 だから、暇をつぶせるものはないか、とそれを探し続ける。

 今だってそうだ。

 そんな時、何となく裏路地に足を向けた。

 特に深い意味はなく、ただ、そっちへ向かおうとしたのだ。

 どれほど足を進めただろうか。

 軽く暴れられそうな広さがある更地に出る。

 魔物はその更地をグルッと見渡す。

 そして、そこで数人のチンピラ(ヴィラン)に襲われている人がいた。

 助ける理由なんてなく、見捨ててもなんら問題はないのだが、魔物は“暇つぶしの為”にもめごとの中に入る。

 

「やめてあげなよ。もう、動かなくなってるじゃん」

 

「あ゙ぁ! 何だガキ。こいつが俺たちの言う通りにしてたらこうなってねえよ!!」

 

「そうだぞ、オイ。テメエみたいなメスガキが俺たち大人に意見しようとか10000年早えんだよ!!」

 

「「「「ゲヒャヒャヒャヒャ!!!」」」」

 

 下品な笑い方だな。

 魔物はそう思うと同時に、自身を『メスガキ』呼ばわりした(ヴィラン)の顔を殴り飛ばす。

 ポーンと飛ぶ頭部。

 その光景を見た残りの(ヴィラン)たちは何が起きたかを理解できなかった。

 

「あ~あ。俺を『メスガキ』呼ばわりするから。ほら、胴体と頭がさよならしちゃったじゃん。・・・・・・どうする? まだやるの?」

 

 魔物がそう挑発すると同時に、激高した(ヴィラン)が襲い掛かってくる。

 (ヴィラン)Aは典型的な発動型で、どうやら火を手から噴き出す個性のようだ。

 (ヴィラン)Bは異形型。牛みたいな角に膨れ上がった筋肉。どう見ても鬼。

 (ヴィラン)Cは変身型。ひょろっちい見た目だったのが、一瞬で2メートルを超える筋肉質の大男へとなった。

 この(ヴィラン)たちは戦い慣れてはおらず、自分たちより弱い者を数人で一方的に攻撃するのを得意としている。

 その行為を続けた結果、負けることが無かったために自分たちは強いのだと勘違いしている。

 仲間やられたのも油断したからであって、三人で掛かれば問題ないと思っている。

 そういった油断の為に相手の個性を知ろうとしていない。

 一旦後ろに飛びのき、そこまで情報を整理する魔物。

 なんだつまらない。

 魔我覇そう思うと同時に相手するだけ無駄だと判断した。

 だから、本気を出すことなく敵s(ヴィランズ)を殺した。

 一瞬で。

 何ら苦労はなく。

 黒い炎に焼き尽くさせ、塵すら残させない。

 

「・・・・・・まったく。さてと、そこの人大丈夫ですか?」

 

 魔物はそう言いながら倒れ伏す人を助ける。

 倒れ伏していたのはボーイッシュな服に身を包んだ少女だった。

 その体の傷は酷いもので赤黒い痣から火傷、骨も何本か折れているようだった。

 その少女の顔を見て魔物は瞬時に理解する。

 ああ、この少女も転生者だ、と。

 魔物の特典は『転生者判断』というものだ。

 その名の通り、転生者を判断するだけの特典だ。

 だからこそ、そう分かったのだ。

 魔物は女の頬を何度もペチペチと叩く。

 

「お~い。起きろ~」

 

 だが、少女は目覚めない。

 魔物はやれやれと思いながら瞬間移動を行い、他の幹部が経営するカフェの地下へと移動する。

 

「うお! なんだよ・・・・・・魔物か」

 

「本名は嫌いだから(ヴィラン)ネームで呼んでくれと言っただろう」

 

 魔物が瞬間移動したところに丁度、幹部の賢王雄がいた。

 別段仲の良いわけではないが魔物は幹部の中で最も信頼できる人物だと考えている。

 

「ケガを治せる個性の持ち主いただろう。この子を治してやって欲しい」

 

「だったら魔我の奴に頼めばすぐだろ。アイツ自身がそう言った個性持ってるし」

 

「アイツは何か信頼できない」

 

「? ・・・・・・まあいいけど。お~い、仕原。アイツ呼んできてくれ」

 

 賢王雄がそう言うと基地の掃除をしていた仕原弓が階段を上って行った。

 どうやら、ケガを治す個性の持ち主は上のカフェにいるらしい。

 それを見た魔物は、

 

「それじゃ、行く」

 

 そう言い、賢王雄に少女を押し付ける。

 魔物はそのまま瞬間移動をして旅に出た。

 瞬間移動する瞬間、賢王雄が何か言おうとしているようだったが、魔物はそれを気にすることなく元居た場所へと飛び、また旅に出た。

 

 

 

 

 

 

 それからしばらく経った。

敵同盟(ヴィランどうめい)』の名前は『ファウスト』に変わり、リーダーなる者まで現れた。

 その際に、魔我覇仁が殺されたと聞いた。

 さらに、しばらくして猿伸賊王が敵対したとも。

 だが、魔物にとってはそんな事も些細なもので、一切気にすることなくただひたすら旅を続ける。

 ある時、気まぐれで日本に寄った。

 街を観光で歩いていると、裏路地の方からイヤな気配を感じた。

 魔物はそれが何か気になり、ぷにぷにピョンピョンと路地を進んで行く。

 そして、人影を確認すると同時に人型になる。

 

「お嬢ちゃん。何をやっているの? ずいぶん赤く染まっているけど」

 

 路地の奥にいたのは、どこかの学校の制服と思わしい服に身を包み鋭くとがった犬歯、髪型は両サイドに団子を作っている少女だった。

 これでも一応転生者である魔物はその人物に見覚えがあった。

 だが、初対面で名前を呼ぶのは変に怪しまれると思い、とりあえず他人行儀に話す。

 服を血で染めた人物、トガヒミコは魔物の姿を確認すると明るい顔で

 

「カァイイ」

 

 と言って魔物に抱き着く。

 予想外の行動に魔物は反射的に固まってしまった。

 瞬間、魔物の体にトガヒミコのナイフが刺さる。

 魔物は個性の副作用として、痛覚無効と物理攻撃無効を持っているためその攻撃は何ら意味を持たなかった。

 ナイフが意味をなさなかった事に不思議そうな顔になるトガヒミコ。

 

「落ち着け。俺も(ヴィラン)だ。同業相手に何かするわけないだろ」

 

「そうなんですか? それにしてもカァイイね。ねえ、どう? お友だちにならない? ねえ、いいよね」

 

「答えはNOだ。俺は友達を作らないんだ」

 

「じゃあさ、じゃあさ。名前教えてよ」

 

 断られてなおそう言うトガヒミコ。

 魔物としては教える義理なんて一切なかった。

 だが、魔物は気まぐれに名前を言う。

 本名ではなく(ヴィラン)ネームを。

 

「リムル。そう呼ばれてる」

 

 

 




オリキャラ設定

魔物(まぶつ) (さとる)
身長:擬態した姿によって変わる
体重:擬態した姿によって変わる

ファウスト幹部。
長生きというよりは不死身。
個性名は自己申告であるが、その姿、その力から、実は違うのではないかと思われている。
本人は自身の本名を嫌っているため、(ヴィラン)ネームで呼んであげるとすごく喜ばれる。
18話現在、新たに賢王雄の元へ『今は南極にいるよ♪』という手紙がカナダから届いている。
なお、中の写真にはホッキョクグマと共に撮られた写真が入っていた。

この作品のヒロインって……

  • 白神神姫
  • 使原弓
  • 紅華炎
  • 暗視波奉
  • 赤口キリコ(安藤よしみ)

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